295話 信頼する仲間と
作者:ミラ
それは長い……本当に、長い道のりだった──
俺が世界を救うと決意し、旅を始めてから、もう4年か……
まったく、楽しい時の流れというのは、驚くほど早い。ひたすら念仏を聞いているだけの時なんて、1分をあんなにも長く感じたのに。
──この城の奥に、俺の宿敵、倒すべき相手はいる!
そう思うと、俺の心は奮い立たずにはいられなかった。
高鳴る気持ちを落ち着かせるように、俺は後ろを振り返る。
そこにいるのは、俺にとってかけがいのない仲間たち。
俺たちは、ずっとずっと、人間を苦しめる魔王を倒すため、旅を続けてきた。
それも──今日で終わりを迎える。
「やっとここまで来たわね、“アーサー”」
可愛い笑顔で俺の名前を呼び“ウィリア”が言った。見慣れた姿のはずなのに、今では見る度に心が高鳴るのだ。
この気持ちがなんなのかは、今となってもよく分からない。
「──ああ、そうだな!」
俺は、一人一人の顔を見て、それぞれとの思い出を振り返ることにした。
彼女が一番最初の仲間、魔法使い──ウィリア。
彼女と出会ったのは、俺が旅を始めてから3日の頃だった。突然目の前に現れたかと思えば、勝負だのなんだの言われて、本当に驚いたものだ。そんで俺が勝ったという結果も、もちろん忘れていない。
今や一番の信頼を寄せている相手であり、盟友だ。
その次に仲間になったのは、ヒーラー──“セイラ”。
ヒーラーなのに、最初出会った頃は回復魔法が苦手で、大怪我をおって死にかけていたという事実。あの時はめっちゃ驚いたが、今考えてもやはり驚きである。けれどそれから努力の末苦手を克服し、今ではかかすことのできない、俺たちの回復担当だ。
3人目の仲間は、巫女──“リリアン”。
彼女はどことなく、不思議なオーラを放っている女だ。そして若干毒舌家。俺の柔なハートをブレイクことは数知れず。巫女だからか霊感が特別強いようで、幾度となく近くに幽霊がいると発言しては、俺たちを恐怖でビビらせた人物である。
幽霊嫌いが深刻であるセイラは、何度気を失ったことか……
と、ここで俺は男一人、女三人というハーレム状態に一瞬なったわけで。えっ、そんな報告どうでもいい?
おほん……そして4人目の仲間は、人形遣い──“ライト”。
ライトは元々強さで評判で、リリアンが仲間になるよりも前に、俺が直接スカウトしにいった人物だ。けど、ライトには唯一の肉親である、5歳年下の弟がいるとのことで、一度は断られた。でも、リリアンが仲間になってからもう一度お願いにいって、最後は弟さんの言葉で仲間になってくれたんだよな。今やうちのエースだ。イケメンでモテ過ぎて、時々嫉妬するけど……
次5人目の仲間は、魔術師──“カル”。
こいつがまた癖者で、新たな魔術を習得する度に、俺たちを実験体にしてきやがるんだ。……忘れてないからな、特に、昼飯を俺の苦手なカエルに変えられた時のことは……
まあ、魔術の腕前は本当にピカイチなんだが。玉に瑕という言葉がここまで似合う男は、他にいないだろうな。
そして、魔王に仕える四天王を倒した後にできた、最後の仲間、弓士──“ワイク”。
ワイクは、常に黒マスクを着けているせいで感情が読み取りにくい奴だが、黙々と仕事をこなす職人気質がある。ワイクの弓の腕前は、百発百中であり、任せると安心感がちょー凄い。困った時のワイク頼みだ。
そして俺が、勇者──アーサーである!
いや別に、最初から自分で勇者と名乗ってわけではない。だってそんなの、自意識過剰なヤバイ奴じゃん。
俺が勇者と呼ばれ始めたのは確か──旅を始めて3年目くらいの時からだったか。それを知った時は、それはもうとてつもなく喜びましたよええ。……仲間の面々、特にリリアンにはめっちゃ引かれたけど。
──勇者という肩書きは、本当に神聖なものなのだ。一般人が自らを王と名乗ってはならないのと同じように、ただの旅人が自らを勇者と名乗ることはタブー。暗黙のルールだ。そんな存在だと認められたんだから、喜ばない方がおかしいよね?
