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身砕の魔術師  作者: たけのこ海の上
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第一話「夢」

初めまして、たけのこ海の上です。こちらは五月雨たけのこと海の上のグループ活動の名義となっております。このユーザー主は海の上です。

不定期投稿ですが、これからどんどん活動していくのでよろしくお願いします!

遂に、この日がやってきた。

姉のサラネイに連れられてやってきたのは、この国の英雄であるガリオン・サザミーシュが経営しているガリオン魔法道場。

 ここでは本来親から子に伝授して受け継ぐものである魔法を、それよりもさらに発展的に教えてくれるらしい。

 そんな訳でガリオンさんは皆から師匠と呼ばれているらしい。

 姉はここで魔法の修行をし、今では最強の魔法使いとまで言われている。

 僕も魔法を使いたいといった所、姉にここで魔法を教わった方がいいと言われ、僕をここに連れてきてくれたという訳だ。


「ほら、シャキッとしな、ルータ。師匠に挨拶しに行くんだから」


「わ、分かってるよ、姉さん」


 そんな風に僕に声を掛けながら堂々と姉さんは道場の中を進んでいく。

 周りにいる人たちが、それを見て驚いたような声を挙げる。

 中には僕の方を見て、ひそひそと何かを話していた。

 ……おそらく、世界最強の魔法使いである僕の姉サラネイ・ダレンドと一緒にいる僕の正体について話しているのだろう。背格好こそ似ていないが同じ青い髪、赤い目をした僕が一体誰なのかというのは恰好の話のネタに違いない。

 周囲の視線に思わず生唾を呑み込みながら姉についていく。

 そうやってついていった先には、小さな……お世辞にも綺麗とは言えない扉があった。

 姉がそんな扉の前で足を止める。どうやらこの扉の先があの(・・)ガリオンさんの部屋らしい。

 緊張で身体を震わせていると、そんな僕の気も知らぬまま姉さんは扉を気軽にコンコンとノックする。

 

「師匠、サラネイです。弟を連れてきました」


「……入れ」


 中からくぐもった声が聞こえてきた。

 返事と同時に姉さんは扉を開ける。

 中で執務机の上の書類に目を凝らしていたのは、灰色の髪をした40代ぐらいの男性だった。

 ちらりと、書類の端から見え隠れする鋭い眼光につい僕は身を竦ませた。

 この人が、ガリオン・サザミーシュ。この国の、英雄……!

 

「お久しぶりです、師匠」


「……ああ、久しぶりだねサラネイ。おや、その子は……」


「はい、私の弟です」


「……ああ、そういう事なんだね」

 

 得心が言ったとばかりに、先程のくぐもった声とは違った、厳かながらも優しさの感じられる声でそう言った。


「はい、弟が10歳になりましたのでここに入塾させようと思い、連れてきました。ぜひご指導のほどよろしくお願いします」


「うむ。他ならぬ君の頼みだ。もちろんいいだろう」


 案外と僕の入塾は直ぐに終わった。何だか緊張していたのが馬鹿みたいだ……と思った瞬間、姉がとんでもないことを言い出した。


「あ、ホントですか。それじゃよろしくお願いします。私、今日も新しく討伐依頼来てて忙しいんで、行きますね。それじゃ!」


「えっ! ちょっ、ま……」


 そう言い残すと姉さんは軽やかなステップを踏みながら、扉を開けて出て行ってしまった。

 まるで気まぐれな風のように。

 部屋の中でガリオンさんと二人きり……むちゃくちゃ気まずい。


「……彼女は変わらないね、全く。そういえば弟がいるとは聞いていたが、君の名前をまだ知らない。自己紹介、してもらってもいいかな?」


「は、はい! 僕は、ルータ・ダレンドって言います。10歳、です。よろしく、お願いします」


 噛まないよう途切れ途切れに僕は自己紹介を済ませる。

 そんな僕の気持ちを汲み取ってくれたのか、ガリオンさんは柔らかく笑みをこぼした。


「よろしく、ルータ君。早速で悪いんだが、今日は君以外にも新入生が来ているんだ。この部屋に行って、少し待っていてくれ」


 そうやって渡されたのは、道場の地図。見てみると、部屋の一つに丸の印が付いていた。


「はい、分かりました」


 僕は、しっかりと返事をして、後ろからの視線を感じながら部屋を出た。


 ——これが、僕とガリオン師匠との初めての会話だった。


◇◆◇


 丸の付いた部屋に着いた僕は、ゆっくりと扉を開く。

 するとそこには、僕と同い年ぐらいの5人が席に座っていた。

 扉の開く音に5人がこちらの方に視線を向けた。


「お前、誰や」


 最初に目の合った男の子が開口一番、そう聞いてきた。

 初対面相手に随分と乱暴な物言いだと言いたくなるのをこらえて、僕は答える。


「僕はルータ・ダレンド。君達と同じ新入生だ」


「ダレンドぉ……? お前まさかあのサラネイ・ダレンドの!?」


「ああ。弟だ」


 そう答えると、他の子もおおっと驚きの声を挙げ、何人かは僕に近づいてきた。


「ルータ君、君のお姉さんの噂はかねがね聞いているよ。それで……どうだろう、僕にに君のお姉さんを紹介してくれないかな」


「は、ははは……」


 優男な雰囲気を漂わせた少年が、そんなふざけたことを言ってきやがる。

 ははは、少なくともお前みたいに初めてあったくせに馴れ馴れしく語り掛けてくるような奴に誰がうちの姉を紹介するものか。

 成程、確かに姉さんは顔が整っているし、スタイルもいい。お前みたいな奴が気になるのも無理からぬ話だ、仕方のないことだ。だが、間違っても姉さんと自分が釣り合っているなどと考えるんじゃないぞ……。


 次第に浴びせかけられてくる質問にうんざりしてきた僕は緑色の髪をした物静かな少年の隣の席に着く。隣に座ったのだから、挨拶ぐらいしておかないと些か無礼だろう。そう判断して僕は声を掛ける。


「やぁ、きょうからよろしくね。君、名前は何て言うの?」


「……僕はキャミュール・サムエル。キャミュって呼んでもいいよ」


「分かった、キャミュ、よろしくね」


 何となくだが、この子とは仲良くなれそうだ。

 そんなことを思っていると、扉が開く音がしてガリアンさんが入ってきた。

 僕より後に来た子はいなかったので、今年入ってきたのは僕含めて6人ということだ。

 僕らは気を引き締めて、ガリオンさんが教卓の前に立つのを見ていた。

 

「君たちがこの魔法道場に来てくれたことを心から歓迎する。君たちはこれから4年間、この魔法道場で魔法の修練に励んでもらう事となる。頑張ってくれたまえ」


 ——短いが確かな気迫の籠った言葉だった。

 ガリオンさんからの言葉を嚙み締めつつ、僕はこれからの生活を想像した。

 一体どんな4年間になるのかと期待に胸が膨らむ。

 

 

 

 ——それが、ほんの一瞬の儚い夢だとは、この時の僕にはまだ知る由もなかった。

お読みいただきありがとうございました。大変嬉しく思います。これからもできれば応援よろしくお願いします。

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