17話 ヘンテコ集団とタイマン!?
今回は、リョーガのチキンな心の本音とツッコミが輝きます☆
誤字・脱字があれば指摘をお願いします。
これは、グロスィヤに到着してすぐの出来事────
カウンター上の壁掛け時計を見ると、時刻は午前10時2分。過去の俺なら、未だ余裕で爆睡中だった時間だ。
そんなだった俺も、今では早起きなんて何のその! 成長したよ俺。
そしてそしてやって来た、闘技場グロスィヤ。
中は、まぁ……予想どおりですよ、ええ。
ゴリラか熊かよ! って程屈強な男どもしかいない。女性もちらほらいるっちゃいるが、その立ち振舞いには一切の隙がなく、俺なんかは近づいただけでぶっ飛ばされそう……
というか感染症はどうした感染症は。こんな人が密集してたら、絶対クラスター起こるじゃん。
あれか? 俺は誰よりも強靭な肉体をしてるから、感染症なんて俺の肉体が跳ね返すぜ! みたいな自意識過剰な連中の集まりなのかここは?! それと同種ってなんか嫌だ!
あぁ……やっぱり帰りたい……
こういう場所もこういう連中もこういう環境も、全部嫌いだよぉ……
やはり心の中に、本音では後悔している気持ちがあることを、どうしても否めない。
思い返せば、平和主義の俺って、暴力系の映画すら見たことないよな。見ようとしたことすらない。
なんというか、そういうのとは絶対に交われない人種なんだよ。そんな俺が、まさかこんな場所に来る日がくるとは……
人生、何があるか分かりませんなぁ。ふっ……まあ、だから人の人生って面白い☆(かっこいい台詞を言っているはずなのになぜだろう、全然かっこよくない)
「──今回グロスィヤへ来たのは、実戦でリョーガの技術力の向上を目指すため。負けてもいいわ。だから、今ある全力を出しきりなさい」
イアは改めて、俺をグロスィヤへ連れてきた目的を述べた。
俺はそれに頷く。
……それが痛いほど分かってるから、嫌々ながら偉くもここまで来たんですよ。
だけど、負けてもいいから全力を出せって言われてもなぁ……俺負けること前提なのね?!
「……今のリョーガ、既に負けた人のような怪我の負いようなのですが」
横から、俺を頭から足下まで見て言うルア。
無理もない。だって俺今、頭に包帯巻いて、腕と足にはガーゼが多数、アザも結構な数あり、完全に大事故にでも巻き込まれた後の人のような風貌だもん。怪我の手当ては全部、スーパー器用なルアにしてもらった。
この怪我を作った原因は、言わずもがな、イアコーチのスパルタ稽古の仕業である。
「まあ……大丈夫でしょ」
言葉を濁す、全ての元凶。
「んな適当な。イアの稽古がスパルタ過ぎるんだよ……」
お陰で通常よりも早く、凡人が軽い戦闘をできるようになった。それは感謝してる。
だが……もう少し稽古のレベルが優しくなってくれると、ありがたい。
……まぁ俺が望んで稽古を受けさせてもらってるんだし、あんまり文句は言わないけどさ。
イアの稽古受けてると、人間その気になればなんでもできるんだなってことが分かってしまう。人間って凄い。
そして俺は、何気なく首を回し、辺りの様子を見渡してみた。何か目的があったわけじゃない。本当になんとなく。
しかしその行為は、マイナスメーターをとうに振りきっている俺の気分を、更に下げることになってしまった。
その原因は、俺たちの丁度後方から聞こえてきた、恐らく喧嘩と思われる激しい言い合い。
あっこれ、辺り見渡したことと関係ないわ。
「あん?! そっちが先にいちゃもんつけてきたんだろオルラアア!」
「は? この俺様に楯突くとは上等だ、怪我で済むと思うなよ??」
「それはこっちの台詞だボケ!」
大声でわめき散らす、大男二人組。なんなんこいつら怖?! というのが、一番に出てきた感想。
何が原因で揉めてるのか知らんが、どちらも超ブチギレのご様子で、瞬く間に本気の殴り合いが始まってしまった。
あっ……関わっちゃいかんやつだこれ。
イア達と視線だけ交え、俺たちは巻き込まれる前に、早足でその場を離れて逃げた。
あんなのに巻き込まれたら、面倒どころかこっちまでただじゃ済まなそうだしな。とばっちりはゴメンだ!
