12話 街の外
『クエスト:採取クエスト・長期クエスト』
『内容:魔石の採取』
『クリア条件:魔宝石を3種持ち帰る(その他の魔石も持ち帰れば、報酬追加)』
『難易度:★4』
『報酬:銀貨100枚』
それが、イアが見つけてきたクエストの内容だった。
この中で、俺が一番驚いたのはもちろん──
「銀貨100枚!?」
そう、この豪華報酬だ。しかもクリア条件の項目に、その他の魔石も持ち帰れば、報酬追加ってあるからな。銀貨100枚以上に増えるというのか?!
って……“魔石”ってなんだ?
「ここまで好条件の報酬は珍しいですね。難易度★4というのは、かなり難しいですが」
「そうねぇ。あっ難易度は★1~★5まであって、★1が一番簡単、★5が一番難しいっていう捉え方ね。あとは魔石の説明もしないとだけど──」
「洞窟についてからでいいのではないですか? これ以上立て続けに情報を詰め込んで、忘れられても面倒ですし」
「──それもそうね」
俺の周りで、勝手に話が進んでいる模様。
「じゃ、このクエストを受注してくるわ」
そう言いイアは、ギルドの中央にある円状の受付へ向かって行った。
その背中を見送り、俺は机に置かれたクエストの紙を見る。
難易度★4ってことは、少し難しいってとこだよな。魔宝石がどんなのかは知らないが、3種持ち帰るだけでここまでの難易度……場所が危険なのか、魔宝石がそれだけ貴重なのか……
いずれにしよ、銀貨100枚相当の難易度ということだ。気を引き締めておこう。
……それに今回聞いたギルドの説明、どっかで読んだような、聞いたことがあるような気がするんだよなぁ……
感覚でしか覚えてないけど、イアの説明を聞いた時に、記憶の中にある何かが刺激されたというか。う~~ん?
「何か悩んでいるようですが、どうされましたかリョーガ? 空っぽの頭を捻ったところで、何にもなりませんよ」
「空っぽ?! あ~いやそこじゃなくて……いや、大丈夫だ。こっちの問題だから」
こればかりは、ルアやイアに頼っても解決しないだろう。
「ふ~ん……そうですか。そろそろイアも戻ってくると思います。────噂をすれば」
ルアの言葉で、俺も受付の方へ視線を向けた。この疑問に対する思考は、一旦停止させる。
イアがこちらへ戻ってきているとこだった。右手で丸を作っている。
受注って、こんな早く終わるんだな。1分も経ってない気がするんだけど……
「受注完了。さっ、行くわよ」
「行くって、どこに採掘へ行くんだ?」
「“アステリ洞窟”よ。まあついてきなさい」
「今回は王道をいきますね。最早、他の人たちに採掘され尽くしていると思うのですが」
「そう思うでしょ? でも、その真相は現地に行ったら分かるわ」
「まさか、まだ魔石が残っているとでも?」
「ふふ、どうでしょうね。さ~行くわよ~」
未だ、概要が完全に飲み込めていない俺とルアを置き、イアはささっとギルド外へ行ってしまった。
全ては現地でのお楽しみ、と。
俺たちもイアの後を追い、ギルドを去った。
◇◇◇
歩くことまたまた1時間程度。
ギルドから、元いた具竜荘の方角まで戻ってきた。彼のアステリ洞窟が、こちらの方角にあるらしい。
既に見慣れた景色となったこの場所に、少し安心感がある。
そして今──俺たちの目の前には、真っ白い巨大な門が待ち構えていた。
RPGの王都とかにありそうな、ちょー立派な門だ。出入り口と思われる部分は現在、木の扉で閉ざされている。
ちなみにイアは、槍を持った門番と思われる男性と交渉中だ。
待っている間に、ルアから説明を聞く。
「ここはコスミマの西端で、出入り門です。門はコスミマの東西南北に、計4つあります。僕たちと出会った初日にも、この門からコスミマへ入りましたよ」
「えっマジで? 全然覚えてなかった……」
「記憶力大丈夫ですか? 鶏か魚といい勝負です」
「それって3秒じゃねーか!」
一応科学的には、鶏と魚も、3秒以上記憶が維持できることが証明されてるらしいけど。
あと俺、普通の人よりは記憶力いい方だからな!
「話を戻しますが、門にはそれぞれ名前があり、ここが“白虎”です。ほら、出入り口の所に、虎の銅像があるでしょう?」
「あっほんとだ」
金剛力士像の如く構えてるな。金剛力士像と違って、1つしかないのがちょっと寂しいけど。
「西端が白虎、南端が“朱雀”、東端が“青竜”、北端が“玄武”になります。細かいことを言えば──」
……あれ、これって四神じゃね? 四神は確か、中国の神話、天の四方の方角を司る霊獣だった気が……あ~そうだ、絶対それだわ!
