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亀裂旅行  作者: 探索者
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歯車

「0」

「次にバルサ、お前に行ってもらう世界はここだ。」

ロイドは対策局の作戦室にあるガリランドの地図の北部を指差した。

 ガリランド北部は開発途上土地であり、集落がぽつぽつとあるだけで人より動植物が多い地方だった。開発が進み都市化、工業化が進むガリランドで唯一まだ自然が見れる地方として有名でもある。

「何故、そこに亀裂があるんだ?人が少ない所でそんな歴史の分岐点なんてそうないだろうに。」

「その通りだ。今回の歪みの原因は歴史の分岐点なんかじゃない。能力者によるものだ。」

ロイドはそう言うと、胸ポケットから茶髪の女性が映った写真を取り出した。

「彼女は?」

「ディア・ヘルン、今回の歪みの原因と思われる人物、恐らく彼女も能力者だろう。しかも我々、対策局がずっと求めていたタロットのタイプだろうな。でなければ、そう簡単に能力者と言えど、時空を歪ますことは出来ない。」

「それで、俺は何をすれば?」

「いつも通りだよ、バルサ。並行世界を消して来るんだ。だが、今回お前に同行出来る者はいない。この対策局の人員不足で申し訳ないが、他の工作員も違う並行世界に飛んでいる。」

「問題ないですよ。俺は誰かと一緒に仕事をするのが得意じゃないから、気楽に出来ていい。今回の歪みは歴史の分岐点じゃないなら、そこまで歪みは強くないように思えるので。」

そう言ってバルサは席から立ち上がり、作戦室を出て行った。それを確認したロイドはディアの写真をポケットにしまい、かわりに煙草を取り出し口に咥える。

「相変わらずだな、バルサ。お前も協調性を身につけてくれれば、私も安心して対策局室長の席を開けられるんだが。その日は遠いだろうな。」

ロイドは煙草の煙を吐き出した。


「1」

 指令を受け、俺は直ぐに、ガリランド中央部の市街地からガリランド北部へと向かう列車に乗った。乗って1時間ほどで開発都市の高い建物が見えなくなり、かわりに畑、森しか見えなくなっている。代わり映えのない景色に俺は珍しさを感じている。俺は元々、開発の進んでいた中央部育ちで美しい自然と言うのも見たことがなかった。仕事で行く並行世界も歪みの震源が人の多い市街地である事が多く、こんな田舎に来るのは初めてかもしれない。

 ガリランド北部には駅が1つしかなく、その周りは木しかなく道も整備されていなかった。この駅は自然の中に無理矢理、駅をぶち込んだ感じを受ける。中央部では自然がある事が異質な感じだが、此処では、駅が、機械がある事が異質に感じる。

 駅を出て、すぐに並行世界に入った。

「並行世界に入っても変わらないな。当然か、あの子1人で土地の様子が変わるほど歪みが強いわけがないか。」

 駅に置いてある周辺の地図を見ると、樹海の先にしか集落がなかった。駅を出てすぐに見える樹海入り口と書かれた看板とこの先の獣に注意とある看板に嫌気がさした。

「ちょっと、この先危ないわよ。」

強めの女性の声と同時に肩に手を置かれる。声には敵意も殺意も感じなかったが、肩に置かれた手にはかなりの力が込められていた。俺は、思わず腰に持っている銃と短刀に手が伸び、戦闘態勢に入ろうとした。すると

「襲おうと思うなら声なんてかけないわよ。そうでしょ?」

と声がかかった。振り向いて女性の顔を見ると、歪みの原因の可能性が高いディアだった。思っていたよりも高身長で俺と殆ど変わらなかった。男性平均身長くらい身長はあるから、ディアはかなりの高身長だろう。 

 ディアは俺の肩から手を離し、話を続ける。

「この辺りは、凶暴な獣が多いの。看板にもあるけどね。それに、あなた見ない顔だし中央部の都会から来たんでしょ、よく看板無視する都会人が此処で死ぬのよ。」

「・・・・」

「ちょっと、聞いてる?危ないのよここ。もう日も暮れてきてるし、1人じゃ危ないわよ。」

「俺はこの先の集落に用がある。どっちにしろ行かなきゃならないから、俺は行くぞ。」

俺がそう言うと、ディアは溜息をつくと自分の腰に着けていた剣を抜き、樹海入り口へと歩いていく。

「私も行くわ、初めてでこの樹海の抜けるのは難しいのに、日も暮れてちゃほぼ不可能だわ。」

「あんた、かなりのお節介だね。損な性格してるって言われないか?」

するとディアは笑顔になって頭をかいた。

「よく言われるよ、いろんな人に。私、ディア。あなたの名前は?」

「・・・・俺はバルサだ。」

ディアは俺の手を無理矢理取ると、満足そうに握手する。

「よろしくね、バルサ。あなたも武器持ってるなら手を貸してね。ここの獣、夜行性なの多いからさ。」

「ああ、了解だ。任せてくれ。」

「じゃあ、出発」

そう言ってディアは樹海へと入って行った。俺も右手にナイフと左手に銃を握り、後を追う。

 これから壊す世界の住人と、しかもこの世界の歪みの原因かもしれない人間とここまで、関係を持つのは不思議な気分だった。もし、本当に彼女が歪みの原因なら、俺は殺さなければならないというのに。

「それでバルサ、なんでこんな田舎に来たの?」

「・・・・・」

「ねぇねぇ、バルサってば。」

「・・・無用心な奴だな。ここ危ないんじゃないのか?俺の方見ないで前見て歩いたらどうだ。」

「大丈夫、私はここに慣れてるからね。後ろ向いてても、ここに肩くらいの高さの土から出た根っこがあって、それを潜ると足場の悪い坂がある。」

そう言ってディアは簡単に樹海の障害物をかわしていき、整備された道を歩くかのような速度で歩いていく。額の汗を拭き持っていた水を飲んだ。

「どれくらいで、この樹海を抜けるんだ?」

息を切らしながら俺がいうと、今度は彼女が黙った。先ほどまで煩いくらいくっちゃべってたディアが急に黙る。辺りを見回しても獣の姿はなく、ディアもその事を気にしてる様子はない。それどころかどんどんペース上げて歩いていた。

