14話 始末
予想通り過ぎる名前が出て少し気が抜けてしまったが、今後のためにこれは聞いておかないとな。
「俺を狙ってる貴族が誰かってことは分かった」
「知ってる?」
「まぁ一応な。相手が誰かってこととも関係がある話なんだが、ランはどうしたい?」
「? ご主人についていく」
…ついて来ることはランの中では確定みたいだな。確かにここにきて放っぽり出すような無責任なことはさすがに出来ないしな。
「ああ。それは分かった。言葉が足りなかったな。お前を奴隷にしていたワルダックに関してだ。このままお前が帰らなかったら失敗したことに気付くだろ?」
「あ……」
「それでも今日中に街を出れば返り討ちにあってすでに死んでいると判断される可能性もある。その場合は王都の外に出ているため手が出せなくなるか、関係なく別の刺客を差し向けられるかだろう」
実際のとこ9割くらいの確立で追っ手が来るだろうけどな。頭悪そうだったからな、あいつ。
だからと言って簡単にやられるつもりはない。
「街を出るならまずランの装備を整えて食料の調達をする必要がある」
「………」
「その後に少しでも休み夜のうちに出立、といった流れだな」
「………」
「それでいいか?いいなら買出しに出るが」
「……ご主人」
「どうした?」
「わたしは、あいつを……殺したい」
…そうだろうな。いつから奴隷になっていたかは分からないが、かなり甚振られたんだろう。解除した後の奴隷紋を確認するために服を脱いだ時、体中が痣だらけだった。奴隷として縛られなくなったのなら復讐を考えても仕方ない。
「そうか、分かった。お前には今までの分を復讐する権利がある。止めるなんてことはしない」
「復讐?なにを言ってる?」
「なにをって。さっき体の痣を見たが、おそらく理由もなく痛めつけられてたんじゃないのか?」
「うん。毎日汚らわしい獣人とか言ってなにが面白いのか笑いながら蹴ってきた」
想像通りではあるが本当に胸糞悪いな。やつの息子も骨を折るくらいはしておけばよかった。
「でも、そんなことはどうでもいい。ご主人との旅の途中で追っ手が来るようになったら、ご主人に迷惑がかかる。なら来ないようにしておく」
「あ、ああ。そういうこと、ね…」
流れるように説明してくれたが自分の仕返しは全く頭の中になく、100%俺のために人殺しをするって言い切った。その眼に一切の躊躇いがないことがちょっと怖い。
今回の件が終わったら情操教育から始めないと。将来が心配だ。
「しかしどうするか。正面から堂々と乗り込むわけにもいかないし、外に出るときも護衛が居るだろうしな」
「かんたん。わたしなら気付かれない。首切って終わり」
「…当然のように殺害宣言をするな。まぁあれほど見事に気配を消せればバレずに暗殺出来るか。……ん?そういや俺の時はどうして近付かずに投擲なんて方法を取ったんだ?」
「うぅ、ごめんなさい」
「責めているわけじゃない。単に気になっただけだ」
「近づいたら気付かれると思った。気付かれたら負けるって感じてた」
なるほど、獣人の直感ってやつか。気配を消すのが上手いと言っても短剣の距離まで近付かれてそれでも気付かないような生き方はしてないからな。
「それなら納得だ。その勘を大事にするんだぞ。それで実行は今晩にするとして、俺は建物内がどうなっているか分からないんだが教えてもらえるか?」
「なんで?」
正直違和感はあるが、主人と呼ばれているのに俺がミスするなんて格好悪すぎるからな。少しでも可能性を上げるために出来ることはしておきたい。
主人云々は誤魔化しつつ、不思議そうな顔で聞いてくるランに理由を説明するが、
「わたし一人で大丈夫」
「いや、だけどな……」
「一緒だと気付かれる可能性が高くなる。それに……」
「それに?」
「わたしがやらないとダメ」
…やっぱり思うところがあるみたいだな。無理もな……
「ご主人に役に立つって思ってもらう」
……………………………………………愛が重い。
◆
「クソっ!まだ戻ってこないのか!」
ガリア王国王都内にある大臣職を務めるワルダック侯爵別邸。
声の主である王国大臣、ワイルズ・ワルダックは一人、自らの執務室で憤りを隠すことも無く怒鳴り散らしていた。
彼は息子であるトーマスを倒し、自分の思い通りに動かす駒に出来なかった勇者ユウジを暗殺し新たに別の勇者を召喚し今度こそはと画策をしていた。
万が一暗殺が成功し別の勇者を召喚が出来たとしても、他の貴族が二度も独断専行を許すことはないであろうが。
「まさか召喚されたばかりのガキに返り討ちにあったのではないだろうな。汚らわしい獣人の奴隷風情が!生かしておいた恩を忘れおって、どうせなら役に立ってから死ねばよいものを!」
実際には死んでおらず既にユウジの手によって奴隷ではなくなっていることを知る術もなく、奴隷を捨て駒か捌け口としか考えていないワイルズから余りにも身勝手な発言しか出てこない。
この時点でワイルズは二つの致命的なミスを犯していた。
一つは勇者暗殺の成否の確認を怠ったこと。
そしてもう一つは、屋敷内とはいえ、一人で居たことである。
朝になりワルダック別邸の使用人が屋敷の主人が起きてこないことを訝しみ、寝室に向かうも姿はなく、、執務室を確認したところ見たものは、窓から風が入り込み書類が舞い散る中に、喉を切り開かれ、物言わず事切れたワイルズ・ワルダックの姿であった。
今後も度々三人称視点があると思います。