20話 初陣のあと
「勝てた。わたしが、初めて…魔物に。……やった!」
よくやったぞ、ラン!
スペック的に絶対に勝てると思っていたけど、心配なものなんだな。でも、受けた依頼の魔物はもっと強いやつもいる。戦闘に慣れていかないとひどい怪我をするかもしれない。そのためにはもっと頑張ってもらうか。
「ラン!大丈夫か、もう一匹いけるか?」
「え?あ、うん!」
放り投げられたもう一本の短剣を拾って準備も良さそうだ。
俺はランが闘っている間に、剣で受けたり攻撃を避けたりして時間を稼いでいた三匹から一匹選び軽く蹴り飛ばし、残りの二匹を切り伏せる。
「すごい…」
その様を見ていたランが思わずと言った様子でそう零すが、このくらいはすぐに出来るようになってもらうからな。
「ギャ……!」
最後の一匹になってしまったゴブリンは逃げようとするが俺たちの間に挟まれていて逃げられる隙間なんかない。蹴られた一瞬で仲間が二匹死んでいるんだ。俺に勝ち目がないことくらいは分かっているだろう。そうなるとあとはランのいる方から逃げるしかないってことだ。
「ランの方に行くぞ。死に物狂いで向かってくるだろうから油断はするなよ」
余裕がないのか返事はなかったが小さく頷いた。俺からは見えないがきっとゴブリンも必死な形相をしているはずだからな。
だからと言って特に苦戦はしなかった。一度魔物を殺す感覚を手にしてから緊張も吹っ切れたのか、危なげもなく大振りの棍棒を避けてから喉を切り裂いて一発だった。見事…なんだけど、首ばっかし切ってないかな?いや、まだ二匹だし偶然だよな。
「よくやったな。初めての戦闘なのにちゃんと倒せて凄いぞ」
「……えへへ」
頬を薄い桃色に染めて照れたようにはにかんでいる。うん、かわいい。
ただそうも言っていられないな。強い魔物と出くわす前に少しでも闘い方を教えておく必要がある。
「ゴブリンと闘ってみてどうだった?一匹目に短剣を一本取られたけど、どう感じた?」
「あいつ、ご主人が買ってくれた剣を捨てた。許せなかった」
いや、気持ちは嬉しいんだけど、そういうことを聞きたいわけじゃないんだけど。
その光景を思い出したのか静かだがかなり怒っている。
「えっと、その後短剣一本でも倒せたわけだけど、両手に武器を持って闘うの難しいか?」
「まだ分からない。あのときは、ちゃんと闘った感じしなかったから」
まあそりゃそうか。落ち着かせたときには一本しか持ってなくて、二匹目では一太刀で終わってしまったからな。実感なんて何もない。
「魔物を探すのは一旦止めだ。これからランに闘い方を教える」
「……!うん」
武器屋で短剣を四本買っておいてよかった。俺も二本手にし構える。
「とりあえずかかって来い。直接体感した方が早いしな」
「え…?でも……」
「遠慮しないでいいぞ。初めて会った時も当たらなかっただろ。それとも俺はそんなに弱そうか?」
「そんなことない!強いしかっこいい!」
「お、おう…。よし来い」
合図を出すと信頼してくれたのかランは躊躇わずに切りかかってくる。右、左、右、左と両手に持った短剣を交互に振りかざしている。
実際俺も教えると言ったが、正式に二刀流なんて習ったことはないのでしっかりしたことを教えることは出来ない。俺に出来ることは実戦形式で効率的に動くことだけだ。魔物や人間で動き方は違うが戦闘感を培うことは無駄にならない。ゴブリン相手にランがしたことが良い例だ。動きをよく見て無駄な動きを省き、自分の攻撃を当てる。型などが意味がないとは言わないが、複数を相手取る時や、魔法を使う相手には型の通りに動く余裕なんてないからな。
「動きが単調になってるぞ。それだと簡単に対応される」
交互に繰り返される短剣を受け流し足を払い転ばせる。仰向けになったランの顔の近くで短剣の切っ先を止める。
「短剣は軽く身体も身軽に動かせる。盾を持っているわけでもないから蹴る事だって簡単に出来る。武器だけに意識してたら駄目だぞ」
「うぅ~~~」
まったく、狼って言うより子犬みたいだな。
その後も何度か寸止めで訓練を繰り返した。結果を言うと俺に当てることは一度も出来なかったがいくつか惜しい部分もあり、最初に比べるとかなり動きがよくなった。
休憩を挟みつつではあったがすでに日も暮れようとしている。今回は一度町に戻っておこうか。
「そろそろ良い時間だし町に戻ろう。宿でゆっくり休んで明日からはまた魔物を狩ろうか」
「…?帰るの?野宿しないの?」
「帰れる距離に町があるんだから宿のほうがよくないか?」
「野宿がいい」
「まあランがいいならいいんだけど」
女の子だし野宿は嫌かと思ってたんだが、まあいいか。
森の中だしその辺に折れた枝もたくさん散らばっている。その中から乾いたものを選びかき集め火をおこそう。
乾いた枝をだいたいのサイズ別に分けておいて細い枝から火を付け火種を作り、徐々に太い枝に火を移していく……なんてことを普通はするのかもしれないが、わざわざそんなことはしない。火が消えないように予備としてある程度取って置くが魔法で火を付けるから楽なものだ。
「火はこれでよし。ランはここで少し待っていてくれ」
「どこか行くの?」
「食料はあるがそれだけだと味気がないからな。何か獲ってくる」
「わたしも行く」
「すぐに戻るから大丈夫だよ。火の番をしておいてくれ」
「うぅ~、わかった」
この森にも当然魔物以外にも普通の生き物もいるし魔物でも食べられるやつもいる。鳥やイノシシみたいな動物もいる。すぐに戻ると言ったのは枝を拾っている時にボアと呼ばれるイノシシのような魔物を見つけていたからだ。
力や速さはゴブリンよりもずっと強いが真っ直ぐに突っ込んでくるだけの魔物だ。石を投げて挑発し走ってくるのを避けて木にぶつからせ、止まったところを仕留めて終わりだ。
首を切って血抜きをしてランが待つところに持って帰る。
「ほんとにすぐだった」
「だろ?すぐに切り分けて焼いてしまうから出来上がるまでもう少し待っててくれ」
「うん」
料理が得意なわけではないからな。切って焼いて食べたり、焼いた肉をパンに挟んで食べるくらいしか出来なかった。
ランも居るし、これからは料理の練習した方がいいのかな?