「私の質問には答えないのに、バルサは私に質問するの?」

「子供かよ、・・・・仕事でだ。集落を調査に来たんだ。」

「仕事って?開発業者?この辺の都市開発の準備に来たの?」

「・・・そんな感じだよ。だからこの辺りの集落に話を聞きに来たんだ。」

「なるほどねぇ。あと1時間くらいで樹海を抜けるよ。」

その言葉を最後にディアと俺との間に会話は無かった。俺は息切れを起こし体中に汗をかいていたが、ディアは多少の息切れがあるだけで、汗はかいていなかった。 

 しばらく歩くうちに夕方から夜になり徐々に獣の気配が強くなっていくのが分かる。

 日が出ていても木が邪魔をし、元々薄暗かった樹海が更に暗くなり、少し前を見るのも難しくなっている。それでもディアは、歩くペースを落とす事なく前へと進んでいる。たびたび大きな障害物があると、教えてくれるほどに余裕を残していた。対する俺は獣に警戒し、樹海の足場の悪い所を歩くのにも疲れが出てきている。

「ちょっと止まって。」

ディアは静かに言った。武器を構え、周囲に警戒を配っていた。俺は獣の気配を探り直すと周囲全体を囲まれているようで、どの方向からも獣の気配を感じる。

「こちらのことは気にしないでいい。戦える体力は残っている。」

俺は銃の安全装置を外してそう言った。ディアは少し迷ったような顔をした後に頷いた。次第に気配だけから、唸り声が聞こえる程に獣との距離が近くなり、俺は息を飲む。

 唸り声と共に1体が前から飛び出し、それを俺が撃ち抜いた。それと同時に周りから獣が一斉に飛び出し、撃った奴と同じ方向から来た2体をもう1度撃ち、1体には命中しもう1体には外れた。玉を外した獣は全身し、俺に飛びかかる所を右手で持っていたナイフで首を斬る。

 後ろに振り返り、襲ってくる3体に銃を向け1体だけ撃ち殺すと、一歩後退してもう1体の獣の首をナイフで斬り殺し、その勢いのまま襲ってくる獣を蹴り飛ばした。それでも俺に襲いかかって来る獣に銃を撃ち込む。弾を撃ち尽くしリロードしようとしたところで、さらに獣が飛び出して来る。リロードする時間がないと判断した俺は獣に銃を投げ、当たった獣がのけ反ったときに右手のナイフで斬りつけ、腰に着けていた予備のナイフを左手に持った。そのまま襲ってくる獣4体を斬り殺したところで残りの獣は無理と判断したのか撤退して行った。迎撃を終えた頃には、俺の体は獣の返り血がべっとりとついて体から獣の匂いがした。

「無事?」

とディアの声がして、その方向を向くと綺麗な服のままなディアの姿があった。その服には返り血が少しもついてなかった。俺は内心不思議に思いながらもそこには触れず、獣に投げた銃を拾い、銃に弾を込め直した。

「大丈夫そうね。体に付いてる血も獣の返り血っぽいし。」

「ああ、俺は問題ない。君は・・・大丈夫そうだな。」

「ええ、あとちょっとで樹海を抜けられるから、頑張ろ。」

俺が頷くと彼女は武器を持ったまま進んでいく。俺も予備のナイフを腰にしまい、右手にナイフ左手に銃を持って進んでいく。


「2」

 その頃、通常世界の亀裂対策室ではロイドが他の並行世界から帰ったカイルとカーンに話をしていた。

「室長、バルサは何処に行きました?帰ったら飲みに行く約束してたんですけど。」

「カイル、バルサは仕事に行ってもらっている。お前たちにも悪いんだが、あいつの仕事を手伝ってやってほしい。今回は初の歴史のターニングポイントの並行世界じゃないんだ。」

ロイドの言葉にカイルとカーンには、驚きの表情が浮かぶ。面倒くさがりのバルサがそんな大変そうで、かつ面倒くさそうな仕事を受けた事に、とそれをバルサに受けさせた室長のロイドに驚いていたのだ。

「さすがだね、室長。俺とカイルは何回も何回も頼んで飲みに行く約束をしたのに。どうやって行かせたんだ?」

「カーン、室長だぞ。敬語。」

2人のやり取りを見て、少し苦笑した後にロイドは口を開く。

「構わないよ。このチーム内だけで話す時は敬語は使わなくていいさ。まあ、他のチームと話すときは少しはたてて欲しいから敬語を使って欲しいけどね。まあ、この話はこの辺にしてね、バルサに行かせるには少し硬い話し方と重要な所を省くと行ってくれるんだ。」

その言葉に2人は納得した。カーンはこれからバルサを誘うときに使おうと考え、カイルは意外にもバルサを扱うのが簡単に扱える事とそれに気づき実行した室長に流石という感情を抱いた。

「それでね、君たち2人は行ってくれると判断していいのかな?」

「はい、勿論です。」

「ありがとう、君達に行って欲しいのは実は並行世界じゃないんだ。こちらの世界、つまりは現実世界なんだよ。」

この言葉に2人は動揺する。今までの仕事で幾つもの並行世界を破壊してきた2人だが、仕事で並行世界に行かないのは初だった。この2人の動揺を感じ取ってロイドはまた口を開く。

「バルサが並行世界に行って、すぐに歪みの原因を破壊しないのは知ってるいるだろう。だから今回、カイル、カーン、君達に行かせなかったんだ。並行世界で歪みの原因の人を殺せば歪みが無くなり世界は壊れる。だが、歪みの原因でない人を殺しても世界は壊れない。それどころか捕まり仕事が出来なくなる事もあるくらいだ。」

