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身砕の魔術師  作者: たけのこ海の上
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第五話「希望」

京都記念のドウデュース強ええええ!

 寮にある自分の机で、僕は師匠にもらった本を食い入るほどに見ていた。

 身砕の魔術。

 本に書かれているこの術の内容に戦慄を覚えながら。


「肉体の一部を代償にして発動させる術、だって……?」


 本によれば、この魔法、いや魔術は自身の肉体の一部を魔力に還元し、魔法を再現する魔術らしい。生命の存続について重要な部位を代償にすればするほどに威力が跳ね上がるらしい。

 ……初めて見る魔術形態だ。少なくとも今まで読んだものの中にはこんな系統の魔法や魔術は見たことなかった。

 しかしなんで師匠はこれを持ってこれたんだ? よくわからない声が聞こえたといっていたがどうにも怪しく思える。


 ……だが。

 おそらくだが説明を読む限り、この術は僕にも使える。

 万物には魔力が宿る――それは魔法の使えない僕にとっても例外ではない。

 この一年間の間に調べてもらったところ、僕は魔力を身体から出すことができない体質らしい。

 それが魔法の使えない理由なのだと。

 しかし、この術は魔術。肉体に宿る魔力を直接扱うこの魔術ならば魔力を使えない僕でも扱えるかもしれない。

 ――その事実に気づいた時。

 僕の中で、ドクンと〝何か〟が脈打つ音がした。


◇◆◇

「本は読んだか?」


「は、はい」


「よろしい」


 翌朝、朝礼を終えた後ぼくは師匠に訓練室に呼ばれた。

 向かう途中、いつものようにクスクスとした笑い声が聞こえてきたが、まるで気にならなかった。

 今の僕の意識は、高鳴る胸の鼓動でいっぱいだった。

 

「君も読んだ通り、これは肉体の一部を操る魔術だ。帰る前に私も術式を学んでみた。……その結果を見せよう」


 そういうと師匠は自分の髪を一本プツリと抜いた。

 師匠が髪を宙に解放する。


「――燃え上がれ」


 師匠の呪文が響いた。

 瞬間、髪は発熱し、圧倒的な光を放つ。

 その様はまるで、太陽のようにも思えた。


「――す、ごい」


 髪が限界を迎え、焼け落ちるのと同時、感嘆の声を漏らす。

 師匠ほどの人がこの魔術を使うとここまでの代物になるのか。

 間違いなくそんじょそこらの魔法より高い威力を有していた。

 たかが髪でこの威力。

 腕一本を丸々使った時などどうなるのだろう……?


「使ってみて分かった。これは肉体に有する魔力が多ければ多いほどに威力を増すようだ。私が使えばこれほどのものとなるらしい。――同時に、これが今世まで伝わっていないのも頷けたよ」


「あ、確かに。僕もそれは気になってたんです。何ででしょうか……?」


「まず考えられるのは二つ。一つ目は単純にこの魔術を扱うのは危険が過ぎるから、だ。考えてもみたまえ。こんな魔術広まったら、一体どれほどの人間が無茶をするのか分かったものではない。そう考え、発明者がこの魔術を封印したというもの」


「じゃあ、もう一つは……?」


「簡単さ――この魔術は戦争に使える」

「――え?」


 一瞬その発言に惚けながらも、僕はその言葉の意味を理解していた。

 確かに、簡単な問題だ。

 例えば、この魔術の術式をそれこそ死んでもいいような誰かに刻んで、『ある座標まで行ったら爆発』みたいな条件をつけておけばあっという間に人間爆弾の完成だ。

 普通の人間一人が持つ魔力なんて大したことではない。けれど、肉体全てを使った身砕の魔術の行使ともなれば、一般人だって立派に兵器として成立してしまうだろう。

 それに気づいたことで僕は、思わず唾を飲み込んだ。


「分かっただろう。だからこれを禁術扱いとして国が封印した……。無論、今までのは全て推論に推論を重ねた仮説でしかないのだがな。

 けれどだ。直接的に効力を発揮させるこの魔術ならばきっと君でも扱えるだろう。――この魔術を使う覚悟が、君にあるかね?」


 覚悟、か。

 この禁術にも等しい魔術を扱う覚悟。

 

