表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

かの狼に牙は無く

作者: 銀狼

 ――帝都ハーディールの繁華街は、夜にこそ輝く。

 その言葉を体現する様が、そこにはある。

 月明かりの夜空が(かす)むほどに煌々(こうこう)と照らされた一角。飲めや歌えやの声が響き渡り、人がまだまだ多く行き()っている。娼館や見世物(みせもの)の客引きが、店の案内をしている様子も見える。

 そんな一角から離れるように、裏路地を歩く男が一人。不機嫌な顔つきで()を進める男の名はベリウス。悪い意味で有名な博徒(ばくと)の一人である。

 自分が遊ぶ金のためなら、他者を(だま)すことも(いと)わない。今手で(もてあそ)んでいる悪銭(あくせん)も、そうやって手に入れたものだ。

 その金で、今日こそは一番人気の子に入ろうと意気込んで娼館へ向かったが、あいにく目当ての嬢は出勤がなかった。カジノも今日は店休日だ。仕方がないので、悪友であるケイと酒でも飲もうと誘うため、こうして家に向かっているのだった。

 表と違い、人も明かりもない暗がりの道。月明かりと記憶を頼りに足を踏み出し、目的の場所に辿り着く。

 と、家の前に誰かが立っているのに気付き、足を止める。相手もこちらに気付いたようで、声をかけてきた。

「あ、この家の主にご用で? 残念、どうやら留守のようだ」

「ああ? なんだアンタは?」

「俺はウォルズ。(しち)に入れてたものを返してもらおうと思って来たんだが」

 そうのたまう青年は、騎士が着ているような鎧下(ギャンベゾン)に見える格好である。一瞬身構えたが、よく見れば鎧も剣もない。暗がりで分かりづらいが、似たように見えるだけかもしれない。

 であれば、ただの(あわ)れな子羊か。

 鼻で笑い、背を向ける。

「ハッ、そりゃ残念だったな。アイツのことだからとっくに売り払ってるだろうさ。まぁ、運が悪かったと(あきら)めることだな……しっかし、今日はツイてねぇな。目当ての人間にさっぱり会えやしねぇ」

 溜息(ためいき)をつき、来た道を戻ろうかと動きかけた、その時。

「――いやぁ、逆だな。運がつきすぎて会えないだけだよ」

「あぁ? 何を訳分からんことを――」

 振り返ろうとしたベリウスの首が、ありえない方向に()じ曲がる。頭頂(とうちょう)(あご)で押さえていた手が離されると、ベリウスの体はその場に崩れ落ちた。

 (むくろ)を冷ややかに見下ろすのは、ウォルズ。

「尽きすぎたよ、命運が」

 ベリウスが持っていた金の袋を拾い上げると、ウォルズは一人静かに闇の中へと消えていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 決め台詞がお題なの、めっちゃかっこいいです! 凄い、痺れました…! 全体的にハードボイルドな雰囲気なのがまたいいですねぇ。 かの狼、はもしかしてこの仕事人・ウォルズの事なのかなぁ……とか思…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