8話 VS ゴブリン
ゴブリン達は当たり前のように我が物顔で洞窟の中に入っていく。明らかに巣を作っている。今の俺一人では中に入るのは自殺行為だ。
少し様子を見て個別で動いているやつを狙って少しずつ倒していくか。充分に力がついてから殲滅しようか。いやしかし、ゴブリンは繁殖する速度が他の魔物に比べかなり速いほうだ。のんびりしてたら街に被害が出てしまうかもしれないしな。
一度帰ってギルドに報告するか?王城に報告しようものなら『勇者のくせに自分でやらないのか』って貴族連中から文句も出るだろうし、結局管理下に置かれそうだしな。
「ん?別のゴブリン共が戻って来たのか?」
今度はそこそこ数が多いな。五、六匹ってところか。少し離れているから分からないが随分はしゃいでいるな。一端に一仕事やり切ったって顔をしていやがる。
「!?………クソが」
嫌なことを思い出させやがって。もちろん忘れたことなんかない。それに俺が守り切れなかった女の子と同じ娘ってわけでもない。しかし…
「俺の目の前でゴブリンが女子供を連れて行けると思うなよ」
今まさに洞窟内に十五歳前後の女の子が連れて行かれようとしている。やつらの行動範囲の町や村が襲われたのか、一人で森に居るところを攫われたのかは分からない。だがこのままではあの子の末路は決まっている。ギルドに戻る時間はない。俺一人では自殺行為?知ったとこか。
「今度こそ絶対に助けてやる!」
もうやつらは洞窟の中に入ろうとしている。
俺は一直線に走る。戦利品を手にしているやつらは気が昂ぶっているのかまだ俺に気付く様子はない。その隙をつき一番手前にいるゴブリンの首を狙い鞘から抜く勢いのまま剣を振りぬく。
ここまでしてようやく俺に気付いたようだ。ギイギイ騒ぎ始める。だが構いはしない。やることは何も変わらない。
「貴様ら全員、皆殺しだ」
次に近い相手に向かって剣を振り下ろし頭をかち割る。すると少女を担いでいた先頭にいた二匹のゴブリンが早足で洞窟内に走って行き、残った二匹が俺の足止めをしようと俺に向き直り手に持った棍棒を構えた。
「無駄な知恵だけ持ちやがってッ!」
「「ギャギャアッ!」」
二匹が同時に飛び掛かり棍棒を振りかぶってくる。技術なんかありはしないが二本の棍棒を同時に受け流すことは今の俺にはまだ出来ない。武器も貧弱で受け止めることすら出来ないため軽く後ろに跳び躱す。振り下ろし隙が出来ている一匹の腕を切り飛ばし仰け反った胸を刺し貫く。もう一匹が突きをしたばかりで剣が使えない俺に横薙ぎで仕掛けてくるが、剣に刺さったままのゴブリンを盾にして受け止める。動きが止まったゴブリンを足の裏で蹴り飛ばして仰向けに倒し、腹を踏みつけ動きを封じ一匹目が刺さったままの剣で驚愕の表情を浮かべた二匹目の喉を串刺し止めを刺す。
「ハァッハァッ!」
弱くなっていることは分かっているつもりだったけど実感が足りなかったみたいだ。下っ端二匹程度にこんなに時間が掛かるとは。
すでに少女は洞窟の中に連れられてしまい視界内にはいない。
「上等だ。手を出す暇がないくらいに暴れてやるよ」
ゴブリンを剣から振り落とし鞘に戻し、二匹が持っていた棍棒を拾ってから洞窟内に入る。
身体能力は比べ物にならないくらい落ちているが、感覚は頭が覚えているみたいだ。洞窟内は暗くはあるが少しの明かりがあれば問題なく動くことが出来そうだ。それに集中していれば気配を読み取ることも出来るだろう。
少し進んだ頃に前から十匹ほどの集団が向かってくるのが分かる。まぁ当然襲撃があったことは知らされているよな。
だったら先に挨拶してやる。
「オラァ!」
棍棒を一本思い切り横回転で投げつける。上手いこと軌道を取り同時に二匹の頭に直撃し動かなくなった。唐突の攻撃に騒ぎ始め迎撃体制が取れていない。
「遅ぇッ!」
棍棒を投げると同時に走り始めていた俺は武器を構えられていない一番近いゴブリンの頭を棍棒で潰す。
あまり時間を掛けると少女がどうなるか分からない。だがこの狭い洞窟内で挟まれる訳にはいかない。確実に手前にいるやつから順に仕留めていく必要がある。体力の消耗を抑えるためにも最小限の動きで戦う。
感覚は残っている。出来るはずだ。狭い場所ってことは同時に仕掛けられる数も三匹がせいぜいだ。
「ギギャア!」
攻撃を避け、避けた方向にいる相手の頭を棍棒で殴り殺し、そのまま振り向き様に攻撃してきた相手を殺す。そして次に近いゴブリンに向かい棍棒を投げつけ、死体が落とした武器を拾い殴りかかる。
その度にゴブリン共の悲鳴が洞窟内に響き渡る。
「ハァッハァッ………」
もう一体どれくらい同じことを繰り返した?
向かってくるやつは全員片付けた。今は俺以外に立っているやつはいない。
まともには貰ってないが疲れが出てきて何度か攻撃を食らってしまった。
最初は十匹程度だと思っていたが、どんどん増援が奥から湧き出すようにやって来て、足元には少なくとも五十匹は転がっていやがる。
これで全滅ならありがたいんだが、少女はここにはいない。
さすがに疲れが溜まって休みたくはあるが、時間が経てば経つほど少女の身が危険に及ぶ可能性が上がるのでゆっくりはしていられない。
途中から棍棒だけではなく短剣や、ショートソードを持ったゴブリンがいたためそれらを拾い奥に進む。
奥の開けた場所に出た俺は小さな絶望感と、大きな納得を感じていた。
「これだけの規模の群れなんだ。そりゃいるよなぁ」
そこにはゴブリンナイトとゴブリンメイジを従えた、ゴブリンロードがいた。
戦闘シーンとても難しいです。
上手に表現できる方は何を考えているのか・・・