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バッドエンドを迎えた世界  作者: ぱれつと
チャプターⅠ 異世界生活スタート
30/42

28話 怨念には優しさを

 5月2日土曜日。


 俺はランビリスさんと共に、昨日イアと宝魔の練習をしていた場所にいた。天気も、昨日と変わらず良い。


 俺が念のため護身用の剣を腰に差しているのに対し、ランビリスさんはそういった武器は一切持っておらず、何やらお札の貼られた()()()()な箱を抱えている。


「よしと。準備はいいかな?」


「はい」


 俺がそう返事を返すと、ランビリスさんは抱えていた箱を下ろし、お札を剥がして蓋を開けた。


 俺も上から、その箱の中身を覗き込む。

 中には、緩衝材(かんしょうざい)代わりの綿と共に、(つや)やかで華のあるデザインが施された、一つの神楽鈴(かぐらすず)が入っていた。


 ランビリスさんはその神楽鈴を取り出さず、箱に入れたままにしておく。


「これが、昨日話していた“怨念の取りついた宝具”だよ。処分しようにもできず、店の倉庫に長年しまってあったんだ」


 ランビリスさんが言う、怨念の取りついた宝具とは、パラミシアに暮らす人間や魔族の恨みの念が集まり、それが宝具に取りつき、悪質な力を得てしまった宝具。


 現在コスミマで流行している感染症も、原因は怨念の取りついた宝具の力によるものではないかということ。

 そして俺の宝魔は、その宝具に取りついた怨念を浄化できるかもしれないのだ。


 怨念が浄化できれば、コスミマの感染症は治まる。超責任重大!

 でも、それには練習が必要で──


 と! いうことで、ランビリスさんが提案してくれたのが、この、宝具店の倉庫にあった、同じく怨念に取りつかれた宝具を使い、浄化の練習をしようじゃないか! というもの。


 いやほんと、ランビリス様様だよ。神様仏様ランビリス様。

 こんな都合よく怨念の宝具を所有している人なんて、きっとランビリスさんだけだな。うん。


「一体、この宝具はどこで手に入れたんですか?」


「元は普通の宝具だったんだ。しかしある時、急に怨念の宝具になってしまった。そのまま店置いておいては何があるか分からないし、封印の箱に入れてとっておいたというわけさ」


「どうして怨念が取りついたと分かったんですか?」


「そこは、私の宝魔のお陰さ」


 パチンとウインクをする。なかなかキマっていた。


「さてと、早速練習を始めようか。浄化してもらえたら、私としても助かる。宝具は、人に使ってもらって()()()だからね」


 今回、イアでなくランビリスさんが付き添いをしてくれているのは、ランビリスさんなら宝魔で、怨念が浄化されたかどうかが分かるからだ。勘違いで浄化できてると思い込んでしまったら、後が大変だからな。


 宝具は箱に収めたまま、俺は膝立ちの姿勢で、宝具に手のひらを向ける。

 ふぅぅぅと息をつき、心を落ち着かせる。


 浄化って、やっぱ回復の時と同じ感覚でいいのな?

 ──浄化しろ~……浄化しろ~……怨念よ立ち去れ~。


 ……これほんとに合ってる?


 ────その後も念を送り続けるが、ぱっと見た感じ、宝具に変化は一切起こらなかった。


 ムムムムム……これは強敵だ……


 5分程で諦め、手を戻す。

 俺の様子を見ていてくれたランビリスさんが、顎に手をやりう~んと唸る。


「やはり回復と浄化は、根本的に違うみたいだね」


「はい……」


「……少し休憩しようか。解決法が分からないまま根を詰めるのは、あまりよくないからね」


 そのランビリスさんの提案で、俺はもはや定位置となりつつある木陰に、腰を下ろした。


 宝具の入った箱の蓋をしめ、ランビリスさんも隣に腰を下ろす。


「そういえば、ランビリスさんはいつから宝具店を始めたんですか?」


 この体勢になれば、もう雑談をするのが定番になってる気がする。


「そうだなぁ……色々な地を転々としていたが、全部ひっくるめると100年近いかもね」


「100年!?」


 そうだ、ランビリスさんは普通のおじさんじゃなかった。現在340歳で、還暦も既に5回以上迎えてるんだ。


「元々、宝具が好きでねぇ。終活みたいな気持ちで始めたんだ。まあ、100年も終活をすることになるとは思わなかったけど」


 そう言い笑う。


「それ、もう終活とは言わないですよ……」


「あはは、確かに。若いとは言わないが、まだまだ老いてもいないね」


「コスミマで宝具店を始めたのは、いつなんですか?」


「確か……10年くらい前じゃなかったかな。今まで訪れたどの地よりも、コスミマは住みやすいよ。だからつい長く居座っちゃってね。まあもう、コスミマから動くことはないかもね」


