5話 オーバーヒートの情報量
前回のあ~らすじ!
・ようやく自己紹介を終えた俺たち!
・俺は地球や昨日の出来事についてを話す!
・サファイアのニックネームはイア!
・ルビーのニックネームはルア!
・そしてなんと俺は高校生の姿に!
・あとアップルパイ美味しかった!
そして俺は、イアの口から驚きの言葉を聞く────
「へぇ、リョーガが20歳だったってことは、私たちより年下なのね」
「……えっ────?」
いやいやいや! どう見ても俺の方が年上だろ?
どういう事柄があってそうなった?!
「サファイア、リョーガが理解できないと間抜け顔です。不愉快なので、さっさと説明しましょう」
「そうね、間抜けが移りそう」
「おい!」
なんか二人からは酷い言われようだが……俺なんもしてないからね?!
「と、いうことで、順を追って説明するわね。まずはその、リョーガの気にする目の宝石について。その宝石は“ルーン”といって、“魔力濃度”の高い場所で、長い時を過ごすと宿るの。それは大体、15年くらいといわれているわ」
「“魔力”?」
流石はRPGそっくりの世界。魔力もやっぱあるのな……
そしてさらっと、重要そうな単語も連呼されたよな。頑張って覚えよ……
「魔力に関する説明はややこしいから、後の話に回すわね。
ルーンというのは、原理は知らないけど、宿るとその人は“年を取らなくなる”の。私たちは12歳の時に宿ったから、見た目はそのまま、本当は“22歳”よ」
「あ~成る程、だからイアたちの方が年上だと」
ほんとは全然成る程じゃないけど。つか原理分かってないんかい!
「それって不老不死みたいなやつか?」
「不老不死とは違うわね。老いによって死なないだけで、大怪我とかを負えば普通に死ねるわ」
「へ、へぇ……」
死ねるという表現に、軽く鳥肌がたった……
というか、やっぱ非現実的な説明に頭が痛い……
──ここが“異世界”っていうのは、もう痛いくらい理解してるんだが、やっぱり信じがたい話に脳みそが追いつかなくてな……
ドラゴンとか宙を浮く武器とか、非現実的な事柄は十分に見たんだけど……
まあこういうのは、話を途中で止めない方がいい。大人しく続きを聞く。
「ルーンには色々な種類があって、私のは“サファイア”、ルビーのは“ルビー”よ。名前と同じで覚えやすいでしょ?」
「あ、ああ。なあ、目に宝石が入っているってのは、身体的な問題は大丈夫なのか?」
「問題があったら、私たちはここにいないわよ。ルーンの詳しい説明は、時間がかかるし難しいから、また追々話すわね。一先ず今は、“存在はするけど実体はない、魔力の塊”だと思えばいいわ」
「存在はするけど実体はない魔力の塊、ね。了解」
一応復唱したが、こちらも本音は、全然了解じゃない。しかし、それを悟らせないのが男というものなのだ!
そしてここから更に、イアの説明のややこしさがヒートアップする。
「今言ったとおり、ルーンは魔力の塊で、ルーンになった魔力を、別名“宝魔”と呼ぶわ。
宝魔はいわば、“魔力を操ることができる力”。と、ここで魔力の説明よ。
魔力は酸素とか窒素とかと一緒で、“パラミシアの空気中に溢れている”の。それも、“半分程の割合を占めている”わ。ただし、酸素や窒素よりも、“原子が桁違いに小さい”のが特徴ね。魔力を操ることができる宝魔の力は“人それぞれ違っていて”、私の宝魔の力は“宝魔具を召還して操ることができる”、というものなの」
「“宝魔具”?」
これまた初めて聞く用語だ。
あと、今の説明で分かったのは、魔力=宝魔は、魔力を操れて、その力は人によって異なる、ということ。大方これでオッケーだろう。
「宝魔具っていうのは、“ルーンを宿す人に適合する、世界で一つだけの道具”の通称よ。私の宝魔具は、さっきリョーガに使わせたその鏡」
イアは、まだ俺の隣に置かれていた鏡を指差して言う。
イアが指先を動かすと、鏡はまた宙を移動し、イアの手中へと入っていった。
「これは“オルタンシア”という名称で、“七つの武器に姿に変わる”の。凄いでしょう? で、ルビーの宝魔の力は──」
この続きはルアが引き継いだ。
「“見た相手の身体情報が分かる”、です。ルーン・宝魔の力・身体年齢・心拍数・脈拍数・血液状況・怪我・種族など、大抵のことは分かります」
あ~なるへそ!
だから嘘をついてないってことや、怪我をしていると分かったのか。嘘をつくと、心拍数とか脈拍数とかが変化するって聞いたことあるし。
あとさっき、俺の容姿が17歳だと断定できたのも、その力のお陰でってことね。
とまあ、疑問が勝手に消化されていく。
「じゃあルアの宝魔具は?」
「ありません。どんな見た目なのかは、分かっているのですが……」
そう言うルアは、少し悲しげな様子だった。しかしすぐに、普通の調子に戻った。
「話は変わりますが、リョーガに宿っているルーンは“水晶”です。水晶ということは、“ルーンがまだ完全に宿っていないということ”を表します。しばらくすれば、他の宝石に変わりますが、今のリョーガにな何の力もありません」
しょぼん……
はっきり明言されて、普通に落ち込む。
せっかく神様から貰ったプレゼントの箱を、まだ開けられない状態ってわけね……
なんだよその焦らしプレイ!
