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バッドエンドを迎えた世界  作者: ぱれつと
チャプターⅡ 仲間
42/42

39話 悪しきもの

 ────やあ……ご機嫌よう……読者の皆様……


 たまに出てくる、正体不明の誰かさんだよ……


 ……さて、今回のお喋りは……ん……? 私のテンションが低いって……?

 ……あはは、当たり。私は今とてつもなく……憂鬱な気持ちなんだ……気分がまるで鉛のように重いよ……


 ……どうして私がこんなにブルーなのかは、今回の物語を最後まで読んでくれれば、鋭い人には分かるかもしれないね……


 あ~も~、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……

 ……おっと、口が滑った滑った。思わず本音が漏れ出ちゃったよ……


 ……まあ、私から一つ言えることがあるとすれば──“時として、無知であることは一番の幸せなのかもね”。

 “私は全てを知っている。だからこそ、今こんなに憂鬱なんだ”。


 ……だからといって、無知になりたいとは思わないけど。

 全てを知っているからこそ、無知である者を幸せまで導くことができる。私には、導く方があっているからね。


 ……すまない、こんなこと言っても、今の君たちには意味不明だろうに。これはただの、私の愚痴だと思ってくれたらいいよ。


 ──無駄話をし過ぎたようだ。早速本題へ──あれ? 何を話すつもりでいたかな? ……忘れちゃった☆ テヘ☆


 まあこいうこともあるよね。しょうがないしょうがない。忘れるくらいだから、きっと大した話題じゃないだろうし。


 少し話したお陰で、私の憂鬱さも大分晴れたよ、ありがと。


 さてさて、短いが、では今回はこれでお別れだ。

 次に読者の皆様と話せる機会を、楽しみにしているよ────



  ◆◆◆



 占い師に言われたとおり、俺は幽霊を探すため南へ、南へと進んでいた。だんだんと周りの人気(ひとけ)が少なくなり、ちょっと怖い。


 あーもー! あの占い師が“悪しきものがいる”とか言うからー! 俺今すっげー怖いよ!


 ……まぁそれでも、南へ行こうとするのを止めない俺も俺だけど。最早、幽霊を見たいというこの好奇心を止められずにいる。


 そうしているうちに、辺りから人の気配が一切なくなった。周りを囲むのも、家や店じゃなくただの壁だ。どうやらいつの間にか、路地に入り込んでしまったらしい。


「流石にもう引き返すか……」


 これ以上先に進んで、帰れなくなっても困る。それに、こんな所で誰かに襲われたら、俺の逃げ道がない。


 回れ右をし、来た道をUターンする。


 ……結局いなかったな、幽霊。やっぱあの占い師、デタラメだったんじゃ……


 ──すると、目の前に4人の人影が現れた。


 俺は驚き、一歩後ずさる。最悪だ。こんな所で柄の悪い奴らに絡まれたら、俺は逃げられない。


「おうおう、お前、あん時のチキンにーちゃんじゃねーか」


「……ん?」


 どっかで聞いたことのあるムカつく声に、俺は首を傾げる。


 見えてきた4人組の特徴は、左から順に鼻ピアス、モヒカン、ゴリマッチョ、出っ歯。……ん? この特徴、前にどっかで……

 ────ああーーー!?!? 思い出した!!

 この4人、前に俺たちが闘技場グロスィヤで絡まれた、あのヘンテコ集団だ!(17話・18話参照)

 そうそう! それでイアに後でボッコボコにやられた奴!

