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バッドエンドを迎えた世界  作者: ぱれつと
チャプターⅠ 異世界生活スタート
31/42

29話 新たな力

 5月4日月曜日。


 俺はいつもの森で、真面目に宝魔の練習をしていた。今日は付き添い人がおらず、俺一人。


 練習の成果もあって治癒は、大分うまくなった方だと、自負できる程になった。


 でも午前の間はイアの稽古を受けていたから、体いてぇったらありゃしない。

 あっそうだ、それこそ、宝魔で治せばよくね? ……いや、駄目だ。失敗した時のことを考えると、怖くてできない!


 でもやっぱ、植物ばっかで練習してても、結局は人でできないと意味ないよなぁ……今度、イアかルアに相談してみるか。


 頭の中のやることリストに、それを書き足しつつ、俺は手のひらを木の傷に向ける。俺が剣でつけたものだ。うう……ごめんよぉ……


 傷口に向かって念じるように、力を手のひらに込める。すると、木の傷口はみるみるうちに塞がっていき、最後には元の綺麗な幹へと戻った。

 この光景を見たのは、今日だけで72回目である。


『ガサガサ』


「──ん?」


 その時突然、俺の右後ろの方角から、草木が揺れる音がした。反射的に、そちらへ視線を向ける。

 ……野ウサギか?


 しかし、草木の合間から姿を現した()()は、野ウサギのような可愛いらしい小動物ではなかった──


「!? なっなななっななっっな?! ば、化け物ーー?!」


 その巨体が、俺の眼前にお目見えする。


 なんとなんとヤバイヤバイ! 俺の目の前に現れたのは、初めて見る謎のモンスターだった。

 モンスターと出会うなんて、バッファローとドラゴン以来だろうか。──バッファローってモンスターだっけ?!

 いやそんなことはどうでもいい!


 と、とっとと取りあえず俺はどうしよう!? 


 この謎モンスターは、一言で表せば“動く彫刻”みたいな見た目をしていた。体が石でできているっぽい。

 石であることを除けば、翼の生えている悪魔みたいな……あっ悪魔って普通翼あるか!


 ……あれ? そういえば……


 俺はモンスターの姿を見て、何かが記憶に引っ掛かる。


 んーあー……そうだ! なんか見たことある、ゲームで見たことあるぞこいつ。なんていったっけなぁ、名前が思い出せない。ああーむずむずするー!


 そのモンスターの体格は非常に大きく、俺はモンスターを見上げるかたちになっていた。

 モンスターの後ろに太陽があるため、立ち位置的に俺の体は、モンスターの影に飲み込まれる。


 肌が石なもんで、もうこれ壁じゃん!?


 俺が呆然と動けないでいると、謎モンスターはゆっくりと拳を振り上げ、そして凄い勢いで俺めがけて、その拳を振りかざしてきた。


 一瞬反応が遅れるものの、反射的にバックステップをとったお陰で、間一髪避けられる。


 衝撃で、辺りには土煙が立ち込めた。


 ヤベーヤベー、どうしよ!

 一応剣は持ってるけど、あの石の肌じゃ絶対剣効かないよな。か、勝てる気がしない……


 ──よし、こうなったら……逃げるが勝ちだ!


 卑怯でもなんとでもいいやがれ! 命大事! これ常識!


 謎モンスターに別れを告げる間もなく、俺は戦闘を離脱し、具竜荘めがけて全力ダッシュで逃げた!


 ──しかし、そんな俺にすぐ、壁が立ちふさがる。

 こんなところに、壁なんかあったっけ……?


