1話 再召喚
「召喚に応じていただき感謝します。勇者様、現在この世界は魔王による脅威に脅かされています。どうかこの世界をお救いください。」
「…………………………………………………は?」
なんなんだこれは?
なんで王女が目の前にいるんだ?
さっきの転移の魔方陣は王国の城に繋がっていたのか?
「勇者様に措きましては突然の召喚で戸惑いのことと思われます。まずは我々のお話を聞いていただけないでしょうか?」
確かに戸惑っている。なぜ魔王を倒した直後に呼び戻されるようなことが起こってるのかとか、怪我をしていたとはいえこんなにも体が重いのかとか、以前に聞いたことのある言葉をまた言ってるのかとか、気になる点はいろいろあるんだが。
そんなことよりまず、何で俺は学生服を着ているんだ…
「私はこの国、ガリア王国の王女、マリアンヌ・ガリアと申します。先ほども申し上げました通り魔王により世界中に魔物が蔓延り被害が続出しています。今はどうにか国の騎士たちや冒険者たちによって食い止められていますが、魔物の勢いは日に日に増していくばかり。私たちは魔王を倒し世界に平和を取り戻したいと思っています。身勝手なことを言っていると思いますが、世界を救っていただけませんか?」
王女は一体何を言ってるんだ?
魔王は倒したはずだ。いや、倒してから時間はほとんど経ってないから知らずに改めて勇者召喚を行ったのかもしれない。
それでまた俺が召喚されてしまったのであれば他に召喚されてしまう奴が現れなくて良かったと思うべきか。
それにしても王女かなり若返ってないか?
俺の一つ年下で今は二十歳のはずで、ただでさえ童顔で子供っぽい雰囲気があり、最近やっと大人っぽくなったと半年前に言っていた思ったんだが、今目の前にいる王女は初めて会ったときのように十代半ばの見た目をしている。
「あの…勇者様?戸惑われるのも分かりますが何かお話ししていただけませんか?…えっと、やっぱりいきなり喚び出されて怒っていらっしゃいますか………?」
おかしい。
なんで王女はあんなにも探り探りで話しているのか。
5年を掛け関係は打ち解け気軽に話すくらいにはなったはずだ。
なんで初対面の相手をしているようになっているんだろうか。
「だ、大臣。私は何か召喚に失敗したのでしょうか?」
「いえ、召喚は成功しているはずです。失敗の場合は何者も現れないはずでございます。」
「で、ですよね!問題ないですよね!…ということは声を出すことも嫌なほど私にお怒りなんですね!?」
おっと、考え事をしている間に王女がテンパっている。そろそろ声をかけよう。
「あー王女」
「は、はいっ!?」
………何でこんなに怯えられてるんだろう。
「魔王ってのはまた新しく現れたのか?」
「えっと、おっしゃっている意味がよく分かりませんが少なくとも私は魔王を一体しか存じておりません」
どういうことだ。
一体しか魔王を知らない?
それはやはり仲間達と倒した魔王のことだろう。
………いや、もう自分を誤魔化すのは無理だ。
初めて召喚されたときと全く同じ王女の台詞。
明らかに若い王女。
そして随分前に捨てた学生服。
どう考えても初めて召喚された日に戻っている。
「あの、勇者様。大丈夫ですか?」
「え?あっはい、大丈夫です。いくつか質問してもいいですか?」
「はい、何でも聞いてください。答えられることであれば答えさせていただきます」
召喚当日に戻ったのなら口調も気をつけておくか。
「ではまず、元の世界に帰ることは可能ですか?」
「…そうですよね。突然別の世界に喚び出されて迷惑でしたよね…本当にごめんなさい…」
まずい!王女が涙目だ!
これからの流れをスムーズにしようと定番の質問をしたつもりが、王女がこういう人だってこと忘れてた。
「あ~いや、もちろん帰りたくはありますが大丈夫です。ただ可能かどうかは確認しておきたくて」
「ほ、本当ですか?………でも、申し訳ありません。王家では召喚の方法は伝えられているのですがお帰しする方法は分からないんです」
「そうですか」
まあ、これは以前に聞いたことがあるから特別ショックを受けるようなことではないな。
そして次だ。予想は出来ているが本当に過去に戻っているか確認をしないと。
「ちなみに今は何年になるんですか?」
「え?今は神暦296年になりますが…勇者様がお伺いされても世界が違えば参考にはならないのでは?」
「あ、それもそうですね。気が動転していました」
「無理もありません。他にお聞きしたいことはございませんか?」
「少し考えてもいいですか?」
「はい、もちろんです」
これで確信した。
俺が魔王を倒したのが神暦301年。
5年前に戻っている。
魔王を倒したことも無かったことになっているが、死んだ仲間たちも今はまだ生きているってことだ。
鍛えた身体や魔力も無くなってしまっているのは残念だけど、やり直してやる。
一度は世界を救ったんだ。今度は好きなように生きてやる。