 なんでそのヘンテコ集団がここに? タイミング最悪! いや、それよりもこれ、俺今色々ピンチなんじゃ……


 ここは路地だから、恐らくこれ以上先は行き止まりだ。逃げるにも入り口の方は、ヘンテコ集団が無駄にでかい図体で塞いじゃってるし、道幅が狭いから隙間を通って抜けることもできない。


 この4人だ、平穏に事が済むとも思えないし……


「あの水色髪と桃髪のチビはいねーみたいだな。あん時の落とし前、お前でつけさせてもらおうか」


 ゴリマッチョが言う。


 えぇ……あの時はお前らの方がイアにタイマン申し込んで負けたんだろ……迷惑な逆恨みにも程がある……


「お前めちゃくちゃ弱そうだもんな。キャッキャッキャッ! いいサンドバッグになりそうだぜ!」


 笑い方変わってる~……キャッキャッキャッなんて笑う人、漫画かキャピキャピの女子高生からしか聞いたことないぞ……


 とまぁ他にもツッコミたいとこは色々あるが、まずはこの局面をどう打開するかを考えなくては……あ、占い師が言ってた悪しきものって、もしかしてこいつら? 悪しきものっつーよりは、迷惑な者だけど……


 ヘンテコ集団4人組が、俺との距離をジリジリと詰めてくる。


 手に汗を滲ませながら、俺はまた一歩後ずさった。


 今の俺には、イアの稽古で身につけた技術と剣がある。だから、こんな油断しきってる奴ら、その気になれば倒せるっちゃ倒せる。けど……あぁ……後から逆恨みでバイク乗って、仲間引き連れて倍返しとかに来たら嫌だしなぁ……

 あるじゃん? そういうヤンキードラマ。……えっ古い?


 ……ああ~! もうあれこれ先のこと考えるのは止めだ止め!

 俺は、今痛い思いをしたくないんだよー!


 覚悟を決め、俺が腰に差した剣を抜き取ろうとした──その時だった──


『ピシャッッ』


 ……水が吹き出すような音が聞こえた。


 …………俺の目の前に、ソーセージのような物が転がる。


 ………………さっきまで、俺の目の前に立っていたヘンテコ集団が、まるで糸が切れた操り人形のように、力なく地面に倒れこんだ。


「────え?」


 予想していなかった現実味のない光景に、頭の中が真っ白になる。


 ──()()()()()()()()()()()()()


「うっ…………お、おぇぇぇ…………!」


 吐き出しそうになるのを、なんとか堪える。


 ……内臓は出ているのに、死体から血が出ていない。けれど確かにさっき、血が飛ぶような音がしたはずだ。誰かに何かで斬られたんだ。


 ……え、待て。


 ──じゃあ、()()()()()()()()()()……?


「────ふふふふふ♪」


「?!」


 歌うような透明な笑い声が、俺の後ろから聞こえてきた。


 心臓が痛い程にドクドクと鳴る。

 全身の震えが止まらないまま、俺はその声の方へ振り返る。


 ──そこにいたのは、黒いドレスを着た一人の少女だった。

 金髪のロングヘアーをお団子に結い、血のような赤い瞳をしている。

 彼女は指についた血をペロッと舐めた。

 彼女に、返り血は一切見られない。

 そして彼女は右手に、大きな斧を持っていた。その斧にも、血は一切ついていない。


 状況と直感的に、俺は思った。

 この少女が、ヘンテコ集団を殺した犯人だ。


「うふふふふふ♪」


 殺人鬼少女が笑う。可愛らしい笑い声のはずなのに、全身がゾクリとする狂気を感じた。


「はじめましてぇ、人間のお兄さん。あたしは()()()()()()()()()()()()、“()()()”ですわぁ。うふふ、よろしくぅ♪」


「なっっ……?!」


 まさかの魔族?! しかも四天王?! あれだろ? 確か四天王って、仏門でいう守護神の総称で、特定の分野における実力者の4人組のことも表す言葉。


 ……俺は確信した。勝負になれば勝てるわけがない! と。


「うふふ♪ ねぇお兄さん、あなた、コスミマでぇ感染症を治めた人よねぇ?」


「!? なんでそれを……」


 ありきたりな台詞だが、聞かずにはいられない。

 あの現場にいたのは、俺とイアとルア、そして犯人の魔族だけだった。他に見ている人も魔族も、いなかったはずだ。


「気になるぅ~? ……ふふ、教えな~い♪」


「……もしかして、お前があの魔族に命令して、やらせたのか?」


「んもぉ~、お堅いわねぇ。そんなのじゃぁ女の子にモテないわよぉ」


 グハッ! い、痛いとこ突いてきやがって(泣)