──とおほん。えー、早く進めというリリアンからの視線が痛いので、思い出に浸るのはおしまいだ。そろそろ、緊張感を持とう。
俺は全員に頷きかけ、そして──歩みを進める。
今俺たちの歩くここは、魔王の住まう城、名前そのまんまに“魔王城”のとんでもなく長い廊下だ。
床には高級感漂うふわふわの赤いカーペットが敷かれており、壁際には謎に甲冑が所狭しと飾られている。無駄に高い天井からは、きらびやかなシャンデリアが吊るされていた。
でも外と違って、そんなおどろおどろしい雰囲気は感じられない。そのためか、少し警戒心が緩んでしまうのも事実。
──その時だった
「……なあ、アーサー、本当に魔王……を倒すのか?」
不意に聞こえた、聞き覚えのある落ち着いた声。振り返らずとも分かる──ワイクだ。
俺は少し驚いた。
ワイクは普段、ガチで無口だ。もう無口という言葉で片付けていいのかってくらいの、キングオブ無口。1日に一言程しか、声を発しないのである。
そんなワイクが、魔王城で声を発しただと?! しかも、言葉のキャッチボールが可能な疑問系!
そして更に言えば、その問いかけも、俺にとっては不思議なものだった。
「? 何を今更のことを言ってるんだワイク。あ~、もしかして、怖じ気ずいたかぁ?」
俺は振り返り、冗談っぽく言ってみた。
しかしワイクは
「──いや、そういうわけじゃないが……」
と、真面目な表情(黒マスクのせいでよく見えないが)で顔を俯かせた。
そして、それ以上の会話は続かなかった。俺は首を傾げ、また前へ進む。
……少し、ワイクの表情が悲しそうに見えたのは、気のせいだろうか。
──魔王城の廊下は、ほんっとうに長い。それはもう、いつまでも先が見えないくらいだ。
これじゃあ魔王の待つ“大間”へたどり着く前に、体力がかなり持っていかれそうである。それこそ、魔王の狙いなのかもしれないが。
まあ、あと1㎞も進めば“大間”だろう。根拠は何かって? 天才的な勘ですよ、勘!
と、そんな時
「──大丈夫ですよ。怖かったとしても、私たちには馬鹿さで周りを和ませるリーダーがいますから」
これはリリアンだ。
相変わらずの、敬意が感じられない敬語。
「馬鹿さとはなんだ馬鹿さとは! 一言余計だ。頼れるリーダーと言いたまえ」
「頼れるかねぇ?」
そう首を傾げるのはカル。
おいそこ、なぜ首を傾げる……
「まぁ……ある意味では頼れるかもな」
これはライトの声。
「は? ある意味?」
その意味が分からず、俺は疑問符を豪速球で投げかけた。
そしてその豪速球疑問符を見事にキャッチしたのはセイラ。
「確かに~♪ リーダーの火事場の馬鹿力は、結構頼りになるよねぇ♪」
「そうそう、俺の火事場の馬鹿は結構頼りになる──ってそこじゃねえだろ!」
完璧なノリツッコミ。
やられた、ついセイラの口車に乗せられてしまった……
当の本人であるセイラは、クスクスと笑ってるし、こいつぅ……絶対確信犯だろぉ。
「言ってから気が付くなんて、やっぱり“自称”頼れるリーダーさんは“馬鹿”じゃないですか」
「言うなあ! ため息をつきながら言うなあ! そしてその“自称”を強調するのも止めろお!」
「良かったじゃん! 一応、頼りにはされてるんだからさっ!」
「だからそこじゃないんだよウィリア~!」
まったく……こいつらはリーダーへ対する敬意がないのか……
いや、まだ最後の希望がある!
「ワイク! 俺は頼れるリーダーだよなぁ!」
唯一、俺の頼りがいを否定しなかったのがワイクだ(肯定もしてなかったけど)
さあワイク、どうだ!