俺たち以外にも、あの二人の近くにいた人たちが同じように、ヒートアップしてきた乱闘から距離を置く。
その時、殴り合いによる波動か何かが、俺の背中に当たるのを感じた。
はあ?! どんな威力してんだよ!?
パンチで波動が出るとか、フィクションだけの話だと思ってたわぁ……
パラミシアも、ファンタジー要素の濃いいわばフィクションのような世界だけど、一応は現実なわけだし……
爺ちゃ~ん婆ちゃ~ん! 俺ここ怖いよ~!
更にヒートアップしてきた二人の喧嘩を止める人は、誰もいない。
というか皆、またか……って感じの表情してんだけど。何? これが日常茶飯事なの?
怖い! 怖すぎるグロスィヤ!
喧嘩──という言葉じゃもう片付けられない程の喧嘩をしている二人から、かなりの距離を取って俺たちは足を止める。
怒号だけはまだ聞こえてくるが、姿が目視できないくらいには離れた。
これで、あの殴り合いに巻き込まれる心配はないだろう。
危機を乗り越え、心に多少のゆとりができた俺は、イアに問うてみるとこにする。
「なあグロスィヤって、あんなことがよく起きるのか?」
するとこちらへ顔を向け、イアは淡々と答えた。
「そうね、珍しくはないわ。まぁでも、今回のあの二人じゃあ、まだ可愛いレベルの話ね」
「え??」
あの二人で可愛いレベル……だと──?
なぜだろう……今すっごい鳥肌が立った……
「あれはまだ1対1だから、そこまで激しくはなっていないけど──」
いやあれ十分激しいから。
「前回私がグロスィヤを訪れた時なんか、暴力団同士での争いにまで勃発して、最終、10対10くらいの大乱闘にまで発展していたわよ。物が飛んでくるわ、投げ飛ばされた人が飛んでくるわで、とんだ災難だったわ」
「え、えぇ……」
人って飛ぶんだ……(そこかい)
てゆうかそんな話、聞かない方がよかったかも……グロスィヤに対する恐怖が増大しただけだったわ……ガクガク……
こんな話を聞いといて、いつものペースを保ててるルアがほんと凄い!
そのルアは、イアの隣に涼しい顔で立っている。まるで、今向こうで起きている騒動など、まったく耳に入ってきていないかのようだ。
一周回って怖いっすルアさん……
「正直なところ、こんな共同スペースで争うんじゃなくて、バトルフィールドでやりなさいよって話。なんのためにグロスィヤへ来たのか」
それとともに、大きなため息をつくイア。
「た、確かに」
俺も、それに同意することにした。
俺は改めて、辺りを見渡す。
少しだが、グロスィヤの環境に慣れ始めてしまったことが、自分でも怖い。
グロスィヤ内で目につくものといえば──3軒だけ存在する飲食店(焼き鳥美味しそう)、金庫にでも続いていそうな大扉、木刀の貸し出し口、綺麗な女性の佇む手続きカウンター──これくらいだろうか。
というかカウンターにいるあの女性、全然マッチョでも厳つくもないけど、こんな物騒な場所でカウンターガールなんてしていて大丈夫なのかよ?! ──いや、大丈夫だからこんな場所で働いているのか。
そうだよな、そんなこと言ったら端からすれば、イアとルアの方が、こんな物騒な場所にいて大丈夫なの?! って言われる風貌だもんな。
つまりあの女性も、一見普通の女性っぽく見えて、実はゴリラの1頭や2頭、余裕で相手にできる程の実力者なんだ。うん、俺はそう納得するよ!