霊獣と方角の向きもばっちり一致してるし、確か白虎が司る色もこの門と同じ、白色だったはず。
なんで中国の神話がパラミシアに?
「────聞いてますかリョーガ……」
「ふえっあ! あ、悪い、別のこと考えた……」
「……人の話はきちんと聞いててください。そんなに大したことは話してなかったので、別にいいですが」
「本当にごめん!」
「もういいですよ。話をまとめると、この4つの門からそれぞれ中央となる位置に、カメーロパルダリスがある、というだけの話です」
「カメーロ……なんちゃらってなんだっけ?」
名前が長すぎて、記憶力の良さに定評のある俺でも、流石にすぐには覚えられないんだよ。どうしてこうもややこしい名前のものが多いのかねぇ。
「まぁこれに関しては、忘れても無理はありませんか。……コスミマのシンボルマークである、時計塔の名前ですよ」
「──あ、ああーー! それだー!」
思い出した! あの時の会話がびびっと脳に駆け巡った!
あのあれだろ? 鐘が鳴る時しか姿を見られない、不吉の鐘だったよな!
「……鐘が鳴ってから、まだ何かしら不吉なことが起こったという知らせはありませんが、警戒しておいて損はないかと」
「OK。鐘が鳴ってから、すぐに不吉なことが起こるってわけじゃあないんだな」
「そうですね。どういう間隔で鳴ってるのかも、一切不明ですから」
ほんとに謎の多い時計塔なんだなぁ。
そういえば四神でいえば、中央を司るのは“麒麟”だったっけ。
カメーロパルダリス……おっ覚えられた! と、何か名前に繋がりがあったりは……『り』が共通してるだけで、なんもないな。キリンで英語表記にしても、Giraffeだし……あー分っかんねー! スマホー! 翻訳機が欲しいー!
「また何か考え込んでいるようですが、ろそろそサファイアが、こちらへ戻ってくると思いますよ」
「──お、確かに手続きが終わったっぽいな」
街の外には魔族が結構いるらしく、コスミマから出るだけでも、面倒な手続きが色々必要らしい。
こういう手続きをきちんとしておけば、仮に魔族に襲われ怪我をしても、街から治療費を出してもらえるそうだ。日本でいうところの保険だな。
というか、街から外ってそんな危険なのか……大草原で無防備に寝てて、よく無事だったよな俺。
するとイアが、手続きを終えてこちらへ戻ってきた。
多少げっそりしているようにも思えたが、表情はいつもの澄まし顔なため、気のせいだったかもしれない。
「ちゃんと許可もらえたわよ。はい、このバッチを着けて」
そう言って手渡されたのは、何かの紋章のようなデザインをしたバッチだった。
(複雑な模様で、言葉で説明するのが難しいため、そこは省く。ぱっと見た印象が、高級そうな風車のようだということだけ、伝えておこう)
「これはコスミマの紋章なの。それを着けておけば、正式な手続きをして出掛けたコスミマの住人だって、誰にでも分かってもらえるわ」
「これが無かったらどうなる?」
「ただの旅人ってことで、済まされるんじゃないかしら。ただ、魔族に狙われる確率が上がるわね。このバッチがないと、魔族に襲われた際に街の兵士にも助けてもらえないし」
「このバッチめっちゃ重要じゃん!」
失くさないように、ちょー気を付けよ……
強く握り締めながら、俺はパーカーにバッチを着けた。
うん、かっけーー!
