37話 幽霊のいる隣町
先日、○○県○○市の住宅街にて、火災が発生しました。
火は、通報から1時間程で消し止められましたが、焼け跡から一人の焼死体が発見されました。身元は現在調査中ですが、この家に住む長男、“萃田 緑牙さん、二十歳”と連絡がついておらず、焼死体はその男性のものと思われています。
辺りの住宅へは引火しておらず、怪我人もこの焼死体の方以外は発見されておりません。
また、今回の火災は近日○○市で放火を繰り返す放火犯による連続放火事件とみられており、警察はその放火犯の行方を追っています。
以上、最新のニュースでした。
◆◆◆
キッチンからは、じゅーっとフライパンで何かを焼く音が聞こえてくる。そこに立っているのはルアで、毎度ながら、食欲を掻き立てられる音だ。
そーだ、前にハンバーグを作った時、面倒臭がって空気を抜かずに焼いたら、見事に肉がボロボロになって、ひき肉の炒め物と化したことあったなぁ。
皆、料理は行程を怠っちゃあならねーぞ。怠った時、そこに出来上がるのは料理とは言えない無惨な代物だけだ。
朝食が出来上がった気配を感じ、椅子に凭れ掛かって崩していた姿勢を正した。ルアに見つかれば、どんな小言を言われるか目に見えている。
「リョーガ、これとそれを運んでください。トパーズ、外にいるサファイアを呼んできてください」
「はーい」
「はーい!」
ルアの指示に従い、トアは下へイアを呼びに、俺はキッチンから料理を運ぶ。
最初の頃はどれが誰かまったく分からずテンパったが、今やどの食器、どの量の料理が誰のものか、この具竜荘でルアの次に熟知していると言えよう。
他と比べて明らかに量が多いのがイアで、逆に一番少ないのがルア。少し年季のある食器に乗った料理がランビリスさんで、逆に一番食器が真新しく光っているのがトア。特に特徴のないのが俺だ。
ルアと手分けして料理を全て並べ終える頃には、イア、トア、ランビリスさんもラウンジへ戻ってきていた。
もうすぐ7月を迎えるパラミシアは、クーラーならぬ“冷風機”が部屋をキンキンに冷やしてくれている。半袖で剥き出しになっている肌に冷気がささって、ちょっと痛い。
各々が席に座り、いただきますをしてから食事を始める。
主にトア中心となり、毎朝の食事は笑顔と会話が絶えない。
その日は朝食を終えた後、ルアとイアが出掛ける準備をしていた。
「どこか行くのか?」
俺がそう問うと、ルアが頷いた。
「隣町で、月に一度の定期市があるんです。そこへ買い物へ」
「安い品物や、珍しい骨董品とかが集まるの。見て回るだけで面白いわよ」
「へぇ~」
それは確かに面白そうだ。
「俺もついて行っていいか?」
「いいわよ。私と同じで荷物持ち要員ね」
「そんなに何か買うつもりなのか?」
「まぁ、安いので。日持ちする食品を少し買い込もうかと」
「でもそれなら、無限袋使えばよくないか? ほら、あれって無限に物が入る四次元ポケットなんだろ?」
ルアが顔をしかめる。
「贅沢言わないでください。無限袋は、宝具の中でも希少な種にあたるんです。そんなポンポン何個も持っていません」
「えっ、でもアステリ洞窟行った時は、2個あったよな?」
「食材を買うんですよ? 一度魔石を入れた無限袋に、新鮮な食材を入れるなんて……想像しただけでおぞましいです……」
顔を青くするルア。そこまで嫌なのか……
確かに、衛生的には良くはないかな。でもじゃがいもとか、普通に土ついた状態で売られてるぞ? あれと同じなのでは……
「あっ、そういえば知ってる? 隣町で最近、幽霊が目撃されてるって噂」
「幽霊?!」
思わず叫んだ。
んな非科学的な……いや、パラミシアだと、普通にいそうなところではあるが──
「そもそも、幽霊なんて本当にいるのか?」
「いますよ」
「──へっ?」
そうあっさり肯定したのは、なんと一番幽霊とか信じていなさそうな、あのルアだった。俺は幽霊の話以上に面を食らう。
「ほんとルア! 本当にユーレーっているの?!」
うわびっくりした!!
いつの間にか俺の隣で今の話を聞いていたトアが、ビー玉のような純粋な瞳でルアに尋ねた。
「はい、本当です」
淡々とルアが、当たり前のように肯定する。
もしかしてルア、霊感少女か?
「あら、ルビーって霊感あったかしら?」
俺と同じことを思ったのか、イアが俺の心を代弁してくれる。
「ありません」
ずこっ!
「じゃあなんでそんな自信満々なんだよ……」
「幽霊が存在するという事実を知っている。理由なんて、僕にはそれだけで十分なんですよ」
「へ、へぇ……そうか……」
そんなはっきり言われると、逆にもう何も言えねぇ……
これ以上追及は無駄と判断し、引き下がることにした。よし! 幽霊はいるんだね!
午前10時頃、俺たちは隣町“ナプト”へ向けて出発した。
トアも行きたがっていたが、体調を診てもらう定期検診があったため、今回は泣く泣く留守番だ。どうやら、幽霊に会いたかったらしい。
……代わりに俺が探すか、噂の幽霊。
ナプトへは、歩いて20分程度で着く。天気は良好で、気温もそれなりだ。日本の夏程暑くなかった。
そしてこれが、対となる二つの出会いのきっかけだったことを、俺はまだ知らない────
2章スタート!