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カオスフロント:チョーリョーバッコ  作者: pu-
第一章 常理混ざり郷里変わり
6/14

6.迷惑を撒き散らす原因は結構そこら辺で生まれる②

 人間世界のみならず全世界の常理を統合してしまった、未曽有の大変異――『八紘(ローカルルール・)一宇』(インテグレイト)。これによって生まれた、それまでの概念を覆す新たなる災害というものは日々その数を増している。

 それでも世界が完全消滅しないのは、やはり『八紘(ローカルルール・)一宇』(インテグレイト)による常理を超越した修復力が働いているから――らしい。

 ともかく、よく分からない何かが巧いこと働いて、なんだかんだで均衡をこの世界は保っているわけだ。が、それでも個々の破滅は各々が対処しなければならない。


 それ故にゼオシムガとユシュノは会社に事態を説明し、全力で仮相弾をぶっ放した謎の歪おにぎりを追う。

 急を要するため、ユシュノも普段着用する対刃・対呪仕様のピンクのコートは羽織っていない。

 ゼオシムガもさすがに半裸ではないものの装備は普段着一枚だけで、武装も腰のホルスターに収まった封呪大鎌〝ヌァ・ルヲキュユ・ムツィ〟一本。ただ彼の手にはそれぞれ、現場(げんじょう)執行許可の裁定判断の返信待ちの携帯端末と、世界と終焉の鍵の一つである絡まったイヤホンが握られていた。


