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【ステマ小説】映画:ラ・ラ・ランド 編

作者: としょ



ブランコで夫と娘が遊んでいるのが見える。

この公園は何年振りだろう。家から近いとも遠いとも言えないこの公園は近所の中では一番広く、遊具が充実している。

一人部屋の無い私にとって、同級生が滅多に来ないこの公園は有り難かった。何時間も過ごしたこともあった。


そろそろ娘に飲み物でも買いに行ってあげようか、なんてベンチから立ち上がりバックを取ろうと振り返った時、ここはあのベンチだと気づく。

理由は忘れてしまったが、寒い冬の日に私はコンポタージュを飲みながら一人で座っていた。

「こんなとこでなにしてるん?」

いつもなら同級生が公園に入ってくるのが見えたらそそくさと去っていくのだが、この日は俯きすぎて声をかけられるまで気がつかなかったのだ。

しまった、と思いながら恐る恐る顔を上げると当時私が好きだった男の子が目の前にいたもんだから、びっくりしてコンポタージュの缶を少し潰してしまった。

「なにもしてない…です」

私は俯きながら言った。

ふーん、と言いながら彼は去っていった。数分後に現れた時には彼の手にはコーンポタージュがあった。


あの日私たちは二人でコーンポタージュを飲んでいた。幾年も経ち、今はもう誰も座っていないベンチに私と私の好きだった男の子をイメージしてみる。


頭が真っ白になりずっと下を向いている女の子、時々唇を噛みながら遠くを見ている男の子。

このまま会話も無く、飲み終えて別れるだけのつまらないストーリー。ハッピーエンドにはならない結末を知っている。せめて、踊ってくれたらと思う。最初と最後は、いい。気まずさを着火剤にして踊り出してくれたら境目が曖昧になって、夢心地でいられるのに。彼が立ち去る前に足をするりとくぐらせてくれるだけで、救われるのに。


「ママーなにしてるの?」

後ろから声がしてハッとする。

「ラ・ラ・ランドのラストシーンみたいな顔してたよ」

そう言って夫が笑っている。

「ママー喉乾いた」

自動販売機を指差す娘を見て、私は踊れなくて良かったと思った。

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