俯いていたワイクは、自分へ話題が振られるとは思っていなかったのだろうか。毎度のことながらマスクで見えにくいが、少し面を食らった様子だった。
そして、その反応もシンプルで
「?」
と、首を傾げて終わった……
「そこは肯定してくれ!」
困った時のワイク頼み、失敗。
「──まあ安心しろ。頼りにはしていないが、俺たちはお前を信頼しているから」
…………ん? 不意打ちになんか今、悲しいこととめちゃくちゃ嬉しいことを一緒に言われた気が──
「……そうですね。頼りがいには首を傾げますが、信頼はしています」
「うんうんそうだね♪ そこはリーダー、誰よりも信頼してるよ♪」
「ああ、お前になら、安心して背中を任せられると思ってる」
「だからさアーサー、ううん、リーダーも私たちを信じて。そして、リーダーの頼りない部分は私たちで補わせてよ。だって私たち、頼れる仲間でしょ? どんな困難も、皆でなら絶対に乗り越えられるわ!」
……さっきまで散々馬鹿にしてきてたのに、急に感動的になったな。
でも──心がぽかぽか温かい……
ここはリーダーらしく──!
「ありがとうな。お前らのこと、もちろん頼りにしているさ。よーし、絶対勝つぞー!」
「ええ!」
「うん♪」
「はい」
「ああ」
「おうよ!」
「(頷き)」
うんうん流石は俺たち、信頼により築かれた絆は完璧なようだ!
「よしいい返事だ! よっしゃ行くぜーー!」
威風堂々、というのだろうか。そんな感じで俺は意気揚々と、また足を動かした。
……そして、そして────
「ここ、か……」
俺たちは、3mはあるであろう大扉の前に立った。
この先に、魔王がいるのだ……それを実感すると、無意識に体へ力が入る。
緊張……だろうか……
「リラックスしすぎるのも駄目だけど、緊張のしすぎも体に毒よ~。ほらほら、程よくリラ~クス♪」
安心するその声で、俺は後ろを振り向く。
すると俺の心を読んだように、ウィリアが笑顔で肩を叩いてくれた。
……緊張が和らいだ。ほんと、ウィリアの笑顔は凄いな。
「そうだよな、サンキュー!」
「ふふ、その調子その調子♪」
──改めて、俺は信頼する仲間を一瞥した。皆既に武器を所持しており、準備万端なようだ。
俺も腰から、“聖剣エクスカリバー”を抜き出した。ずっと、俺を支えてくれた相棒だ。
……口元を緩ませる。本当に、いい仲間を持ったんだな。
もう一度俺は、巨大大扉と対面する。扉の奥からは、ここにいるだけでも分かる程、禍々しいオーラが漏れだしていた。
程よくリラックスし、程よく緊張感を持って、ドアハンドルを掴む。
だがその、刹那──俺の心が、正体の分からない不安で覆い尽くされた。それはまるで、黒い霧。一瞬で俺の心を支配した。
まるで、ここから先へ行くのを、激しく警告しているように……
しかし俺は首を振り、その黒い霧を無理やり振り払った。
何を今更恐れることがあるんだよ。俺には、信頼する仲間がいるじゃないか! 何もない俺にはそれだけで、十分なんだ……
しっかりとドアハンドルを掴む。折れ曲がってしまうのではないかという程に。
そして──俺は扉を開く。
討つべき敵が、目の前にはいた────
◆◆◆
「は~~面白かった!」
俺は読み終えた、ロイヤルロード最新話の感想に浸る。
いや~、ロイヤルロードの連載が始まって、早2年かぁ。つまり俺が中学3年生の時。時の流れとは、早いものですなぁ。
あれ、年寄りっぽい?
……ロイヤルロードも、きっともうすぐで最終話だよな。
2年──それだけ読者を待たせたんだから、ラストは期待してまっせ~♪
早く次話投稿しないかな♪
こういう物語では、主人公補正ってやつ? があって、どんな危機的状況でも安心して見てられる。それこそ、俺がフィクションを好きな理由だ。
──さて、そろそろ宿題するかぁ……はぁ、明日提出なんだよなぁ。
そして俺は、パソコンの電源を切った。
新シリーズスタートです!
そしてこれはプロローグ。本編は1話から♪
完結まで何年かかるか分からないというレベルの長編に恐らくなりますが、どうかよろしくお願いします(*^.^*)