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身砕の魔術師  作者: たけのこ海の上
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第二話「現実」

お正月も明けて私は新年早々虫歯になりました。

 ガリオンさんによる挨拶が終わった後、この道場での生活についての説明が行われた。

 まずここは全寮制であり、2人1組のルームシェアをするのだという。

 誰と組むかは自由だ。僕はもちろん第一印象の良かったキャミュと組むことにした。

 その他には1日の予定、掃除の仕方、食事のマナー、先輩方への礼儀などが伝えられた。


「今日はこの辺にして、食事をしよう。君達の修行は明日からだ」


 一通りの説明が終わり、僕達はガリオンさんに連れられ食堂へと向かった。

 そこで僕らは食事を始める。

 食事の時の話題は僕の事で持ち切りだった。というより、姉さんに対してのことだった。

 何故あそこまで強いのか、得意魔法は何なのか、好みのタイプはなんなのか等々、様々な質問が僕に飛んでくる。一つ一つ丁寧に、聞くに堪えない戯言は軽く流しておいた。

 波乱の食事を終え、寮に向かう。寮の部屋に着くと、いつの間に入っていたのか、キャミュがいた。これから4年間ルームメイトとして過ごす友人だ。

 もうちょっと彼を知っておくのもいいだろう。


「随分、早く着いてたんだね」


「うん、すぐお腹いっぱいになっちゃったから」


「はは、小食なのかい? いっぱい食べないと大きくなれないぞ……」


「……」


 む、無言。まさかこういう世間話が苦手なのか。いや僕も別に得意という訳じゃないから言えた話ではないが、こうなると会話が続かず妙に気まずい。

 仕方ない、こうなったらこっちから積極的に話題を振っていかねば……!


「キャミュ、君は何でこの道場に来たんだい? 教えてくれよ」


「……」


 またも無言。だが今度は先程とは趣が違う。

 さっきは返事に困ったように、視線をあたふたさせていたのに対して、今回は明確に顔を下げた。


「あー、言いたくないなら無理しなくても……」


「……お母さんがね、魔法使いなんだ。キャサマル・サムエルって、巷では結構有名なんだけど、知ってる?」


 聞き覚えがある。確かこの国ではトップクラスと名高い風の魔法使いだ。


「それでね、僕はお母さんみたいな、かっこいい魔法使いになりたいんだ。人を救える強い魔法使いに。それでね、ここに来たんだけどさ……僕、不安で。本当にお母さんみたいに強くなれるのか、って……」


 ……彼の気持ちが何となく分かった気がした。

 つまり僕にとっての姉が、彼にとっての母に当たるのだろう。

 親や兄弟が優秀だと、時折自分はああはなれないんじゃないかって言いようのない不安になることがある。特に僕なんて姉さんが世界最強だなんて言われるもんだからしょっちゅうだ。


「そう、だね。僕もさ、姉さんが凄い魔法使いだから、みんなの期待に応えられるかって……不安で仕方ない。でも僕は強くなりたい。例え、姉さんみたいになれなくても、毎日何かしら一人でこなしてる姉さんの手伝いが出来るぐらいには強くなってみたいんだ」


「……そうなんだ。君も、僕と一緒なんだね」


 そう言って彼は、少し心が晴れたと言わんばかりに微笑む。

 そして僕らはこれから2人で一緒に頑張ろうと約束してこの日は寝ることにした。


 暗くなった室内でベッドの上で寝がえりを打ちながら、僕は明日の事について考える。

 明日からはいよいよ修業が始まる。

 僕は一体どこまでいけるのか。それがどうしようもなく気になる。

 そんなことを考えている内に、僕はいつの間にか眠っていた。


◇◆◇


 ついに道場での修行生活が始まった。

 一通り身支度を済ませ、朝礼の為に大広間へ向かう。

 始めて着た修練着の感覚が新鮮で、新生活が始まるのだと僕は確かな実感を得る。

 大広間に着くと既にほとんどの生徒が集まっていた。自分たちの列に急いで入る。どうやら初日から遅刻という事態は避けられたようだ。

 しばらくするとガリオンさんが前に立ち朝礼が始まった。

 いつも言っているであろう1日の心構えを説いた後、ガリオンさんがこう付け足した。


「在校生、今日から新入生が入るから優しくするように。新入生、在校生を見習い、敬意を持って接するように」


 その後新入生は第一教室に集まれと言われ、初めての朝礼は幕を閉じた。

 僕ら新入生は言われた通りに第一教室に足を運ぶ。

 教室に入るとガリオンさんが教壇に立っていた。

 

「君達には今から魔法の定義などについて説明する。もしかしたらもう既に知っている者もいるかもしれないが、まぁ確認だと思って聞いてくれ」


 僕らが席に着きながら、ガリオンさんがそう言う。

 全員が席に座ったのを確認するとチョークを持ち、黒板に文字を書きだした。


「まず、万物には全て等しく〝魔力〟が流れている。

 生物の場合、自らに流れる魔力を利用し、使用する。これが〝魔法〟だ。

 一方物質を利用して魔力を使用する行為を魔術と呼ぶ。

 基本的に魔術は魔法より劣る。もちろん扱うものによって例外はあるだろうが……そこについて詳しく話すのは今度でいいだろう。

 話を戻すと、保有する魔力量、流れる魔力量には人、生物それぞれに差がある。魔力を抽出する魔法力にもだ。だから魔法が得意な人間は魔力が多く、魔法力が高い。逆に苦手な人間はそれが少なく、低いという訳だ。

 そして魔法には種類が存在し、これも種類によって抽出できる魔力量が変わってくる。そのため魔法の種類によって得意、不得意が存在するのだ。そして、それをどうやって調べるか、この答えがこれだ」


 そう言うと、ガリオンさんはどこからともなく大きな水晶の玉を取り出した。

 最初は透明だった水晶が、ガリオンさんが触れた途端に明るい茶色に光り始める。


「これは自分の適正属性を調べる代物だ。さっき魔法には種類があるといったろう? これはそんな魔法を大別するための属性……その八つの属性の中でどれが自分に適しているのかを調べられるのだ。今、水晶は茶色に光っているだろう。これは私の属性が〝地〟に属しているということだ。

 ほら、君達もやってみたまえ」


 そうして差し出された水晶に僕たちは席を立ち、恐る恐る水晶に触れてみる。

 ある者は、赤に。

 またある者は、青に。

 様々な色に水晶は光り輝く。

 キャミュが手をかざすと、水晶は緑色に変化した。

 これは、確か風。どうやら血は争えないというのか彼は母と同じ適性を持っているらしい。

 

 そしてついに僕の番が回ってきた。

 一体水晶はどんな色に光を染めるのか。

 期待に、心が躍っているのが分かる。意を決して僕は水晶に手をかざす。さぁ、水晶は何色なのか。水晶に変化が起こるのを待つ。待つ。待つ……いや、待て。

 

 おかしい。

 水晶が光らない。一切の変化が起きない。ただ透き通ったままに困惑の色を浮かべた僕の顔を映す。

 

「これ、って……」


「まさか、こんなことがあり得るとは……」


 ガリオンさんの驚く様な、憐れむ様な声が聞こえた。

 その声が、ひどく遠い。

 水晶が光らない。それが示す事実は一つ。


 ——僕には、魔法の属性が、適性がない。


 それを理解した時、僕の中の、何かが音を立てて壊れていった。

みんなは虫歯にならないように気をつけてね。

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