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背が高くて歳上の女

作者: 麻琴

12歳って微妙なお年頃。


「バカな事したな、お前。」

「分かってるから。」


ここは王立魔法学園。秋の文化祭のイベントの一つ、女王コンテストの野外会場だ。二人の少年は遅れて来た為に会場に用意された席には座れず、後ろの方で立ち見していた。

二人とも目立つ容姿の為、気付いた令嬢が数人静かに騒いでいた。

ステージでは優勝者の、ジュールア・トアニング侯爵令嬢が恥ずかしそうにダイヤモンドのティアラを着けてもらっている。

壇上に立つジュールア嬢は、長いプラチナブロンドを緩く巻き背中にながしている。少し垂れ目の深いサファイアの瞳は潤み、緊張と恥ずかしさに染まる頬は薔薇色、スポットライトを浴びて微笑む彼女は遠くから見ても、壇上にいる誰よりも光り輝いている。

ドレスは瞳と同じサファイアブルーのマーメイドライン。宝石が散りばめられているのか、ドレスもキラキラと輝く。

他の令嬢よりも10cmは高いであろうそのスタイルは、細すぎる事もなく、女性的で誰もが美しいと言うだろう。

もちろん、優勝するには学園での普段の行いや、成績、対人関係なども重視される。男性だけではなく、女性からの支持も無ければ優勝は難しい。ただ、見た目が美しいだけではダメなのだ。


「学園の女王に選ばれるだけあって本当に美しいな。長身に長い脚、腰のラインが色っぽい。頭も良いし性格も良さそうだ。俺がもらってもいいか?」

「トアニング侯爵次第だよ。俺にはもう口出す権利無い。」

「そうだよな。お前、彼女との婚約を泣いて嫌がったんだもんな。」

「……。」

「何だったか……。俺より背が高くて歳上の女なんか嫌だ!だっけ?」

「うるさい。」

「12歳って男より、女の方が成長早いの知らなかったのか?」

「……その時は、自分がこんなにデカくなるとは思わなかったんだよ。」


そう言う短めの黒髪に緑の目の少年が、長い手足をコンパクトに折り畳んでしゃがみこみ、ため息を吐く。


「レスティはまだ16歳だったか?お前身長何cmになった?」

「192。」

「お前よりデカい女を探す方が大変だな。」

「……。」

「しかもあれだろ?ジュールア嬢と誕生日が四ヶ月しか変わらなかったとか。ジュールア嬢も俺らと同じ学年だよな?それは歳上って言うのか?」

「ガードナー!お前さっきから何なの?俺が嫌いなの?」


ガードナーと呼ばれた、こげ茶色の癖っ毛に金の目の少年は、半笑いで下から睨み付けるレスティの頭をポンポンと叩いた。


「悪い悪い。面白くてつい。な。」

「俺だってさ、5歳とかの幼児の頃か、今なら全力でジュールア嬢の婚約者に立候補したさ!なんで一番成長に男女差のある12歳に見合いなんかするんだよ。それにちょうど反抗期だろうが!」

「んー。俺は歳とか身長なんか気にしないけどな。」


レスティはスッと立ち上がると、今度は上からガードナーの耳元に小声で話しかけた。令嬢達の悲鳴が聞こえる。


「そりゃあ、生まれた時から将来を保証されているハトリード王国王太子様には怖いものなんか無いでしょうよ。」

「ははは、そう言うな。お前だって王家の血を引く公爵家嫡男じゃないか。しかも、代々聖騎士の家柄で叔父上は聖騎士長。お前も卒業後は何番隊だかに入隊予定だろ?何が怖いんだ。」


次の表彰が始まり、二人は黙ってステージを見た。

準優勝は、真っ直ぐの綺麗な金髪にアクアマリンの瞳の、女王と言うよりは物語の姫君の様な可愛らしい令嬢だった。胸元にたくさんの花をあしらった真っ白のプリンセスドレスが良く似合ってる。

彼女も人気があるのか、大きな歓声が上がる。


「これはまた愛らしい。彼女はマーティン公爵家の次女か。長女のサティーナ嬢は、隣国の第三王子の婚約者だったかな?」

「そうだったねー。サティーナ嬢もスッゴい綺麗だったよー。」


とうとうガードナー王太子は、従兄弟であり幼なじみであり友人のレスティの投げやりな話し方に、堪えきれない様に笑い出した。


「クックック、サティーナとも見合いしたのか!叔父上はなぜ歳上の令嬢と見合いさせたがるのかな?」

「知ってて聞いてるよね?そろそろ怒るよ俺。」

「ああ、叔父上が歳上の義叔母上と恋愛結婚したからだよな。」

「そーそー、特に俺は頼りないから歳上の方がいいんだと。」

「……そして、今も二人とも婚約者は居ない、と。」

「え、なに?ガードナーもだよね。」


なんで急にそんな事言い出した?と、不思議に思いレスティはガードナーを見た。

ガードナーはレスティを見ずに、ステージを見ている。

舞台では三位が表彰されている。令嬢の投げキッスにまた会場が沸いた。


「さっきの話、マジだから。陛下が動くかもしれない。」

「え?なに?」

「だから、父上が、ジュールア嬢を俺の婚約者にする為に動くかもしれない。」

「……。」

「王家からの婚約の申し込みは断れないだろ。」

「もう決まった事なのか?」

「いや、トアニング侯爵家のジュールア嬢を知ってるか聞かれただけだ。母上が相当気に入っているらしくてな。その話を聞いた時にふと、お前の事を思い出したんだ。」

「……。」


四位以下の入賞者に、花束が渡されている。

上位を狙っていたのか泣いている令嬢や、やっと終わったとホッとしている令嬢。令嬢の名前が呼ばれる度に、支持している観客から声が上がる。

婚約者が選ばれたのか、見たことのある伯爵家の令息がステージ上で彼女を抱き上げている。


「いいのか。」

「何が。」

「彼女を俺がもらっても。」


一瞬レスティの顔が歪み、何かを堪えるように上を向いた。

そして、ステージに向かって走り出した。


「お前になんかにやらねぇよ!!バーカ!あれは俺の女王だ!!」


レスティはそのままステージに駆け上がり、ジュールア嬢の前に跪くと何かを言ったようだ。

前の方の席から尋常じゃない悲鳴と歓声が上がった。

ジュールア嬢は真っ赤な顔をしながらも、レスティの手を取った。レスティがジュールアを抱き締めると、さっきよりも大きな悲鳴と歓声が上がる。


「全く世話の焼ける。叔父上は正しかったようだな。レスティにはしっかりした女性じゃないとダメなんだろう。」


これだけの観衆に見守られながらのプロポーズは揉み消せないだろう。これでジュールア嬢の王太子妃の話は無くなる。

少し寂しいが、いずれは共に国を支えていく大切な友であり配下だ。しっかりしてもらわないと困る。

彼女ならレスティの支えになるだろう。


あいつには、背が高くて歳上の女が最高なのである。






ジュールアは、元々レスティが好きでした。

レスティは、ステージ上で貴女に釣り合うために大きくなりましたとかって言っちゃったのかなぁ?

なんて考えると楽しいです。


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