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バッドエンドを迎えた世界  作者: ぱれつと
チャプターⅠ 異世界生活スタート
13/42

11話 ギルド

 今日は4月26日日曜日。濁ってはいるものの、本日の空も晴天なり。平和なことに、小鳥の(さえず)りが聞こえてきます。


 さてさてそんな情報はいいとして、俺は今何をしていると思う? 稽古? ご飯? ──外れ。正解は


「ほら、ぽけーっと突っ立ってないで歩きなさい。時間は有限なのよ」


 空を見ていると、先を歩くイアに厳しく(たしな)められた。


「はーい」


 素直に返事を返し、駆け足にイアとルアの元に追いつき歩く。

 俺たちは今、コスミマに出向いていた。しかし周りの景色は、5日前に見たものとはまったく違う。全てが初めて見るものだ。


「……しかし、まだ着かないのか? 向かっているのはコスミマ内の施設だってのに、もう1時間は歩いてるぞ?」


 案内したい施設が残っているから出掛ける、と伝えられたのは、当日、つまり今日の朝食時だった。いきなりすぎやしませんかね? とツッコミは入れたのだが、それはそれは華麗にスルーされた。


 そしてかれこれ1時間、ずっと歩いているというわけだ。


「同じコスミマと一括(ひとくく)りに言っても、コスミマは大都市だもの。面積だって大きいし、今目指してる施設は、具竜荘からかなり離れてるから、この前紹介できなかったの。コスミマの端から端まで歩こうと思えば、軽く3、4時間はかかるから、まだ今回の距離はマシは方よ」


 そうイアに言い返される。

 まぁ……東京都の端から端へ歩くのだって、それくらいかかるものか。やったことないけど。


「でも、肝心のその施設が何かを、まだ教えてくれないと」


 そう、俺は、今目指してる施設の名前さえも、二人から教えられていないのだ。ワクワク感もあるが、なぜ教えてくれないのかが疑問である。


「単純な理由です。今説明するよりも、実物をご覧になった方が、説明が格段に楽だからです。二度説明するのも手間ですし」


 本当に単純で、最も効率的な理由だった。つまり、深い理由はないと。


「そーゆーこと。あと数分程度がつくはずだから、グジグジ口を動かしてないで、テキパキと足を動かしなさい」


「はーい」


 それから俺は歩くだけで暇になり、辺りをキョロキョロと見回してみた。

 思うが、具竜荘付近のコスミマもそうだったけど、この付近もやはり活気は少ない。いや、同じコスミマだから当たり前かな?


 感染症はコスミマ中で流行しているらしいし、ここでもヤバイのかねぇ。

 現に今、俺らマスクしてるし。またしばらく、この息苦しい感覚が続くと思うと、背筋が軽くぞっとする。


 この感染症を引き起こしているウイルスが、どれだけ強いものかは知らないが、オミクロン全体に広がっていないだけ、まだマシなのかもしれないな。

 広がり過ぎると、それこそ打つ手なしになる。

 まあここは異世界、パラミシアだし、一発で感染症の原因のウイルスを抹殺できるような奴がいても全然不思議じゃないが。


 と~~そんな感じで歩いていると、周りの建物とは雰囲気の違う施設を、俺は視界の先に捉えた。

 直感的に、これがイアたちの話していた施設なのではないかと思う。最近、こういう直感が結構当たるんだよな。


 施設との距離が縮まると、その建物の年季が伝わってきた。


 造りとしては、ログハウスみたいなものだ。

 専門家じゃないから何の木材かは分からんが、基本的に丸太を組み合わせて構築されている。さっきも思ったが、まさにログハウスだ。

 しかしその丸太に傷が入っていたり、やすりをかけられたように表面がツルツルだったりと、見てすぐに分かる年季が感じられた。それとは別に、建物自体が持っている年季のオーラも感じる。