「はい、その事は何度も仕事をしてきてわかっているつもりです。」

「そうだね、カイル。だからこそ何だよ。歴史のターニングポイントの分岐で起きた並行世界は壊してきた。だからこそ歪みの原因もすぐに分かる。何せ、現代のガリランドと多少なりとも変わってくるからね。でも、今回はきっと能力によるものだと思われる。だから、歪みが少なくなる。街を見て、村を見ても分からないだろう。ガリランドの変化はきっと全くないと言っても大丈夫だろうね。」

「で、俺達結局何すればいいんだ?」

「敬語使えってば」

「まぁまぁ、2人とも。話を続けよう。だからね、2人にはガリランド北部の実際の街を見てきて欲しい。バルサには並行世界ごしでも通じる電話を持たせているから、それを使ってその多少の変化を伝えて欲しいんだ。分かるかい?」

室長ロイドの言葉に2人は納得した。ここで室長ロイドの後ろに控えていたシェルが2人に電話を渡した。

「これでバルサに連絡ができます。もし、並行世界に行くのであれば、バルサの位置情報はこちらで把握してますので合流したいときは私に連絡してください。」

「ありがとう、シェル。」

「いいえ、では私はこれで失礼します。」

そう言ってシェルは作戦室を出て行った。電話を受け取ったカーンとカイルも作戦室を出て行く。1人残されたロイドは煙草に火を付けた。

「私も現場に出たいな。作戦考えるのだけは暇だよ。」

「聞こえてますよ、室長。」

「なら、私の希望を聞いてくれてもいいんじゃないかな、シェル。」

「・・・・・・」

「なんか返してよ。」

 その頃作戦室を出たカーンとカイルはガリランド北部へと向かった。夜行列車の一番安い電車に乗っている。

「世界を救ってる組織なんだから、もう少し費用出してくれてもいいだろうに。」

「それシェルに言えよ。あいつが室長秘書になってからここまてお堅くなったんだから。」

「なら、兄弟のカイルが言えよ。彼女は俺の事嫌いみたいであんまり俺と話をしてくれないし。」

「そうなのか?家では外で気を張ってる分、家ではだらし無いし甘えて来るぞ。」

「いい、キャップだな。内の組織でも結構シェルは人気高いし狙ってる奴、多いからな。」

この言葉にカイルは驚いた。弁当を食ってる手を止める程に。

「そうなのか、知らなかった。あいつの何がいいんだ?家じゃ片付けられないし、料理もヘッタクソだそ。外じゃ仕事じゃ完全に猫被ってるし。」

「今、カイルの言葉を聞くまで俺達その事知らないし、ただのクールビューティーだと思ってたよ。今その事聞いて俺は密かに株が上がったけどね。」

「なら、今度カールのいい所を教えてやるよ、シェルに。悪い所は割愛して。」

「別にそれはしなくていいけどね。・・・・そろそろ着くみたいだ。さっさと弁当食っちまおうぜ。」

電車を降りて、樹海入口に着くとカイルは

「何?心霊スポット?」

「まぁ、行くしかないでしょ。」

そう言ってカイルはやや怖がりながら、樹海に入って行った。


「3」

「当てはあるの?この辺は都会と違ってホテルとか旅館とかないわよ。」

樹海を抜けて、体が獣の返り血で汚れたバルサを見てディアは言う。俺も血でベタベタする体に嫌気がさしていたし、腹も減っていた。

「行くとこないなら、私のとこ来る?もう1人家にいるけど、それで良ければだけど。」

(俺はこの世界を生んだ原因に接近しすぎじゃないのか。だが、何が原因か分からない以上、もっと接近して情報を探るべきなのだろうか?)

「ちょっと、ちょっと、大丈夫?」

「ああ。じゃあ悪いが寝床を貸してくれるか?」

「勿論だよ。私の家はすぐそこなんだ。少し集落と離れているけど。静かに眠れると思うよ。それにまずご飯かな?」

それだけ言うとディアは歩き出し、そこから家に着くまで俺たちは全く話をしなかった。俺はそれでありがたかった。その分、周りの情報を集める事に集中できる。樹海を抜けると、すぐに見えてくるのは一本道だった。その両端には田と畑に囲まれてる。獣が畑を襲わないようになのか、所々に武器を持ったカカシが立っている。それ以外は見渡す限り畑と田だった。

 駅前を機械と自然に不釣り合いで妙な印象を受けたが、ここは樹海が境界線となって自然一色の世界だった。古き良きガリランドの生活のようだ。ガリランド中央部にはない景色に多少の驚きはあったがただ、それだけだった。

「着いたよ。ここだ。この道をまだ真っ直ぐいくと集落があるんだ。明日になったら行ってみたら?仕事でこの辺の都市化について話すなら、集落の長に話したほうがいいだろうし。」

「わかった。・・・・1つ聞いていいか?」

「勿論。何でも」

「何故、君とその連れは集落で暮らさない?この様な場所では人と繋がって生活しないと大変だろう。」

そう聞くと、ディアは笑った。そしてとても簡単そうな口調で言った。

「私達は集落の厄介者だからね。この辺に住んでいることを許されてるだけでもありがたいんだ。私達が少しだけど、不思議な力を使えるから。」

「そうか。」

「怖がらないの?これを言うとみんな笑うか怖がるんだけど。」

ディアは戸惑っていた。恐らくの俺の無表情という反応が初めてなんだろう。俺は何に驚けばいいのか分からなかった。

 だから思った事を言う。

「都会にはここよりも沢山人がいる。別に特殊なことが出来るのならそれは人より稼げる手段が多いと言うことで喜しいことなんだよ。」

俺の言葉にディアは更に動揺した様に見えるが、すぐに笑顔になった。

「素敵な考え方だね。まぁ、取り敢えず家に入ろっか。」

そう言ってディアは扉を開ける。

 扉を開けてすぐにディアの妹が迎えてくれた。彼女はミィアと言うそうだ。ミィアはディアと似て何やら明るかった。俺とは正反対の性格で眩しい様な妬ましい様な気分になった。家に帰ってすぐにディアが風呂に入り、妹のミィアが食事を作ってくれていた。急な客の俺の為に新たに追加で食事も作ってくれている。その時俺は2人に悟られない様に家をよくみて回っていた。

