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バッドエンドを迎えた世界  作者: ぱれつと
チャプターⅠ 異世界生活スタート
32/42

30話 馬鹿な犯人

 1週間後────



 一つの小窓から太陽の光が差し込むラウンジ。そこで俺は、腹に力を目一杯入れ叫んだ。


「決戦じゃおらーー!」


 その叫びは反響することなく空気に溶け込み、そのまま消えていく。

 ちょっとばかし気まずい沈黙が流れた。


「なんです朝っぱらから、騒々しい」


 第一声、ルアの毒舌。


「朝から辛辣っすねルアさん」


 この辛辣っぷりに慣れてしまった自分が怖いよ。


「で、決戦って?」


 仲介者として、イアが話に入ってきた。


 現在、具竜荘のラウンジに集まっている俺たちは、いつもの円形机を囲み、議論を展開していた。

 ランビリスさんは仕事で下に降りいないが、まぁ朝食の延長である。


 頬杖をつき解を待つイアへ、俺は答えた。


「もちろん、ルアが見たって言った、あの魔族だよ。あいつの持つ怨念の宝具を浄化して、コスミマの感染症を治める!」


「まあ唐突ですね。計画という二文字を知っていますか?」


「流石に知ってるから!」


「計画性がないのは確かね。普通こういうのって、数日前に話し合っておくものじゃないの?」


「んー、いや確かにそうなんだけどね?」


 あやふやな回答をする俺に、イアは小さくため息をつく。


「まぁ、その問題は一旦置いておくとして──リョーガ。そう提案するということは、浄化の技術は完璧なのね?」


 静かな口調で尋ねてきたイアに、俺はニカッと笑って


「あたぼーよ!」


 右手の親指を立て、イアへ見せる。


 浄化や治癒の練習に、イアは初日以来付き添いを行っていなかったから知らないだろうが、自分でも目を見張るレベルで技術は完璧だと思う。

 怨念の宝具を浄化するのに、最初は5秒以上かかっていたが、今では1秒程の速業にまで成長を遂げた。

 1週間でこの技術向上スピードだから、本当に凄いのでは?


「……嘘ではないようですし、まあ大丈夫でしょう」


「おっ、それは俺を信頼──」


「してません」


「即答デスカソーデスカ」


「具体的に、この後の行動計画は?」


「ん、ああ。まずは、その犯人である魔族を探しに行こうと思うんだ。向こうから来てくれるわけがないからな」


 ならば、自分たちの方から行くしかないだろう! というのが、俺の考えである。

 計画性ないとか言ってきたが、そこんとこの計画はちゃんと考えてあるんだよ!


「──正しい判断だとは思いますが、リョーガが言うとフラグにしか聞こえないです」


 間違っていないことを素直に肯定するのはルアのいいとこだが、果たして今のは素直に肯定してもらえたことになるのだろうか。


「フラグじゃないからな?!」


 一応反論はしておく。


「それだと、更にフラグ感が増すのだけど」


「じゃあどうしろと!」


「んまあ実行者はリョーガだし、私たちはそのサポート役であり脇役。今回はリョーガに従うわ。あなたができると言い張るなら、それに対してとやかくは言わない」


「お、おお。ありがとな?」


  でも待って、それって全責任を俺に負わすってことじゃないよね?!


「ということで、責任も全部リョーガにとってもらうから」


「やっぱそーなるんだねっ!」


 ……でも、本当にこれは、失敗を許されないからな。失敗=死──みたいのを覚悟しなければならないかも。


「それで、リョーガの作戦(仮)では、僕たちは何をすれば?」


 作戦(仮)ってなんだよ!


「え、え~おほん……そうだな。まず、イアには戦闘員として来てもらいたいんだ」


「戦闘員? ──ああ、その魔族から怨念の宝具を奪う為に、注意を引き付けろと」


「そういう感じだ。やっぱ、人間と魔族の関係性からして、戦闘は避けられない気がするし」


 戦いに関しては、イアに任せるのが一番確実だ。そうすれば、俺は浄化のみに集中できるしな。


「リョーガの実力じゃあ、まだ魔族とタメで殺りあうなんでできないしね」


「うぐっ、そのとおりです……」


 でも魔族がどのくらい強いかなんて、俺はまだまったく知らないけどな。

 取りあえず、そこらのヤンキーよりは確実に強いんだろう。なら確かに俺の方が負けるわ!


