ゼリーは、友だちっ!!
その昔、子どものころは、ゼリーが嫌いだった。
ううん。この言い方は正確じゃない。
――ゼリーを崩して食べるのが嫌いだった。
これが正しい。
プリンはまだ許せる。ヨーグルトも平気。
だけど、ゼリーだけがダメだった。
見てるぶんにはカワイイと思うのよ、ゼリー。
プルルンッとして、ポヨンポヨンしてて。その透き通った色も大好き。
だけど、それをスプーンですくって、壊して、食べるとなると…。
なんだろう。「やめてっ!!」って叫びたい衝動にかられた。
カワイイから崩したくない⁉ 美味しくないから食べたくない⁉
一回だけ、がんばって口にしたことがあるけど、そのあと、なにがショックだったのか、高熱を発して寝込んでしまった。
どうしてそんなにイヤなのか、理由はわからず、どうかすると、家族や友だちが口にするのも耐えられなかった。幼なじみが食べるのを見て、大泣きしたこともある。(彼は、ものすごく驚いたけど)
私、瑞浪てまりは、16歳、高校一年の春、その〈ゼリー(食べるの)恐怖症〉の原因を知ることとなる。それは、とんでもなくありえない話で、人には言いたくなくなるほど、情けない理由だった。
まだ桜がようやく葉桜になり始め、真新しかった高校の制服が、ちょっぴり自分に馴染み始めた頃。
(ケンカ…⁉)
学校帰りのいつもの道、公園の方からした声に、足を止める。
誰かと誰かが争っているような声。というか、一方的に唸ってるような声。相手の方は、あまり声を上げてない。
(なになになになにっ!?)
興味半分、怖いもの見たさ半分。
よせばいいのに、入り口の茂みに身を隠しながら様子を見る。
そこにいたのは、近所の工業高校の学ランを着たゴッツイ大男と…。
(陽彩じゃん…)
菅原陽彩は、私の幼なじみ。家は隣同士、高校も同じの腐れ縁。(クラスはさすがに違う)
中学の時はサッカー部に所属していたけど、高校では「めんどくさい」の一言で、部活に入ってない。
一応、運動はしてたんだなって身体つきはしてるけど、そんなケンカをするような体格は持ち合わせていない。身長だって、男子としてなら平均!? ぐらい。
対して、相手は〈ザ・ヤンキー〉って感じの、まあ、ゴッツイ大男。ラグビーやる⁉ それとも柔道!? いや。今の雰囲気なら、『北斗〇拳』のやられザコ…。
とまあ、そんな体格差タップリの相手と、陽彩が対峙している。
(ねえ、これって、けっこうヤバい状況なんじゃない⁉)
どうして陽彩がこんなヤツとケンカ寸前になっているのかは、わからない。陽彩、ケンカっぱやい性格でもなかったと思うし。
(まさか、高校に入って、ケンカデビューするとか⁉)
いや、昭和の高校生じゃあるまいし。
(どうしよう。これ、止めたほうがいいのかな⁉)
どうみても、体格的に陽彩が弱い気がする。相手、ケンカ一筋って顔してるし。ほら、今だって襲い掛かろうとばかりに、低く唸ってるよ。
「グルルルルッ…」
ほらほらほらほら。
なんか、メッチャ獣っぽい声。
……獣!?
いくらケンカでも、獣はないんじゃない⁉
そう思ったけど、振り上げかけた腕といい、引っ掻く気満々の手といい、どうみても、相手は獣にしか見えなかった。目だって、ランランと光ってる。そのうち、学ランをビリビリーッて破るんじゃないかってぐらい。
(いや、そんなマンガみたいな表現、おかしい…って、ちょっとっ!!)
まるでヤク中ですか⁉ って顔で、男が陽彩に向かって突進する。作戦も何もない、直線的な力押し。
だけど、陽彩は特に構えるふうでもなく、それを正面から見ている。
(ふっとばされるよっ!!)
思わず声をあげそうになったまま、私は固まった。このままじゃ、「グハアッ!!」とか言って、陽彩が宙に舞う…って、え!? ええっ⁉
「ゴハアッ…‼」
予想とはちょっと違う声を上げて、のけぞるように舞ったのは、陽彩ではなく、大男の方だった。
ズシャアアアッ!! っと擬音つきで、地面にひっくり返る。
(えっ⁉ 何!? 何が起きたの⁉)
にわかには信じられなかった。目ん玉が乾きそうなほど大きく見開いて、その光景を見続ける。
陽彩の手には、光輝く剣。よくファンタジーっぽいアニメとかマンガに出てくる、〈ホニャララの剣〉とか呼ばれるような長大で荘厳な剣。
(銃刀法違反っ!!)