 ――頭の中に、僕をいじめてきた奴らが、僕を笑った奴らが浮かんでくる。

 見返してやりたい。一泡吹かせてやりたい。僕という存在がお前らと比べても劣っているわけじゃないということを見せつけてやりたい。

――いや違うな。

 そんなことより、僕は。姉さんみたいなかっこいい魔法使いに――。

 

「――やります。やらせてください、師匠!」


「……分かった」


 そうして僕と師匠の特訓が始まったのだった。


◇◆◇


「おい。止まれよ、出来損ない」


 師匠と魔術の特訓を始めてから、しばらく経ったある日のこと。

 かつて僕と絡んできた集団、そのリーダーが僕に声をかけてきた。

 ……って、あれ?


「お、お前……腕が!? ある!?」


「あるわ! くそっ、兄弟揃ってふざけてんのか!? あの姉の方に至っては俺の腕でお手玉しながら来て『ああ、ごめんごめん腕とったの忘れちゃってた〜。悪いね♪』なんてほざきやがったんだぞ! つけてもらったのは良いけどよ、お前の姉、頭おかしいんじゃねぇのか!?」


 どうやらいつの間にか姉さんによって彼の腕は治されていたらしい。……ってか、くそっ。姉さん手ずから治して貰えるなんて……羨ましい。まぁ、それは置いといて、だ。

 

「……40点ってところかな」


「はぁ?」


「いや君の姉さんのマネ。本物の姉さんはもうちょっと声が高い」


「……っつ! 人をおちょくりやがってぇ!」


 僕の言葉に激昂したリーダーの男が怒りに任せて殴り掛かってくる。

 昔の僕ならば、なす術もなくその拳を甘んじて受けていただろう。

 ――そう、昔の僕であれば。


 相手が向かって来た瞬間、僕は右手の爪を噛み千切り、即座に吐き出す。

 そして親指で男目がけて爪片を弾き出した。


「――〝爪弾き〟」


 刹那、爪片に宿る魔力が還元され、現世に事象を作り出す。

 イメージしたのは純粋な衝撃――即ち衝撃波。

 その猛威が男の胴体で解放される。


「おぶっ、がふぁっ――!?」


 意味が分からないとばかりの表情を浮かべながら、男は向かって来た方向とは逆方向に吹き飛んでいく。

 そのまま地面を転がると、ピクピク震えるだけで動く様子はない。


「ど、どうなってんだ!? お前出来損ないじゃなかったのかよ!?」

「そ、そうだそうだ! どんなズルをしやがった!?」


 困惑と驚きから何やらごちゃごちゃ言っている取り巻き達。

 一人ずつ喋ってくれないと、正直何言っているのか全然分からない。


「そいつみたいになりたくなかったら、今すぐそいつを連れて僕の前から消えろ。二度と姿を表すんじゃない、良いな」


「っ、くそ、出来損ないが、粋がりやがって……」

「お、覚えてろよ! 次こそはそこのアグラヴェインさんがお前のことボコボコにするからな! 覚えてやがれぇ――!」


 そんなことを叫びながら、奴らはアグラヴェインと呼ばれた男を連れてすごすごとどこかへ逃げ去ってしまった。

 ……あいつアグラヴェインって名前なんだ。日頃の行いに反して随分とイカした名前だなオイ。

 

「つーか、僕……勝った、んだ」


 改めてその事実を噛みしめる。

 勝った。僕が勝った。――他の誰でもないこの僕ルータ・ダレントが勝った!


「――つ〜、よし、よし、やっったぁぁ!」


 ひどく爽やかな感覚に呑まれるまま、僕は雄たけびをあげた。

 周りから奇妙な視線を感じるが、そんなことも気にならない。


 ――初めての勝利の味は格別だった。

エフフォーリア復活希望

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