いったぁ~いっ!!
ザシュっと、肉を斬りつける感覚。
ものすごい痛みが、熱となって手の甲から伝わる。火がついたみたいに痛い。
カッターに斬られたのは自分の左手。斬っているのは右手。
「……っ!!」
ポタポタと血が流れ落ちていく。
左手が、震えだす。
「てまりっ!!」
陽彩の必死な声に、力なく笑ってみせる。
「ゴメン…、やっと、止まった…、よ」
彼を傷つけずにすんだ。自分を取り戻せたよ。
…ものすごく痛いけど。
手から、血まみれのカッターがこぼれ落ちる。
体力的にも、精神的にも限界だった。
でも、陽彩を、彼を傷つけずにすんでよかっ…。
「…ぐうっ!!」
力の抜けかけた身体を、何かが縛り上げた。
…見えない縄!?
動けない上に、喉にも巻き付いて…。
(…く、苦しい)
身体がかすかに宙に浮く。
「その子はモンスターよっ!!」
鋭い声が上がった。
(あ…、かれ、んさっ…!!)
もがこうとすると、さらに喉にくいこむ。
「アディル、てまりさんは、モンスターだわ」
何かを引っ張るような仕草とともに、公園に花蓮さんが戻ってきた。
その目は、私を仲間だと言っていた時のような優しさを微塵も感じさせない。冷たく敵を見る眼差しだった。
「さあ、私が押さえているから、その剣で斬って!!」
(…………っ!!)
喉がさらに圧迫される。
ジタバタとつま先だけが動くけど、逃げることが出来ない。
(あっ…くぅ…)
息の苦しさと、剣の恐ろしさに涙が浮かぶ。
(私…、斬られる…の!?)
意識が朦朧としてくる。
陽彩の手に、剣が握りしめられている。それを持ったまま、無言で陽彩が近づいてくる。
(斬られる…んだ)
頭の片隅に、諦めに似た感情がわき起こる。
モンスターだとバレた。陽彩は剣を持ってる。襲ってしまったんだもん。この結果は仕方ないよね。
(痛い…のかな)
なるべく痛くないほうがいいな。サクッと簡単に終わればいい。
そして。
(ゴメンね。今まで黙ってて)
だますつもりはなかったんだよ。言い訳にしかならないけど。
私までモンスターだと知って、陽彩、傷ついてなければいいけど。
斬られたら、前世は忘れてしまうから。声にならないけど、精一杯謝っておく。
観念したように、全身の力を抜く。
目をつむり、断罪されるその時を待つ。
自由になる指先と足先だけが、微かに震えた。
陽彩が剣を振り上げたのが、風となって肌に感じる。
(―――――っ!!)
ザシュッ!!
振り下ろされた剣が鈍い音を立てる。
次の瞬間。
ドサッ…。
「きゃあっ…!?」
私の身体は地面に乱暴に降ろされた。バランスを崩した私を、陽彩が受け止める。
「…大丈夫か⁉」
目を開けると、そこに心配そうな陽彩の顔。
えっ⁉ ええっ⁉ えええっ⁉
ちょっ、ちょっと待って!! 私っ、ええっ⁉
「動くなよ」
そう言って、陽彩が血まみれの私の左手を取る。ブツブツと私にはわからない言葉を呟くと、左手の血が止まり、傷がふさがっていく。
(あ、温かい…)
多分、回復魔法なんだろう。傷口から魔法が流れこみ、じんわりと全身を包み込んで癒していく。それまで、まるで手の甲に心臓があるのかってぐらい、脈に合わせて痛みが波となって押し寄せていたんだけど、それすらも消えてなくなっていく。
「…これで、いいな」
陽彩の言葉に、混乱したままの頭で頷く。
「アディルッ!! これはなんのつもりなのっ!!」
悲鳴じみた声を花蓮さんが上げた。
「モンスターを助けるなんて、アナタ、正気なのっ⁉」
ワナワナと花蓮さんが身体を震わせている。けど、陽彩は全く気にしていないようだった。
私を抱き上げると、丁寧に、近くにあったベンチまで運んで寝かせた。
「お前は、ここで少し休んでいろ」
クシャっといつものように、髪を撫でる。
…でも、どうして!?
私、モンスターだった過去を忘れてないんだけど!?
そして、どうして、私を斬らなかったの⁉
陽彩が斬ったのは、おそらく、私を縛っていた花蓮さんの魔法部分。
助けるつもりだった!? モンスターだと知っても!?
わけがわからない。
いろんな疑問が頭のなかでグルグル渦巻く。
「なあ、いい加減出てきたらどうだ」
陽彩が声を張り上げた。公園の何もない空間に向かって。
「いるんだろ、そこに」
敵意を含んだ声。…陽彩、誰に向かって叫んでるの⁉
グニャリ…。
不思議に思う私の目の前で、空間が歪んだ。
CGなんかを使うと、こういうの表現出来るよね…って、これホンモノ!?
私より先に、花蓮さん反応した。歪みから現れた相手に対して身構える。
「さすが、と言っておきましょうか。勇者アディル…」
フフフと不敵な笑い声が聞こえそうな笑みを浮かべて現れたのは…。
生徒会長…っ⁉