 俺の脳が、正常な判断を下すまでに、3秒もかからなかった。

 状況を察し、俺は青ざめながら今度は二度のバックステップで後ろに下がる。


 一瞬、俺が壁と誤認したそれは、もちろん壁なんかではなく──俺が逃げたはずの、謎モンスターだった。


 いつの間にか、回り込まれていたようである。


「はああああ?! その巨体でその機動力は反則だろ空気呼んで俺を逃がせよ彫刻野郎!」


 もはや惨めな八つ当たりをするしかない。


 俺の言葉を理解し怒ったのかは知らんが、彫刻野郎はまたしても拳を振り上げ、俺に襲いかかってくる。


 俺の頭に、避けるという選択肢は出てこなかった。


「うわああーーーー!!」


 そう叫びながら、恐怖から背くように目を瞑り、無意識に両手をモンスターの前に出す。


 モンスターの石肌が、俺の手に触れる感覚がした。


 ──

 ──

 ──


 ……痛みはやってこない。


 恐る恐る、俺が目を開けると──そこにさっきまであったはずのモンスターの巨体は見当たらなかった。


 首を振っても見当たらない。まさかとは思いながらも、足元へ視線をやると──そこには先程の彫刻モンスターが、うつ伏せの状態で倒れていた。


「────何があったし?!」


 訳が分からず、その場でただ呆然と立ち尽くす。そうしていると、具竜荘の方角が複数の誰かの足音が聞こえてきた。


 音のする方へと視線を向けると、丁度イアとルアが、俺のもとへ駆けつけてきたところだった。


 俺の叫び声を聞いて、近くで稽古をしていたイアと、イアに差し入れでもしに来ていたルアが、駆けつけてくれたのだろう。


 俺と、倒れるモンスターを交互に見たイアは怪訝そうに眉を潜め、口を動かした。


「どういう状況?」


 まあ、当然の疑問だ。


 俺は二人に、何があったか事情を説明する。

 ……とはいっても、俺もよく分かってないんだけどな。


 そして説明を終え


「ああ──それで、“ガーゴイル”が倒れているのね……」


 事情を知ったイアが、この現状に頷く。


 あっこいつの名前ガーゴイルか。答えが分かってスッキリ!


「様子を見るに、死んだというわけではなく、どうやら眠っているようです」


 宝魔を使ったのだろう。ルアが言った。


「眠って、いる?」


 何、ガーゴイル貧血?


「……一先ず、ここを離れましょう。途中でガーゴイル起きても困るわ」


 そのイアの提案で、俺たちは具竜荘へ戻る。

 ガーゴイルはまあ……起きたら勝手にどっか帰るだろ。


「──リョーガが両手を前に出した後に、ガーゴイルは倒れたのよね」


 唐突に話を切り出すイア。俺はその質問に答える。


「ああ、瞑っていた目を開けたら、目の前にガーゴイルが倒れててたんだ。正直めちゃくちゃビビった……」


「……」


「あらルビー、どうしたの? 黙りこくっちゃって」


「あっいえ……今、僕の宝魔でリョーガの宝魔を確認したんです。そしたら、治癒・浄化だけでなく、前まではなかったはずの“睡眠魔法”があって……」


「えっ?」


 睡眠魔法?


「あれ、宝魔の力って、ルーンが宿った時点で全部決まってるんじゃ……俺が勝手にそう思ってただけか?」


 イアが首を振る。


「いいえ、リョーガの考えは正しいわ。普通はそう。けれど時々、本当に稀に、途中で宝魔の力が変化したり、増えたりする人がいるの。だからリョーガの睡眠魔法も、それじゃないかしら」


「へ~、そんなことも」


「リョーガの死にたくないというゴキブリ並の生への執念が、この睡眠魔法とい新たな宝魔を生み出したのかもしれませんね」


「ゴキブリ並とは失礼な! せめて、切断された分だけ再生するとかいう、再生能力がエグいプラナリアとかに例えてくれよ。絶対プラナリア(こっち)の方が生きる執念凄いだろ」


 ──ん、いや? そういう問題じゃない気がする。


「じゃあ無意識のうちにリョーガは、その睡眠魔法をガーゴイルに向かって使っていたということね」


「んん、多分そういうことなのかな? 実感まったくないけど」


「練習することが増えましたね、せいぜい頑張ってください」


「えっ……! なん、だと……」


「そこまで絶望することですか……」


 俺の絶望の表情に、ルアがすかさずツッコミを入れる。

 だって俺、ただでさえ今やることいっぱいなんだよ? これ以上やることが増えたら、もう分身しないとやりきれないって……


 するとイアは、隣で顎に手をやり、なにやら考え込む素振りを見せた。


「どうした?」


 気になった俺は、イアに尋ねる。


「──どうしてガーゴイルが、あそこにいたのかしら。この森は日当たりがとても良いから、モンスターなんてめったに出ないのに。それにガーゴイルは、宝や封印の番人をするモンスターよ。それが、こんな森の浅い場所に出てくるなんて……何かの封印に、異常があったのかも」


「言われてみればそうですね。それにあのガーゴイル、石の肌で黙視しずらかったですが、体中に無数の怪我がありました。誰かにやられたのか……」


 妙に神妙な面持ちの二人に、俺は空気を変えるよう、明るく笑って


「考えすぎだって! 大丈夫大丈夫」


「「…………」」


 二人とも、それでも心配は拭いきれないようで、その後も考え込んだ素振りを崩さなかった。


 しかし、想像だけで何かが解決するはずもなく、夕食の時間になる頃には、誰もこの話題を口にはしなくなっていた。






 だが俺たちは、この時に少しでも気付くべきだったのかもしれない。誰も知らない影で、大きく動き出そうとしていた、陰謀に────

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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1章もクライマックスに入ります。

次話も読んでいただければ嬉しいです(*^.^*)

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