表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/23

あるある展開、間に合ってます。

 ガラッ…‼

 やや乱暴に開けられた入り口ドアの音に、顔を上げる。

 「あれ⁉ 先生いないのか⁉」

 困ったような声に、のそりと動き出す。

 「陽彩(ひいろ)…⁉」

 ベッドの周りを仕切っているカーテンを動かし、声の主を確認する。

 「てまり!? どうしたんだ、お前」

 顔をのぞかせた私に、相手も驚いている。

 「うん、まあ、ちょっと…」

 言葉を濁らせ、陽彩(ひいろ)を見る。

 体育の授業だったのだろう。半袖のシャツにハーフパンツという出で立ち。少しぎこちなく何かをかばうような歩き方で、保健室に入ってくるが…。

 「ケガしてるっ!!」

 その様子に、飛び跳ねるように、ベッドから降りた。

 陽彩(ひいろ)の右(すね)の辺りから血が流れ、赤黒い筋になっている。

 「ああ、ちょっとサッカーでやっちまった」

 バツが悪いのか、私から傷を隠すように、陽彩(ひいろ)が少し背を向けた。

 「手当てしてもらおうと思ったんだが、まいったな…」

 先生が不在で、困っているのだろう。

 脛だから自分で処置できるかもしれないが、クスリの場所が陽彩(ひいろ)にはわからない。

 「…私、手伝おうか⁉」

 意を決して、陽彩(ひいろ)に提案する。

 「いいのか⁉ お前…」

 血とか苦手だろ!? 陽彩(ひいろ)の消えた語尾がそう告げていた。

 「大丈夫だよ。私だって成長したんだよ⁉」

 嘘だった。けど、成長したいとは思っている。

 いつまでも弱いスライムではいたくない。

 彼を椅子に座らせると、手早くクスリを捜し出す。

 倒れることの多い私にとって、保健室はよくなじんだ場所だった。高校に入ったばかりでも、クスリのありかなどは、なんとなく察しがつく。

 消毒薬と、脱脂綿、それとピンセット、大きめの絆創膏。

 それらを用意してから、陽彩(ひいろ)の傷に向き合う。

 ゴクリ…。

 そのケガの激しさに思わず唾を飲み込む。

 「ホント、大丈夫か⁉ 無理なら、自分でやるけど」

 「だっ、大丈夫っ!!」

 完全に虚勢。でもやらないわけにはいかない。

 「傷口は洗ってあるの⁉」

 「ああ。とりあえず、水道で流してきた」

 なるほど。だから靴下が濡れているのか。砂がついてる様子もない。

 それを確認してから、脱脂綿に消毒薬を含ませる。

 傷は、面積こそ大きいものの、深さはほとんどない。

 擦り傷と分類されるレベルだ。

 「イッ…‼」

 ピンセットで脱脂綿を傷にあてると、陽彩が軽く声を上げた。

 浅くても傷は傷だ。消毒薬がしみるのだろう。少しだけ顔をしかめている。

 脱脂綿を動かすたび、身体が軽く痙攣したように、引きつっている。

 (魔王さま、これも勇者に攻撃したってことになるのでしょうか)

 血を見るのは怖いけど、陽彩をいたぶってるような感覚に、不思議な気持ちになってくる。

 もっと痛めつけて泣かせてやりたい――。

 それは、モンスターの持つ攻撃性が、そう感じさせているのかもしれない。

 声を殺して痛みに耐える陽彩の姿は、それだけ珍しくもあった。

 消毒をすませ、一番大きな絆創膏を貼ってあげると、陽彩が軽く息を吐き出した。

 「サンキュ。助かった」

 私の思惑など気づかなかったように、陽彩が笑いかける。

 「自分じゃ、少しやりにくかったからな」

 ううううう…。

 その言葉と、笑顔に罪悪感を覚える。

 珍しいとか、もっとイジメてやりたいなんて思ってゴメンナサイ。

 「それより、てまりは!? 大丈夫なのか、それ」

 陽彩に指さされ、自分の左手を見る。

 「ああ、うん。もう大丈夫」

 「何したんだ⁉」

 「あー、ちょっとね。包丁でサクッと…」

 ジャガイモを木っ端みじんに粉砕して、手を切ったとは言いにくい。

 「大丈夫かっ!!」

 焦ったような声と同時に、グイっと左腕を掴まれた。

 「ちょっ…‼ 陽彩っ⁉」

 力強く腕を握られ、絆創膏の貼られた手を見つめられる。

 「血は…、止まってるな!?」

 「え!? あ、うん」

 「痛みは!?」

 「それも、平気」

 「そっか…」

 そこまで聞かれてから、ようやく手を離してもらえた。

 けど、私の心臓のほうは、ちっとも大丈夫じゃない。驚きと戸惑いで、バクバク無駄に連打している。

 (なんなの、いったいっ!!)

 人のケガ一つに驚いたり、安心したり。

 自分のほうが、もっとひどいケガでしょうがっ!!

 (ヒロインのケガを心配するヒーロー!?)

 いやいやいやいや。

 それは、妄想突っ走りすぎ。

 「もしかして、それで倒れたのか⁉」

 私が保健室にいた理由を陽彩がなんとなく察した。私あるあるだから、陽彩にも簡単に推察出来るらしい。

 「うん、まあ。そういうことだけど…」

 「もう少し気をつけろよ、お前は」

 そそっかしいんだからな。

 そう笑ってから、クシャっと髪をいじられた。

 ホント、その行動って…。なんか誤解しそうですよ⁉ 陽彩さん。

 「私よりひどいケガの人に言われたくないんだけど…」

 「ああ、これか⁉」

 陽彩が、右足を動かしてみせた。

 「ついサッカーに夢中になっていただけだ。久しぶりだったしな。こんなのケガのうちに入らねぇよ」

 まあ、サッカーをしていたらケガなど日常茶飯事だろう。

 ケガの手当てだって、クスリの場所がわからなかっただけで、陽彩なら自分でチョイチョイッと、慣れた手つきで手当てをしてしまったかもしれない。

 「どうした!? てまり」

 黙りこくってしまった私に、陽彩が声をかけた。

 「ううん。なんでもないよ。ただ、陽彩でも夢中になることがあるんだなって思っただけ」

 「なんだそりゃ」

 「だって、陽彩、モンスター退治だって、淡々とこなすじゃん」

 だから、てっきりなんにでもクールなのかと。

 中学の時、サッカーをしていたのは知っているけど、それだって、強制的に部活としてやらされていただけで。(中学の部活動は、半ば強制的に入部させられるから)だから、なんの未練もなく高校ではやらないのかと思っていたのだ。

 「あのなあ…」

 陽彩が軽くため息を吐きだして、髪をかき上げた。

 「オレだって好きなことぐらいあるし、夢中になることだってあるぞ!?」

 「そうなの!?」

 「モンスター退治は好きじゃないし、サッカーは今、それどころじゃないからやらないだけで」

 陽彩が、私から視線をそらした。

 「本当は、前世なんかに縛られずにいたいんだがな」

 窓の外、少し騒がしくなった校庭を眺める。休み時間になったのか、外から誰かの笑い声が聞こえた。その声を聞きながら、陽彩が目をすがめた。

 元勇者としての生活は、陽彩にとって、うれしくないものなのかもしれない。

 普通の高校生活をおくりたい。

 同じ感傷に浸りたくなった私は、「そうだね」と心の中で呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