幼なじみは、勇者。そして、私は…。
「お前、ラノベとか読んだことあるか⁉」
陽彩の説明は、意外な質問から始まった。
さっき陽彩が倒したヤンキーは、あの後、意識を取り戻し、こちらに注意を向けることなく公園から去っていった。
私は、殺人鬼ではなくなった幼なじみとともに並んで、ブランコに腰かけている。
「ラノベ…。まあ、少しなら」
スマホとかで、ちょっとだけだけど、空き時間に読んだことはある。
「異世界転生とか、知ってるか⁉」
「うん、とりあえずは」
過労死とかした主人公が、女神様とかからチートスキルをもらって無双かましたりするんだよね。それか、乙女ゲームの世界に行って悪役令嬢になってたり。
「その異世界っていうのが、オレにとったら、こっちの世界なんだ」
…………………………。
……………………。
……………。
「……は!?」
タップリ間を置いて聞き返した。
「信じられないとは思うけどな」
そりゃそうでしょうよ。陽彩、アタマ、大丈夫か⁉
「オレは、こことは違う世界で、魔王を倒した勇者だった」
私の心配をよそに、陽彩が語り始める。
「仲間とともに、魔王を倒したのまではよかったが、そこで死んでしまったんだ。オレは、力を与えてくれた女神の采配で、こちらの世界に転生してきた。そういうわけだ」
おーい。何、中二病語ってるの⁉
高一なのに、中二病(笑)
「だけど、魔王もあきらめていないっていうのか。リベンジかましたいらしくてな。オレを倒そうと、配下の魔物を次々に転生させて、オレを追いかけてきているんだ」
「それが、あのオークなわけ!?」
一応、中二病物語にのっておく。下手な刺激を加えたらヤバいかもしれない。いろんな意味で。
「オーク以外にもモンスターはいる。ドラゴン、アンデッド、ゴブリン…、スライムなんてのも転生してきている」
「…スライム」
なぜか、その言葉に心が引っかかる。陽彩の夢物語だと思いたいのに、なぜか気になる。
「じゃあ、あの剣は!? あれは前世で持っていたやつなの!?」
そういえば、いつの間にか剣が消えていた。
「ああ、これか」
ブンッと鈍い音を立てて、陽彩が剣を取り出した。というか、いきなりのように、陽彩の手のなかに剣が収まっている。
「女神から授かった聖剣だからな。ありがたいことに、出し入れは自由だ」
何度もくり返し、出したりしまったり。自由自在だ。
けど、なぜか、私は落ち着かない。
すごく…、逃げ出したい。
背中を大量の汗が流れ落ちる。目は、剣に釘付けだ。
「剣で斬れるのは、モンスターだった部分のみ。剣で斬ることで、彼らは前世を忘れて、この世界で生きることができるんだ」
うーん。剣が嘘でないと見せられた今、陽彩の言ってることを中二病とまとめることが難しくなっている。100均のとか、どっかの土産の木刀とかとは違うようだし。
「前世がなくなれば、魔王に操られることもないからな。こちらの世界で普通に暮らせる。オレが転生するときに、女神がそう言っていた」
なるほど。
モンスターであった過去を忘れるわけですか。
「前世なんてものを持ったままで、いいことなんて何もないからな」
確かに。
前世はドラゴン!! とかならまだしも、ミミック!! とかはちょっと微妙。(ゴブリンでないだけマシ!?)
アンデッドだった場合、それは果たして前世と言えるのかどうか。
「まあ、こっちの世界で誰かに危害を加えることもないし。お前も安心してくれていい」
陽彩が手を伸ばし、私の髪をなでた。
「…うん」
「怖かったら忘れてもいいぞ!?」
そう言って陽彩が笑いかけてくれたけど。
私のなかは、グルグルといろんな感情が渦巻いていた。
だって、だって…。
私、前世を思い出しちゃったんだもんっ!!
会話とともに、すうっと自分のなかに浮かんだ風景。
たいして背の高くもない草むらに埋もれるように暮らす自分。
飛び上がるようにして移動するけど、その身体が空に届くなんてことはありえなくて。
仲間はよくダンジョンなんかで暮らしていたけど、私は、この広い空の下にいることが好きだった。
なぜなら。
ここなら、勇者が来た時、全力で逃げられるっ!!
出会ったら最後、必ず殺される。
なけなしの金と経験値に、興味も持たれないまま、サクッと一撃で。
「仲間になりたそうに見た」ところで、勇者が振り向いてくれることもなく。
ポイッとベチョッと、捨てられる存在。
そう、私…。
スライムだった。
陽彩の持っていた、あの剣。
あの剣先で、チョチョイッと突かれれば、ポワンッとはじけ飛んでしまう。それぐらいのレベル。さっきのオークみたいに、勇者を見て戦いに行くのではなく、勇者を見て、全力で逃げ出すモンスター。
勇者になんて会いたくない。勇者となんて戦えない。
そんな私を。
(どーして転生させたのよぉぉぉぉっ!!)
恨むよ、魔王さま。
捨て駒、捨て石、捨てスライム。
もしかしたら勇者を倒せるかも、なんて期待をかけらもかけてもらえないままの転生。質より量。下手な鉄砲は、いくら撃っても当たらないんだってば。
まあ、だからこそ、この歳まで陽彩と、勇者と幼なじみでいられたんだけど。(前世を、忘れていたってのもあるけど)
どうしよう。
思い出してしまった以上、どうしたらいい⁉
たたかう!?
にげる!?
ぼうぎょ!?
えーん。私の防御なんて、あの剣の前じゃ、意味ないし。戦うなんてもってのほか。
でも逃げても、「しかし、まわりこまれてしまった」になるのがオチよね。
いっそのこと、おとなしく斬られたほうが身のためかも。前世を切り離して、こっちの世界で生きられるって、陽彩言ってたし。
でも、痛かったらイヤだな。それに、「斬ってください、お願いします」って立つのも変だし。その前に、恐怖で卒倒しそう。
(こういうとき、どーしたらいいのよおぉぉっ!!)
声にならない叫びを上げる。
「どうした!? てまり」
陽彩がいつも通りの声で問う。
「ううん。なんでもないよ。ちょっとビックリしただけ」
…スライムは、〈オサナナジミ〉をつづけること決めた。
生き延びるために。




