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47話 少女達の

前半が三人称視点、後半がユウジ視点となっています。

 ラミアが爪を向ける。魔法を放ったばかりのコハルには新しい魔法を撃つ時間も、対処するだけの身体能力も持ち合わせていない。それが分かっているためハルカはさらに動き出す。

 自分から注意を外したラミアに対し横から攻撃をすることもなく、敵と味方の間に割り込むようにし手に持つ槍によってその凶爪を受け止める。

 体格差があるためそれだけで身体が後ろに退がってしまうが、ここで退がれば先程と同様吹く飛ばされてしまうことが分かっているため、脚を広げ重心を落としどうにか踏ん張り耐え切った。


 ホッとしたのも束の間、ラミアは蛇型の魔物と言えども上半身は人型をしている。もう片方の腕を振りかぶり爪を受け止めたばかりの槍を横合いから弾かれてしまう。敵を破る武器であり自身と仲間を守るための防具である槍を手放すことはなかった。だがそれ故に双子の妹の盾として割り込んだ場から退かされてしまった。


 邪魔者が居なくなったラミアは再びコハルに向かい爪を振り下ろす。


「ダメっ!」

「……っ!」


 コハルに防ぐ手段はない。それでも諦めるわけにはいかなかった。目を逸らさずに敵を見つめ自分に出来ることがないかを必死に考えた。だけど、やはりコハルにはラミアの攻撃を防ぐ方法はなかった。


 ザシュッ!


 鋭利なものが肉を切り裂く音が聞こえる。地面に赤く温かいどろっとした液体が零れ落ちる。


「……え?」

「あ……」


 ぼと、という音とともにコハルに伸ばされたラミアの爪は、手首ごと地面に転がり落ちた。


「ギシャアアァァァァアアアァァッ!!??」


 何が起きたか分からないラミアは手を失った驚愕と痛みに半狂乱になり叫び声を上げている。


 弾かれたハルカは瞬間を見ておらず何が起きたか分からなかったが、一瞬たりとも目を逸らさずにいたコハルは全てを見ていたが、それでも理解は出来ていなかった。

 分かっていることは遠くに飛ばされたランが助けてくれたこと。突然()()()()()()()ラミアの手首を切り飛ばしたということ。それも結果があるから判断出来るだけで、手首を切り飛ばす瞬間はコハルには速過ぎてハッキリとは視認することは出来なかったのだが。


「いまっ!」

「え、あっうん!」

「い、怒りを知れ、風の、天の、そして我の、罰を受けて焼き焦げろ───“雷撃槍ライトニング”!」


 何も見ておらず状況が呑み込めないハルカはランの言葉の意味を把握するのに一瞬の時間を要したが、なんとか体勢整え槍を突き出す構えを取る。

 そして半ば反射的に反応したコハルは先程効果のあったという理由だけで同じ魔法を放つ。これが功を奏し半狂乱から立て直しつつあったラミアの動きをさらに一秒その場に繋ぎ止める。


「ギシィアァッ!?」


 立て続けにこれまで味わったことのない痛みが身体に襲い尻尾を身体に引き寄せることも出来なくなったラミアのがら空きの胸をハルカの槍が狙い穿たれる。


「……“穿華せんが”ぁぁっ!!」


 手元で槍を螺旋状に回転させ、貫通力を上げ突き出された槍が狙い違わずラミアの胸の中心を貫き背中に突き抜ける。

 それまで上げていた耳障りな悲鳴を上げることも出来ず、手首から先が失くなった腕も無事な腕もだらりと力を失い垂れ下げる。


 胸を貫いた槍を引き抜く動作と連動しハルカは斜め下に振り払いラミアに背を向け、同時にラミアの身体も地に倒れ伏した。




 ◆




「三人ともよく頑張ったな。おつかれさん」


 辛くも格上のラミア相手に勝利を収めたみんなに俺は声を掛ける。


「ご主人、わたし、ちゃんと出来てた?」

「ああ。俺の思いを汲み取ってくれてありがう、ラン」


 俺の視線に気付いてくれたこと。時間的には長いわけではないけど、それでも一緒に旅してきた仲間だって感じたよ。


「それよりおにい、いつの間にもう一匹倒してたの?あいつさらに大きくて強そうだったのに」

「お前たちの相談が終わる頃には倒してマルクスの治療に入ってたよ」


 せっかく妹たちが戦うところを見る初めての機会なんだ。なるべくゆっくり見たかったから思いっきり急がせてもらったとも。


「マルクス様も怪我が無いみたいだし、お兄ちゃんこんなに強いのに回復魔法も使えるんだね」

「心悠も使えるようになった方が便利だよ。今度教えてやるから一緒に練習しような」


 氷の魔法が使えるなら水もいけるだろうし、それなら回復の魔法も使えるようになると思う。


「本当にお義兄さんは凄いですね。以前会ったことのあるAランク冒険者にも引けを取りませんよ」

「お義兄さんって呼ぶんじゃねえ。それよりもうリザードマン狩りどころじゃないだろ。そもそもリザードマンも少ないし、おそらくラミアの餌になってたんだと思うが」


 俺だけなら先に乗り込んで調査も可能だけど悠香と心悠はもちろん、ラミアクラスの魔物がこれ以上増えるならランやマルクスでも荷が重い。どうしてもと言うなら準備が必要だ。


「そうですね、一度ギルドに報告して対策を練るべきでしょう。地図があるのでこのまま全員で戻りましょう」

「え、地図とかあるの?俺持ってないんだけど」

「すみません。この地の冒険者は皆持っているので失念していました。戻ってからお詫びします」


 そういうことなら仕方ないか。実際来た道は覚えてるしどうにでもなるから問題ないと言えば問題ないし。


 そして帰り道の洞窟内、怪我さえ回復させれば体力は余っているマルクスとあれくらいの戦闘ではなんてことはない俺が露払いをしながら帰りの道を行く。

 そんな中することもなく暇を持て余している女の子三人は楽しそうに会話を弾ませていた。


「コハルの魔法すごかった。氷が飛んでいくのもピカってしたのも。それに魔法を撃つときの言葉も、よくわかんないけどなんかカッコよかった」

「えっいやぁうん…あはは、ありがとう…はは…」

「ハルカも止めを刺した突きすごい威力だった。あと、叫んでた技の名前と、引き抜いたときに敵に背中向けて止まるのも、なんかカッコよかった」

「うえぇっ!?そ、そうかなぁ!…は、あははは!」


 悠香に心悠、この世界に来てちょっとこじらせちゃったんだな。そこもあとでフォローした方がいいのか。

 ランも、あまり触れないでやってくれ。


悪意がない分、他人から言われると恥ずかしいことってありますよね。

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