表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バッドエンドを迎えた世界  作者: ぱれつと
チャプターⅠ 異世界生活スタート
22/42

20話 一方的と思われた試合

 ガクガクガクガク……

 ガクガクガクガク……


 生まれたての小鹿のように震える足を、俺は両手で掴みながら静止させようとした。しかし結果は、足の震えは止まることなく、両手を一緒に震えさせるという始末だ。


 緊張で視界が狭まって、今にも魂が抜けて倒れそう。


 ああついに……ついにこの時がきてしまった~!


 説明しよう。俺が今、どこにいるのか。それは……バトルフィールド裏の待機場だぁ!


 さっきの試合の際、最初にイアとゴリマッチョが出てきた向かい合わせの入り口。あれの内部と言えば分かりやすいかな。

 照明が少なく薄暗いため、まるで洞穴のようだ。


 俺が今そこにいるということは、つまり──もうすぐ、間違いなく一方的になるであろう戦闘が始まっちゃうのよ……!


 俺がガクガクやってた時点で、既に察してたかな?

 はは……いや~やっぱりグロスィヤへ来てしまったことを、今絶賛後悔しているところだよ。

 イアの強さを見られたのは、いい収穫だったけどさ。


 もうね、ここまできたら、気合いだのなんだの言ってられねーんだわ。そんなことで気持ちを落ち着かせられないんだよ。分かる?


 どれだけ気合いを入れてここまで来ても、来てしまえば、そんなもの全部吹っ飛ぶんですよ。残るのは、心の奥底に無理矢理押し込んでいた恐怖だけ。

 気合いで恐怖を押し殺しても、結局その気合いがどっか行ってしまえば、まったく意味ないのさ。


 映画とかで見る、恋人を守るために、拳銃持った奴の前に出ていく主人公とかって、思っている以上にめっちゃ凄いんだな。恐怖を感じないわけがないだろ。

 しかもあれ、俺は死ぬ心配は多分ないが、映画の主人公は死ぬかもしれないからね。それなのに堂々として、かっこよく皆を守る。

 俺もそんな男になりたかった人生だよ……


 一応、ダメ元で恐怖を和らげるために気合いを入れようと、俺は自分の頬を思いっきりサンドするように、両手で叩いた。

 しかしダメ元だったため、やはり恐怖は一切和らぐことなく、ただ自分の頬を赤く染めるだけの結果になった。痛い……


 我ながら、頬を叩くなんて馬鹿なことしたなぁと思った。流石に古典的過ぎる。


 待機場にいるのは、選手である俺だけだから、人目を気にする必要はない。注目されない、それだけは救いだった。


 少なからず人がいた方が、こういう時は恐怖を(まぎ)らわせるって思う人も多いだろうが、俺は恐怖で全身がガクガクの時も、一人でいることを望む。それが例え、地球滅亡の日であっても。

 だから、ずっと家で独りだったことも、今思えばそれは本望だったのかもしれない。


 まぁ今は、イアやルア、ランビリスさんと一緒にいた方が楽しいって思える自分がいるけど。


 ああ~でも、そんなこと言ってもやっぱり怖い怖い怖~い!


 こ、こういう時はそうだ。手のひらに人って字を書いて3回飲み込むんだ。

 あ~字を書く指先が震えて人がぶれる~!


 と、そんな我ながらアホなことをしていると


『カーーンカーーン』


 ゴルグの音だ。どっちかというと、お坊さんが使う伏鉦(ふせがね)の音の方が近いかもしれない。


 ひぃ~~!? はーじーまっっちゃうー!!


 そうだ! そんな流暢に音の分析をしている場合じゃなかった!

 ゴルグが鳴ったってことは、もうバトルフィールドに出ないといけないんじゃん! 地獄に行かないといけないんじゃん!


 嫌~~!!