ちなみに手続きカウンターの使用用途については、道中の間にイアから聞いた。
グロスィヤには、指名マッチとランダムマッチが存在する。
指名マッチは、手続きカウンターで対戦相手を指名し、その指名した相手からも自分を指名してもらって初めて、互いにバトルができるシステム。
色々な事情も入り交じり、ランダムマッチよりもこちらの方が、使われることは多いそうだ。
そしてランダムマッチは、対戦相手がランダムに決められるシステム。
手続きカウンターで、ランダムマッチを希望します、とでも伝えれば、同じくランダムマッチを希望する人たちの中から過去の対戦記録を元に、適切な相手を決めてくれるというもの。
俺はイアから、ランダムマッチにしときなさいと言われている。
んまぁ、対戦したい相手もいないしな……イアと対戦とか、それこそボコボコされる未来しか見えないから絶対嫌だし。
俺は過去の対戦記録がないから、最弱からのスタートだ。
グロスィヤは、ギルドのようにランクがあるわけではない。が、記録があるため大方の強さはグロスィヤ側に筒抜けである。
グロスィヤの裏側とかでは、非公式に挑戦者たちのランクがつけられてるのかもな。
で、賞金について。説明はさくさくっとな。
グロスィヤでは勝つことによって、賞金を得られる。
その金は客からの掛け金とかではなく、正真正銘、グロスィヤから出される金だ。そんなことをして、グロスィヤ側になんのメリットがあるというのか? ……まぁその疑問は、今この場では置いておく。
賞金の額は、指名マッチとランダムマッチで異なり、指名マッチの方がランダムマッチよりも高額だ。指名マッチが人気なのには、そういった背景がある。
とはいっても、言うほど高額な賞金が貰えるわけじゃない。
せいぜい、最高で銀貨100枚ってとこだ。つまり10万円。いや、俺はそれでも大金だと思うけどね?
まぁ大抵は、銅貨10枚~銀貨50枚。つまり、100円~5万円ぐらいらしいけど。賞金の値段差がヤバイ。
それでも勝ちさえすれば、タダで100円貰えるんだから、強い人たちにとっては小遣い稼ぎにはもってこいなのかもな。それが、グロスィヤが人気の理由っぽい。
──んでまぁ、イアの説明を振り返ることによって、俺は現在のこの状況から目を背けようとしたんだが……無理だな。
目を背けたい現実というのは、グロスィヤに来たという現実ではない。まぁそれも背けたい現実ではあるど。
──周りからの視線だ。
やはり、俺たちみたいなのがグロスィヤへ来ることは珍しいらしく、グロスィヤへ来た時からずっと、周りの厳つい男たちから好奇の視線を浴び続けている。
俺にとってそれは、質の悪い拷問でしかない。
元々俺は、大多数に注目されることが苦手だ。学校の生徒会長とか学園祭の司会とか、そんなものは以ての外。
グロスィヤって、ボコボコにされる場なだけでなく、厳つい奴らからの注目の視線も浴びなければならない。…………地獄だ。俺の想像していた以上に、ここは地獄だった。
誰かこの気持ち分かってくれる人いるよね?!
だからまぁ、うん……早く帰りたい!
というかイアって、グロスィヤの常連なんだよね? それなら、イアのことを知ってる人もいるのでは?
そう考えると……このあり得ない程の視線の原因は、物珍しさだけのものではなく、皆イアを知っているからこそ視線なのでは? テレビの有名人は、街中歩いているだけで注目の的みたいな。
……あり得る。
と、俺がそんな考察をしている時だった。……面倒事が近づいてきたのは────
「おい見ろよ~、こんな所にちっちゃな子猫が迷い混んでるぜ~!」
「本当ですね~、マタタビにでもつられてきたのかなぁ?」
「「「「ぎゃはははは!」」」」
えっ──何こいつら……?