「僕は戦えませんが、何をしろと?」


「──ルアの役目は、すげー大事」


 一拍を置いて、俺は言った。


「ルアが最初、その魔族を目撃した路地まで、案内してほしいんだ」



  ◇◇◇



 ルアの後を追うかたちで、コスミマの街を歩くこと数分。立ち止まったのは、商店街近くに存在する一本の路地の入り口だった。


「ここです」


 ルアの後ろから、その路地の奥を覗く。

 障害物のないただの一本道で、昼間だというのに路地の中は真っ暗闇だった。まるで、この路地だけが周りとは違う世界にあるようだ。


「うわぁ、いかにもぉ……」


「ここからでは分かりにくいですが、この奥には広めの空間が広がっています。魔族が立ち止まっていたのはそこです」


 確かに、こんな路地に入ろうとするような物好きはいないだろうからな。人目につきたくないのなら、この場所は丁度いい。


 だがよくよく考えると、コスミマの街と具竜荘を繋ぐ路地もこんな感じだ。

 具竜荘を訪れる人がほぼいないのにも納得である。というか本当にいるのか?


「魔族の居場所が分からないから、取りあえず前に見た場所に来たのよね。でも、二度も同じ場所にくるとは思えないけど。コスミマを支配しようなんて考える相手なら尚更、ね」


「いたとしたら、相当の馬鹿ですね。普通は居場所を特定されないために、拠点を転々とするものですから」


「んまー行ってみないことには分からない。行くぞ」


 俺は周りに人がいないことを確認し、暗い路地へと足を踏み入れた。


 パシャンと、水の跳ねる音がする。

 太陽の光がよく当たらないため、水溜まりが蒸発していないのだろう。


 路地の幅は、人一人が丁度通れるくらいだ。向こうから魔族が来て鉢合わせになると、逃げ道がなくなりかなりまずい。

 上は空まで続いているため、最悪壁をよじ登って撤退だな!


 だがそんな心配はいらず、すんなりと俺たちは開けた場所に出ることができた。

 路地よりは暗さがましだが、ここも薄暗い。


 そしてそこには──一人の人影があった。


 それはこちらを振り向く。


 薄暗いせいで表情はよく見えないが、男であることは確かで、少年と呼べる年であろう背丈をしていた。


「いた……!?」


 俺は思わず呟く。


 今目の前にいるこいつが、今回、コスミマに感染症を流行させた元凶を持つ魔族なのだろう。


 本当にいるとは思っていなかったため、驚きで一歩後ずさる。


「まさかいるとは……リョーガといい勝負の馬鹿でした」


「おい」


 また俺を馬鹿呼ばわりしたのは聞き捨てならんが、今はそれに気を向けている場合ではない。

 ルアがそう言うということは、本当にこの少年こそが、犯人である魔族。

 魔族であることを知っていなければ、ただの人間の少年にしか見えない。人間との差が何もない容姿だ。


 魔族は何も仕掛けてこず、ただただこちらを無言で見てくるだけだった。


 ──ん? いや違うな。

 こいつ……()()()()()()()()()()()()()()()


 少しだけ、魔族との距離をつめる。するとなんとか、相手の表情が見えるようになった。


「…………」


「あ、意識吹っ飛んでるわこれ」


 口をあんぐりと開け、目を大きく見張ったまま硬直している魔族。動き出す気配がまったくない。

 この様子を見て、俺はこいつが気絶しているのだと判断した。

 こちらが手を振っても、相手は何も反応を寄越さない。


 この魔族の様子には、イアとルアも唖然としたようで、呆れて声も出せないようである。


 だが一番驚いているのは俺だ。

 俺がイメージしていた、対魔族戦とは、明らかにかけ離れた今の状況。

 突然現れた人間に驚いて、気絶する魔族なんている?! いるはずな──いやいる! 目の前にいた! 人間を見て気絶する魔族いたあ!


