4話 結果発表
訓練場でトーマスを軽くあしらっておよそ一時間後、謁見の間にやって来た。
ここには王女や大臣の他に常駐の騎士や多くの官僚が並んでいる。
「お集まりいただいた皆さんに紹介致します。そちらの方が王家の秘術により召喚された勇者様、ユウジ・キサラギ様です」
玉座に座る王女が普段より毅然とした態度で周りの人たちに俺のことを紹介する。…試合より先に紹介するべきじゃないのか。そもそも召喚時に護衛が居ないこと自体がまずい気がするが。
恐らく周りの官僚も近衛も同じことを感じたんだろう。心配そうな顔や、なぜ知らせなかったのかと眉を顰めてる人が大勢いる。王女が慕われている証拠なんだろうな。
ちなみに俺が召喚する一ヶ月程前に前王である父親が後継を指名する前に急死してしまったため、次の国王が決まるまで一人娘のマリアンヌ王女が代役を務めている。
「先ほど大臣ワルダック侯爵の息子、第三騎士隊副隊長トーマス・ワルダックとの試合を行い、勇者様が勝利しました」
「なんだと!?」
「どういうことだ!?」
「なぜ誰もその場に呼ばれなかったんだ!?」
王女の発言によって周りがざわつき始めている。
いや気持ちは分かるぞ、みんな。この場にいる騎士連中は前回一緒に訓練した仲だからな。旅を始めて割りとすぐ別行動になったから正直ほとんど覚えてないけど。
周りの声も聞こえているはずなのに王女はそのまま最後まで言い切る。
「それにより勇者様は騎士団とは別行動を取り一人で旅に出る権利を得ました。王国から援助を行い勇者様の準備が出来次第、お送りしたいと思います」
王女の宣言が終わった際に周囲のざわめきがピークに達した。
「一体どういうことですか王女様!近々勇者召喚を行うとは伝えられていましたが、いつの間に召喚を行っていたのですか!?」
「その通りです!しかもその後の展開についても我々には何も相談もしていただけないとは!」
「そもそも召喚された勇者が危険な人物であった場合如何なされるつもりだったのですか!?」
「ふえぇっ!?ご、ごめんなさい!」
とうとう態度が崩れたな。王女には悪いが見慣れた姿で和むな~。周りも言い過ぎたかって感じで勢いを収めている。
それでも言いたいことはたくさんあるみたいだが。
一番王女に近い官僚が代表して落ち着いた声で王女に問いかける。
「ゴホン…王女様、詳しいことはこれから確認させていただきますが、まず召喚の儀式についてなぜ何もお伝えいただけなかったのかをお伺いできますか?」
「え?ワルダック侯爵から皆に報告しているって聞きましたよ?」
すごい汗を流しているがこの大臣は本当に何がしたかったんだ?
「分かりました。…ワルダック侯爵を拘束しなさい!後ほど尋問を行います」
「や、止めろ!私を誰だと思っている!クソ、放せ!」
…この官僚さんすごいな。一瞬の躊躇もなく拘束を命令したよ。
「では次の質問なのですが」
「えっ、あっ…はい」
ほら王女もついていけてないじゃないか。連れて行かれる大臣を呆然と見送ってるよ。
「第三騎士隊の副隊長と試合をし勇者が一人で旅に出るとも仰っていましたが、こちらに関してお教えください」
「えっとそれはですね…」
王女が集まった人たちに聞こえるように状況を説明している。
……そういえば俺、当事者なのにまだ一言も喋ってないな。
「なるほどそうだったんですね。試合の相手が侯爵の息子であったことも含め何か企んでいたのでしょうがそちらも合わせ尋問を行わせます」
その内容俺も聞けるのかね。まぁ興味ないからその前に旅に出るつもりだけど。
「しかし訓練と騎士団の同行に関しましては侯爵の意見も尤もでございます。どうか御再考ください」
おい、また話を蒸し返そうとするな。何のための試合だと思ってるんだ。
「それはなりません。勇者様は私が出した提案を聞き入れてくださり、その上で勝利を勝ち取ったのです。王家の人間として約束を反故にすることはあり得ません」
「はぁ……分かっていましたが一度決めたことを覆すことはありませんか。かしこまりました。援助についてはこの後、財務部のものと相談を行いますので、そうですね、二日後には用意します」
「ご理解感謝します」
「いえ、もったいないお言葉でございます」
「そういうことですので勇者様、申し訳ありませんが今日明日は城内に部屋を用意しますので、それまでそちらでお過ごしいただいてもよろしいでしょうか?もちろんしばらく滞在していただいても構いません」
やっと俺に話が振られたな。
「はい、分かりました。金銭とそれと出来れば、特別なものは必要ないので鉄製の剣を一本いただければと思います」
ほとんど喋る間もなく話が片付いてしまった。
まぁ希望は叶ったことだし問題はないか。