 今回の樹海の件でディアの戦闘能力がかなりのものであることが分かっていた。彼女が歪みの原因なら、間違いなく殺す事になるし、そうなれば戦闘は避けられないだろう。彼女は強い。きっとディアを殺そうとすればミィアも抵抗するだろう。恐らくきちんと戦える。ディア程じゃないにしろだ。正々堂々の戦いになれば数の多いあちらが有利だし負ける可能性もある。そうなれば並行世界を破壊できないし、ここで牢屋に入る事になる。

「真正面からの戦闘は避けたいな。」

俺がふと考えを口に出すとディアが後ろから消えていたらしく

「何のこと?」

と聞いてくる。俺は慌てることなく嘘に嘘を重ねた。

「集落の長とだよ。ここまで綺麗な自然ならきっと集落の人は誇りを持ってるだろうし都市化には反対するだろうな、と思ってね。」

「そっか、かもしれないね。あと風呂空いたよ。先入らせてもらって悪いね。体洗っちゃって。その後一緒にご飯食べよう。」

「ああ。」

それから言われた通りに風呂に入り、3人で食事をした。

「バルサ、かなり戦えるよね。都会の人はみんな戦えるの?」

「いや、俺はたまたまだ。だからこういう自然の多い所や危険の多い所に行かされる。」

「大変だね。」

これはディア、俺、ミィアの順番の会話だ。客の俺にも姉妹2人が食べている物と同じものをミィアは作ってくれて、更に男だからよく食べるだろうと多めに作ってくれていた。ありがたかったが俺はそこまで食べないから、正直苦しかった。

「沢山食べてくれてありがとう。美味しかった?」

「ああ。とても美味しかった。ありがとう。今日は忙しくてクタクタなんだけど、俺は何処で眠ればいい?」

俺は食べ終わった後、ミィアと一緒に皿を片付けていた。ディアは買い出しに行って疲れて眠ってしまったらしい。

「ええ、じゃあ案内するね。」

「ありがとう。」

そう言ってミィアは2階に上がり、物置の部屋に布団を敷いてくれていた。なんだか申し訳なさそうだが、俺にはこれで十分すぎるほうだった。

「何から何まですまなかった。」

「いいえ。じゃあ、おやすみなさい。」

それからしばらく経って物音がしなくなった。きっとミィアも眠ったのだろうと判断した俺は物置を物色し、歪みの原因になりそうな物を探した。

 だが、ここには重要そうなものは無い。まぁ会ったばかりの人間を重要なものが沢山しまってある家にはとめないだろう。

 物置部屋の窓から外へ出て、ディアに言われた集落のある方に向かった。走り出してすぐに集落が見えて来た。まだ、集落の方は明るく賑やかであった。見ない顔がうろつくのはまずいと思った俺はすぐに隠者の能力を発動させ、周りから見たら何も見えない、言わば透明になった。そのまま、足音を消し、匂いを消し、体重を消した。そのまま、その集落で1番煩かった酒場へと移動した。

 酒場では、中年らしき男性4人が酒を飲んで騒いでいる。俺はこの雰囲気が反吐が出る程嫌いだった。ディアが家に招いてくれて良かったと今心底思う。 

 俺の身体のあらゆる情報を消したまま、酒場の端で突っ立ちながら男達の話を聞く。

「最近、あの魔女達はどの様な様子だ?」

「姉の方が今日も隣町に野菜を売りに行っていたよここでは、もう売れないとわかったらしい。」

「そうか、なら隣町にも教えてやろう。あの姉妹が魔女だってな。そろそろ、あの樹海を通って生きてきられる方がおかしい。」

「まぁ、そういうなよ。樹海を通らない安全な道は俺達があいつらに使わせないんだから。」

「素手で岩を割る妹に、未来が見える姉。あんな事ができる奴が人間なもんか。」

「この間も奴が使う井戸に毒を入れてやったのに姉が見抜いたんだと。」

このようにあの姉妹へと嫌がらせが2、3時間続いた。俺はこの延々と続く嫌がらせの内容を記憶し続けた。


「4」

「俺たちに喧嘩売ってんのか?この樹海は」

「そんなに叫んでも仕方ないだろう、カーン。ここに住む獣を必死に生きてるんだ。」

「だろうけど、多すぎなんだよ。何回かかってくれば気が済むんだ。」

 樹海の獣に襲われた2人は全身獣の血で汚れたいる。樹海の夜、迷いに迷い本来1時間で抜けられる距離を3時間かけて抜け、その間ありとあらゆる獣に襲われ続けたカーンの疲れからのイライラが爆発寸前だった。

「力を使い過ぎだ。樹海を抜けられたから良かったものの、あのまま遭難してたら不味かったぞ。お前をおぶって、逃げ回るのは無理だ。気を付けろよ。」

「そうだなカイル。悪かった。・・・にしても何にも無いなこの場所。早く都会に帰りたい。」

「その為にも、さっさと仕事を終わらせて帰ろう。バルサに連絡しなきゃならんし。」

そう言って歩き出すカイルの後を追うカーン。3時間ぶりの整備された道にカーンは普段歩いている道のありがたさを知る。

「なんでこうなったんだろうな、カイル。本当だったら今頃、バルサと3人で酒飲んでたよ。」

「そういう並行世界もあるかもな。壊しても壊しても新しく生まれるし。もしかすれば、俺達がこの仕事してない世界もあるかもよ。」

「なら、何してんだよ俺ら。この仕事してない俺も想像出来ない。」

「ああ、俺もだよ、カーン。」

このまま、疲れたカーンは無言で歩き出した。2人はよく話すが基本カーンが話をして、カイルが聞き役に徹する事が多い。カイル自身も話す事がバルサほど話をするのが苦手では無いが基本自分から話はしない。