「お客様」


「?!」


 誰かに肩を叩かれる。

 驚きで振り返ると、そこには審判員の人と同じ服を着た、一人の女性がが立っていた。

 肌が白く綺麗な人だが、表情は感情の読み取れない、無表情だ。


「ゴルグが鳴りましたので、バトルフィールドの方へ」


「は、はははい!」


 震え声&裏声になりながらも、なんとか返事を返す。臆病者とでも思われたかも……間違いじゃないけど……


 あぁ……もう、後戻りはできないのね……

 行くしかないなのね……


 俺はバトルフィールドへと続く入り口へ、視線と体を向けた。

 このままここで立ち往生していたかったのだが、後ろにはまだあの女性が立っており、こちらを見ている。

 鋭いその目は、早く行けと言っているように思えてならない。


 ──はあぁ……


 大きくため息をついた。

 もう観念した気持ちと、恐怖を体の外へ出そうとした、二つの意味がある。


 俺は顔を上げた。


 ──そうだ、こんなところで怯えてどうする。

 初日に思い知っただろう。この世界にはドラゴンとか、人間を簡単に殺してしまうような生物がうじゃうじゃいることを。

 そんな世界で生き延びるために、俺はイアに剣術や体術を習っているのだ。

 世界を救うためとか、そういうかっこいい理由じゃないのが残念なんだけど。


 ここでガクガク言ってるようじゃあ、次またドラゴンと対峙したときに、ガタガタ言って殺されるだけだぞ。そうだ、頑張れ緑牙! お前なら恐らくいける多分!


 よし、また足がすくむ前に。


 俺は近くに立て掛けていた木刀を、手に取った。今は体術よりも、剣術の方が技術が上だからだ。

 そもそも、あの筋肉マッチョに、ひょろひょろの俺がパンチを噛ましたところで、びくともしないだろう。木刀じゃなければ、俺は逃げることしかできない。

 対戦相手が誰かは知らないが、俺よりもガタイのいい人であることは確実だからな。


 また恐怖が戻ってきそうだったため、もうこれ以上は何も考えないことにした。


 右足を前に出す。左足を前に出した。

 一歩一歩が確実に、光が当たるバトルフィールドへと近づいている。



 そして────



 光の眩しさに、思わず目を細めた。


 俺は、注目ガンガンの、バトルフィールドに立ったのだ。


 おおお! よくやった偉いよ俺! ついに勇気を出したんだな! お前はもう、10秒前のガクガク言ってたお前じゃないよ!


 とりあえず、自分をめちゃくちゃ褒めた。


 よし、第一関門突破!


 既に勝ったような喜びようである。


 ──しかし、前にいる対戦相手を目にした瞬間、俺は自分の血の気が、凄い勢いで引くのを感じた。


 相手は厳つい男だ。

 それは確かに覚悟していたし、想像もしていた。イアが戦ったゴリマッチョと比べれば、筋肉量も少ない。背丈もまぁ、常識の範囲内。


 それなのに──


 なぜここまで血の気が引くのか、俺自身にもよく分からない。

 実際にこれからこいつと戦うことを考えて、無意識に体が怯えているのだろうか。

 それとも、この男から見かけだけでは分からない何かを感じたのか。


 どちらにせよ──


 同じレベルの相手を選んでくれるって言ってたよね?!

 これどう考えても同レベルじゃないよ!!


 心のどこかで、俺と同じような体格の奴が出てきてくれるんじゃねと、淡い期待を持ってた俺が馬鹿だったわ!


 ボコボコにやられる覚悟はできてるけど、やっぱり痛いのは嫌いなの!


 い・や・な・の!!


 俺は待機場へ向かう前、別れ際にイアから言われた言葉を思い出した。


「いい? 最初にも言ったけど、勝たなくてもいいわ。けれどせめて、1度は相手にその木刀を当てなさい。木刀の端が、相手の指先に一瞬当たる程度でもいいわ。兎に角、相手に攻撃を当てようとするの。そうしたら、いつでも降参していいから」


 イア曰く、たったそれだけでもいい特訓になるらしい。屈強な相手に立ち向かうことが大切なんだって。


 んまぁ確かに、そうだな。自分からこの目の前にいる男に突進するだけで、勇気という名の経験値はかなり得られそう。


 あと人間、死を悟った瞬間には凄まじい力を発揮できることも、イアのスパルタ稽古で身に染みてるからな。


 ──ん? 

 イアの稽古で散々ボコボコにされてる俺が、今更こんな大男にボコボコにされるなんて、怯える程のことでもなくね?


 ……ふっはは、そうだ……そうだ!

 俺にはこの戦い以上に、過酷な稽古を積んだ経験がある! それに比べたら、こんなの余裕じゃまいか!


