白球を追う青春…。ジャンルが違う。
「それじゃあ、アディル、てまりさん」
いつものモンスター退治のあと。
家の直前、曲がり角にさしかかったところで、花蓮さんが別れを告げた。
「ああ、またな」
「さようなら」
私と陽彩も挨拶をする。
もうここまで来たらモンスターに襲われることもないだろう。
わずか数メートルの距離を、陽彩と並んで歩く。
「てまり。なんか疲れてそうだな」
イキナリ、陽彩に顔を覗き込まれた。
「えー、あー、わかる⁉」
「垂れ線しょってるぞ!?」
まあ、そうだろうな。
「文化祭のことでねー。ほら、私、文化委員だから」
これは、言い訳。
ホントは、さっきの公園での一戦。花蓮さんのモンスター〈呼び寄せ〉に抵抗していたからなんだけど。あれって、結構有無を言わさず襲わせるのね。近くにいた私にまで、ものすごい影響があって、身体を抑えるのに必死だった。ギャオオオッ!!て茂みから躍り出たくなったよ。ものすごい吸引力だった。
今日は、ゴーレムにワイバーン、シルフなんてものいた。ホント、多種多様。
みんな、花蓮さんと陽彩の連携プレーで倒されちゃったけど。
…加勢しなくてゴメンナサイ。心の中で彼らに謝る。
「…てまり」
「なに!?」
「これから、ちょっとつき合え」
「へっ⁉」
どこに!?
尋ねる間もなく、グイっと腕を引っ張られる。
あーもう、家に帰ってきたってのに、どこ行くのよー!! 疲れてるのにぃ!!
「バッティングセンター…」
時折聞こえるカーンという小気味のいい音。
陽彩が私を連れてきたのは、近所のバッティングセンターだった。
近所とはいえ、私はこんなところに来たことはない。
「ほら、ここで打ってみろ」
陽彩の方は経験があるらしく、慣れた手つきで準備を始めた。
「打ってみろって言われたって…」
他の客のボックスを見る。
球っ!! メッチャ速いじゃんっ!!
「ムリムリムリムリッ!! 私にはムリッ!!」
あんなの、超コワいじゃんかっ!!
「そんな怖くねえよ。ストレートしか飛んでこないし」
と、言われましても。
「オレが手本を見せてやるから、ちゃんと見てろよ⁉」
有無も言わさず、陽彩がボックスに入る。
え…⁉ そこ〈130キロ〉って書いてあるけど。
カーンッ!!
初球からいい当たり。
陽彩の打った球は、大きく放物線を描いて飛んでいった。
「ホームラン…⁉」
「いや、あれだとヒット。よくてライトフライ」
言いながらもう一度、陽彩が構える。
グッと腰を落として、足を引きつけて。バットを流れるように振り切る。
カーンッ!!
再びいい当たり。
陽彩が得意なのってサッカーだけじゃないんだ。
初めて知る、幼なじみの特技。
その運動神経のよさは、やっぱり前世で勇者をやっていたからだろう。今だって、立派に勇者として務めをはたしているし。
「ほれ、今度はてまりの番な」
全球打ち返し終えると、陽彩がバットを差し出した。
「えっ⁉ 私にはムリだよ」
こんな剛速球、打てるわけないじゃん。やったことないし。
「てまりが打つのはあっち」
陽彩が指さす。
そこにあったのは、〈80キロ〉という看板と、小学生の姿。ずいぶん小さく見えるのに、上手にボールを打ち返していた。
「小学生に出来るんだ。てまりにだって大丈夫だろ!?」
ううう。バカにされてるけど。
小学生に出来るなら、私にも打てるかな…⁉
順番を待ってから、ボックスに入る。
「なあ、てまり。お前左利きか⁉」
「えっ⁉ 違うけど」
「じゃあ、バッターボックス間違ってるぞ。それと、バットを持つ手、上下逆だ」
そうなの!? よくわからないまま立つ位置を変える。
「じゃあ、お金入れるぞー」
ぎゃあ、待って待ってっ!!
ボックスに入ったものの、やっぱ怖いっ!!
見逃した初球が、ボスンッと後ろのマットに当たった。
「こらっ、目をつぶるなっ!!」
陽彩の叱責が飛ぶ。
「ダメでもいいから、バットを振ってみろっ!!」
うう~。そんなこと言われても…。
「きゃあっ!!」
やっぱ怖いっ!!
バットを持ったまま、身をすくめるしかない。
陽彩が呆れてるのがわかるけど、こればかりは…って、え!? ええっ⁉
「一緒にいてやるから、目を開けろ」
いつの間にか背後に陽彩が立っていた。背中から私を包むようにして、バットを持つ手を支えてくれる。
「しっかり見てろよ」
陽彩の支えに合わせて腕とバットが動く。グッと陽彩の手に力がこもったのが伝わる。
視線の先、ボールの出てくるところ、電光掲示のピッチャーが大きく振りかぶる。
そして。
バスッ…。
ちょっと間抜けな音だったけど、私の打った球がピッチャーのほうめがけて飛んでいった。
「打て、た…⁉」
「ピッチャーフライに終わりそうだがな」
でも、打てた。人生初めてのボール。
「やったっ!! どうしよっ!! うれしいっ!!」
もうピョンピョン飛び跳ねたい気分。
「こら、ちゃんと構えてろ、次の球、来るぞ」
「うっ、うんっ!!」
そうだ、うかれてる場合じゃない。
もう一度、陽彩に支えてもらいながら、バットを構える。
カーンッ!!
今度は小気味いい音が出て、ボールも高く弧を描いた。
打てるって楽しい。飛ぶって楽しい。
気がつけば、私は一人でもボールを打ち返せるようになっていた。
左肩の服をクイクイッと引っ張る。バットを前に突き出す。
「さあこい、星くん!!」
「いくよ、花形くんっ!!」
…これは、ふざけすぎか。