 しばらく両端を田と畑に囲まれた道を歩き続けると2人は2階建ての家を見つけた。2階建ての家からは人気がなかった。明かりがないが、長らく人が住んでいない雰囲気でもない。かなりきちんと庭は整えられており、家は綺麗だった。

「何処かに行ってんのか?」

「先に進もう。この先に集落がある。駅にあった地図に書いてある。カーン、ここで待ってるか?お前が黙るって相当疲れてるだろ。」

「前の仕事終わったばっかだからな。悪いこの先は頼むわ。並行世界に行かなきゃならないかもしれんし、休んどくよ。」

「わかった。ここで休んでるんだ。」

そう言うとカイルは走ってこの先の集落に向かう。カーンは家の庭に横になる。

「あいつの体力宇宙かよ。底無しだな。」

 

 しばらく走ると集落に着いた。その集落はバルサの行った並行世界のように賑やかだった。カイルは一先ず情報が集まりそうな場所を探した。持って来ていたカメラを持って集落中を歩き回る。夜なだけあって外を歩いている人はいないが、明かりが消えている家はなく、外にいても家の中で騒いでいるのが分かるほど、大きな声が聞こえて来ていた。特に大きな声が聞こえた家に耳を近づけるとはっきりとした声が聞こえてくる。

「やっとある魔女の1人が死んだか。厄介者か居なくなって集落の未来は明るいな。」

「ああ、俺の子供があいつらの使ってる井戸に毒をいれておいたら、気付かず妹の方が飲んじまったらしい。」

「流石に未来を見る魔女も子供がした事は見抜けなかったか。」

「あと1人を始末するのも子供らにやらせるか。」

「流石に子供に人殺しをさせるのは」

「黙れ!あいつらは人じゃない。魔女だ。それに今回の事も子供達は自分が何をしたか分かってない。分かってなければ、自分が人殺しだとは思わないよ。」

「いえ、村長。もう俺達が魔女に手を下す必要はありませんよ。姉は方はショックで体を壊したそうですよ。俺があんたが未来を見てたら妹は死ななかったよと言ってやったらね。」

「よくやった。これでやっと汚物からこの集落は開放される。さぁ飲み直すぞ。」

聞こえてくる笑い声とは裏腹にカイルは吐きそうになった。楽しそうに人を殺した事を話している村民達に嫌悪感すら抱いた。気付かれる前にカイルは村を出てカーンの待つあの2階建ての家の前に向かう。

「戻ったか、大丈夫だったか?」

「ああ。カーン、バルサに電話するんだ。歪みの原因が分かった。あと、ここを急いで離れるぞ。この先の村はイカれてる。俺たちも見つかれば何されるか分からない。」

「分かった。一休みできたし行こう。」


「5」

 電話が鳴った。

 最悪のタイミングだった。俺はまだ話を聞く為に姿を消して酒場に居た。他の男達から見れば誰も居ない場所から電話の音がなっているのだ。

「何だ?」

酔っ払っている男が叫んだ。俺も電話をすぐに切るが、もう1度かかってくる。そもそもこの辺は電話が普及してないらしく、電話だとすら男達は理解できてなかった。

「あの魔女達が仕返しに来たんだ。何処にいる。」

男達は恐怖なのか憎悪なのかは分からないが先ほどまで笑って飲んでいたのが急に表情を変え店から出て行き、見つかるはずのない魔女を探し始めた。

 俺はその隙に電話に出て、

「掛け直す。今はタイミングが悪い。」

とだけ言って切った。

(歪みの原因かもしれない奴を正しい世界から来た人間達に殺されるのは不味い。)