 なんだかんだで、恐怖心は若干収まった。


 俺がここまでスパルタと豪語するイアの稽古の詳細は、まぁ……ご想像にお任せするよ。俺の口からは、とてもじゃないが……言えない……


「両者、位置につけ。──これより、戦闘を開始する」


 そこへ、審判員の声が聞こえた。

 始まるのか──


 俺は木刀を持つ右手に、ぎゅっと力を入れる。

 相手は手ぶらだ。つまり、拳。


 真っ直ぐと前を見た。すると、相手と目が合う。……めっちゃ睨まれてるよ──!

 怖くて目を背けたい気持ちを、必死で抑えた。ここで逃げたら、本当にただボコボコにやられるだけになる気がするから。


「フィスト/ソード。レディー……ファイト!」


 戦闘が、始まった────


「のわっっとぉ!?」


 始まった瞬間、俺はなぜか、反射的に体を右へ捻って移動していた。

 ちらりと左方向を見ると、そこにはさっきまで俺の左胴体(?)があった場所、そこに、相手の太い右腕が一直線に伸ばされていた。


 瞬間、察する。


 無意識に、反射的にだったが……この俺が攻撃を避けられたあ?!

 

 えっ、今俺の左側に相手の拳があるってことは、そういうことだよね?

 …………マジで……?


 相手も、まさか俺がこの不意打ちを避けられるとは、思っていなかったのだろう。少し目を見開いて、驚いているように感じる。

 でも──一番驚いてるのは本人である俺だから!


 まさかまさか──俺の危機を察知する第6感ってやつが、イアの稽古で極限まで成長していたのか──!?


 ってうわっとい!?


 そんなことを考えていると、次は相手の左回し蹴りがきた。

 これも俺は、超奇跡的なバックステップで避ける。


 そしてそこから連続でくる、俺の頭を狙った相手の右パンチ。

 これも咄嗟にしゃがんでお陰で避けられた。頭の上に風を感じましたぁ! 怖い!


 そんで次は、しゃがんだ俺を狙って、上から鈍器の如く相手の拳が振り下ろされて来る。

 これは流石に駄目か! と思ったが、咄嗟の判断で木刀の先を地面に立て、それを軸にして右側に体を移動させた。

 相手の拳は、またまた空中で空振る。


 神ってる──! 今の俺神ってるよ!!

 まさか4連続で相手の攻撃を(かわ)せるとは……火事場の馬鹿力とは、正しくこのことだな!


 ────さて……


 一旦だが、相手からの攻撃が止んだ。


 今のうちに俺から仕掛けるか? ……いや、攻撃が止んでいるからこそ、今相手の警戒心は強い。木刀を突きつけたところで、簡単に避けられ、逆に相手の攻撃を食らうのがオチだろう。


 そう考えると、相手が攻撃を仕掛けてきた時がチャンス?

 さっきまで、何も考えずに攻撃避けてたけど、実は俺はチャンスを無駄にしていた? ……いやいや、確かに攻撃を空振った瞬間は、隙が生まれ攻撃のチャンスになるが、その隙をついて攻撃を入れるなど、攻撃を避けるのに精一杯な俺にそんな余裕はない!


 じゃあ結局、俺はどうやって攻撃を入れたらいいんだ……? このままじゃ降参ができないんだが……


 …………しかもなぜだか、相手の機嫌も悪いっぽいし……。もう殺気ムンムンよ? ちょっとこれ、一発でも攻撃諸に受けたら、三途の川が見えちゃいそうな雰囲気あるんだけど……


 俺みたいな弱い奴に、一発も攻撃が当たらなくてイラついてるのか?

 安心してくだせぇよ、それは紛れだから! おたくがちょっと本気出せば、俺なんて簡単に吹っ飛びますから!

 だからそんな怖い顔で睨み付けないで~!!


 あ~も~、ほんとこれどうしよ……


 戦況に動きがないまま、多分10秒くらいが経過した──とその時、相手の男が動いた。


 丸太のような腕をゆらりゆらりと動かし、右足左足を順に前に出して、なんとこちらへ近づいてきたのだ!


 戦況が動いてくれたのはありがたいけど、なんか凄い嫌な予感がする……

 俺は、背筋に悪寒を感じた。グロスィヤは熱気ムンムンで、(むし)ろ暑いくらいなのに……


 俺は後退りそうになる足を必死で抑え、相手の動きをよ~く見る。ワンチャンまた攻撃を避けられるかもしんないし!