「え、ええ……」


 驚きと困惑のあまり、俺が何もできずにいると


「────?! な、なぜこんな所に人間が?!」


「うおっと?!」


 突然意識を取り戻し、俺たちの存在に驚く魔族。

 どうやらガチで気絶していたようである。


 魔族が声を発したことで驚いた俺も、思わず声が出た。

 取りあえず、魔族に声をかけようとする。


 しかし、そこから始まった魔族の捲し立てるような独り言に、俺は呆気にとられた──


「くっ……オレ様の、『人間が全員弱りきったところで大都市を乗っ取ろう大作戦☆』がバレてしまっていたとでもいうのか?! バカな! 情報はどこからも漏洩していないはずなのに! いや、そもそもあんな弱っちい種族である人間が、こんなところまでこられるはずがない。あのいかにもな路地の先だぞ?! オレ様でさえ、あまりの真っ暗さに最初は足を踏み入れるのも躊躇(ちゅうちょ)したというのに……。こんな怖い場所に来る人間などいるはずがない。ということはこいつらは人間ではない? いや待て、だとしたらこいつらはオレ様と同じ魔族だということになる。違う、そんなことはあり得ない。じゃあやっぱり人間なのか。だがこの街の人間は既にほとんどが俺様の手中に落ちたはずだ。残った人間も、感染症が怖くて外に出ようなどと考えるはずが……。いや待て、重要なのはそこじゃない。問題はどこからオレ様の計画がこいつらに漏洩したかだ。孤独を望むオレ様に仲間など存在しない。つまりはこいつらはオレ様を監視していたのか?! しかし……いやそうでなければ説明がつけられない。

 おい貴様ら! 魔族のプライバシーを勝手に覗くなど、貴様らには人情というものが備わっていないのか! 貴様らの狙いは、この“怨念の取りついたお香”だな! このお香から発する匂いを嗅ぐことで、貴様ら人間は特殊な病を患うことになる。つまり、この怨念のお香をどうにかできれば、ここの感染症は治まるからな。ふん、貴様ら奴隷の言うことなど聞くか。人間ごときがこのオレ様に勝てるなんて思い上がるなよ。身の程知らずのミジンコがあ!!」


「「「………………」」」


 言いたいことを全て言い終えた魔族は、ぜいぜいと肩で息をし、こちらをギロッと睨み付けた。


 一方の俺たちは、物凄い剣幕で言葉を捲し立てた魔族に、一体どこから突っ込むべきか分からず、固まってしまった。


「……勝手に、一人で計画の全貌を明かしてくれたわね……」


「はい。しかも矛盾だらけで、馬鹿馬鹿しい計画でした。計画と呼んでいい代物なのかも疑問ですし……」


「こんなの計画とは呼べないわよ。ただの願望。大体、感染症にかかった人だって、街の人口の2割程度よ。全然手中に落ちてないじゃない」


 この、二人のボロクソの非難を聞いた後、魔族は顔を真っ赤にした。

 馬鹿にされたことに、腹を立てたのだろう。


 俺は頭の整理が追い付かず、固まったままである。


「──?! なっお前ら! このオレ様にカマをかけたのか?!」


「いや、カマをかける以前の問題だから」


 呆れを通り越し、面倒臭そうな声音でイアは言った。


「どうやら、厄介なのは宝具のみのようですね」


 ルアもこの言い様である。

 こんな魔族を相手にしている時間の方が惜しい、とでも思っているのだろう。最近、ルアやイアの心情を読み取ることに慣れてきた俺。


「くそ、好き勝手言いやがって……。ならば貴様らは何故ここが分かった!」


 先程の、思い込みによる計画暴露のせいで、もはや何を言ってきても負け惜しみに聞こえてしまう。


「以前にあなたを尾行したからですよ。挙動不審すぎて、明らかに怪しかったですし」


「そ、それは一体、いつの……?」


「10日程前でしょうか。──あれ、でもあの時に持っていたのはお香ではなくて──」


「あ、あの時か! ふん、あ、あれは、貴様の手ぬるい尾行にはもちろん気付いていたが、その勇気を評して見逃してやっただけだ! オレ様の寛大な気遣いに、か、感謝するんだな!」


 ──嘘だな。明らかに。


 相手にするのが面倒になったのか、もう何も突っ込まないルア。


 イアは既に腰の剣を抜きかけていたが、蚊帳の外の存在になりつつあることを懸念した俺は、魔族にある疑問を投げかけることにした。




 ──しかしそれが、この魔族の“狂った”パンドラの箱を開けることに、なってしまったのかもしれない────

最後まで読んでいただきありがとうございます。

よろしければブックマーク・評価の方をしていただければ、とてもとても励みになります。

素人の物語ですが、次話では犯人の印象が180°変わるかも──?

読んでいただければ嬉しいですm(_ _)m

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