「やるしかないか。このまま暴走されて2人を殺されるのは不味い。」

俺は隠者の能力を解き、この世界に姿を晒した。すぐに1人の男が俺に気づくと、一緒に飲んでいた4人全員で俺の事を囲む。

「お前、誰だ?魔女の仲間か?」

1人の男が威圧した態度で聞く。

「違う。魔女の仲間じゃない。」

「なら、さっきの音はなんだよ。」

「あれは電話だ。都市部の人間はみんな使っている。」

「いや、信じられない。魔女に繋がるかもしれない奴だ。」

「危険だよ、村長。」

「ああ、殺すべきだ。ここは樹海が境界線になって人は来れない。俺達が占領している道に新しい奴が通った所は見てない。こいつは嘘をついてる。」

そう言って男達は段々と俺に近づいてくる。俺は腰に着けているナイフと銃に手を伸ばしてから言った。

「樹海を超えて来たんだ。本当だ、ガリランド中央部の町から来たんだ。」

「樹海を普通の奴が変えられるはずがねぇ。やっぱり魔女の仲間じゃねぇか。」

そう言った奴が俺を殴ろうとし、そいつの拳を受け止め、胸元を掴んで投げ飛ばし壁に叩きつけた。それを見た残りの3人の男達が俺に向かおうとする。

「待て!」

俺はいつもより、低い声で言った。出来るだけ威圧的に怯えさせるように言った。だが、元々平均通りの身長の俺は余り怖がられなかったようだ。

「普通の奴は樹海を通れない。だが、俺は樹海を通ってここに来た。なら、普通の君達より強いのが通りだ。なのに君達は素手で俺に向かってくるのか。」

男達は冷静になったのか、少し俺から距離をとった。男達3人は顔を見合わせてから、また少しずつ距離を縮めてくる。

「警告する。次俺に向かって来れば容赦はしない。そこの男は気絶してるだけだが、お前達が向かってくるなら殺す。これは脅しじゃない。俺はナイフも銃も持ってる。」

そう言ってから俺はナイフと銃を腰から出した。それでも男達は引かなかった。しかも次第に騒がしい音を聞いて集落の人間達が集まってくる。

「どうしたんだ?」

新しく来た槍を持った男達の1人が訪ねる。

「いいところに来た、自警団。こいつは魔女の仲間だ。俺達を監視してたんだ。生かしちゃ帰れない。きっと毒の仕返しにに来たんだ。」

「違うって言ってんだろ。」

俺は叫んだが、誰にも声は届かなかった。彼女たち姉妹が何をしたのかは分からないが、相当恐れられている事は分かる。自分にできない事ができる人間を恐ろしいと感じてしまうのはある程度しょうがない事だが、ここまで来ると病気だ。

 「彼女達は怒っていたどころか、初対面の俺にお節介を焼くお人好しだったよ。」

「やっぱり知り合いじゃないか。もういい、殺そう。」

その声を合図に槍を持った自警団3人を前におれに向かって突進して来る。俺はなるべく戦わないようにしたかったが仕方ない。ため息をした後、俺はナイフと銃を構えた。

「警告はした。あとは自己責任だ。死んでも文句は言うなよ。」

槍を突き出して向かってくるのをしゃがんでかわし、自警団1人の足のアキレス腱をナイフで切り裂き、立ち上がると同時に壁際まで後退した。その後、槍を俺に刺そうとしたのを避けると槍は壁に刺さり抜けなくなった。それを引き抜こうとする自警団の男の手首の腱を斬り、痛がって後退したのところを蹴り飛ばした。

「バラバラに行くな!奴は魔女の仲間だ。普通の奴の力の比じゃない。」

それを言った男の顔を銃で吹き飛ばした。

「バラン!お前何を!」

それを言った男の顔も銃で吹き飛ばす。

「お前卑怯だぞ。」

そう言って自警団の男が槍を持って突進してくるがその槍を奪い取り足をかけて転ばしたのを槍で心臓を突き刺した。

 残った1人の男は怯え、後ろにじわじわと後退した。俺はそれをじわじわと距離を詰める。

「お前、卑怯だ、話してる最中にこ」

まだ言った時に銃をその男に向ける。男は話すのをやめて目を大きくし、ただ怯えた。

「卑怯?俺1人に何人もが一斉に攻撃しておいてそれはないだろう。・・・・それにね、戦いに卑怯もないんだ。生きてる奴が勝者。それなら、卑怯と罵られても生きてる奴が勝者なんだよ。卑怯と思ったなら、それが君の敗因だ。」

「やだ!!殺すな!殺さないでくれ!」

「なら、俺にこれ以上関わるな。いいな。」

「分かった。」

それを聞いて俺は銃とナイフを腰にしまった。酒場の出口で止まると男と怪我をして倒れた自警団2人が悲鳴をあげた。

「これは親切だよ。頭を吹っ飛ばした2人以外は怪我してるだけだ。すぐに手当てしろ。そうすれば助かる。」

それだけ言って俺は集落を離れて行った。この世界を壊せばこの人たちを助けた所で意味がない。壊すときにみんな死ぬ。無駄な事をしていると分かっていても俺はこの偽善をやめられなかった。

 集落をかなり離れて、ディアとミィアの家に近づいているときにもう1度電話がなった。

「何?今仕事中で忙しいんだけど。悪いが飲みに行くのは別の日にしてくれ。」

「分かってるよ、バルサ。これは室長に頼まれてお前の仕事を手伝っているんだ。今回の仕事は特殊だからね。」

「そうなのか、済まないカイル。それで?」

「ああ、そっちは片付いたのか?さっき電話した時揉めてるみたいだったけど。」

「片付いたよ。まぁ、タイミングは最悪だったがね。それで手伝いって何してくれてるんだ。」

「こっちの世界では、魔女の妹が死んだ。姉が未来を見ずに妹が毒を飲んで死んだ、と言ってた。これに聞き覚えあるか?この魔女っていうのに俺は引っ掛かったんだが。」

「魔女っていうのには聞き覚えがある。たが、2人とも生きているぞ。」

「なら、それが歪みの原因だろう。こちらの世界に正す為にはバルサ、申し訳ないが分かるな。」

「ああ、妹の殺害。それがこの世界の歪みを無くして、世界を壊す方法か。分かった、ありがとう。」

「バルサ、応援に行こうか?1人でいけるか?」

「問題ない。じゃあ切るぞ。」

「おい、バルサわかってんだろうな、かえった」

俺は電話を切った。最後にカーンのバカデカイ声を声を聞いて耳が痛くなる。俺は大きく2つの意味で溜息をついた。1つはカーンの声で少し気が休まれたことに対して、もう1つは現実世界ではもう死んでいる妹ミィアを殺さなくちゃならないことに。

 その頃、カーンとカイルはと言うと。

「あの野郎切りやがった。飲みの約束忘れてなきゃききんだが。」

「取り敢えず樹海の先の駅に行こう、カーン。ここに居るのが見つかれば面倒な事になる。」

「また、樹海か。今度は俺の言う方向に行くぞ。さっきカイルの言う方向に行って迷いに迷ったからな。」

「分かったよ。」


「6」

 彼女達姉妹の家に戻った時はもう朝日が上っていた。姉妹達の朝は早いらしくディアはもう洗濯を干して、家の台所からは良い匂いがしてくる。俺はそっと家の壁を登り、抜け出した窓から部屋へと戻った。それから、何もなかったかのように部屋のドアから出て一階へと降りる。

