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53話 地下の扉

 話し合いが終わり俺たちにとっては未踏の領域に勇み足で踏み込んだわけだが、特に何事もなく地図を埋めていた。


「……何もいませんね」


 そう、何も()()()()()()()のだ。

 野営地から出発することおよそ二時間。ラミアはおろか、リザードマンの一体すら出てきていない。


「マルクスはこの辺りまで来たことはあるのか?」

「ありますよ。普段であればこの辺りはまだリザードマンの住処でしたから、僕のランクでは適正の狩場だったんです」


 そうだったのか。

 繁殖期だっていうリザードマンがここまで見ないとなるともしかしたら全滅してる可能性を考えてしまう。そんなことをたかがラミア程度が出来るとは到底思えない。それ以上の何かに出くわすことも想定はしていたけれど、それまでにこいつらを鍛えられないことは想定していなかった。


「調査だって分かってるけど、歩いてるだけなんて暇だよー」

「もう何もないなら帰ってもいいんじゃないかなぁ」


 この世界で生まれ育ち、常に気配を感じ対処出来るランや、現状に危機感を抱いているマルクスと違って何も起こらない洞窟の中を二時間も歩き続ける散歩は退屈で集中できるものではない。その気持ちが一番分かるはずの俺が配慮を怠っていたのはやっぱり俺の落ち度だろう。

 それに関しては強くは言えないけど、それでも兄として言わないといけない。


「あまり気を抜くなよ。いつ魔物が襲い掛かってくるか分からないんだからな」

「でも何か近くにいたらおにいかランちゃんが先に気付くじゃん」

「戦いになる距離になるまでに対応できるよ」

「確かにそうかもしれないけど別行動になる可能性もあるかもしれないんだから、自分でも警戒する癖を付けておいて損は無いぞ」


 う~ん、この世界で初めてギルドで見たときは依頼をちゃんと選んで無理なことはしないようなしっかりした印象を受けたんだけどな。

 そう思ってマルクスに聞いてみたんだけど。


「しっかりしようとしていた時に突然頼りになる存在が現れたんです。そしてその存在が自分たちを気にかけて共に行動をしてくれる、そうなれば頼ってしまうものでしょう。そしてそれが親族なら尚更です」


 そう言われてしまえば悪い気持ちにはならない。でもそれとこれとは話が別だ。少しずつでも慣れさせていくしかないか。


「ご主人」

「ん、どうしたラン?」

「なにか、いる」


 その言葉で今までだらけていた妹たちも姿勢を正し身構えた。うん、一般の冒険者なら上等だと思う。


「何処に、どれくらいいる?」

「場所は、そこの角を曲がった先。………数は……分からない」

「分からないってどういうこと、ランちゃん?」

「昨日は離れた場所でも数もぴったり当ててたのに」

「うん、でも、分からない。……なにか変」


 これは本格的に異常だ。正直俺もランの能力の精度を信じている。その上で分からないと言うならよっぽど何かおかしなことが起こっているんだろう。

 マルクスに目配せをして隊列を組みなおす。俺を先頭に、二番目にランとして悠香と心悠を間にマルクスを殿しんがりにして最大限警戒をして先に進む。


「ラン、分からないことを気に病むことはない。気になることがあればその都度言ってくれ。何かあれば俺が対応するから」

「うん」


 間違いなら間違いでも構わない。一番困るのは自分に自信を無くし発言を控えてしまうこと。そうなれば全員が危険に晒されてしまうし、誰のためにもならない。特に俺たちのような冒険者の仲間であれば、確かに指揮する人間もいるだろうが基本的には立場は横並びだ。発言力に差が出るべきではないと思っている。ランは俺のことを主人と呼ぶが言いたいことを言わないでいるとかはないから大丈夫だろうけど、こういう時に口にすることも大事だと思う。


 隊列を組んだまま注意をして角を曲がると明らかにこれまでの道程と様子が違っていた。


「ラン、気配を感じるのはここであってるよな?」

「うん、間違いない」

「だよなぁ」


 俺にも分かる、ここで間違いが無いことは。ランに比べるとかなり劣るけど少しくらいは気配を読むことは俺でも出来る。

 ただこれに関しては気配がどうとかそんな問題じゃない。

 俺たちは魔物の異常を調べるための調査依頼を受けていたはずだ。なのになんで、()()()()()()()()()()()


 前回の分も含めて初めての光景に動揺していると妹たちから小声で話しかけられる。


「ねえおにい、この世界ってボス部屋とかあるの?」

「もう何か魔物がいるっていうか、誰かいるって感じだよね」


 だよな。俺も同じことを思った。


「俺が知る限りはこの世界にボス部屋なんてものはない。もしあったとしてもこんな洞窟の中途半端な場所には無いと思う。それと心悠が言うように扉を作るのは人、だよなやっぱし」


 ボス部屋云々で話に入って来れないマルクスも混乱しているようなので現地の人間も知らないことであることが確定した。


「異常事態の原因はこの扉の奥の者の仕業でしょうか?」

「ん~、決め付けは良くないけど、十中八九そうだろうな」


 むしろ別に原因があるんならこの部屋は結局何なんだよってところだしな。


「ご主人、どうするの?」

「中に入ってそこにいる奴から状況を聞きだすしかないな、嫌だけど…。俺が扉を開けるから何があっても対処出来るように身構えておいてくれ」


 中の状況が分からないので詳細を決めることが出来ないなりに注意を促していると、


 ズズズッ……


 地面を擦るような音を立て独りでに扉が開き──


「いつまでも扉の前で話していないでさっさと入ってきたらどうだい?」


 ──迎え入れるような声が聞こえた。


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