「あたし達は誰も命令してないわよぉ。彼が勝手にやっただけぇ。それにぃ、あの子は魔族の中でも下っ端中の下っ端~。そんな重大な命令が下りるとも思えないわぁ」


「……そうか」


 ジリッと、少しだけ後ずさる。

 相手がいるのは路地の奥側だ。このままゆっくり下がっていけば、この路地から出られる。

 だがしかし、四天王ともあろう者が、それに気付かないわけもなく


「逃げるつもりぃ? 人間風情が、あたしから逃げ切れると思ってぇ?」


 片手で持った斧をこちらへ向けてくる。目を細め、光のない眼光は、冷酷そのものだった。


「……俺、お前に殺される筋合ないと思うんだけど」


 何がおかしいのか、エリスが笑う。


「理由なんてないわぁ。──()いて言えば、あなたがあたしと出会ってしまったからぁ。ふふ、運も実力のうち、あなたにはその運がなかったようねぇ」


「り、理不尽極まりないな……さっきのヘンテコ集団以上だ……」


 ……だけど、そのヘンテコ集団も、もうこの世にはいない。


 逃げるのは不可能と判断し、俺は応戦するため腰の剣に手をかけた──


「!?」


 目を見開く。

 目の前にいたはずのエリスが、姿を消した。──そして次の瞬間、俺は背後に、()()()()()()()()()()()()()


 体が咄嗟に反応し、地面を蹴ってその場から奥の方へ離れる。


 ──俺がいた場所は、()()()()()()()()()()()()()()()()


 ぞっと、全身の身の毛がよだつ。恐怖を感じないわけがない。さっき、あの瞬間、少しでも反応が遅れていたら……俺は死んでいた。


 今まで生きてきた人生の中で、出会ったことのない脅威と、感じたことがない程の命の危機。

 ……恐怖で、髪の毛が真っ白になりそうだ。


「あらぁ、避けたのぉ……貧弱な人間にしてはやるわねぇ」


「は、はは……どうも……」


 恐怖のあまり、乾いた笑みが溢れる。


 ……グロスィヤであの時感じた恐怖と、今感じている恐怖では、到底比べられる物じゃなかった。


「──でも」


 またエリスの姿が消える。今度は先程と違い、どこからも気配がまったく感じられない。


「あはははは♪」


 エリスの笑い声が、あらゆる方向で反響し、俺の耳に届く。この狂気じみた笑い声──コスミマの魔族と、そっくりだ……


「──!?」


 俺の眼前に斧を構えたエリスが現れる。叫ぶ暇もない。

 俺は反射的にバックステップで後方へ下がる。しかしそれでは遅く、エリスの振りかざした斧の刃が、俺の腹を掠めた。


「っつ!? あ、あぁ……!」


 服に赤い花の模様が映る。出血していた。

 電流のように腹から体へ流れる激痛に、俺は腹を押さえその場にしゃがみこむ。


 痛みと緊張で意識が朦朧(ろうもう)とし、傷を回復する余裕もなかった。


 頭を誰かに押され、俺は背中から地面に倒れこむ。起き上がろうとすると、その前にエリスが俺の上半身の上に乗ってきた。

 子供の体重だ。大して重くはない。だが、今の俺には、子供一人を押し退ける程の力すら、残っていなかった。


「うふふ♪ 少しは楽しめたわぁ。それじゃあ……バイバイ──♪」


 俺の上で、エリスによって斧が振り上げられる。


 恐怖も何も、感じなかった。

 もうとっくに、諦めていた……


 斧が見えなくなると、左肩にさっきの数十倍の激痛が走った。

 悲鳴を上げたが、もう自分の声すら聞こえない。


 そして俺の意識は、途絶えた────

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