一本足打法はムリだとしても。
精神を集中する。研ぎ澄ませ、己の心。
ボールだけを見つめ、渾身の力でバットを振る。
カーンッ!!
陽彩の打ったボールじゃない。
私の打ったボールが飛んでいく。
「ねえ、陽彩、バッティングセンターって楽しいね」
「そうかっ。それはよかった、なっ!!」
会話をしながら、陽彩がバットを振る。
相変わらず、130キロっていう私にとっての剛速球を難なく打ち返している。もうかなりの球数打ち返しているけど、その威力が衰えることはなかった。
さすが…だよなあ。
って、感心してるだけじゃない。
私だって、かなり打てるようになってきていた。
80キロじゃ物足りない。90キロ…、いきますか⁉
そんな大胆な考えまで浮かんでしまう。
だって。コツがわかってきたんだもん。
打つときにね。あるものを思い浮かべるの。
それは…。
魔王さまのバカ―――ッ!!
どうして私を転生させたのよっ!! それも勇者のすぐそばにっ!!
こんなの逃げられないでしょうがっ!!
自分がスライムだってことは忘れていたかったっ!!
フツーに暮らしたかったっ!!
それを、それを、それを、それをっ!!
みんな、みんな、魔王さまが悪いのよっ!!
飛んでくるボールを見据え、グッと重心を落とす。
魔王さまのぉぉぉ――。(息を吸い込んで)
バカァ―――!! (バットをフルスイング)
ボールはこれでもかってぐらいに大きく気持ちよく飛んでいった。
…ふう。
あー、スッキリした。
最後の一球にまで、魔王さまを思い浮かべて打ち返す。
ホント、気持ちよかった。
爽快感とともにボックスを出ると、そこに陽彩が待っていた。
「楽しかったか⁉」
「うん。スカッとした」
「そっか。それならいい」
なぜか満足そうに、髪をクシャッと撫でられた。
………⁉
もしかして、陽彩、気にしてくれてたのかな。私が元気がないことを。
それで、ここに連れてきてくれた…の!?
「ありがと、陽彩」
「バッティング代、1200円な」
…くう。お金取るんかーいっ!!
それでも、少し気分のスッキリした私は、文化祭の準備にも前向きなれた。
〈コスプレカフェ〉、〈お化け屋敷〉、〈射的〉、〈ミスコン〉、〈ライブ〉、エトセトラ…。
HRでは、やる気のないものから、やる気がおかしな方向にむいてるものまで、イロイロな意見が出た。
コスプレってアンタ…。ライブって、そんなの個人で登録してやってよ。
〈ミスコン〉って、なんのラノベ文化祭よ。
ということで、およそ現実的でないものを引き算して、まともなもの、一年生でも出来そうなものだけを残していく。
〈お化け屋敷〉
〈射的〉
〈フランクフルト〉
〈チョコバナナ〉
〈焼きそば〉
〈クレープ〉
〈わたがし〉
などなど。
食べ物系が多いのは、やはりお腹が空いてる4限目に採決を取ったからだろうか。
「じゃあ、三組は、〈チョコバナナ〉でいこうと思います」
最終的に、挙手の多かった〈チョコバナナ〉に決定する。
これなら、火を使わなくて済むし、作るのもさほど難しくない。
残ったチョコとかは、みんなで分ければいいし、特別な道具も必要ない。
材料と、湯煎するためのボールとかヘラがあればいい。
すごく、簡単。なのに、見栄えは悪くない。
そのあたりのメリットが受け入れられたのだろう。満場一致…とはいかなかったけど、それでも、多くの賛成を受けることが出来た。
最後に、男子の委員と書類提出について二、三確認を交わすと、自分の席に戻る。
「お疲れ、てまり」
友だちから労いの言葉を受ける。
「アンタにしては、よくやったじゃん」
「まあ、ね…」
今までの私なら、きっと壇上であがってしまい、ロクに進行出来なかったと思う。男子委員にも迷惑かけるだけだったハズだ。
「なんかイイことでもあったの⁉」
「別にぃ。そういうわけじゃないよ」
なかったと言えば嘘になるけど。
あのバッティングセンターでの一件は、やはり気持ちよかったし、一時だけだけど、前世がらみのイヤなことを忘れることが出来た。
それに、モンスターとしての日々に比べれば、こんなぐらい、フツーの高校生活なんて大したことない気がしてくる。
壇上にあがったところで、斬られるわけじゃないし。素性がバレるわけじゃないし。
スライムとしての前世を思い出したおかげで、随分と神経が図太くなった気がする。
ちょっとやそっとのことでは驚かないし、困らないというのか。
そういう意味では、前世を思い出したのはよかったのかもしれない。
「菅原くんとなにかあったの⁉」
…って、どーしてそうなるのよ。
「なにもないって」
ただの幼なじみで、斬る側と、斬られる側の関係だし。
「あんな、いきなり湧いて出た女の子が来たからって、〈幼なじみ〉のほうが強いんだからね!? くっつくとしたら、〈幼なじみ〉なんだからね!?」
いや、だからなんの関係も進展してないってば。
勇者とスライムじゃ、進展のしようがないでしょ。
「負けるな、てまり」
…だから、なにによ。
私たちじゃあ、万が一にも億が一にもありえないわ。
そしてアンタは少女マンガの読みすぎ。




