スカッと爽快なのはいいけれど。
「よお。お疲れー」
公園に入ってすぐ聞こえた陽気な労いの声に、軽く肩を落とす。
「委員の仕事、終わったんだろ!?」
「まあ、とりあえずは」
「なら、つき合え。今日はボーリングだぞ」
…って、なんで決定事項なのさ、陽彩。
最近の彼はずっとそうだ。
私が委員会を口実にモンスター退治に参加できないと言うと、必ず公園で〈待ってる〉。
花蓮さんとのモンスター退治もすませて、ケロッとした顔で。
せっかく遊ぶんだったら花蓮さんも仲間に入れたらって提案したけど、「てまりとだけがいい」と断られた。
幼なじみではあるけど、陽彩、以前はこんな私とつるむようなヤツじゃなかったのに。
小学校高学年ぐらいからかな。
男女の性差もあり、ケンカしたわけではなく、自然と離れていったかんじ。
中学で、同じクラスになったこともあったけど、特に親しくもしていなかった。遊びに行ったことなんて一度もなかった。
それをよ⁉ 今になってイキナリ!?
思春期過ぎて大人になったから、異性の幼なじみともフツーにお友だちができる!?(いや、今も思春期か)
それとも…。
以前、陽彩が言っていたことを思い出す。
――なんでもないてまりを見てるとさ。そんな心が癒されるんだよな。
多分、こっちのが理由として大きいんだろうな。
疲れてる勇者を、スライムの私が癒すなんておかしなかんじだけど、一人の幼なじみとしては、それで陽彩がリラックスできるのならいいかなって思う。
勇者とモンスターの関係だけど、試合!?が終わればノーサイドよ。
それに、私も癒されてるし。
モヤモヤ気分を晴らすのに、身体を動かすのはうってつけだった。
今日だって、ボーリングのピンを魔王さまに見立てて、球を投げてやる。
きっと全弾ストライクだ。
「あ、そうだ、てまり。これやるわ」
少し先行く陽彩が、ほいっと何かを投げてよこした。
「わ、わ、わっ…‼」
どうにかキャッチ出来たものは…。
「…スライム!?」
水色の、しずく型。キョロっとした目。ニッカリと笑ったままの口。素材はムニュっと柔らかい。プニプニのキーホルダー。
「さっき、待ってるあいだにやったガチャガチャで出てきたんだ」
カワイイだろ!? 陽彩はなぜか満足気だ。
だけどさ。これ、私が持つの…⁉
スライムがスライムのキーホルダーを!?
カワイイのは否定しないけどさ。
かなり、微妙。
平日の夕方は、それなりにボーリング場も混んでいる。
けど、私だってボーリングぐらいしたことあるし、バッティングセンターのときみたいに、陽彩に教えてもらわなくても、準備は出来る。
ボールは大抵、9ポンド(4キロ)。
これ以上重いと、1ゲームやるのが精一杯になっちゃう。
ホントは、お子様用って書いてある6ポンドや、7ポンドの玉にしておきたいんだけど。軽すぎても上手くいかないし。
私がボールを選んで持っていくと、先に準備できた陽彩が選んできたボールを軽く磨いてた。
14ポンド(6.4キロ)…。
さすが男性、やっぱり勇者は力も違う。
私だったら、両手で抱えないと投げられない重さだ。
「どうした!?」
「ううん。なんでもない」
そうよ。ボーリングは投げれる玉の重さを競うものじゃないわ。倒したピンの数を争うものよ。
試合を始めると、意外なことに私のスコアは陽彩と大差がつかなかった。
それなりにストライクを出す。ストライクがダメでもスペアを取る。
まあ、ガーターもそれなりにあったけどさ。
魔王さまにボールをぶつける気分で投げると上手くいった。
「もう1ゲーム、やるか⁉」
調子のいいところで、陽彩から提案される。
「いいわよ、今度は私が勝つんだから」
明日、もしかすると筋肉痛になるかもしれない。けど、この爽快感を終わらせたくない。
「私、ちょっとジュースでも買ってくるわ」
「じゃあ、オレ、ポカリ頼むわ」
そんなの自分で買いなさいよ。普段ならそう言って断るんだけど、今日は気分がいいから特別だ。誘ってもらったお礼もある。
自販機で、自分用の紅茶と、陽彩のポカリを買って席に戻る。
(あ、れ…⁉)
なんだろう。
今、メッチャボールを投げたい。
いや、ボールをぶつけたい。
それも、……に。
「てまり!?」
戻ってきた私に気づいた陽彩が声を上げた。
「ボール、変えるのか⁉」
「うえっ⁉」
言われて、自分がボールの陳列台に触れていたことに気がつく。
……⁉ 私、ボール変える気なんてなかったんだけど。
「お前、いくらなんでもそれは重すぎだぞ。オレと同じ14ポンドだし」
指摘されてますます混乱する。
私、このボールをどうしようって思ってた⁉
持ってたはずのペットボトルは床に転がってるし、私、なにを考えてた⁉
「疲れてるのか⁉」
「ううん。そんなことないよ⁉」
ペットボトルを拾い上げて席に戻る。
「もう1ゲームだけやろ!? 今度は負けないから!!」
ピンにボールを当てれば、この変な感覚も消える。
そう思って必死に投げたけど、スコアは散々だった。
私、陽彩の言う通り疲れてる…のかな⁉




