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バッドエンドを迎えた世界  作者: ぱれつと
チャプターⅠ 異世界生活スタート
21/42

19話 実力派兄弟からのお誘い

 戦闘の終わった5分後、俺とルアは、グロスィヤ内にある3軒の飲食店が並ぶフードコート的な場所の椅子に座り、受付カウンターから賞金を受け取ったイアと合流した。


 フードコートの席はお昼時ということもあり、ほぼ満席だ。

 アニメとかで見たことのある木樽ジョッキで、昼にも関わらず酒を飲む奴らが結構な人数、目に入る。

 そんなわけで、辺りの空気が酒臭い……まるで宴会場だ。


 そんなてんやわんやな空間なため、先程ゴリマッチョをぶっ飛ばした張本人であるイアがいても、あまり注目はされない。

 注目の視線から解放され、ようやく訪れた、心休まる時間だ。


 合流したイアは、毎度ながらルアの隣に座った。俺から見れば、並んで座る双子が正面にいる感じ。ちなみに俺の両隣には誰もおらず、当然ながら一人と。


 目の前に座ったイアを見るに、あの戦いで怪我を負った様子はまったくないようだな。


「お疲れ様でした」


「お疲れ様。凄いなイア! あんなでかぶつを蹴り一つで吹っ飛ばすなんて!」


 いきなりだが、俺は興奮気味に、イアへ先程の戦闘に対する感想を述べた。


 俺の勢いに引き気味になりながらも、イアは薄く笑みを浮かべ


「ありがと」


 と、口にした。


 なんとなく、初めて出会った頃よりも、イアの性格が丸くなった気がする。


「だけど、そこまで凄いことでもないわよ。相手が弱かっただけ。リョーガだって木刀を使えば、勝率50%くらいあったんじゃないかしら」


「マジで?! 俺でも勝てるの?! だけど勝率、めっちゃ微妙だな……」


「リョーガで50%もあるとは、あの煽りクズ、相当な雑魚ですね」


 ルアのやつ、俺のゴリマッチョ呼びよりも悪意ある呼び方してるな。

 あ、ルアの俺の扱いに関しては今回突っ込まんぞ。事実だから。


「そうね、あれは見かけ倒しよ。大男総身に知恵が回りかね」


「にしてもイア、素手であんな強かったんだな。武器使ってるところしか見たことなかったから、てっきり木刀を使うもんかと思ってびっくりした」


 まさかの蹴り一撃だもんな。


「そういえば確かに、リョーガの前ではいつも武器を使ってたわね」


 思い出すように、イアが手を顎に当て、少し上の宙を見る。


「というかその台詞、あの傲慢野郎からも同じこと言われたわ」


 なぬ!? ()()と同じこと言ったって、なんか嫌だ……


「なんと答えたんですか?」


「拳で向かってくる相手には、拳で答えるのが礼儀でしょ、って」


「なにそれかっけ~~」


「礼儀だから、素手で?」


「まぁそれは建前だけどね。単純に、木刀を使う程の相手でもないって思ったから。それに、仮に木刀を使って勝ってたら、武器を使ったからたまたま勝てたんだって、言いがかりをつけられそうじゃない」


「成る程、同感ですね」


「確かに確かに。そういえば、あのヘンテコ集団4人は結局どこ行ったんだ?」


 辺りを軽く見回してみるが、あの特徴的なゴリマッチョとモヒカン、鼻ピアス、出っ歯の姿は見当たらなかった。

 視界に入るのは変わらず、酒を飲みまくる大男たちだけ。関係ないが、美味しそうな焼き鳥の香ばしい匂いが、俺の鼻腔(びこう)(くすぐ)る。


「ああ、あいつらなら、ぶっ倒れた傲慢野郎を子分たちが担いで、そのまま大慌てでグロスィヤから出ていったわよ。私はそれを横目で見ていただけだったけど、なかなか滑稽な光景だったわね」


「それは是非とも、僕も見たかったです」


「イアさんルアさん、性格悪くなってますよ」


「リョーガがそれを言うかしら」


「どういう意味じゃこら」


 ヘンテコ集団の末路も分かり、そんな楽しい(?)会話をしていると、そこへ──


「ねえねえそこの水色髪のお嬢ちゃん。もしかして、さっきそこのバトルフィールドでウェンドをぶっ飛ばした子かい?」


 男の声は、俺の後方から聞こえてきた。


 それは、明らかにイアへ向けて発せられたものだ。俺は右に首を捻り、後ろを振り返った。


 そこにいたのは、なんかチャラい感じの若い茶髪男二人。アクセサリーをジャラジャラに身に付けている。天井から注ぐ蛍光灯みたいなやつの光を、アクセサリーが反射していて眩しい。


 ──誰?


