12話 白い影
初め三人称になっています。
じっと見ていた。
男が街に戻ってきてから、さながら影のように隠れじっと見ていた。
冒険者ギルドに入るときも、武器屋に入るときも。
息を潜め、誰に気取られることもなく機会を待つために、じっと男を見続けていた。
そして好機が訪れた。
武器屋から出た男はこれから自分の身に起こることを考えることも出来ずに、人気のない狭い路地へと入って行く。
影はこの好機を必ずものにしようと少々強張るが、誰かに見つかるわけにはいかないことを思い出し落ち着きを取り戻すため深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
ついに男が路地の中腹に差し掛かったところで行動を実行に移す。
気配を殺したまま男の背中に向け短剣を投げる。
短剣は吸い込まれるように男に刺さりそのまま男は倒れこむ。
目標を達成したことに影は安堵し短剣の回収と、確実に男の命が潰えているかの確認のため歩き、近づいていく。
◆
(うおおぉぉぉ!死ぬかと思ったぁぁぁ!!!)
刺された!?なんでだ!?気配は何も感じなかったぞ!?
刃が少し身体に届いて痛いけど昨日の内に買って着ておいたチェインシャツのおかげで助かった。買ってて良かったチェインシャツ!
って、んなこと考えてる場合じゃない。落ち着け、どうする、とりあえず今すぐに動くのは得策じゃない。
刺してきたやつも近づいて来るか完全に離れていくか何かしらアクションを起こすはずだ。離れてくれるなら様子をみて数十分は耐えられる。近づいて来るなら返り討ちにしてやる。
ただここまで気配を消せるほどの相手だ。一筋縄ではいかないだろうが、再召喚されてまだ五日も経ってないんだ。絶対に生き延びてやる。
(っ!来やがった)
足音はほとんど聞こえることはないが、もう死んだと思ってるのか気配を消すことはしてない。
油断しているのか真っ直ぐに歩いて来ている。
……もう少しだ。もう少しで俺の間合いに入る。
(ここだ!)
相手の姿は分からないが俺は先ほど購入したばかりの剣を居合い抜きのように、振り返りながら横一文字に一閃する。
「!?」
避けた!?完全に不意打ちが決まったと思ったが、なんてやつだ。
「失敗した…なんで生きてる…?」
そこで俺はやっと俺を殺しに来た相手の姿を見ることが出来た。
「獣人?」
この世界の女性にしては短めな白い髪に金色の瞳、薄汚れたあちこちが解れた服を纏った、これまた薄汚れ至る所に傷を作った小柄な身体。そして髪と同じ色をした犬のような耳と尻尾を生やした少女だった。
両手に短剣を構えて俺を殺す気満々って感じだな。一回失敗したんだから諦めてくれないかな…。
「なぁ、何で俺を狙うんだ?」
「………ッシ!」
暗殺者が答えてくれるわけねえか。
犬系の獣人持ち前の速さで襲い掛かってくる短剣を剣で防ぎ、弾く。
おっさん自慢の剣だけあって打ち合うことに不安がない。それだけじゃなく相手の装備が貧弱すぎる。武器もそうだが服もみすぼらしい。怪しまれないための変装ってだけじゃ納得できない。
そしてこの暗殺者、気配の消し方は見事だったが、今はただ動きが速いだけだ。技術が伴っていない。
それにこの状況で応援も呼ばず撤退もしないとか普通ならありえない。これはなんとしても話を聞きだす必要があるな。
速さにも慣れてきたしそろそろ決めさせてもらう。
「ハッ!」
振りかぶられた短剣を上に弾き飛ばし、がら空きの腹を蹴り飛ばし壁に叩きつける。
「がっ!?ゴホッ…ゲホッ…」
これだけで動きが止まった。やっぱり完全に素人だな。
それにしても確かに再召喚から体が重くて動きが鈍いが、ゴブリンやこんな素人の子にまで攻撃を貰うなんて。この辺りの魔物は弱いから気が抜けてたみたいだ。今の俺は弱いんだから気を付けないとな。
それはそれとして、とりあえずこの子を逃がさないように剣を突きつけて話を聞くか。
「さて、吐いてもらうぞ。何で俺を狙う?会うのは初めてだよな?」
そうだ。この獣人の少女には見覚えが全くない。前回でも会った覚えがないため因縁を付けられる理由が見当もつかない。
「……わたしは…あなた…を、殺さ…ないと…ゲホッ…いけない」
「俺にはお前に殺される理由が分からない。何かお前の恨みを買うようなことをしたのか?」
「…命令。殺して…こいって…。でないと……わたしが死ぬ…」
「命令だと?誰からだ?お前が死ぬってのはどういうことだ?」
「死にたくない…まだ何もしてない…こんな意味もなく死にたくない…。命令に失敗したら死ぬ。ヤダ……ヤダ…ヤダ!」
「おい、落ち着け!別に殺したりしない!」
急に怯えだしてどうしたんだ?暴れだされても困る。少し時間を掛けて、どうにか落ち着いてもらうようになだめる。
「事情を話してくれ。聞いたからって殺したりなんかしないから」
「…あなたを殺すように命令を出されてた。理由は教えてもらってない。…でも失敗したから処分される…」
「死にたくないなら逃げればいい。依頼人も戻ってこないなら俺に返り討ちにあったって思うだろ」
「だめ…。わたしは奴隷だから逃げることも出来ない」
「奴隷だと?首輪はついてないぞ?」
「貴族。奴隷紋がある」
…そういうことか。
この世界の奴隷は首輪か奴隷紋で縛られる。一般的には首輪を使うが、外見を意識した金持ちが追加で金を払うことで奴隷紋を奴隷に付与することで奴隷にすることがある。
しかし貴族ってことは俺が召喚されたことを知っている、召喚された日に城に居た誰かってことになる。そいつをどうにかしないと安心して暮らすことも出来ない。
それにこいつも事情を聞いてしまったら放っては置けないからな。助けてやらないとな。
久しぶりだけど大丈夫かな……。
クリスマスはいかがお過ごしでしたか?
ゲーム楽しいですよね。
あーゲーム楽しい。