「着けたわね。じゃあ行くわよ」
「やっと本題の一歩手前ですね……」
「あのでかい木の扉が開くのか?」
「そんなわけないでしょ。あれは、上級階級の人がコスミマを訪れる時に使われるの。一般市民はこっちよ」
イアが親指を門の方向へ向ける。視線を移動させていくと、大きな木の扉の右隣にもう一つ、小さな木の扉があった。大きな扉の、12分の1程の大きさだろうか。大きな扉がでか過ぎるんだけどな。
一般人は普通の扉から出てけっと。
「ほらさっさと歩く。何度も言うけど、そろそろ行くわよ!」
「はーーい!」
門へ近づくと、門番の人が扉を開けて待っていてくれた。
「気を付けて行ってらっしゃいませ」
そう見送られ、コスミマから外に出る。
そこに広がる光景は──あの灰色の草原だ。
俺が、パラミシアで目覚めた場所。イアとルアと、初めて出会った場所。
初日にこの白虎の門からコスミマに入ったんだから、その外がこの草原っていうのは当たり前か。
あの日と同じで、頬を撫でる風は暖かかった。
あの時といえば────
「そういえば2人ってさ、なんであん時ドラゴンと戦ってたんだ?」
この質問に、イアはちょー苦い表情を浮かべた。ポーカーフェイスで定評のあるルアさえも、若干渋い表情を見せている。
「あぁ……あれは……元々戦うつもりなんて、更々なかったんだけどね。……あのドラゴンも、ギルドのクエストで討伐依頼がきていたらしいのよ。私たちは、普通にこの草原を歩いていただけだったんだけど、そのクエストを受注してドラゴン討伐をしていた人から、あまりの強さに突然その討伐を押しつけられてね……ドラゴンにもロックオンされちゃったし、戦わざるを得なかったってわけ」
「おお……そ、そりゃあ、とんだ災難だったな……」
予想の斜め上をいく事実だった。
確かに、敵わないと分かっている相手に喧嘩を売る程、二人とも無鉄砲じゃあなさそうだもんな。
「ほんっっと災難だったわ。難易度★5のクエストを受注するなら、きちんと自分の力量を理解した上でやりなさいって話よ……」
あのドラゴンの討伐クエスト、難易度★5だったのか。イアでさえ手こずる、あの強さにも納得だな……
「んまあそのお陰で、俺は二人と出会えたんだけどな」
「僕はリョーガと出会えなくても良かったですけど」
グサッ!(ルアの言葉にリョーガ、100のダメージ)
「はっはは……そうですかい……思えば、あの時助けてくれた女性って、一体誰だったんだろ?」
俺は、あの時見とれた美女の容姿を思い出す。
彼女の周りを回っていた、あの白い短剣もなんだったのだろうか。まさかあれも宝魔?!
それについて尋ねると、イアが新たな知識を伝授してくれた。
「あれは“魔属性”と呼ばれる、宝魔による魔法属性の一種よ。“空気中の魔力を、そのまま形にして操る魔法”。でも普通魔力って、気体と同じで目には見えないでしょ? 魔属性というのは、宝魔で、魔力内にわざと不純物を混ぜ込み、目に見える実体にする魔法なの。だから、実体になった魔力は、自由自在に操れるってわけ」
「ほえぇマジか。それってチート並みに強くね?」
魔力って、パラミシア全土の空気中に溢れてるんだよな。しかも空気中の半分の割合を占めている。
つまりその気になれば、何でも実体にして、操れるってわけだよな。ナイフだろうが槍だろうが剣だろうが、その他諸々の武器だけでなく、相手の動きを封じることもできるだろうし、防御にも使える。同時に使えば最強じゃん!
「そうね。フルに使えば、リョーガの言うとおりチート並みに強いわ。でも、世の中ってうまいこと創られててね、そうもいかないのよ」
「ん? どういうこと?」
「人間であろうが魔族だろうが、生物には限界があるってこと。例えばそうねぇ……リョーガは、どれくらいの高さにある物なら、道具を使わずに取れる?」
「え? えっ、と……まあ背伸びして、こう腕を挙げた時に手がある場所くらいじゃね?」
高校2年生時代の俺の身長が、大体170㎝くらいだったから、2mは余裕だな。
「そうね。じゃあ3m上にある物を、あなたは取れる?」
「無理!」
「清々しい程に即答だったわね。まっ、当たり前か、そのつもりで聞いたし」
「どゆこと?」
「……時々無駄に切れるその頭、今回は停止しているようね」
「んん~? 褒められてるのか貶されてるのか、よく分かんないな」
「勝手に好きな方で捉えときなさい。私が言いたいのは、高い所にある物は気合いとかじゃあ取れないのと同じように、生身で操れる魔力の量や精度にも限界があるってこと。魔属性が強いことに変わりはないけど、チートと言える程の脅威でもないわ」
「あ~なるほど! なんかすぐに察せなくてごめん」
それでもやっぱり、魔属性ってやつは強いのな。つまりあの美女、相当の実力があると。強くて可愛いとか、パーフェクトじゃん……
ちなみにルアは、ほとんどこの会話に入ってこなかったが、元々入る気も更々なかったらしく、ぽ~っと遠くの空を見つめていた。
元々虚ろな雰囲気のある瞳が、更に虚ろなものになっている。
そして、草原を歩いて30分程が経過した頃────
視界に変化が訪れた。
そこにあるのは、明らかに洞窟だ。
草原のど真ん中にあるその洞穴のような造りは、横ではなく地下に続いているようで、周りの景色と比べるとここだけ違和感が凄い。
そしてイアが、告げる。
「ここが目的地、アステリ洞窟よ────」
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
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素人の作品ですが、次話も読んでいただければ嬉しいですm(_ _)m