 残り2m程の距離にまで近づいて、相手が足を止めた──のも束の間!


 相手の超高速ストレート右パンチが、俺の首もと辺りめがけて飛んできた!


 あっ────


 避けられないことを瞬時に悟った俺は、右手に持っている木刀を、相手に刃先を向けるように持ちかえ、飛んでくる拳を、左腕が上になるように胸の少し上辺りで両手をクロスして防御態勢をとった(この間、僅か0.5秒)


 相手の、まるで砲弾のようなスピードをしたパンチは、俺のクロスした腕に思いっきりヒットした!

 その衝撃で、俺の体が2、3mくらい少し(?)吹っ飛ぶ。一瞬一緒に意識も吹っ飛んだ気がしたが、俺は態勢を整えなんとか両足で華麗な着地を遂げた。


 ────いっった! 痛い!


 なにこれめっちゃジンジンなってんですけど?! 痛すぎて、クロスした腕を動かせない。

 骨は折れてないっぽいけど、確実に腫れるよこれ!


 つか人間のパンチって、あんな威力出せるものなの?! えっおたく人間ですよね? 世界一のプロボクサーもびっくりの威力してたよ?!


 俺が着地できたのもこれ奇跡だからね! これだけ奇跡が立て続けに起こって、もう逆に俺怖いよ!?

 俺の今年の運気、全部使いきっちゃったんじゃないのこれ!? こんなことで使いきりたくなかったんですけど!


 俺が、相手の人知を超えたパンチの威力に恐怖を感じていた時、観衆からは「おおーー!」というどよめき声が走った。


 ……えっ何? 相手何か凄いことしたの? 俺なんにも気付けてないけど、まさか今の攻撃はフェイクで、後から時間差で別のがくるタイプのとかじゃないよね?

 それだったら俺、今度こそ終わるんですけど……


 ちなみに、今俺が実践したこの防御テクは、イアから稽古で伝授された技術だ。


 武器を持たない方の腕を前にしてクロスするのがコツで、武器を持った方を上にして防御すると、相手の攻撃を上の腕が諸に受けるから、衝撃や痛みで武器を手放してしまう可能性がある。だから武器を持たない方の腕を上にして、そっちで攻撃の威力を吸収する。

 武器を手放してしまうのは、バトルでは致命的だからな。


 刃先を相手へ向けるのは、こっちが攻撃を受けても、相手にも少しダメージを与えるため。

相手も攻撃のためにこちらへ突っ込んでくるため、刃先は確実に相手を(かす)めることができる。ただではやられない、というわけだ。

 相手が用心深ければ、攻撃を引っ込める可能性もある。刃先に猛毒でも塗られていたら、(かす)っただけでも終わりだからな。


 まぁ今回は木刀だから、怪我もしないため相手は迷うことなくそこまま突っ込んで、拳を向けてきたが、ふっふっふ……それは俺の企みどおりだ!


 俺は今回、勝つためにここにいるんじゃない。本気の実践を経験し、技術力をあげるため。

 俺としては──相手に攻撃を一発当てて、1秒でも早く降参するため!


 さっきの防御&攻撃(?)で、もう木刀の先は相手に当てたため、今すぐ降参してもいいんだが──

 戦闘が始まって、まだ1分も経過していないんだよなぁ……

 にも関わらず降参するのは、なんか臆病者みたいで嫌だ……! そんなプライドが、俺の心を邪魔するんだよ~!

 俺の体感じゃあ、既に10分くらいは経過した気がするんだけど……


 前を見ると、相手は拳から湯気を上げ、またこちらを睨み付けていた。拳から湯気なんて、漫画とアニメでしか見たことないよ。

 すぐさま追撃がこなかったのは助かった……


 でもどうしよ……もう捨て身覚悟で、相手の懐まで木刀向けて突進してみる? いやいや無理! 死ににいくようなもの!




 その後、結局また相手からの攻撃を、維持と生への執念で奇跡的に(かわ)し続けるだけとなり、俺の体力は精神的な面も関係して、限界を迎えた。


 そして結局、1分20秒であっさり降参したのだった────

叫んでばかりですみません(´;ω;`)


ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

よろしければブックマーク、評価をしていただければ、とてもとても励みになります。


まだまだ未熟者ですが、次話も読んでくだされば嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