とかではなく。
(ケンカに武器は卑怯よっ!!)
でもなく。
(どっから、そんなもの出したのよっ!!)
じゃなくって。
(人殺しっ!!)
これが正解。
だって、あんなので斬られたら、大男、死んでる…よ!?
幼なじみの起こした殺人事件に、膝が震えだす。ケンカなんてレベルじゃないよ、これはっ!! 正当防衛として許してもらえる範囲を超えてる。
ヤバい。これ逃げたほうがいい⁉ 逃げてお巡りさんでも呼んできたほうがいい⁉
恐怖がのどの奥に張りついて、息すら忘れそうになる。
逃げよう!! そうしよう!!
そして、何も見なかったことにしよう!!
そう決めた私は、ゆーっくりそぉっと慎重に茂みから離れ…。
ガサッ。
音を立ててしまった。
ああああ。私のバカ。
「誰だっ!!」
鋭い陽彩の声。背筋に電気が走ったような衝撃を受ける。
ええい。こうなったら。
「ミャア~オ」
猫のモノマネ。
これで乗り切れる…はずなかったあぁぁっ!!
「なにやってるの⁉」
必死に隠れる私の上に降ってきた、陽彩の声。茂みを覗く陽彩の顔は、いつも通りの彼だった。
「えっ⁉ いや、なんでもっ!? ちょっとかくれんぼ!? 的な!?」
ごまかせ、笑え。そして逃げるスキを見つけるんだ。
「見てたのか⁉」
「エッ⁉ ナ、ナニヲ!?」
声がロボットみたい。ワタシ、ナニモ、ミテオリマセン。
「見られちまったモンは、しょうがないな…」
いや、しょうがないって。しょうがなくないよっ!!
(まさか、証拠隠滅!? 第二の殺人!?)
いくら陽彩が幼なじみだからって、彼のために殺されてやる義理はないっ!!
「ねえ、陽彩。自首しよ!?」
「――は!?」
「私、ついて行ってあげるから、ねっ。これ以上罪を重ねないで。おばさんたちもきっと悲しむよ」
必死に、陽彩の腕に取りすがる。
殺されてたまるか。
それぐらいなら、最後のあがきとして、彼の良心に訴えてやる。そんなことをして、お前のお袋さんも泣いているぞ作戦。
「お前、何言ってるの⁉」
陽彩が、不思議そうな声を上げた。
いや、だって、今アンタが殺人を犯したんじゃん!!
「オレ、自首するようなこと、何もしてないけど」
「はあっ⁉」
何言ってるのよ、コイツ。ヤンキーなら殺しても数に入らないってわけ!?
「だって、そこの人を、アンタ、ザシュッって斬ってた…、ってあれ⁉」
訴えるように指さしして、そのまま固まってしまった。
だって。
倒れてるヤンキー、一滴の血も出てない。
ただ、仰向けにひっくり返っているだけ。
それどころか。
ユラア…。
陽炎のようなものがヤンキーの身体から立ち上る。それは、まるで獣のようなシルエットで、煙のように次第に薄れかすみ、消えていった。
「なに…、あれ」
陽彩の腕を掴んだ手に力がこもる。
お化け!? 幽霊!?
「オークだよ」
「おぉく!?」
何それ。さらに意味わからん。
「よくロープレとかで出てくるだろうが。モンスターの一種でオーク」
ああ、そういえば。『ドラ〇エ』とかに、いた気がする。…って、それがなんであんな風に見えるのよっ!!
「説明、長くなるけど、聞く気はあるか⁉」
ため息まじりに陽彩が言った。
お久しぶりです。いもあん。です。
スライム×女子高生。勇者×男子高校生。
幼なじみの二人が、このさきどうなっていくのか、温かい目で見ていただけると幸いです。
前作の欄でも書きましたが、現在、プライベートでのストレスで、絶不調の身の上。
まだまだリハビリ中で、投稿も、不定期になりがちですが、ノンビリと待っていただければ。(そして、できればイジメないでね。豆腐メンタル状態なので)
ボチボチやってきますので、よろしくお願いいたします。




