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身砕の魔術師  作者: たけのこ海の上
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第四話「身砕の魔術」

もうすぐ節分、みんな豆は持ったな!!行くぞ!!

 ――殴られる。蹴飛ばされる。

 その勢いのまま僕は壁に叩きつけられた。


「ぐぅ、つうっ……」


 痛苦の声が喉から漏れる。

 それに負けじと僕は目の前の光景を見据えた。

 そこにいたのは僕を囲む四人の男子。一年前、僕が落ちこぼれと分かると絡んでくる様になった連中だ。


「なぁなぁ、ルータくぅん……俺らこうやって誠心誠意頼んでるじゃ〜ん。なっ。俺らの代わりにぃ、掃除してくれよ〜ぉ。〝トモダチ〟だろ〜ぅ?」


「……」


 一年前から、こいつらは僕を執拗にいじめてくる。舐め腐っている。僕のことを明らかに下に見て、奴隷か何かと思っているのが目に取れる目つき。

 ……負けるわけにはいかない。こんな奴らなんかに屈してなるものか……!


「嫌だ。君達の仕事は君たちですべきだ」


 そう言い返した途端、奴らの顔が真っ赤に染まる。


「おい、てめぇ……自分の立場わかってんのか? お前は魔法の使えねぇゴミだぞぉ!? 俺らより弱えぇクセにっ、逆らってんじゃねぇ――!」


 吐き出される身勝手な理不尽。

 そんなことをさも本気でのたまう奴らが、僕は人間には見えなかった。

 リーダーの男子が僕の胸ぐらを掴むのと同時、周りの奴らもぞろぞろと近づいてくる。


「上等だ、どっちが上なのかってことをその体に教え込んでやるぜっ……!」


 嗜虐心に満ちた顔を睨みつける。魔力で肉体を強化している奴らに勝てる道理はない。だから僕には精々これぐらいしか出来ないが、それでもと精一杯の抵抗をする。

 降りかかってくる拳から決して目を逸らさない――。

 だが、その思惑は思いがけない形で閉ざされることとなる。

 

 極光が瞬き、空気を切り裂くような音がした。

 直後、ぼとりと柔らかいものが地面に落ちる音が聞こえる。

 誰もが呆然としている。それは至極当然の反応だったと言える。

 僕に殴りかかってきた奴の腕が肩から取れていたから。腕だったものは、ピクリとも動くことなく地面に落ちていた。

 それこそまるで、ゴミのように。


「あ、あああああぁぁぁぁぁぁぁぁ――!? お、俺の腕がぁ――!?」


 痛い痛いと喚き散らす奴を、僕は見下ろすことしかできない。

 その時、光が飛んできた方向から声がした。


「うん? 弱い奴はゴミなんでしょ? 私は〜、そんなゴミをお掃除しただけだよ?」


 一片の躊躇いのない声に、奴らが震える。その声は僕にとっては非常に馴染み深いもので――。

 

「とっとと消えなよ。――じゃないと皆その子みたいになっちゃうよ?」


 そこにいたのは表情の死んだ姉だった。

 ブチギレた時にしか見せないその顔に、僕に絡んでいた奴らは竦み上がった。


「じょ、冗談じゃねぇ……っ! 世界最強に勝てるわけないだろぉー!?」

「ひぃっ、お助けをぉー!?」

「お、おいっ、待てお前ら俺をおいて行くんじゃねぇ!?」


 脱兎の如く、奴らは逃げ出していった。

 正直、その様子は見ていて楽しいものではなかったが。


「ルータ、大丈夫だった!? 怪我とかしてない!?」


「え、ああ、うん、大丈夫だよ姉さん」


 先ほどの顔とは打って変わって、慈愛に満ちた心配そうな表情で姉さんがこちらを見ていた。


「よかったー。もし怪我なんてしてたら、それこそさっきの彼には死ぬよりもひどい目にあってもらわなきゃいけなかったしー」


 この世の誰よりも美しい笑みを浮かべながら、姉さんは俺に抱きついてくる。

 思えばこの一年姉さんとは顔を合わせていなかった。

 僕の方も少し気が引けていた、というのもあるにはあるが、それよりも単に姉さんが忙しかったのが原因だ。

 久しぶりの姉さんに懐かしさを感じ、目の端から涙が出てくる。


「すぅぅぅぅ……はぁぁぁぁ。ああ……ルーちゃんの匂いさいっこう……万病に効くぅ……」


 姉さんの方も僕と会えたことを喜んでくれているようだ。

 それがたまらなく嬉しい。


「あ、そういえばルーちゃん、師匠が呼んでたわよ。大事な話があるんだって」


「大事な話? 分かった、行ってみるよ」


「うん、行ってらっしゃい」


 名残惜しいが、ガリアン師匠の話なら仕方ない。姉さんから手を離し、僕は師匠の部屋に向かった。

 ……あれ、何か忘れているような。

 まあいい、どうせ大したことではないだろう。


◇◆◇


「あ、あいつら腕忘れてる。……全く、頭の中にゴミでも詰まってるんじゃないのかしら」


◇◆◇


 いつものように扉にノックすると、「入れ」という声がした。

 部屋の中に入るとそこには帰ってきたばかりの服装をした師匠。

 この一年でガリアンさんから色んなことを学んでいくうちに僕も姉さんに習って、彼のことを師匠と仰いでいる。

 

「うん。君のことを呼んだのは他でもない。これを、渡すためだ」


 そう行って差し出されたのは、古びた本だった。

 何故だが、不思議な感じがする。


「これは私が国立図書館で見つけたものだ。何やら奇妙な声が聞こえてきて、その声の方に行くと……いや、これはいいか。とにかく、これはお前が読むべきものだと私は思う」

「僕が? わ、わかりました」


 その本を受け取り、僕はまじまじと本を見つめる。

 本をめくると、『この本を不死鳥に捧げる』という一文が目に飛び込んでくる。

 確か、昔の本によく見られるお決まりの一言だ。遥か昔に神聖さの象徴とされた不死鳥に敬意を払っていたことからこのような文言がよく書かれていたらしい。まさか、実物をこの目で見ることになるとは。

 

 もう一枚ページをめくる。

 そこに、書かれていたのは。

 

「身砕の、魔術……?」

恵方巻きをくっちゃくっちゃ鳴らしながら食べたら、喋ったことになるのだろうか。

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