野生の証明…とかではなく。
出て行きたい。
出て行って叩きのめしたい。
本能のままに、本性のままに。
飛び上がれ、とびかかれ。
襲え!! 戦え!!
今ならきっと、油断している。
私にならきっとできる。
ううん。出来なくってもやらなきゃいけない。
……したい。……を。
激しい衝動が押し寄せる。
(なに、言ってるのよ!! そんなことしたら、一発殺されちゃうよ⁉)
何度も何度も衝動と戦う。
花蓮さんの〈呼び寄せ〉魔法のせいだろうか。
戦いたい、襲いたい感情が治まらない。
負けることがわかっていても、戦いたいのだ。
「おーい。もう大丈夫だから、出てきていいぞぉ」
陽彩が、茂みに隠れたままの私に声をかけてくれたけど…。
私は動けなかった。衝動を抑えるのに必死で、それどころじゃなかった。
(あ、れ…⁉ おかしい…な⁉ 〈呼び寄せ〉魔法は、とっくの前に終わってるはずなのに…)
荒くなった息の下でぼんやりと考える。
いつもなら、「ああ、終わったー」ってなって、平気なはずなのに。
「てまり……⁉」
いつまでも出ていかないもんだから、陽彩が心配したように様子を見に来た。
「お前、大丈夫かっ…って、おい、スゴい汗じゃねーか」
(えっ…、そう…なの!?)
自分ではわからなかったけど、額に張り付いてた髪をかき上げられて、ようやくそのことを実感する。
「花蓮っ、てまりの荷物を持ってきてくれっ!!」
陽彩が叫ぶと同時に、私の身体を持ち上げって…、えっ⁉ えええっ⁉
(これって、お姫さま抱っこ……‼)
なんて驚く余裕は、私のなかにはない。
陽彩に抱えられてそのまま帰宅する。
(公園から、家、それなりに距離あるのに…)
ぼんやりとそう思うのが精一杯だった。
意識が朦朧とする。何も考えられない。
自分の馴染んだベッドに降ろされたのが、限界だった。
「ひい…ろ…」
意識が遠のく。
ああ、ダメだ。私。
…オソイタイ。
最後に思ったのは、そのことだけだった。
次に目を覚ました時、そこに陽彩はいなかった。
夕闇に紛れ始めた自分の部屋のなか、のそりと身体を動かす。
汗にまみれていた髪もいつの間にか乾いてる。息苦しさも残っていない。
(…あれは、いったい)
ものすごい衝動だった。
いつもとは違う。狂いそうなほどの攻撃欲求。
タタカエ、タタカエ、タタカエ…。
そんな声が身体を支配していた。
(モンスターの本性…⁉)
一瞬、身震いする。
スライムなんていう最弱モンスターでも、そういう本能があるとは思いもしなかった。
いつか、その本能に任せ、陽彩を襲ってしまうんだろうか。
負けるとわかっているから、死ぬとわかっているから攻撃しないだけじゃない。
幼なじみとして、気の許せる相手として、私を信頼してくれている陽彩を傷つけたくなかった。
私まで襲いかかったら、きっと陽彩は傷つく。
優しい幼なじみとして接してくれている彼に、そんな仕打ちはしたくなかった。
「てまり、お前、しばらくつき合わなくていいぞ」
翌日、学校で陽彩から告げられた。
「どうして…⁉」
「お前、昨日もおかしかったしな」
ギクリ…。
「文化祭の委員のこともあるし。疲れてるんだろ」
そう言って、陽彩が私の髪をクシャっと撫でた。
「しばらく、ゆっくりしろ。いいな!?」
そう言って、自分の教室に戻っていく。
その背中に、複雑な気分になる。
モンスター退治につき合わなくていいと言われるのは、単純にうれしい。花蓮さんの〈呼び寄せ〉に抵抗するのって、結構疲れるし。ずっと隠したままなのは、嘘ついてるみたいで苦しいし。
ここらで、一回陽彩と離れて過ごしたほうがいいのかもしれない。
モンスター退治だって、花蓮さんがいれば大丈夫だろう。なんたって最強の魔法使いと勇者だ。バハムートだろうが、リヴァイアサンだろうがなんだって、倒してしまうに違いない。
私が心配しなくっても大丈夫。私がいなくったって平気。
今は、私としか遊ばない陽彩だけど、そのうち花蓮さんともバッティングだのボーリングだの出かけるに違いない。勇者として疲れた陽彩を癒すのは、私でなくても出来るよね。
私、お役御免になるのは、うれしい…ハズ。
(あ…れ……⁉)
ツキンと頭が痛い。
ヤダな。昨日の後遺症が残っているのかな。
保健室送りにならないように、頭痛薬飲んでおいたほうがいいかもしれない。