「ウェンドって、あの傲慢野郎のこと?」


 イアが答えた。


「あはは! 傲慢野郎ね。そうそうそいつのこと。君がウェンドを倒したお嬢ちゃんだよね?」


「ええ、そうだけど」


 イアは明らかに警戒心をピリつかせながら、男たちに鋭い視線を送る。


「まあまあそう怖い顔しないで。可愛い顔がもったいないよ?」


 出た、俺が一生言えないであろうチャラい言葉No.3!

 俺なら、言った瞬間に恥ずかしくなって、赤面しながら猛ダッシュで逃げるね! 確実に!


「で、要件は何?」


 更に冷たく突き放すように、イアは話を本題に移そうとする。


「急かすねぇ」


 そう言い、男は苦笑いを浮かべると、こう言った。


「──お嬢ちゃん、俺たちのギルドパーティーに入らない?」


 ギルドパーティー? ……ああ、ギルドのクエストを協力してクリアするために組む、チームみたいなやつかな。RPGの十八番。


「ごめんなさい。悪いけど、私はパーティーを組まないの」


 この誘いを、イアは速攻で断った。考える間もなく、まさしく秒。最初から、答えは決まっていたようだ。


 この即決に返事に、男二人は分かりやすく驚きの表情を見せた。

 まさかこんなに一瞬で断られるとは、思ってもみなかったのだろう。


「お、お嬢ちゃん、本気で言ってるのかい? もしかして、俺たちが誰か知らない?」


 ? どいうことだ?

 俺は部外者だが、話にまったくついていけない。


「一応、噂でだけなら知ってるわよ。ギルドランク・マスターの、実力派兄弟コンビって。確か今月だけで、クリアした討伐クエスト数は、ギルド1の14件だったかしら」


 そのイアの言葉に、俺は目を見開いた。


 えっこの人ら、そんなに凄い人だったの?!

 ……失礼だが、このチャラい態度のせいでなんか、全然実力者に見えない。


「おお、知ってくれてるじゃん。そうそう実力派兄弟ゲンとベンとは、この俺たちのことだ。ちなみにお兄さんと、桃髪のお嬢ちゃんは、俺たちのこと知ってるかな?」


 完全に油断してたところで、俺にも話題が振られる。


 待って待て待て、こういう質問、俺一番苦手なんだよ!

 どうする? 正直に知らないと答えるか、それとも相手の機嫌を考えて、知ってると嘘をつくか──あ~でも俺、嘘つくのめっちゃ下手なんだよなあ!


 俺の脳内では、一瞬にして緊急会議が開かれた。

 そんな内心大慌ての俺をよそに、ルアはさっと答える。


「その通り名だけは、僕も聞いたことがあります。そしてその実力が、本物だということも」


 ──俺も緊急会議を終え、実力派兄弟に答えた。


「悪い、俺ギルドはあんまり利用しないから、そっち方面の情報に弱いんだ。だけど二人がそんなに凄い人だったなんて、会えて光栄だよ」


 俺は正直に答えることにした。

 ギルドはこれから活用していく予定だが、今のところ利用した回数はたった1回だからな。この返答は嘘じゃない。

 俺の脳内緊急会議で出た決議、これは完璧だな!


 返答一つでここまで神経使う人、俺以外あんまりいないんじゃないか?


「そうか。まぁ、なら今回知ってもらえてよかったよ。ありがとな。それでお嬢ちゃん、サファイアだったかな。サファイアは俺らの実力を知っていて、本当にパーティーを組む気はないのか?」


 やはりどうしても信じられないのか、ゲンかベンのどっちかが、しつこくイアに問う。


「そうだぜ、俺らみたいな実力者からスカウトされるなんて、もう一生こないかもしれないんだぞ。今ここで俺らのパーティーに入ってくれれば、君だって有名人、しかもすぐにマスターランクになれるかもしれない」