突然俺らの目の前に現れ、道を塞いだ集団は、全員がこちらを指差し、馬鹿にするように笑っている。
子猫って……明らか俺らに向かって言ってるよな……? いやまぁ確かに、獰猛なライオンの群れに迷い込んだ子猫状態ですけども。それは認めますけども。
その変な集団は全員で4人。ゴリマッチョ、モヒカン、鼻ピアス、出っ歯だ。例え方に悪意しか感じないって? あはは、キノセイデスヨ。
ちなみに、子猫の件がゴリマッチョ、マタタビの件がモヒカンな。
そして、今俺が瞬時に悟ったこと──
(うわ~……これ絶対面倒なのに絡まれたじゃん……)
イアとルアも、表情を見る限り俺と同じ感情のようだ。
はあぁぁぁ…………心の中だけで、俺は大きくため息をつく。本音では、実際に同じくらいのため息をつきたいが、そんなことしたら、次は目の前のヘンテコ集団になんて言われるか……だから我慢する。
もう今日は厄日だなこりゃ。
この騒動のせいで、ま~た周りからの注目の視線も増えちゃったし……
俺の両隣にいるイアとルアは、目の前に現れた奴らを思いっっきり睨みつけている。俺に対して向けられているわけじゃないのに、見た瞬間背中がぞくっとした。
それだけ圧というか、オーラが出ている。
しかし俺には、二人みたいに相手を睨みつけられる度胸はない。だから、後ろに下がって少し俯いておくことにした。
すみませんねぇ! どうせ俺は臆病者のチキンですよぉ!
それでも、ヘンテコ集団の絡みは続く。
「だいたいここはぁ、嬢ちゃん達のような華奢な子供の遊び場じゃないんだよ~分かるかな~?」
明らかな幼稚喋りに、聞いてるだけのチキンな俺も、なんかめちゃくちゃ腹が立ってきた。
直接言われている二人なんか、もっと屈辱的な気持ちなんだろうな……だって、怒りのオーラが背中越しにもビリビリ伝わってくるんだもん!
「こっちの水色髪の子は、ちょ~と鍛えてるみたいだけど、そっちの桃髪の子と後ろのお兄さんからは強さが感じられないねぇ? 男が年下の女の子に負けてやんの!」
いや俺の方が2つ年下なんですが。
……こうやって、心の中で軽く突っ込んどかないと、俺の堪忍袋の緒が持たない。
言われていることは最もだし、言い返す言葉なんてもちろんない。否定する気もない。
でも……こいつらの口調が、な~んか気に障るんだよな。なんかあるじゃん? 誰が聞いても苛つくような声した人。あれ!
俺なんかがこいつらに突っかかったところで、返り討ちにされることは、悲しいが明白の事実だ。だから自分を保て、緑牙!(争いを嫌う平和主義者とは?)
すると──俺と同じで、こいつらの気に食わない猫なで声に限界が達したのか──ルアが、はっきりとした口調で、ヘンテコ集団に言ったのだ。
「邪魔なのでどいてください」
邪魔って言ったーー!?
これにはヘンテコ集団も、そして俺も、驚きに目を見張る。
ルアさんルアさん、あなた怖いもの知らず過ぎませんかね?
逆にこっちが怖くなるよ!
イアや俺ではなく、ルアの方が強気の発言をしたことに驚きを隠せないのか、相手はすぐには反論を口にしてこなかった、意外と動揺するヘンテコ集団。しかし、その反動は大きかった。
「ああんピンク嬢ちゃん? 弱っちーくせにな~にが邪魔だどけだ。それは強者である俺様たちのセリフだろ? そこ、突っ立ってんの邪魔だ、どけ」
ムカッ……
ああーもおーこいつらあー! 人を苛立たせる天才かよ!? 心が宇宙のように広いと定評のある(ありません)俺も、もーー堪忍袋の緒が切れた! 一言反論しねーと気が済まねえー!
「弱いとか強いとか関係ないだろ。どくだけでいいんだから──」
「あん? 雑魚の兄ちゃんは黙ってろ」
「はいすみません!」
弱っ! 俺弱っ! 自分で言うのもなんだけど──弱!
