勇者よ、転生するとはなにごとか。
「ねえ、陽彩はいつ自分が勇者だって気づいたの⁉」
逃げることも出来ないなら、思い切って彼のことを聞いておこう。
陽彩の家、ダイニングに上がりこんだ私は、彼と向き合って腰を据える。
「うーん。前世を思い出したのは、ここ1年ぐらい前かなあ」
モゴモゴと、私の持ってきた夕飯を食べながら、陽彩が答える。
「中三の、…そうだな部活の帰りにいきなり襲われたんだ」
「相手は!?」
「ゴーレム。初めて戦うには、さすがに骨が折れた」
まあ、勇者の最初の相手って言ったら、ゴブリンか、…スライムでしょ。そして武器は〈ヒノキのぼう〉。
「それも、相手はフツーのOLに見えたし。オレ、違ったイミでヤバいと思ったもん」
外見OLのゴーレムってどんなのだろう。ちょっと想像はつかないが、言葉だけでも、確かにヤバい気がする。
OLに襲われる、中三男子。
…うわあ。
「オレも、まだ前世を思い出してなかったから、剣の出し方も知らなくってさ。結構てこずった」
「ヤバかったの⁉」
陽彩が、口に入れた揚げ出し豆腐を飲み下しながら頷いた。あれだけ揺すられながら、タッパーのなかの揚げ出し豆腐は崩れていなかった。
豆腐、強し。
「オレ、馬乗りになられて、「シネ」とか言われたんだぜ⁉」
意味も分からず、猟奇的殺人の被害者になるところだった、らしい。
「必死に、何か武器をって思ってたらさ、手から湧いて出たんだよ。こんな感じで」
箸を置いた陽彩が腕を一振りさせ、例の剣を手にした。
やっ、ちょっと怖いから、そんなにポンポン出さないでよっ!!
剣の輝きに、背筋がピリッと痺れた。
「んで、それと同時に前世も一気に思い出して、やっつけた。…おい、てまり、どうした!?」
「ンッ!? ナンデモナイヨ!?」
だから、剣はさっさとしまってよ。
「ゴーレムを倒し終えてから、オレは女神から言われていたことも思い出した」
言いながら剣を消してくれた。そのことに、ホッと胸をなでおろす。が。
「魔王は、オレにリベンジするために、すでにたくさんのモンスターを転生させてるってことを」
…ブホッ。
なんで、女神さまは、そういうことを勇者に伝えちゃうわけ!?
「オレに倒されて、自身の力が回復するまでは、手下のモンスターを次々に転生させて、オレをぶちのめすのを願っているらしい」
それこそなりふり構わず、手下という手下を送り込んでいるのだろう。
じゃあ、私たちは魔王さまが復活出来るようになるまで、勇者を足止めするだけの存在!? それとも、真打ち登場前の、グハアッ!!ってやられるだけの、モブ雑魚。露払い。勇者のMP(時にはHPも)減らしときました係。(スライムでは無理だけど)
そうか。そんなことのために、私、転生してたんだ。
それも、こうしてよりによって勇者のすぐ近くに。
ちょっと魔王さまを恨みたくなる。
勇者のそばにいて平気なのは、ホ〇ミンぐらいだってばっ!! って、アレはホイ〇スライムだったし、そばにいたのはラ〇アンだったけど。それかテイムされたス〇リン、スラ〇ち、ス〇ぼう、アキ〇ラ。
行きずりの、ただのスライムには荷が重いポジションに、私は転生してしまった。
「ねえ、陽彩を襲ってくるモンスターって、いつまでやってくるの⁉」
終わるまで、逃げ切ればなんとかなるか…な⁉
「さあな。魔王があきらめてくれるか、それともオレがモンスターを全部倒してしまうか。そのどっちかだろうなあ」
…それって、終わりがなさそうな気がする。NEVER ENDING…。
私、いつまで逃げ切れるかな。
「それにしても」
持ってきた夕飯を全部平らげた陽彩が言った。
「このことがバレたのが、てまりでよかった」
へっ⁉
「こんな話、フツー信じてくれないしさ。下手すりゃ中二病のヤバいヤツ扱いされるだろうし」
…ゴメン、最初は私もそう思ってた。
「それか、面白がって剣とか触りたがるか。オモシロ動画にされてしまうか。いずれにしたって、面倒くさい」
まあ、それは確かに。ヘンに関わられると大変だろうな。一般の人の記憶を消すことはできないし。だから、私が目撃するまで、陽彩も警戒して、誰にも話さなかったのだろう。
「てまりは、そういうことしないし、フツーに接してくれてるから助かる」
誰かに言いふらしたりもしない。多分、陽彩は私にそれだけの信頼を寄せてくれているんだろう。私なら、話してもドン引きしないで、今まで通りに接してくれると。
うううううう…。
その信頼に、心がうずく。
私が黙っているのも、疑ったりしないのも。
全部、自分がスライムなせいなんだもんっ!!
うっかり誰かに相談して、陽彩のことだけでなく、自分のことも話しちゃったら。
ヤバいヤツとか言われるならまだしも。「なに!? スライムなの!?」とか言われたら!? それでもって、そのことが陽彩にバレて、サクッと斬られちゃったら!?
プークスクスとか笑われるのもイヤだけど、サクッとやられるのもイヤだ。
それも、「さーあ、ドンドン斬っちゃおうね~」なんてノリで。しまっちゃう〇ジサンならぬ、斬っちゃうオ〇サン。(陽彩は若いけど)
「ま、まあ、頑張ってモンスターをやっつけてよ」
心にもないことを口に出す。
「うん。がんばるよ」
なんてことだ。
よりにもよって、勇者を勇気づけてしまったよ。
…モンスターのみんな、ゴメンナサイ。
心のなかで、仲間に詫びる。
お前が最初に、斬られてこいっ!!ってツッコミはなしでお願いします。




