最弱スライム、危機イッパツッ!!
自分の前世がスライムだったって、気づいたところで、何か生活が変わるわけではなかった。
普通に学校に行くし、勉強もする。友達とも他愛ない話をするし、家族とも普通に接する。
それまでの生活と何も変わらない。
ああ、それは、ちょっと違うか。
変わらないのがほとんどだけど、一か所だけ。一か所だけは、変化をしてしまった。
それは、陽彩との接し方。
陽彩にバレないように、細心の注意を払う。
バレたらお終いだ。逃げたところで、ズシャアアアッ!!と、袈裟懸けに斬られてしまう。
問答無用、手加減なし。
それに、家が隣同士だから、会いに来たとかなんとか言って、部屋に上がられたら、もう逃げ場すらなくなる。
なるべく離れて生活しよう。そうしよう。
硬く心に誓う。
まあ、私たちも高校生だし!? いくら幼なじみで、おんなじ高校に通ってるからって、一緒につるむこともないし。
さりげなーく、自然に距離をとって、離れて…。
なのに。
「ねえ、てまり。お隣にこれ持って行ってちょうだい」
夕方、学校から帰ると、お母さんから、なかば強引に紙袋を手渡された。
中身は、いくつかのタッパー。
「今、陽彩くん家、お母さんたち、旅行に行ってるから」
…何、その幼なじみ異性、あるある展開。
「夕飯、届けてきてあげて」
うわー、ベタ展開、来たー!!
わざわざ陽彩に会いに行くなんてしたくもないけど、イヤだと言うには理由が必要で。言えない私は、観念して紙袋を受け取る。
ううう。
ずっと避けてたのに。
これ渡したら、とっとと帰ろう。バレないためにも、接触時間は減らしたほうがいい。
鉛のように重い足取り。〈菅原〉と掲げられた表札の下、インターフォンを鳴らす。
ピンポーン、ピンポーン…。
乾いた電子音が家のなかに響いているのが聞こえたけど、なかからは、何の反応もなかった。
(あれ、陽彩、帰ってきてない⁉)
イヤ、そんなバカな。
それだと、もう一度持ってこなくちゃいけないから、二度手間じゃん。
玄関ドアに掛けて置いておく…なんて出来ないよね、この中身じゃ。
困ったな…と思う私の耳に、何か空気を切るような音が届いた。
(あれ⁉ 陽彩、いるの⁉)
いるならちゃんと返事しなさいよと、耳をすませて音をたどる。音は庭からしているようで、グルっと家を回り込む。陽彩の家の庭は、玄関の反対側。自分の家なみに、何がどこにあるのか熟知しているので、特に困らない。
「陽彩ーっ!? いるの……、ヒィッ!!」
角を曲がって庭に出かけた私は、身体を大きく後ろに反らし、声を飲み込む。
反らした身体をなぞるように、剣が空をすべった。
剣圧だけが、身体を襲う。前髪が少しだけ切れたかもしれない。
「ああ、悪い。なんだ、てまりか」
〈なんだ〉でも、〈悪い〉でもないわっ!!
こっちはちびりそうなほど、怖かったんだからねっ!!
ヘナヘナと身体から力が抜ける。ペタンと、地面に座り込んでしまった。スカートがどうのと、気にする余裕はない。
「モンスターの気配がしたと思ったんだがな。…立てるか!?」
差し出された手を取る。陽彩の手に、剣はなかった。
けど、〈モンスターの気配〉って…。
(私のことじゃんかっ!!)
あやうく、スライムだとバレることないまま、サラッと昇天させられるところだったよ。(そしてきっと、昇天させても気づかないんだよ。スライム程度では。なんかが剣に触れたな~、なんだろ~、ぐらいですまされる)
「…何、してたの⁉」
なるべく冷静に訊ねた。
「ああ、一応は剣の稽古を」
「稽古!?」
「ああ。モンスターを倒すのに、なるべく一撃で終わらせてやりたいから」
いや、そんな努力をしなくっても、私なら、スライムなら、触れただけで昇天ですよ⁉
「こんなことなら、剣道でもやっておけばよかったよ。転生してからこっち、全然剣を握ってなかったから、なまっててな」
いや、習ってなくて、なまっててじゅうぶんです。
「てまりは、何をしに来たんだ⁉」
「うえっ⁉ あっ、ああ。お母さんに頼まれて。夕飯、持ってきたの」
さっきので、中身がグチャグチャになってるかもしれないけど。味に大差はないだろう。
紙袋ごと、陽彩に差し出す。
「サンキュ。ちょうどコンビニでも行かなきゃって思ってたとこだったんだ」
受け取りながら、陽彩が笑う。
ああ、こういう時の顔って、昔と変わんない。
これが、なんでもない夕方の、幼なじみイベントなら、私、胸キュン♡させなきゃいけないんだろうけど…。
(そんな余裕あるかいっ!!)
一人でツッコむ。
「良かったら、てまりも一緒に食べてくか⁉」
「いや、それはさすがに…」
私のゴハンは家に用意されてるだろうし。いつあの剣が出てくるとかと思うと、落ち着かないことこの上ない。
「チョットぐらいつき合えよ」
半ば強引に、陽彩が手をひいた。
多分、さっきのお詫びもかねて、言ってくれてるんだろうけど。
(勇者とお茶するスライムってどんなのよーっ!!)
想像が出来ない。