「ルーンを宿している人は“適合・不適合”もあって、ほとんどいないの。だから、ルーンや宝魔という力があることは、一般的にあまり知られてないわ。リョーガも、パパラッチの質問攻めに遭いたくなければ、あまり他言はしないように」
「はーい!」
「はいはい言い返事。っと、細かい詳細は色々省いたけど、まぁルーン大方の説明は終わりよ。……何も知らない人に当たり前を教えるって、結構疲れるのね……」
そう言いイアは、アップルパイの最後の一切れを口に運んだ。同時にルアも、アップルパイを完食する。
ちなみに俺は、とうの昔に平らげている。
「さて──それじゃあここからは、パラミシアについての説明よ」
おっ、待ってました!
パラミシアに関する説明は、俺が一番聞きたかったことだ。
つーかパラミシアの説明って、イアたちにとっては俺がさっき地球に関して説明したのと同じ感じだよな。あれ結構難しかったけど、イアはどんな風に説明するのか。
そしてイアの口からは開口一番、とんでもない事実を聞かされた──
「……パラミシアはね、魔王に支配されているの」
「はっ……魔王──?」
ここはガチでRPGの世界かよ!
……でも──
「し、支配されているって──?」
絶対穏やかではないな……
「──パラミシアは、昔ずっとから、魔王に支配されているの。でも約300年前、“最強の勇者と呼ばれた男”が、仲間を率いて魔王を倒そうとしたわ。だけど……魔王の圧倒的な力に敗れ、勇者たちは死んだ。最後の希望を失った人間は、もう魔王に反発する気力も力も残っていなかった。だからもう、これを皆、受け入れて暮らしているの。今の魔族と人間の関係をいうなら、さっき草原で遭遇したドラゴンがいい例ね。ああいう人間じゃない生物は“魔族”と呼ばれているんだけど、魔族には人間を恨む者が多いの。だからああいう風に人間を襲い、殺している。──これが、今のパラミシアよ」
「…………」
「ちょっ、どうしたの? 確かに暗い話だったけど、いきなり難しい顔しながら黙りこくって」
「……えっあ~いや、大丈夫だ。悪い悪い。その……この世界の事情ってやつに、色々戸惑ってな」
「そう。まあ無理もないわね。急かさないから、ゆっくり慣れていくといいわ」
「ああ、ありがとう」
──そして、やはりここが異世界だと確定した。恐らく地球で、俺は行方不明扱いだろう。
親は、心配してくれるのかな……いや、あの両親だ。心配とかはしてくれないだろうな。寧ろ、うまくいけば俺の保険金が手に入るかもって、喜んでいる可能性も──あ~やだやだ!
「あの……リョーガは、元の世界に帰りたいと思いましたか?」
「いや、思わない」
ルアの問いかけに、俺ははっきりと答えた。
「さっきの説明時に話したとおり、俺には、俺のことを大切に思ってくれるような人も、心配してくれるような人ももういない。だから、戻っても意味がないんだ」
「……そう……ですか」
そしてその後、少し気まずい空気が流れた。
あれ、これ俺がなんかやっちゃったやつ? 結構こういうの気にしちゃうタイプなんだよなぁ……
その沈黙を破ったのはルアだ。
「──“信頼できるかどうかはともかく”、心拍数、脈拍数を見るに、嘘はついていないようです」
“信頼できるかどうかはともかく”っか……
「そう。つまりリョーガ、あなたには今現在、帰る家がないわけね」
「あっ……」
しまったー! 今日という1日の内容が濃すぎて忘れてた。
はい早速絶望が見えまーした!
「その、この世の全てに絶望しましたみたいな顔を止めてください。僕にまで絶望が伝染します」
「ルアさんなんでそんな俺に辛辣なんすか?」
「ほらほら安心して。私たちが、リョーガの住めるいい場所を知ってるから」
「えっマジで?!」
もうイアが神様に見えてきたわ。
ならばその話、ありがたく食いつかせていただきますよ! この二人に限って罠なんてことはないだろうし。
「サファイア、まさかとは思いますがそのいい場所って──」
「そのまさかよ。でも、このままリョーガを放っておくよりかはマシでしょ。ここまできたらこの際、とことん協力するつもり」
おお……めちゃくちゃありがたい話……
しかしルアは、イアのそんなありがたい話を聞いても、まだ判断を決めかねた様子だった。
俺はそれを、ちょーハラハラしながら見守る。なぜかって? 俺のこれからの命運がかかってるからだよ!
もしここでルアが否定したら、ワンチャン俺は今日から数日、モンスターうじゃうじゃの草原で一人、野宿する羽目になるかもしれない。そうなったら、お先真っ暗の死亡ルートなわけですよ!
ルアはしばらくの間──といっても10秒程度だったが、真剣な目つきで考えていた。その目は、俺の善悪を見極めているようだ。
思わず、姿勢をぴんと張る。
そして──
「……分かりました。サファイアがそう言うなら、僕もそれに同意します」
その瞬間、俺は視界がぱあっと開けたように感じた。人生勝利なり!
「ありがとうルア!」
俺は無意識に感謝を述べる。
しかしルアは俯き、無言だった。
「よし、それじゃあ案内するからついてきて」
立ち上がったイアと同じように、俺も揃って立ち上がる。
いつの間にか、ルアはレジの方で会計をしていた。お前は忍者かよ!
アップルカフェを出た後、俺は黙って双子を後ろからついていった。
親切な双子の前では、分かってる風に疑問を投げかけてたが真相は、情報量が増えすぎて頭がパンク──いやパンクを通り越してオーバーヒートしそうなのだ。
これ以上情報が増えるのは、少しの時間勘弁してほしい。
頭の中を整理するため、俺はしばらく無言を貫くのだった────
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
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素人の作品ですが、次話も読んでいただければ嬉しいですm(_ _)m