はれてお役御免…、になりたいです。
「は!? 委員会!?」
なに、ソレ。
「てまり、アンタ文化委員でしょうが」
…へ!? そうだっけ。
言われてみれば、そんなもんになったような気がする。ジャンケンで負けて。
「二学期の文化祭、どうするかってことで話し合いがあるってよ。男子の委員が呼んでたから行ってきな」
ドンッと友だちから背中を押され、放課後、会議室となった視聴覚室に向かう。
そっか。もう文化祭の話し合いをする季節なんだ。
高校の文化祭は、中学とは全然違う。去年、見学に来たけど、自分たちでお店をやったりしてて、ホントのお祭りって雰囲気だった。合唱ぐらいしかない中学とは違って見ているだけでも楽しかった。
あれを、今度は自分たちでやるのか。
そう考えると、少しだけワクワクする。
視聴覚室に入ると、同じクラスの委員の男子が先に席に着いてた。軽く挨拶をしてから自分も着席する。(というか、同じ委員だけど、この男子とほとんど面識ないのよね)
視聴覚室には、他にも二年や三年の委員の姿もあった。こっちは、経験者だから手慣れているのだろう。席に置かれた資料をロクに読みもしていない。
今日のモンスター退治につき合えないことを陽彩にスマホで伝えてから、資料に目を通す。そんなに分厚い資料じゃないけど、今度クラスで説明しなくちゃいけないから、ちゃんと頭に入れておかなくては。
文化祭の日程、出し物の決定、申請。場所、道具、予算。体育館など、舞台が必要な場合の申請方法。文化祭までの会議の日程。提出しなくてはいけない書類。
…う~ん。頭痛くなりそう。
それは、隣に座った男子委員も同じだったらしく、「来年は文化委員やらねぇ」と呟かれた。
…まあ、そうだよね。
文化祭、参加するのはおもしろいけど、企画、下準備は忙しそうだ。
ガラッ…。
だいたいの委員がそろったところで、生徒会の面々が視聴覚室に入ってきた。
あちらは、私たちが手にしている書類よりもたくさんのプリントを携えている。きっと、私たち以上に忙しいんだろうな。
そんなことを思いながら、彼らを眺めていた。
中央に配された壇上に、おそらく生徒会長らしき男子生徒。その左右に置かれた椅子に多分会計とか書記とかの役員の人。(男女イロイロ)
こういうのって、よくドラマとかアニメであるよな。
なんとなく思った。
だって。
その中央の会長、結構なイケメンだったんだもん。
眼鏡こそかけてるけど、それなりにシュッとした容姿。野暮ったいガリ勉君ではない。少し切れ長の目は、眼鏡越しでも印象的で、一度見たら忘れられない気がする。
「では、会議を始めます」
その声も、落ち着いててものすごく似合ってた。
…恋に落ちる!?
いやいや、そんなんじゃなくて。
カッコいいのを見れたな~、いい目の保養をさせてもらったな~ってだけ。
群衆モンスターのスライムとしては、恋などとおこがましいことを言う気はございません。
最近は、花蓮さんといい、この生徒会長といい。美形に出会う確率が多いよなあ。
その程度。
会長の説明はとても分かりやすく、これなら自分にも出来るんじゃないかなって気分になった。プリントだけでは不安だった心が氷解してゆく。
文化委員になったことを後悔していた男子の委員も、これならやれそうとばかりに、前のめりになって話を聞いている。
「説明は以上ですが、何か質問はありますか⁉」
会長の言葉に、誰も手を上げない。それよりも、やってやるぞって空気になっている。
受験前で、あんまりやる気のなさそうだった三年生の先輩たちも、目が生き生きしてる。
多分、頭の中で、こんなことをしようかなとか、いっぱい考えてるに違いない。
私もそうだもん。
結構、ワクワクしてる。
どんなお店がいいかな。舞台で何かやるのも面白そう。
クラスでどんな催しを提案しようかな。
「今日はこれで終了としますが、何か質問などあったらいつでも生徒会室にお越しください。僕が相談に乗ります」
その言葉を最後に、委員たちが三々五々に立ち上がっていく。
私も男子委員と次のHRまでに軽くまとめとく、なんて話をしながら別れた。
さてと。
「うわ」
ポケットから取り出したスマホを見て思わず声がこぼれる。
――公園で待ってる。
陽彩の返事は簡潔だったけど。
(どうして待ってるのよ)
花蓮さんもいるんだし、先帰ってたって問題ないのに。
というか、先帰ればいいじゃん。
私、モンスター退治に必要ないでしょ⁉
待ってる、と言われた以上、公園に立ち寄らないわけにはいかない。
「おつかれ~」
私が公園に行くと、ノンビリとスマホをいじりながら陽彩が待っていた。
「花蓮さんは!?」
見たかんじ、陽彩一人みたいだけど。
「ん~、帰った」
なら、アンタも帰ればよかったのに。
「今日は、モンスター、襲ってきたの⁉」
「おお。今日は大量だったぞ。花蓮がモンスターを〈呼び寄せ〉したからな」
うえっ⁉ なにそれ。
「ガーゴイルだろ!? マタンゴだろ!? ミノタウルスもいたし、キラービーは大群だったからちょっと苦労した」
指折り倒した敵を数えられる。
離れた場所(学校)にいて、ホント助かった。
うっかり〈呼び寄せ〉なんかに巻き込まれた日には…。
「でも、倒したモンスターの宿主たちは!?」
そんなにベンチに転がしておけないでしょ。
「ああ、みんな花蓮が目覚めさせて帰らせた」
…なるほど。呼び寄せられて、スパッと斬られて、はい終了。お帰りはアチラです⁉
まるで、虫歯でも抜かれたような感覚なんだろうか。それも痛くない…みたいだし。
「じゃあ、なんで私を待っていたのよ」
終わったのなら、陽彩も帰ればよかったのに。
「ん~、なんていうのかさぁ。癒しが欲しかったんだよな~」
「はあ!?」
「モンスター化したヤツばっかり見てるとさ、なんか心がすさんでくるっていうのかさ。
寂しいんだよな。コイツもモンスターなのかよって」
街で見かける、フツーの人がイキナリモンスターとして襲ってくる。それは、確かにイヤかもしれない。フラッシュモブならうれしいけれど、フラッシュモンスター!? っていうのは…。
コイツもモンスターなんじゃないかって、疑心暗鬼になってしまう。
「なんでもないてまりを見てるとさ。そんな心が癒されるんだよな」
…うっ。
その言葉に、私は息が詰まる。
だって、私、そんな〈なんでもない〉存在じゃないし。スライムだし。
他のみんなみたいに、攻撃しないだけで。
「じゃあ、帰るか」
陽彩の言葉に従って歩き出す。
ごめん。
私、そんなフツーの人間じゃないよ。
攻撃しないだけで、黙っているだけで。
本当は、アンタを倒さなきゃいけないスライム、敵なんだもん。
幼なじみへの無条件の信頼に、胸が痛む。




