世界は理不尽で出来ている。
「さあ、アディル。この剣を下ろして!? この世界のために、私とともに戦いましょう」
花蓮さん、ううん。女神イシュトリアが手を差し伸べる。
陽彩が突きつけた剣を、全く恐れてない。自分の手を、陽彩がとるのが当然って顔をしてる。
その様子に、思わず、キュッと陽彩のシャツを握りしめた。
「スライムなど、憐れむ必要はないわ。斬ってあげれば、その子も過去から解放されるのですもの」
さあ、と催促するような女神の声。
「魔王が残していったモンスターたちを、解放するのです」
「―――断る」
陽彩が低い声で、ハッキリと答えた。
「オレはいつまでも、アンタに使われる気はない」
私を抱き寄せたまま、陽彩が立ち上がる。
「オレも、てまりも、こちらの世界の住人だ。これ以上、アンタたちの姉弟ゲンカにつき合う義理はない」
ええっ⁉ 姉弟ゲンカ!?
女神と魔王さまって、姉弟だったの⁉
さすがに、それは知らなかった。
けど、女神は図星をつかれたのか、言葉を失っていた。
「アンタは、オレにこの剣を渡したことで、こっちの世界に干渉する力を持った。聖剣を通じて、この世界に魂の一部だけ転移させたんだ」
つまり、陽彩の持ってる聖剣が、女神がこちらの世界に通じるカギになってるってこと!?
女神や魔王自体はこちらの世界にやってこれない。だから、女神は人間だった勇者を、魔王はモンスターを。魂だけの存在となった手下を、それぞれこの世界に送り込んだ。
自分たちの姉弟ゲンカの代理を務めさせるために。
魂だけなら、世界を超えられるから。
人々から崇められていた女神も、モンスターを支配していた魔王も、お互いにそれを手駒としてしか見ていなかったということだ。
「ヒド…い」
命をなんだと思っているの⁉ 怒りに似た感情がわき上がる。
「さあ、わかったらとっとと自分の世界に帰りな」
陽彩が剣をグイっと前へと突き出す。
「私はモンスターとは違うわ。その剣で斬ったところで何も起こらないわよ⁉」
どこまでも女神は不敵に笑う。
自分の授けた剣だ。己を傷つけることがないことは、百も承知だ。
「ああ、そうだよな。この剣でアンタを傷つけることは出来ない。だがな…」
陽彩が大きく剣を振り上げる。
ガンッ……‼
激しい音を立てて剣を地面に叩きつける。
エスト・ビブリオとの戦いで傷ついていたのか。剣はその衝撃で光をまき散らして、粉々に砕け散った。
「陽彩っ…‼」
驚き、彼を見上げる。
刀身が砕けると、手のなかに残っていたはずの柄まで次々と連鎖的に砕けてゆく。
「これで、アンタはこちらに留まることが出来ない」
「―――――ッ!!」
女神が呼吸できなくなったかのように、首元を掻きむしった。
目と口を大きく開け、救いを求めるように、空に震えた手を伸ばす。
「お、のれっ…‼ 人間っ、ごときっ、がっ!!」
そのセリフが、女神が自分を崇める人間をどう思っていたかを表していた。
「二度とこちらの世界に干渉するんじゃねえ」
手のなかに残っていた光の欠片をギュッと握り砕く。
「ああああっ!!」
絶叫をあげ、身体を震わせると、糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。
モンスターと違って、こちらは、光の塊が花蓮さんの身体から離れる。光は、その明るさを保てず、空気に溶けるように消えていった。
「…ふう。終わったな」
額を一拭きして陽彩が言った。
「てまり、大丈夫か⁉」
「う、うん。大丈夫」
驚きで、まだ頭が働いてないけど。
「ねえ、この二人、大丈夫…かな⁉」
公園に倒れたままの生徒会長と、花蓮さん。
エスト・ビブリオと、女神イシュトリアはいなくなったけど。
「大丈夫だ。ほっとけば、目を覚ますだろ」
それぞれが何をしてたか忘れて。あちらの世界のことに関係なく生きていく。
「ただ、もう二人をベンチに転がしてやるだけの力がない」
へっ⁉
「ちょっ、ちょっと!! 陽彩っ⁉」
陽彩の身体から力が抜ける。イキナリ、私の方に、その重みがのしかかる。
「ゴメン…もう、限界」
いや、限界って言われてもっ!!
私にアンタは支えきれないわよぉっ!!




