分裂していいのは、○○だけ!!
現代文に古典。数Ⅰに数A。世界史に政経。生物に化学。英Ⅰに英コミ。
どうしてこんなに科目が増える!?
中学の時は、5教科だけだったのに。
なにゆえ、10教科にも増えるんだ、高校!!
お前は、分裂スライムかっ!!
それとも、精霊系モンスター。
特に、数学。
お前は分裂せんでいい。むしろ消えてなくなれい。
「苦戦してるみたいだな」
他人事のように、陽彩が言った。
モンスター退治に明け暮れていても、高校生活という日常は待ってくれない。
高校で、初めての中間テスト。
その真っただ中にいて、私はかなり疲労困憊だった。
「だって、テスト、5日もあるんだよぉ!?」
中学の時なら2日ですんだのに、教科が倍に増えたから日数も自動的に増える。
「高校生って、こんなに大変だったんだ~」
てっきり、スマホいじりまわして遊んでるだけの、気楽な存在だと思っていたよ(偏見)。これでみんな、部活だの恋愛だのやってられるのだから…、尊敬に値するわ。
「テスト勉強、大変だったら、しばらくはつき合わなくてもいいぞ!?」
「ううん。大丈夫~。つき合うよ~」
教科書をいったん置いてから、よっこらせと立ち上がる。
目の前には、先ほど陽彩が倒したモンスターの宿主。多分、自分たちと同じ高校生だと思う。揺らめいて消えたのはキノコっぽいシルエットだった…よな!? あんまりちゃんと見ていなかったからわかんない。ひ弱そうな男子生徒だったし、まあ陽彩なら大丈夫だろうと、茂みに隠れながら勉強していたのだ。
いつものように、気を失った宿主をベンチに寝かせ、そそくさと公園を離れる。
「それより、陽彩のほうこそ大丈夫なわけ!?」
勇者として、モンスターと戦いながらの試験勉強。
「まあ、元からの体力が違うからなあ」
わざとらしく力こぶを作って見せられたけど、制服の上からじゃあ、ほとんど膨らんでいるのがわからない。
「もし良かったら、オレが勉強を教えてやろうか⁉」
「うえっ⁉」
「てまりよりは得意だけど!? 数学」
いつもつき合ってもらってるから、そのお礼だと、つけ加えられた。
数学は、私にとって最重要項目だ。ハッキリ言ってヤバいぐらい理解できてない。
できることなら、誰かに教えてもらったほうが絶対いい。
「…お願いします」
藁にもすがるような気持ちで、陽彩の厚意に甘えることにした。
とりあえず、どっちかの家で勉強しようということになり、二人並んで帰宅する。
ドリアードが宿っていた木を通り過ぎ、川に架かる橋を渡ろうとしたとき。
「―――待て」
鋭い声で、陽彩が制止した。
「なにか、いる」
その一言に、私にも緊張が走る。
周囲には誰もいない。
鳥すら飛んでいない。
動くのは、風にそよぐ川沿いの木の葉だけで、それ以外に何も感じない。
だけど。
ものすごく空気が張り詰めている。
ピリピリと、痛いぐらいに。
私をかばうような姿勢で、静かに陽彩が剣を取り出した。
一瞬の静寂。永遠にも感じられる時間。
「―――――っ!!」
それは、音もなく川面を走った。
川を見えない何かが走り、橋の手前で大きく跳躍する。
「てまりっ!!」
私を抱き、陽彩が横に大きく跳んだ。
(なっ、なにっ!?)
私をかばった陽彩の背後で、それは形を成す。
「水―――!?」
「ウンディーネ、だ」
ギュルギュルと、空中で水の塊が激しく回転し、バスケボール大の形を作っている。
意志を持った水。
それが、敵意をむき出しにして、陽彩に襲い掛かろうとしている。
「ヤバい、な…」
めずらしく、陽彩が弱音を吐いた。
「てまり、逃げろ」
短く告げられる。それだけ、陽彩も切迫している、ということなのだろう。
私から離れ、体勢を整えるまで、一度もウンディーネから視線を外さない。
それほど集中しなくてはいけない相手だ。
邪魔しちゃいけない。
私は、素直に陽彩の言うことを聞くことにした、が――。
「きゃあっ!!」
「てまりっ!!」
川面から、もう一体のウンディーネが現れ、逃げようとした私の行く手を阻む。私も、ウンディーネから敵認定されているらしい。
陽彩の前に一体。私の前にも一体。分裂した!? それとも仲間を呼び寄せた!?
二体のウンディーネに挟まれ、私たちは背中合わせに立つほかなかった。
「ねえ、炎魔法、使わないの⁉」
あのポイズンフロッグを倒した、例の魔法。
「無理だ。ウンディーネに炎は効かない」
炎は水に弱い。それ、ファンタジーの元素の原則。
まあメ〇じゃなく、メ〇ゾーマならちょっとばかり強引に効果が出るのだろうけど。
陽彩はそこまでの魔法を、マスターしているわけじゃないようだ。
ということは、剣で相手を倒すしかない。
―――二体も!?
ジリジリと、ウンディーネに距離を縮められる。
マズい。完璧にマズい。
絶体絶命。万事休す。
この場合、攻撃されるのは、スライムである部分だけなのかな。それとも瑞浪てまりという部分もなのかな。スライムだけなら、前世が無くなるだけだけど、後者だった場合、シャレにならない。
自分のなかの恐怖と緊張が最高値に達した時、二体のウンディーネが同時に動いた。
(もうダメ―――ッ!!)
その場にしゃがみこんだ私を飛び越して、陽彩が私の近くにいたウンディーネを薙ぎ払う。けど。
(間に合わないっ!!)
もう一体に背をむけることになり、今度は陽彩が危険にさらされた。
「くっ!!」
陽彩もこうなることがわかっていたのだろう。そのまま私を守るように、覆いかぶさってくれた。
でも、それじゃあ…。
バリバリッ、ドドーンッ!!
あたりの空気を叩き潰すような音が響き渡った。
その音は振動となって、空気を揺らし、大地を伝って足元からジンジンと身体に響く。
(な、なに…⁉)
わけのわからない音に、おそるおそる目を開ける。
陽彩も状況が理解できていないのか、不思議そうな顔をしていた。
辺りに、ウンディーネの気配は残っていない。
代わりに…。
「大丈夫!?」
逆光で顔は見えなかったけど、高校生らしい女の子がそこに立っていた。