「おはよう、早いんだね。」

ミィアが食事の準備をしながらそう言う。俺の雰囲気がおかしい事に気がついたのか首を傾げる。

「大丈夫?眠れなかったとか?」

実際寝ていないがそんな事を言えば怪しまれ、殺しにくくなる。だから、いつもならそうである事を言う事にした。

「寝起きは機嫌が悪いんだ。申し訳ない。」

「そっか、なら心配いらないね。」

そう言うとミィアは料理に戻る。俺は殺害の機会を伺った。ディアがいない今がチャンスなのだろうか。それとも、もっと機会を待った方が良いのだろうか?俺は自問自答する。だが、答えは出ない。これはいつもの事だ。これは俺の持論だが、殺しに最もいい機会なんてない。そもそも、殺されるために生きている人間や動物はいないのだから。

 俺はこれ以上彼女たち姉妹に良くされればされる程、殺しにくくなると思った。だから、焦りかもしれない。だが、今しかないと思った。

 2人は恐らく能力者。一筋縄じゃいかない。だから全力で行かなくては。

 俺は隠者の能力で自分の姿を消した。集落で話を盗み聞きしていた時のように。次々に自分の情報を消していく。

「バルサ、スクランブルエッグって食べられるよ」

俺は姿を消したまま、ナイフでミィアに斬りかかるとミィアは感なのか、それとも能力なのかは分からないが、咄嗟に後ろに下がり俺のナイフをかわした。その後、後退させた足で地面を強くから、俺の腹に向かって突進する。左手にもナイフを持ち、2つのナイフでそれを受け止める。

「姉さん!」

その声と同時にディアが剣を持ってドアを蹴破り入ってきた。俺の姿は見えないからか戸惑っているのが分かる。だが、すぐにディアの瞳が青く染まると俺に目掛けて剣を投げてきた。

 それを避け、ミィアの連打を受け流しながら、天井に飛び上がるとまた天井を蹴って今度は俺がミィアの頸動脈目掛けて突進する。

「ミィア!上よ後ろに下がって!」

俺の事を見失っていたミィアの首を取ったと思った矢先に放たれたディアの言葉で後ろに下がり、俺の攻撃を避けた。

「姿を見せなさい、卑怯者。」

ミィアは言った。卑怯者という言葉。何度も言われ慣れたはずだが、今回は心に来た。

 いつも世界を壊す時には、なぜ殺そうとするのかを教えずただひたすら殺そうとした。知ったからと言って殺される本人にとってここは現実の世界であり本物の世界。こちらの都合で並行世界と呼び壊そうとしているのだ。何のことか理解できるはずもない。知った所で世界が壊れてしまえば、何も残らないから。だが、今回なぜ俺が殺そうとするのか2人に知って欲しかった。見知らぬ俺によくしてくれた2人に。 

 俺は隠者の能力を解いた。すると2人は驚きの顔をした。正確にはミィアは驚きの顔を、ディアはそうであって欲しくないもの見た時の顔だった。

「能力で貴方だとは分かっていた。少しの付き合いでも貴方は村人のように少し人と違うからって異物を見るような目で見なかったから、仲良くなりたいと思っていたのに。」

「俺もだ。君達2人とは居ても不快に思わなかった。数少ない人だ。君達で6人目だよ。俺も殺したくはない。だが、仕事だ。殺さなくてはならない。」

「何言ってるの?貴方は殺し屋?魔女と呼ばれる私達を殺しにきたのか?」

「違うミィア。俺は世界を壊しに来た。自分の世界を守るために。俺はこの世界の人間じゃない。」

「何を言ってるのぉ」

そう言うとミィアは近くにあったフライパンを投げる。それと同時にディアは玄関に置いていた剣を持ち、俺に向かって来る。

「相性最悪だよ。闇討ちが得意な俺とそれを見破る君。先に殺さなきゃいけないのは・・・君らしい。」

俺は左手のナイフをディアの目線に向かって投げすぐに腰の銃を取り出しディアに向ける。ディアは顔の前に来たナイフを剣で払い除け、自分に向けられた銃口を凝視した。俺が引き金を引こうとした瞬間にミィアは俺との間合いを一瞬で詰め、俺の体に拳をねじ込もうとするが、それを何とかかわすともう目の前にディアがいて、俺の首に向かって剣を振る。右手のナイフで受け止めるが、俺の左前には、力を込めたミィアの拳があり、慌てて、後ろに退いた。俺が避けてもミィアの拳が止まることは無く地面に直撃し、家の地面に大穴を開けた。

「戦車のアルカナ持ちか。」

俺がそう言ってもお構いなしにミィアは次の攻撃に移り、今度は壁に大穴を開ける。その穴から俺は家の外へ脱出した。

「気遣ってるの?殺し合いに?」

ミィアが訪ねる。俺は首を横に振った。

「じゃあ何故?」

今度はディアだ。俺が口を開くの待っているのか、攻撃はしてこなかった。

「俺は卑怯者だからだ。基本戦闘に置いて、負ける確率がある時は襲うのは寝込みか背中、もしくは俺の能力で見えなくなってから殺す。」それが今回失敗して焦ってる所だ。」

「なら、何故逃げていない?初手を外し第2第3の攻撃がダメなら撤退するのがベストなはず。なのにお前は残った。」

ミィアは指摘した。この会話の時にも彼女達2人に隙はなかった。逃げるのなら追わない。そんな無言の圧力があった。

「私達を殺しに来たのなら、何故樹海で殺さなかった?その時であれば、私に隙は沢山あった。貴方の腕なら殺せたでしょう。」

「殺さなきゃならない相手だとつい2時間前くらいに知った。俺は不必要な殺しはしない。」

「甘すぎる。本当にお前は殺し屋か?」

「厳密には違うが、君達にとってはそうだ。だから迷わず殺しにくればいい。こちらもこれから全力で行かせてもらう。」

その言葉を放つとディアはまた瞳を青くしてこちらに向かい、ミィアも壁や地面に大穴を開けた時の力を感じた。

 俺も全力でやらなければならない。

 彼女2人を抹殺する事だけを考えろ。

 甘すぎる考えを捨てろ。この世界を壊すために最善の方法を探せ。

 1人だけ殺し世界を殺そうとするな。

 今までもそうだっただろう。俺は最低な人間だ。

 善人者ぶって近づき、邪魔をするのなら皆殺しにしたきた。

「そんな男なんだから」

オレがそう言うと2人は距離を取った。ディアの額には冷や汗がある。

「どうした?さっきのように来れば良いだろう。オレはさっきと変わらないんだからな。」

オレは持っていた銃をディアに向かって投げた。当然のようにディアは弾き返したが、その行動の隙にディアとの距離を詰め右手のナイフでディアの右目を切り裂いた。悲鳴を上げ、後ろに下がり後退しようとする時に、ディアの腹を蹴り吹き飛ばした。