 ……この二人、ゴリマッチョとはまた違った傲慢さがあるな。

 でも恐らく、ゴリマッチョとは違い、ゲンとベンは自分たちでこう言える程、本当に実力があるのだろう。本当のことだから、誰も反論できないみたいな。


「ええ、私は有名になるとか、そういうのに興味はないのよ。それに、お誘いは嬉しいけど、私は自分のやり方でクエストを遂行したいの。人と戦い方を合わせるのは苦手でね」


 それでもやはり、イアの答えは変わらなかった。

 有名になることに興味はないか、か。イアらしいな。人と戦い方を合わせるのが苦手って部分も。


「……そっか。──分かった。しつこく聞いて悪かったな。小さなお嬢ちゃんが、あのゴリラのようなウェンドを一瞬で倒したちゃったから、どうしても仲間として戦いたいって思って。でも、一瞬で振られちゃったな」


 そう言い、無邪気な笑顔を見せた。

 その笑顔から、今の言葉がすべて本当のことなんだろうなって分かる。ヘンテコ集団と違って、悪い人じゃないってことも。

 ──やっぱり人間、実際に話してみないと分からないもんだな。


「振られちゃったのは残念だが、いつか機会があったら一度くらい、一緒に討伐クエスト受けようぜ。サファイア、君は強い。敵として戦うのは勘弁な」


「ええ、機会があったらね。それと、あなた達程の実力者なら、私よりも強い人をパーティーに誘うことだってできるわよ。強いと言ってくれたことは嬉しいけど……私はあなた達が思う程、強くないから」


「……分かった。それじゃあな、団欒の時間を邪魔して悪かった。そうだ、お兄さんと桃髪のお嬢ちゃんの名前は?」


「俺はリョクガ」


「──僕はルビーです」


「リョクガにルビーか。いい名前だな!」


「それじゃ、アディオス」


 そうちょっとカッコつけながら、ゲンとベンの実力派兄弟コンビは、俺たちに背を向け立ち去っていった。


 その背中を見送ってから、俺は視線をイア達に戻す。


「……まるで竜巻のような人たちでしたね」


 ルアがため息混じりに言う。

 急に現れ、すぐにいなくなったと言いたいのだろう。


「だな。でも、悪い奴らには見えなかった。あのヘンテコ集団と出会った後だから尚更」


「そうね。ちょっと傲慢だったけど、嫌味な感じはあまりしなかったわ」


「にしても、マスターランクのパーティーに誘われるなんて、イア凄いな」


「さあ、どうかしらね」


「始めは、また面倒なのに絡まれたかと思いましたよ。……こっちもある意味面倒でしたが」


「分かるよそれ! あのチャラい感じが、どうしても怪しい感じに見えてきて」


「まっ、こうも立て続けに声をかけられることも、普通滅多にないわよ。今回は運がなかっただけ」


「リョーガが一緒のせいですね」


「人を疫病神のように言うな!」


 と、その時


『グーーーー』


 お腹の鳴る音。犯人は──俺です……


「あ~腹減ったーー! なんか食べようぜぇ」


「気の抜ける、間抜けな音でしたね……。空気感ぶち壊しです」


「なんか悪かったなぁ。でも空腹には勝てないんだよぉ」


 空腹を自覚したら、余計に腹が減ってきた。お腹と背中がくっつきそう。


「いきなりね……じゃ、丁度お昼だし何か食べましょうか。私が全員分買ってくるけど、二人は何がいい?」


「俺焼き鳥~!」


 もうさっきから、焼き鳥の香ばしい匂いが運ばれてきて、口が焼き鳥を求めてる!

 この匂いは反則だってぇ。


「ルビーは?」


「僕も焼き鳥を2本」


「俺は3本!」


「了解。リョーガ、ひもじいからって、他人の料理は取らないようにね。ルビー、見張っておいて」


「分かりました」


「ちょーい! 俺そこまで落ちてないから! 空腹でも、犯罪に手は染めないから!」


「冗談冗談。じゃっ待っててちょうだい」


 イアは立ち上がり、人混みの中へと姿を消した。


 俺は空腹に堪え兼ね、机に突っ伏す。


 あ~、早く焼き鳥を食べたいぃ! 精神的な疲労のせいで、もうお腹ペコペコよ。


 あっでも……これ、お昼食べ終わったら、俺本当にランダムマッチで戦闘しないといけないのか。


 えぇ、なら焼き鳥もう少し待ってもいいかも……

 う~でもやっぱ、口が焼き鳥を早く早くと待ち望んでいる!

 あ~でもまだボコボコにやられたくないし~!


 そんな複雑な心境になりながらも、俺は焼き鳥を持って戻ってくるイアを、なんだかんだ待つのだった────

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます!

お手数でなければブックマーク、評価をしていただけると、とてもとても励みになります。

どうか、暇潰し程度に全話読んでいただければ嬉しいです。

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