「どうしてですか?」


「サファイアちゃんやルビーちゃん達もいるし、それにここは商売に向いている。他の町へも、結構近くて移動しやすいからね」


 成る程。大都市の強みだろうな。


「リョクガ君には、何か好きなものとかあるのかい?」


「俺、ですか? そうですねぇ……地球にいた頃じゃあ、RPGっていうジャンルのゲームが好きでした」


「アールピージー?」


 ランビリスさんが首を傾げる。


「はい。パラミシアにはないみたいですけど、地球にあったゲームです。架空の世界を、自分の分身を操作して冒険する、みたいな」


「へぇ~、地球の技術は凄いねぇ。地球には、宝魔を持つ者や宝具はないのだろう?」


「それらは全部フィクションですね。それにパラミシアとは違って、人間が世界のトップみたいな感じです」


「ふぅむ……何とも不思議な世界だなぁ。地球というものは」


「俺からすれば、不思議でしょうがないのはパラミシアの方ですけどね」


 そう言って苦笑し


「でも今は、こうやって宝魔の練習したり、イアに稽古つけてもらったり、パラミシアのことを知ったりすることが、一番好きなことです。だから毎日が楽しいです☆」


「──そうか。なんだかそう言ってもらえると、私まで嬉しくなるな」


「ランビリスさんと、こうしてお話するのも楽しいですから! 本当に優しすぎて、こんな父親が欲しかったなぁって……」


「ん? リョクガ君の父親さんは?」


「……正直言って、かなりクズです。仕事は真面目にしてるみたいですけど、夜は家にも帰らず遊び呆けてますし。休日にどっかへ連れてってもらった記憶もありません。ランビリスさんと比べること自体失礼かも……」


「そうか。……それでも、リョクガ君にとってはたった一人の父親だ。子は親を選べないなんていうが、その親の子じゃなければ、リョクガ君は今ここにはいない。私は、リョクガ君と出会えたことを、本当に嬉しく思っているよ。だから、君のご両親にも感謝している」


「……それは、確かにそうですけど……。でも、向こうきっと、俺のことなんて何とも思っていませんよ。俺がいなくなったところで、あの人たちにとっては家が広くなった、ぐらいにしか感じません」


 ──実際「好き」の二言すら、あの人たちの口から言われたことがない。

 小学生の頃、両親に感謝の手紙を書く授業では、何も書けることがなくて俺だけ白紙のままだった。


「……親というのは、心のどこかでは必ず、子を思うものだ。自分では気付けなくてもね。だからきっと、リョクガ君がいなくなったことに、ご両親も少なからず心を痛めているよ。私は、そう思う」


「……そう、ですかねぇ」


「そうだとも」


 ランビリスさんは、そうやって俺に微笑みかけ、立ち上がる。


「さて、じゃあ浄化の練習を再開させようか」


 俺も立ち上がる。


「でもやっぱり、さっきと同じじゃ成功しませんよね……」


「そうだなぁ……怨念というのは、恨みの感情の寄せ集めだ。……だから、その恨みを浄化するためには、優しい温かな心を怨念に向けるといいかもね」


「温かな心?」


「そう。そうすれば、恨みなんていう悪感情に、支配されなくなるんじゃないかな」


 ランビリスさんが言うと、とんでもなく説得力を感じる。このお方、宝魔の力なんてなくても、怨念を浄化できちゃうのでは?


 ……優しい、温かな心、ねぇ……


 閉じていた蓋を開けると、またまた宝具がお目見えする。

 俺はそれに、さっきと同じように両手の手のひらを向けた。


 それにしてもこの神楽鈴、元はどんな要素で使う宝具だったんだ? 鈴を鳴らしたら雨が降る的な? ……想像がつかんな。


 と、そんなことはどうでもいいな。浄化浄化。


 ランビリスさんの助言に従い、今度は優しさを含んだ念を送ることにする。

 ──優しさを含んだ念ってなんだよ!?


 ……まあ、やるだけやってみるか。


「……………………」


 思いつく限りの優しい言葉を頭に思い浮かべながら、俺は念じた。

 そういうことじゃない気もしないことはないが……じゃあどうすれば!?


「──ん?」


 すると突然、宝具に少し変化が起こった。

 何かが変わったのは、感覚的に分かる。でも、それは何だ……?


 ──あっ、明るさだ! だんだんと、宝具の色合いというか、そういうのが明るくなっている気がする。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね☆


 5秒くらいで、宝具の変化は止まる。


 すると、ランビリスさんが言った。


「おお、凄いよリョクガ君!」


「?」


「成功したよ、浄化」


「──! マジかやったーー!」


 いやー流石は俺。

 つか、念じ方あれで合ってたんだな。リョーガさん本人もびっくりよ。


「まさかこんなに早くできてしまうとはね。サファイアちゃんも言っていたが、君は本当に凄いんだね」


「えっイアが?」


 あの、人を褒める時も一切表情を崩さないイアが?


「ああ、言っていたよ。リョクガ君には、才能があるって」


 マジかよ!? それを本人の前で言ってくれよぉ。

 新種のツンデレなのか? そうなのか?!

 いや、どっちかというとツンデレはルアの方? ……いやいやないか。あいつはツンデレじゃなくてツンツンだからな。ツンツンどころかトゲトゲ。


「そう言ってもらえるのは、素直に嬉しいですね。できれば本人から直接言ってもらいたかったですけど……」


「サファイアちゃんは恥ずかしがり屋な部分があるからねぇ。そうだ、リョクガ君。まだ浄化を頼みたい宝具があるんだけどいいかい?」


「まだ持ってたんすか?!」


 怨念って、そんな取りつきやすいものなのか?!


「あと10個はあった気が……」


「ええ?!」


 10?! い、1の間違いじゃなくて……?



 その後、本当に10個の宝具を持ってきたランビリスさん。

 お陰で俺は、浄化を完璧にマスターしたのだった────

最後まで読んでいただきありがとうございます。

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