31話 宴会だ
Bランクへの昇格か。
目立つことを避けるためには飛び級での昇格なんてのは止めておくべきなんだろうけど、高ランクになれば何かメリットがあるかもしれない。
王都で昇格と言われたときは一人だったからそれも気にしていなかったけど、今はランもいるからな。メリットが大きければ昇格を受けることも視野に入れてもいいだろう。
そのためにもいくつか確認をしておかないとな。
「どうする、ってことは昇格するかしないかを選べるってことだよな?」
「そうだよ。ただBランクになるためには試験があるからそれに合格したら、ってことだけどね」
試験?それは昇格するか選ぶって言えるのか?
「と言っても簡単な筆記試験と倫理観を見る試験、あとは冒険者としての実力を見る試験だけ。坊やならまず落ちることは無いさね」
「だから試験を受けるかどうかって聞かなかったのか」
まあ仮にも勇者、倫理観に問題なんてあったらそれこそ問題だろう。
この世界には読み書きが出来ないひとも少なくない。冒険者の筆記試験も余裕なはずだ。
「ちなみに試験を受けず昇格しなかったらどうなるんだ?」
「それなら一つ下のCランクになってもらう。Cランクまでは試験が無いからね。Cランクにもならないってのは受付けないよ。坊や程の能力があってランクが低すぎると他の冒険者に示しが付かないからね」
ふむ、そういうもんか。
さすがにランより上のランクにはなっておきたいって気持ちはある。俺を慕ってくれている娘より下ってかっこ悪い気がして、俺も見栄を張りたい。
「ただねぇ…」
「ん?」
どうしたんだ?
急に言い淀んでしまって、バッカスも珍しいものを見たかのように不思議そうな顔をしている。
「Bランク以上には指名依頼ってのがあるんだよ。貴族とか金持ってる商人とかが実績のある冒険者に依頼を出す時に使うんだけどね、そんな連中の依頼だから断るのが難しい。だから坊やには合わないかもねぇ」
そんなんがあるのかよ。だったら昇格は無しだな、貴族と顔を合わせて勇者だってバレたら意味が無い。
「そういやそんなもんがあったな。俺には一度も来ねえから忘れてたぜ!」
いや、そんな得意気に言うことじゃないぞバッカス。
「ふん、こいつは見た目がゴロツキだから誰も指名したがらないのさ」
「ひでえ!」
「バッカス、かわいそう…」
ランが巨体のおっさんを慰めている。
ランは優しい良い子だなぁ。絵面はちょっとあれだけど…。
「とりあえず今回は試験は受けないでおく。それと聞きたいんだけど、指名依頼を出されるBランク以上の冒険者は皆が断らずに依頼を受けてるのか?」
「いんや、そんなことはないよ」
「でも貴族とかからの依頼なんだろ?断ったら不味いんじゃないのか?」
「内容を聞いて自分の手に余ると思って断ってギルドに報告すれば大事にはならないよ。見栄張ってやらかす方が問題だからね」
なるほど、それもそうだな。
そうなれば依頼を出した方も困るだろうからな。
「まぁ中には、気に入らない相手からの依頼を突っぱねる冒険者もいるけどね。それに対して依頼者の貴族がガキみたいに機嫌を損ねて私兵を差し向けたら返り討ちにあったケースもある。文字通り実力で黙らせるってやつさね」
おお、やるなぁそいつ。
一つ間違えればお尋ね者だろうに。
「あたし的には坊やはその手の冒険者になると思ってるよ」
「いやいや何言ってんだよおばちゃん。そんなことしないよ」
「わたしも、ご主人はそんなすごい人だと思う」
「ランまで………」
そんな俺を見ておばちゃんとバッカスは楽しそうに笑っていたが、ランはどうして笑っているのか分からないように不思議そうにしていた。
そうして魔族の男の報告と俺とランの昇格の話が一段落した辺りで他の冒険者たちから声が掛かった。
「おい、宴会を始めるぞ!」
「さっさとグラスを持てよ!」
「お前等が来ないと始まらないだろうが!」
ったく、酒が飲みたいなら勝手に飲んでてもいいんだが。いや、もう飲んでるやつ等もいるな。
「すぐ行くから食い物残しとけよ!ほらユウジ、ラン。行くぞ」
バッカスに促され、おばちゃんもやれやれ、と言いたげな様子で輪の中に入っていく。
「俺たちも行こうか、ラン」
「うん!」
そうして俺もランを連れ宴会の輪の中に入っていく。
前回勇者として過ごしていたと時は、それこそもっと大きな規模のものを経験してたが、こんな皆が軽い感じで楽しめる宴会って言うのは良いものなんだな…。
◆
魔族たちが住まう国。
その国にある大きな建物のある一室で二人の魔族による話が行われる。
一人はユウジと一戦交えた、赤い髪の魔族の男である。
「お前は自分が何をしたのか分かっているのか」
もう一人は四十代程の見た目の、口の周りに髭を蓄え美しい顔をした、程よく筋肉の付いた大柄な男が声を発する。
発言は行動を咎めるものであったが、それに対し飄々としている。
「知らねぇよ。俺はやりたいようにやっただけだ」
反省する気は一切ない、そう言わんばかりな態度で男は言い放つ。
男の行動原理はそれに尽きるのだ。昔も今も。
もう一人の男は溜息を吐き言う。
「はぁ、お前はいつもそうだな。まぁいい、お前は厳密には魔王軍の指揮下に入っているわけではない。だがあまりやり過ぎるなよ。庇えなくなっても知らんぞ」
「あぁ分かったよ。善処するさ、親父」
もう一人の美丈夫、魔族の男の髪も髭も、同じ赤色をしていた。
今のところ魔族の男の出番はしばらく予定していません。
読み仮名多いのか少ないのか判断がつかない……
これ前にも言いましたっけ?