「ここが言ってた、案内できていなかった施設か?」


 俺は無意識のうちに、そう問いを投げかけていた。

 それに、イアは首の動きで肯定した。


「中のロビーにソファなどが設置されているから、詳しい説明はそこでね。一先ず入るわよ」


 そう言い入っていくイアと、それに続き静かに入っていくルア。その後を、俺は追った。俺、後ろからこの二人を追うことしかしてない気がする。


 そして内装を見て、俺は全てを察した。


「“ギルド”か────」


 クエストと書かれた紙が貼られている掲示板。武器は防具を身に付けた周りの人間。そして複数ある受付のカウンター──RPGにあるギルドと、瓜二つだ。


「あら、知ってたの? まあそれでも説明ね。そこのソファに腰掛けましょう」


 提案に従い、ソファに腰を下ろした。想像以上にソファが沈み、少し焦ったのは内緒だ。


 イアは背筋をぴんっと伸ばし、姿勢がめっちゃいい。

 一方のルアは、足をぶらぶらさせ暇そうにしていた。珍しく、容姿と行動の年齢が一致した瞬間である。


 そしてイアの説明が始まる。また頭がオーバーヒートする予感……


「リョーガの察したとおり、ここはギルドよ。主に“クエストの受注ができて、冒険者・旅人の溜まり場”でもあるわね。パラミシアの全ての大陸に、最低でも1つはある、超重要施設よ。

 基本的にはクエストを受注し、それを達成したらまたギルドを訪れ、クエストで提示されていたクエストクリアの条件を満たしていることを証明すれば、報酬が貰えるという仕組み。

 クエストは一気にかけ持ちすることもできるし、クエストの受注をしていない状態でクリアをしても、報酬の半額は貰えるわ。一人で挑戦してもOK、仲間と複数人で挑戦してもOK。指定がない限り、クエストをクリアする方法は自由よ」


 ……要は、俺の知ってるRPGのギルドとほぼ同じ、ってことでOKだな。

 よかった、オーバーヒートは免れた。


「クエストの種類は2種類あるわ」


 イアがピースサインを作る。2ということだ。


「一つは“討伐クエスト”。何かしらの生命体を討伐するのがこのクエストよ。基本的には悪さをする野獣の討伐が主ね」


「魔族討伐とかは? 何かそういうのってありそうだと思ったんだが」


「……たまにあるけど、受注しない方がいいわ。パラミシアは魔王が支配する世界。その魔王の同胞を殺せば、当然魔王に目をつけられる。最悪、こっちが魔王の部下に殺されるわよ」


「おお……そうか、確かにそりゃそうだよな……。でも、同胞を殺した人間を、わざわざ部下を遣わせて殺すなんて、魔王、結構仲間思いなとこあるんだな」


 魔王はなんとなく、仲間が殺されようが自分さえ生きていればそれでいい、みたいな外道野郎だと勝手に思い込んでたから、結構意外だった。印象だけで邪険にするのはよくないな! うん!


 ……いやまあ、パラミシア支配して人間殺してる時点で、邪険にする材料揃っちゃってるか。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というおっかない話は、先日夕食時にルアから聞いた。食事中になんちゅー物騒な話をしてんだと、ツッコミたくなりましたわ。なんとか抑えて、心の内に秘めておいたけど。


「……魔王に情をかける気はありません」


 と、ルアが横から冷たい口調で吐き捨てた。

 俺の発現に対する否定だろう。よっぽど魔王嫌いなんだな……魔王を好きな人間もいないか(多分。キチガイな人間ならワンチャン……?)


「ルアの意見に同意。で、もう1つが採取クエスト。薬草だったり野獣の皮や爪だったり、鉱石だったりをクリア条件分持ち帰ってくるものよ。

 簡単そうに思えるけど、持ち帰ってくるなかで品質が落ちればクエストクリアにならないから、素材の正しい知識がなければいけないわ。この判定が結構シビアだから、討伐クエストと比べてあまり人気はないわね。

 野獣の素材を集める場合は、討伐クエストと合わさって“複合クエスト”になる場合もあるわ。まあ、力に自信がある者は討伐クエスト、知識に自信がある者は採取クエストっという感じね。理解した?」


「──ああ、詳しい説明ありがとな。今回は、早めにほぼ理解できたぜ。でで、思ったんだけど、それってクエストクリアに応じてランク的なのが上がったりとかはしないのか?」


