33話 不可能が可能と呼ばれる瞬間
最近、同じ夢をよく見る。
俺は日本の自分の部屋で、ベッドで寝ている。すると、やたらと周りが熱くて目を覚ますのだ。
ぼやけた視界が覚醒すると、そこにあるのは火の海。俺が1日のほぼ全てを過ごしている小さな城が、ゴーゴーバチバチと音を立てて崩れてゆく。
火の粉が飛んできて、俺の髪も少し焦げる。熱かった。
夢の中では、それが夢だという自覚はない。
しかし俺は、いつもこの夢の中で、逃げようとしないのだ。ベッドから下りることすらない。ただただ無感情に、燃える部屋を見届ける。
死にたいと思うわけではない。けれど生きたいとも思わない。
今感じている睡魔に身を任せ、眠っている間に死ねればそれでいいと思った。
だから俺は火の海の真ん中で、引火しつつあるベッドの中に潜る。そして瞳を閉じた。
まるで拍手のようにパチパチと音を鳴らす火を聞き、俺は暗闇の中で考えるのだ。
誰からも必要とされない無価値な人間のまま、あの世へ逝くのは嫌だな、と────
◇◇◇
「……またあの夢か」
朝の7時。窓から差し込む太陽の光で、俺は夢から覚めた。そして、その夢の内容を頭の中で再生させる。
この夢を見たのは、かれこれ既に10回以上だ。それも、パラミシアに来てから見るようになった。
俺の部屋が燃えている。間違いなく家事だ。けれど俺はいつも、そこから逃げようとしない。俺がとる行動も、俺が考えることも、いつ見ても全て同じだ。まるで、過去にあったこと、もう一度見せられているような……
けれどどれだけ腕組みをして考えても、生憎俺に夢と同じ現実の記憶は一切ない。
やはりただの夢なのか。──それとも、俺が忘れているだけなのか……
──頭を振る。
不確定な夢のことを考えていても仕方がない。
今はそんなことよりも、やるべきことはたくさんある。
俺はベッドから下り、ラウンジへと向かった。
きっと朝食の頃には、夢のことなんて忘れているだろう。
◇◇◇
部屋にはイアとルア、そしてランビリスさんもいる。勿論俺もだ。
今俺たちがいるのはトパーズの部屋。
俺が呼び掛け、集まってもらった。
俺が今から何をするのか、概要は一切伝えていない。しかし、きっと全員が分かっていることだろう。けれども、それを口に出す者は誰一人とていない。
プレッシャーにならない為、ありがたかった。
──俺がやろうとしているのは、トパーズの回復だ。もしかすれば、蘇生と言っても過言ではないかもしれない。恐らく使う気力は、蘇生と同等だ。蘇生なんて、当然したことないが。
と、前置きは長くならない方がいいな。
時間が経てば経つ程、その気はなくとも人間、期待値は膨らんでしまうものだ。
しかし、そんなに期待されても実際困る。成功する確証だって、あるわけではないのだから。
不可能なんてないとは、よく言ったものだ。
確かに、不可能だって、一度でも成し遂げれば可能と呼ばれるようになる。その裏に、どれだけの失敗や犠牲があったとしても。
昔は、人間が空を飛ぶなんて不可能と言われていた。しかし今では、飛行機は俺たちにとっての“当たり前”であり、空を飛ぶことは“可能”だ。
白血病だって、数十年前までは不治の病として恐れられた。けれども現代医学を使えば、白血病はもはや治療できて“当たり前”の病気となっている。これも、不可能なことがが“可能”と呼ばれるようになった一例だ。
けれど、その不可能を可能と呼べるようにするには、一体どれだけの天才がどれだけ努力しないと、駄目なんだろうな。
──後ろに立つイア達には見えていないが、俺は薄く笑い、トパーズに両手の手のひらを向けた。
努力に必要なのは、成し得たいと願う思いと、揺るがない決意と、そして諦めない心だ。そうだと、俺は思う。
1ヶ月──俺が宝魔の力を得てから、経過した時間だ。気付けば、パラミシアに来て、イアやルアと出会ってから1ヶ月以上が経っていた。
俺が努力をしたのは、この1ヶ月というあまりにも短すぎる期間だ。努力を舐めているのかと、誰かに怒られそうである。
だけど俺は、これで十分だと感じたんだ。もう、やることはやりきった。これ以上俺にできる努力はない、って。
小鳥に瀕死レベルの傷を付け、それを完全に完治させる練習もやった。
マッドサイエンティストだとかは思わないでほしい。俺だって、やりたくてやったわけじゃない。わんわん泣きながらやってたんだよ。一羽の小鳥に、ごめんねを何百回言ったことか……
──だから大丈夫。俺はできる。
そう、自分に言い聞かせ俺は……宝魔を使った────




