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予想のナナメ上は未知の世界。

 「陽彩(ひいろ)…」

 動かない二人に、不安だけが心に満ちる。

 どっち!? どっちが勝ったの⁉

 こーゆーとき、最初に動いたほうが勝ってて後に動いたほうが負けてたってことが多いけど。

 「さすが…ですね」

 先に口を開いたのはエスト・ビブリオだった。

 「陛下と戦った、その実力は認めましょう」

 …まさか、陽彩(ひいろ)!?

 考えちゃいけない最悪の言葉が、頭のなかに渦巻き始める。

 と。

 グラリ。

 エスト・ビブリオの身体が揺れた。

 崩れるように、地面に倒れる。

 「陽彩(ひいろ)…っ!!」

 ベンチから転げ落ちて、必死に彼のもとへと這っていく。

 引きずられるむき出しの足が、身体を支える手のひらが痛いけど、そんなの気にしていられない。

 「この女を使ったことが、間違いだったようですね…」

 うつぶせに倒れたエスト・ビブリオが、私を虚ろな目で見た。動く力も残ってないのか、その秀麗な頬は土にまみれていた。

 「モンスターだと…、スライムだと知っていれば…、もう少し別の方法もあったのに…、残念、です…よ」

 その声は、ドンドン小さくなり、最後はかすれて聞き取りにくかった。

 静かに、目を閉じる。すると同時に、会長の身体から、人型の青い煙のようなものが立ち上り消えていった。

 エスト・ビブリオ…。倒せたの…かな⁉

 倒れたままの会長の顔は、かすかに笑っていた。

 陽彩と、勇者と戦えたことに、エスト・ビブリオは満足していたのかもしれない。私を操るという卑怯なことをしたけれど、最後は陽彩と剣を交えて堂々と倒された。おそらくだけど、そのことに悔いはないのだろう。

 「てまりっ…!!」

 陽彩が私に駆け寄る。

 「お前、無事かっ!!」

 いや、無事かどうか、訊きたいのはこっち。

 「アンタこそどうなの!?」

 「オレは、平気だ」

 若干呼吸が乱れている気がしたけど、特にケガしている様子はなかった。

 「さすがね、勇者アディル」

 その声に、私と陽彩は同時に顔を上げた。

 見上げると、すぐそばに花蓮(かれん)さんが立っていた。

 「さあ、エスト・ビブリオと同じように、てまりさんのスライムも還してあげましょう⁉」

 夕日のかげんか。その少し笑みを浮かべた顔を、恐ろしいと思った。

 「てまりさん、大丈夫よ。少しも痛くないから。アディルの剣の前に自分を差し出して!?」

 優しい声なのに、身体が震える。

 ―――怖い。

 剣が怖いんじゃない。花蓮さんが怖い。

 「…いい加減にしろ」

 私をかばうように、陽彩が抱きしめてくれた。

 その声は、エスト・ビブリオと対峙した時よりも低くなっている。

 「いつまで、この世界に干渉する気だ⁉」

 …へ!? 陽彩、何言ってるの⁉

 「陽彩っ!!」

 チャキっと陽彩が剣先を花蓮さんに突きつけた。近づこうとしていた花蓮さんが、軽く上体をそらす。

 「知らないと思っていたのか⁉ だとしたら、オレも甘く見られてたんだな」

 声、怖いっ!!

 「な、何を言ってるの⁉ アディル」

 花蓮さんが動揺してる。仲間に剣を向けられるなんて思ってもみなかったんだろう。

 「ちょっ…‼ 陽彩、どうしちゃったのよっ!!」

 剣を持つ右腕にすがる。けど、その敵意を含んだ鋭い視線も、煌めく聖剣も全く揺るがない。

 「てまり。こいつは仲間じゃない」

 へっ⁉ じゃあ、何!? 会長のときみたいに、モンスター、魔王サイドのヤツが化けていたワケ!?

 「こいつは、オレに聖剣を授け、転生させた張本人。女神イシュトリアだ」

 「えええええっ!!」

 大きな声が出た

 だって、だって、だって。

 女神イシュトリアっていったら。スライムだった私でも知ってる。

 魔王はモンスターを支配したけど、女神イシュトリアは人から尊崇を集めていた。

 あちらの世界で、魔王に対抗する勢力のトップだった存在。

 モンスターに脅かされていた人々に、聖剣という希望を与え、世界を平和に導いた女神。

 スライムからすれば、自分を抹殺するおっかない武器を勇者に与えた、とんでもない神。

 ラスボス的、最強、最悪の存在。

 それが、花蓮さん…なの!?

 「どうして、私を女神さまだと!?」

 花蓮さんが少し困ったように微笑んだ。

 そうだよ。花蓮さん、最初に名乗ってたじゃない。前世は、陽彩の、勇者アディルの仲間で、魔法使いのミカリエさんだって。陽彩もそれを受け入れてたのに!?

 「ミカリエなら、転生なんてして来ねえよ」

 陽彩が断言した。

 「アイツが、あの世界を離れるわけがない。こっちの世界は、魔力が満ちていないからな」

 こちらの世界は、そもそも魔法なんてものが存在していない。

 「究極の魔法を作り出すことに命をかけてたようなヤツが、転生なんてしてくるかよ。転生するなら、あちらの世界で、魔導をトコトン極めるために生まれ変わるだろうさ」

 本当のミカリエさんは、かなりの魔導オタクだったらしい。

 「モンスターを退治して、この世界を平和にってのも、アイツは興味ないだろうしな。そんな崇高な意志なんて、興味もないし、持ち合わせてもいない」

 なんか、もとパーティー仲間に容赦ない発言。

 ハラハラしながら、花蓮さんを見る。

 「ふっ、ふふっ…。そこまで気づいていながら、どうして今まで黙っていたの⁉」

 えっ⁉

 突然、花蓮さんが笑い出した…ってことは、陽彩の言ってること、本当なの!?

 「どういうつもりで、ミカリエのフリをしてるのか。様子を見てたんだよ」

 「…なるほど。私も疑われていたってことね」

 ザワリ。

 花蓮さんを取り巻く空気が変わる。

 清浄!? 神々しい⁉

 けど、ものすごく怖い。キレイすぎて、恐ろしい。

 「そうよ。私が女神イシュトリアよ」

 その笑顔は、とても冷たい。

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