 もちろん、RPGの知識である。討伐クエストと採取クエストの概要も、俺が思ってたのとほぼ同じだったし、こちらももしかしたらあるのではないかと。

 そして、目を見開いたイアの反応を見るに、やっぱあるらしい。


「よく分かったわね。今日のリョーガは冴えてるわ」


「明日、空から槍が降らないか心配ですね」


「確かに。それはそれでいい訓練になりそうだけど」


「ぅおい! 槍は降らんからな!」


 イアには笑いが混じっているが、ルアは無表情なため冗談なのか本気なのかが判断できない。多分マジなのだろう。怖いわぁ……


「えっと、なんの話だったかしら……ああ、“ギルドランク”の話ね」


 イアにしては、珍しく忘れかけていた模様。


「リョーガの予想どおり、ギルドランクはギルドのクエストをクリアした回数と難易度によって付けられるものよ。下から順に、アマチュア→ノーマル→ブロンズ→シルバー→ゴールド→プラチナ→マスター。この7段階ね。ランクアップの具体的な定義は定かじゃないけど、マスターランクの人は現在42人しかいない希少な存在よ」


「マフラ……じゃなくマスターって、なるのそんな難しいのか?」


 噛んで危うくマフラーって言うとこだったわ……


「ええ、一番人数の多いノーマルが1万人以上いるから、それと比べると凄さが分かるでしょ?」


「おお、そりゃ確かにスゲーな! イアとルアは、前にもギルドを使ったことあるのか?」


「私の方はしょっちゅう利用してるわよ。私がプラチナランク、ルビーはシルバーランク。私個人で利用する時は主に討伐クエストで、ルビーと一緒に利用する時は、いつも採取クエストを受注してるわね」


「僕はあまり利用しないので、ランクは低めです。ちなみにサファイアの所属するプラチナは、300人程度で構成されています」


「イア、マスターランク目前じゃん! 凄いな! 俺もマスターランク目指してみよっかな」


「マスターをマフラーと言い間違えてる時点で、希望は薄いと思いますがね」


「わぁ……何その幼稚な言い間違い」


「なあーー?! 忘れろ! それは忘れろーー!?」


 まさかのバレてた件について!

 こりゃ一瞬たりとも弱みをみせられねぇ……すぐにルアに揚げ足を取られる。


「人間の脳みそは、念じようが心頭滅却しようが、自分の力で記憶は消せませんよ」


 ほらこんな風に!


「……あと何か伝え忘れたことは……」


 一方イアは、真面目に説明に穴がないか思考を巡らせていた。

 なんか、この言い争いこそが幼稚に思えてくる……


「他者がクエストをクリアした際の伝達についての説明を、まだしていないのでは?」


「あっ、それね。ありがとうルビー。──クエストは討伐・採取関係なく、単発クエストと長期クエストにも分かれるわ。

 単発クエストは、誰かが一度でもクリアしてしまえば、それ以外の人たちは報酬を受け取れない、いわば早い者勝ちね。

 で長期クエストは、何度かクリアできる、つまり複数人がクリアできるものと、永久的に受注・クリアが行えるものがあるわ。長期クエストは店に納品する素材系、採取クエストに多いわね」


「ほうほう……」


 まだなんとかゆとりを保っている、俺の脳みそ。ちょーギリギリだけどね?


「それで発生する問題点があるわ。それは、単発クエストの場合、誰かがクリアしたと知らずに、別の誰かがクエストクリアの為に奮闘するというシチュエーション。命懸けで野獣を討伐したのに、戻った時には別の誰かにクエストをクリアされていて無駄足でした~なんて嫌でしょ?」


「絶対嫌だな。その人報われなさすぎて泣けてくるわ」


「その問題を解決する為に行うのが、きちんとクエストを受注することよ。そうすると呪文の効果が付与されて、クエストがクリアされた際に通知されるようになるの。頭に直接響いてくるような感じでね。まっ、早い者勝ちってことに変わりはないけど」


「なるほどなぁ。便利な呪文があったものだ」


 地球じゃあ、メールで通知すれば一発なんだけどな。やはりパラミシアには、そういった科学技術が結集した便利道具はないようだ。……ちょっぴり悲しいな。


「他に何か質問は?」


「えっとじゃあ、報酬についてなんだが、基本的にどんなものが報酬になるんだ?」


「ほとんどは通貨ね。その他でいったら、素材系、武器・防具類、権利なんてのもあったり」


「通貨か……あっそういえば、パラミシアの通貨ってどんなのなんだ?」


「あ~言ってなかったわね。通貨は全部で3種類、銅貨、銀貨、金貨よ。銅貨100枚で銀貨1枚分、銀貨100枚で金貨1枚分の価値になるわ。大体これぐらいのおにぎりが、銅貨10枚で買えるわね」


 そう言いイアは、手で三角形を作った。大きさ的に、コンビニで売られていそうなくらいだ。

 コンビニのおにぎりって大体100円程度だから、単純計算で銅貨10枚=100円くらいの価値か?