相手の殺気に、一瞬で負けたよこの男!
これにはイアとルアだけでなく、ヘンテコ集団の奴らにも呆れ顔をされた。
はっはは……ま、まさか、敵にもこんな顔をされるとは……
「はっ! やっぱり、弱者程口が達者なんだな~♪」
「「「「ぎゃはははは!」」」」
またまた大声で、相手を馬鹿にする笑声を出すヘンテコ集団。
周りからの冷ややかな視線など、こいつらには痛くも痒くもないんだろうな。イアとルアの恐ろしい視線にも、怯まなかったわけだ。
俺だったら、この視線だけで死ねるね。
そしてすみませんねぇ! 口もあんまり達者じゃない雑魚でぇ! えぇ、えぇ、知ってますとも、自覚してますとも!
「────さっきから黙って聞いていれば……」
その時突如、ものすっごい怒気を含んだ声が、すぐ前から聞こえた。俺は驚き、咄嗟に声の主を見る。
それは──イアだ。
「あんた達は、人を馬鹿にするのが余程好きなようね。リョーガはいいとして──」
「いやよくないからね?!」
思わず口から出たツッコミ。
俺の扱いよ……
しかし、それは毎度ながら無視され
「ルビーを馬鹿にすることは許さないわ」
イアは前を真っ直ぐに見据え、ヘンテコ集団に指を突きつける。
俺は後ろから見てるため、イアが今どんな表情をしているのかは分からないが。けれど、相手を睨み付けるイアの表情が、俺の頭の中で容易に想像できた。
こんな明らかに強そうな相手に怯まないこの双子、改めて思うがほんと凄い。
そしてこの言葉で、やっぱりイアは、ルアのお姉ちゃんなんだなって思った。まぁ双子だから、上下とかあまり関係ないかもだけど。
イアの背中を見ていた視線を前へ向けると、イアのこの言葉を聞いたヘンテコ集団の多分お頭であろう奴、ゴリマッチョの男が、明らかに苛立ちを覚えた様子で、貧乏揺すりをしていた。
イアが自分たちに対して言い返してきたことが、それほど気に食わないのだろうか?
一方、周りから注がれる好奇の目は、なぜか時間が経てば経つほど増えるばかり。そろそろ俺のメンタルが壊れそうだ……
「おうおう嬢ちゃん、随分と生意気な口を利いてくれるな? あん?」
ポケットに手を突っ込んで、がに股歩きでイアの方へと近づいてくる、グラサンにタンクトップを着たゴリマッチョ。
いやもうこんな在り来りなtheヤンキーな振る舞いする奴が、このご時世まだいるんだな。あっ、ここはパラミシアだからご時世とかそういうの関係ないか。
そしてやはり、ゴリマッチョはご立腹のようで。
口調が、まるで昭和にいた借金取りのそれだ。平成生まれな俺の、勝手な想像だけどね。
──んえ? 俺の内心が、いつもどおりで落ち着き過ぎだって? ──いいか? こういう状況の時、人間はできるだけいつもどおりの平常を保つべきなんだ。じゃないと俺は、恐怖でこの場から全力ダッシュして逃げ出しそうだからな!
そして話を戻し──ゴリマッチョはイアへ向かって更に言う。
その口からは、なんとなく想像はできていたが……でもやはり驚かざるを得ない、一つの提案が出された。
「嬢ちゃん、俺とタイマンやれ。俺たちに対して舐めた口利いた罰だ。まっ、今から土下座して謝れば、寛大な俺はまだ許してやるがな?」
「兄貴優し~!」
「流石の心の広さ! よっパラミシア一番!」
子分たちに煽てられ気分がいいのか、ゴリマッチョは腰に手を当て豪快に笑う。
いやていうかはあ?! タイマン?!
こんな華奢で小さなイアと、このゴリラか人間か分からないような見た目の体格したゴリマッチョが? 一方的にも程があるだろ!