「姉さん!」

そう言い、感情に任せて拳を振るうミィアの攻撃は単調だった。さっきの家の中での攻撃と殆ど同じ動き。ミィアは拳をオレに振り抜いたが彼女の攻撃はオレを貫通し、すり抜けた。その事に動揺し、ミィアは驚いた。たが、すり抜けたのは彼女の拳だけでオレの拳は彼女の顔に直撃し、仰反りながらもオレに振った拳はまた体を貫通してすり抜けた。

「驚いてる暇があるのかぁ」

オレは言うと同時にミィアの腕を右手に持っていたナイフで切り刻んだ。

 背後からディアはオレを刺そうとするが、その剣もオレの体をすり抜ける。

「お前の攻撃がオレに効かないことは未来で見えなかったか?」

オレの体を剣がすり抜けてる最中にディアの腹にナイフを刺し、左手で彼女の顔を持ち地面に叩きつける。

 悲鳴が上がった。たが、関係ない。戦いはどちらかが死ぬまで続く。

「さっさと死ねぇ。」

オレはミィアに向かってナイフを全力で投げ、立ち上がろうとしていたミィアの肺に直撃した。上手く肺に呼吸が吸い込まなくなり、ミィアは立ち上がらなくなっていた。

 俺はディアに投げた銃を拾い、その足でミィアの所へと向かい彼女の額に銃口を付けた。

「何故、妹殺す?」

気が朦朧としているのか、言葉が曖昧なディアが叫ぶ。

「仕事だ。世界を壊す。自分勝手な理由でね。俺を恨んで良いよ。君にはその資格がある。」

「待て殺すな!なら最初に私をころ」

俺は引き金を引いた。その瞬間にミィアの頭は地面に落ち、ディアの叫び声が聞こえた。

 そしてその瞬間に世界は壊れた。


「7」

 ディアの叫びを最後に俺は並行世界に入った場所、北部の駅入り口に居た。そこには、カイルとカーンの2人も居た。

「お疲れ」

「ああ」

カイルの言葉にそれだけ返し、俺達3人は列車でガリランド中央部へと向かった。

俺はその間一言も話さなかった。2人も気を使い俺に話しかけなかった。

 ガリランド中央部にある亀裂対策局作戦室で室長であるロイドに任務の報告を済まし、俺は自宅に帰宅した。

 何度世界を壊してもこの感情に慣れることはなかった。きっと慣れちゃならないのだろうが。

 暫くして、室長であるロイドの命令でまた、ガリランド北部へと向かった。

 全てを無くした彼女に会いに。

 駅を出て直ぐにある樹海は並行世界にあるものと全く同じだった。何もかもが同じでここに来るのは初めてなのに不思議な気分だった。

 樹海を出て暫く歩くとディアとミィアの家に着いた。家の鍵は開いていて、家に入ると並行世界の明るい雰囲気は残っていなかった。2階に上がり、俺が泊まった部屋の扉を開けるとディアが居た。だがその顔は俺の知っているディアとは大分違っていた。

 やつれていた。

 汚れていた。

 痩せていた。

 俺の知っている笑顔はなく、俺がミィアを殺した時に叫んだ時の顔によく似ていた。

「貴方は誰?妹の様に私を殺しにきたの?」

声は一緒だった。でも質が違っていた。

 並行世界と現実世界で性格が異なることはない。つまり彼女はミィアが、妹が死ぬ前はあの世界のディアだったのだろう。 

 彼女の問いに俺は首を振った。

「はじめまして。俺は亀裂対策局のバルサロランド。君をスカウトに来た。」

「・・・・・・・・」

「そうなる気持ちは分かる。妹を、大切な人を亡くした。」

「分かるわけありません。貴方は大切な人を亡くしたことがあっても自分のせいで無くしたことはない。」

ディアは静かに冷たい声で答えた。俺は首を縦に振る。

「確かにない。だが、俺は人の大切な人を何度も殺してきた。だから、その人の気持ちを知っている。分かると言ったのは訂正する。厳密にはわかってない。」

ディアは顔を上げた。俺の顔を青い瞳で見た。

 するとディアは泣き出した。

「俺は並行世界の、別の世界の君達2人の幸せ壊した。その世界は君が負い目を感じている、井戸の水を飲んでも大丈夫か未来を見た世界だった。これは仮説だかな。だから、ミィアは死んでなかった。だが、それでは歴史がずれる。この世界まで歪む。だから壊した。言い訳しない。そもそも出来ない。」

「その世界では、妹は元気でしたか?」

「ああ、君と仲良く暮らしてた。元気だった。君も妹も元気だった。」

そう言うとディアはまた泣き出した。先程よりも大きな声で。

「俺の仕事はこの悲劇に立ち会い、その幸せの可能性を壊すことだ。俺達の世界という大義名分のため。」

「・・・・・」

「それでも、俺達組織に力を貸して欲しい。世界を守るために。」

「・・・・・分かった。」

「ありがとう。その勇気に感謝する。」

こうして俺とディアの歯車は動き出した。



 


 













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