 そう考えると、金貨1枚って────10万円?! 大金ですやん!


「まあ金貨は、金貨そのものが高価だから、あまり一般人がお目にかかることはないけれど。クエストの報酬も、大抵が銀貨で済ませられるわ。金貨5枚じゃなくて、銀貨500枚とかでね」


 クエストの報酬で50万円?! ヤバ!(気にするのそこかい)


「……ギルドのクエストって、儲かるんだなぁ……」


「いきなり何を言うかとおもえば……」


「まぁ、場合によっては事実っちゃあ事実よね。言っとくけどリョーガ、ほとんどのクエストの報酬はせいぜい銀貨10枚から50枚程度がいいとこだから、一回だけじゃあそこまで儲からないわよ」


「あっ、そうなんだ。──あれ、そういえば結局、ギルドに来た本来の目的ってなんなんだ?」


「話の内容が、突然90度程変わりましたね」


「90度ってなんだよ、180度じゃなくて?」


「ギルド関連ということで、180度程は変わっていないかと」


「そういう感じ?」


 時々、ルアの世界観についていけなくなる……


「そうねぇ、説明も全部終わっただろうし、じゃあ本題。クエストを受注するためよ。一言で言えば、リョーガの生活費稼ぎ」


「ふえ?」


「僕らは、リョーガの金稼ぎに付き合ってあげているというわけです。心の底から感謝してください」


「えっちょい待ち──え? あ、そういうこと?」


「そういうこと。家賃は私たちも含め、おじさんの善意で払う必要がないけど、せめて食費くらいは出してもらわないと」


「タダ飯は卑怯です。サファイアの稽古で、体力も無駄に上昇したようですし、そろそろクエストで役立ってもらえるかと」


「あぁなるほどぉ……今までタダ飯食わせてもらっててすみませんでした!」


 タダ飯がどれだけ卑劣かは分かっているので、全力で謝らせていただきます!

 そして俺の生活費稼ぎに付き合っていただき、誠にありがとうございます!


「今日、仮にリョーガが報酬を貰えれば、そこからいくらか引いておくので頑張ってください。()()()()


「飯代でそんな命懸けなきゃいけないの俺」


 タダ飯との対価が重すぎん?


「気持ちの方はってこと。いきなり討伐クエストは難易度が高すぎるし、今回は採取クエストにするから安心しなさい。命の危険は()()ないから」


「今()()って言いましたよね、よね?」


「大丈夫、過労死する可能性があるってだけ」


()()、じゃない! 採取クエストってそんな過酷なの?」


「精神力は必要かもしれませんね。まぁ、リョーガはネチネチした作業が得意そうですし、そんなに問題はないかと」


「ネチネチした作業が得意っていうのは否定しないけどさ、言い方よ言い方」


「言い方なんて、どうでもいいと思いますが? 相手に意味が伝われば、それで言葉の意味は成立するかと」


「いやまあうん、そうなんだけどさぁ──」


「はいはいストップストップ」


 イアが手をパンパンと叩き、俺の言葉を制止した。


「ルビーとリョーガが話してる間に、ちらっとクエスト内容を確認してきたけど、これなんか好条件で結構いいんじゃないかしら」


 速?! いつの間に?!


 そしてイアが、手に持っていた紙をソファとソファに挟まれた机に置いた。

 古紙に印刷か手書きで文字が書かれており、ぱっと見、手配書のようにも見えるデザインだ。


 そこにでかでかと書かれた内容が────


『クエスト:採取クエスト・長期クエスト』

『内容:魔石の採取』

『クリア条件:魔宝石を3種持ち帰る(その他の魔石も持ち帰れば、報酬追加)』

『難易度:★4』

『報酬:銀貨100枚』

最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!

よければブックマーク、評価の方をしていただければ、とてもとても励みになります。

次話も読んでいただければ嬉しいですm(_ _)m

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