俺は心配になり、イアとルアを交互に見た。
しかし後ろから見た限りでは、二人に恐怖とか恐れとか、そういった感情は一切ないように思える。
そしてイアは、俺にとっても皆にとっても、驚きとなる返答を返した──
「あんたなんかに土下座して謝るなんて、拷問もいいとこ。真っ平ごめんよ。いいわ、そのタイマン、受けて立ってあげる」
なんとイアは、相手の神経を逆に逆撫でるような少し上から目線な口調で、ゴリマッチョとのタイマンを承諾したのだ!?
これにはヘンテコ集団4人も、かなり面を食らった様子だ。さっきの威勢はどこへやら、一瞬言葉が詰まっている。
今まで静かに傍観していただけだった観衆からも、大人数のどよめき声が上がった。
ただの強がりだろ、あの子死んじゃうぞ、などという声が、こちらまで聞こえてきた。
イアの横にいるルアは、どうしてそんなに冷静でいられるんだよ! お前の姉が多分ピンチなんだぞ?!
これには流石の俺も、イアに直接物申したい。
「イアお前正気か?! 見て分かるこの体格差だぞ! いくらイアが強いにしても──」
俺の言葉の途中、こちらへ振り向いたイアは、人差し指を立て、それを僅かに笑みを浮かべながら左右に振った。
どうしてそんな表情ができんだよ……
「心配無用よ。弱者ほど口が達者って、こいつら自身も言ってるでしょ?」
余裕たっぷりな口調で、イアは俺に言う。
「いやまあ、そうだけど……でも、この人は絶対弱者じゃないって!」
何をどう思ってこのゴリラ──じゃなくゴリマッチョが、イアの目には弱者に見えるのか、3時間程掛けてじっくり説明していただきたい。
「リョーガからしてみればね。でも私からすれば、こいつも弱者に変わりないわ」
そうして今度は、先程からは打って変わり、明らか不機嫌そうな口調になる。
「今私は、可愛い妹を侮辱されてとっても気分が悪いの。こいつに一発噛ましてやらないと、気が済まないわ」
──あぁ……やっぱりお姉ちゃんだわ……
ってそうじゃない! イア、気持ちは分かるが命を溝に捨てるな!
ルアからも何か言って──
「──サファイアなら、そう言ってくれると思っていました。僕の代わりに、こいつらへ一発噛ましてやってください。よろしくお願いします」
うおーーーーい!?
なんかめちゃくちゃあっさり見送っちゃったんだけどぉ?!
「ええ、一発と言わず、もっと噛ましてやるわ」
だからなんなのその自信は!? 一体どっから出てくるの! 自信の定期預金でもしてんのか!
内心ではめちゃくちゃ叫びまくっているが、実際には俺はこれを一切口に出してはいない。
あまりにも色々驚いて、最早これを口には出す程の余裕が、俺にはないのだ。
そして驚きのあまり、少しの間存在が忘れ去られていた、ヘンテコ集団のお頭──が、イアを嘲笑いながら言った。
「ぎゃはははは! こいつ馬鹿だ! 正真正銘の馬鹿だ! この俺とタイマンして、一発以上噛ましてやるだって? 相手の力量を測ることもできねーのかよ!」
お腹を押さえ笑い転げる、ゴリマッチョとその愉快な仲間たち。
殴りたい、このむかつく笑顔……
「その言葉、そっくりそのままお返しするわ。あなたこそ、相手の力量をしっかり測れるようになりなさい。──まっ、この感じじゃ一生無理だろうけど」
イアも負けず劣らず、ボロクソに相手を罵る。ヤバイよ、イアがルアをに見えてきた……
一方のヘンテコ集団は、まだ笑ってる。このまま笑い過ぎで倒れてくんないかな。
──こうして、イアは体格差がありまくりなゴリマッチョと、タイマンすることになったのだった。
……ここまで言うなら、もう本当に大丈夫な気がしてきた────
今回は長くなりましたが、最後まで読んでいただき本当にありがとうございます(*^.^*)
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