「そもそもなんで! 僕に撃って来たんだよ!?」

「まあ、あんたに恨みがあるヤツなんて、ごまんといるでしょ?」


 それはユシュノのではなく、空から舞い降りて来た竜顔のカルケイラ・うるる(あん)ざ・ピャントゥの言げんだ。


「斬首怪人キュセナジはどうしたんですか?」


 幸か不幸か。その件があったお蔭で街は一時的に封鎖され、歪おにぎりへの対策がし易くなっていた。


「無駄に人が多かったからね。首を狩らないといけないっていう義務感での首狩りに手間取っている最中に捕獲したわ」

「義務感でやってたんですか? あれ……」

「まあ斬首怪人って呼ばれてりゃあプレッシャーでそうなるんじゃない?」


 その後にカルケイラは『斬られた元の首と身体がなかなか一致しなくて一悶着あるみたいだけど、それは私の仕事じゃないしね』とつけ加えた。

 カルケイラ同様に、手の空いた《バースデイ・パーティ―》の社員達が今、実相弾の狙撃手の()()()()()を探り、()()を目指している。


「で、心当たりはないの、ゼオシムガ? 仮相弾でうちの重層結界を破るほどの恨みと技量を併せ持った稀代の大馬鹿」

「僕がいちいち絡んで来るやつや執行対象の顔、覚えていると思います?」

「そうっすよ。ゼオ先輩、バカなんっすから」

「君とは一度、業務時間外でもみっちり話し合わないといけないみたいだな……」

「えっ!? なんで急にデートの誘いとかしてるんっすか!? TPOの判断がつかないほど錯乱してるんっすか!? それともやっぱバカなんっすか!?」


 嬉々としてはしゃぐユシュノ(馬鹿呼ばわりした時のキラキラとした瞳と満面の笑みは一生忘れてやるものか)を無視し、ゼオシムガはカルケイラへと話す。


「それに僕に恨むようなやつのほとんどは、他者に呪いをかけるようなやつなんですから。会うどころか顔すら知らない可能性もありますよ」


 うんざりと吐き捨てるが落胆の類は見えやしない。それこそ日常茶飯事のことなのだ。他者の呪いを掠め取り、自らの糧にすることを生業とするゼオシムガからすれば。


「割と社員総出になってる感が出て来たけど、今のところうちのデータベースには該当しないみたいよ、ゼオシムガ?」

「執行対象や警戒にもないってことですか……?」

「新種の生物でも発生したんっすかね? で、なんとなーくゼオ先輩を狙ったとか?」


 ユシュノの発言は適当にも聞こえるが、あながちハズレでもないかもしれないのがこの世界だ。

 そんな中、ゼオシムガの携帯端末に本件がB1級と裁定され代行許可が下りたことと、《バースデイ・パーティ―》の解析班からデータが送られてきた。


「やっぱり第六層境空……越空(えっくう)し終わるまでにこのカウントダウンが終わらなければいいけど……」


 撃つ方も撃たれる方も何かと面倒臭い仮相弾だが、因果の一切を無視するそれ排除できるのは、因果関係がある者――つまり狙撃者と被弾者しかいない。

 そして、それを果たすには六つの他次元空間を突破しなければならず、そのどれもが可能ではあるが容易ではないのだ。


(越空の際に関する障害で死ぬことは、少なからず今はないけど……)


 全因果を覆して着弾するため、ゼオシムガは現状『着弾するまではどんなことがあろうと死なない』わけだが、無敵になるわけではないので無茶はできない。

 故にイヤホンが断線しても同様に世界の終焉に巻き込まれないわけだが、死期がほんの少し伸びるだけで気休めにはならない。


(まあメリットを絞り出せば、僕を責める人がいなくなるってことだな……)


 やや現実逃避気味な思考をしていたゼオシムの隣にいたユシュノが、一つ深呼吸をしてから、意を決するように口を開く。


「ゼオ先輩。今週お昼ごはん奢って下さいね?」

「――っ!?……ああ。好きなだけ食べていいよ」


 一瞬で意味を理解しゼオシムガは目を見張ったが、()()()()()()()()()()

 ユシュノが封印を解いた〝転倒黒白〟に、この事態を少しでも好転させるための奇跡が独りでに綴られていく。

 

   ――《〝勤勉〟の魔法使い舵鱈井羅(だたらいら)蝮之介(まむしのすけ)丸之進(マルノシン)杉森(すぎもり)嶽人(ガクト)》>>>〔首席絶対確保への最短コース(前例実績多数アリ)〕。


「捻じ曲げ示せ、《駿傑なる鬼才講師シャズム田中(デンチュー)ワッチェ》の神秘を!」


 自動書記に倣いユシュノが詠唱する。

 魔導書に綴られたそれは、〝勤勉〟の魔法使い舵鱈井羅(だたらいら)蝮之介(まむしのすけ)丸之進(マルノシン)杉森(すぎもり)嶽人(ガクト)が、神《駿傑なる鬼才講師シャズム田中(デンチュー)ワッチェ》から盗み真似た結果、アルドーラ・ク・ヘルバ・バーハン大蒐術(しゅうじゅつ)学園から永久追放される羽目となった神秘。

 成績を上げるために独学で他者の足を引っ張る方法を徹底的に探り生み出し、弟子達に指南した神の御業が再現される。


 第六層境空に浮かんでいた歪おにぎりは、ぐいっと何かに引っ張られる動作を見せる。

 そこから目視では分かりにくいが、モノクロの空に染められていた歪おにぎりに色がつき始め、その大きさや姿形がはっきりとし出す。ただ一気に落ちてこないことから、それなりに抵抗をしているようだ。

 強制的に落下させられる歪おにぎり。術者であるユシュノの足元まで突き落とされる最中、ボトボトと具か米粒かは分からないが先に落下してきた。


「うわっ……」


 ユシュノの表情が思わず引きつる。カルケイラも同様。ゼオシムガは特に表情は出さず、それが何かを見極めていた。

 三人の眼前に広がるそれ――なんの生き物のどの部位かは分からないが、無数の血まみれの臓物が、ビッチビッチと元気よく(元気よく?)跳ね回っている。


 特に規則性を見せずそれぞれが自由に楽しそうに――シュール過ぎて乾いた笑いが漏れる――弾んでいた臓物(ぞうもつ)ーズだが、なんの拍子か分からないが一斉にゼオシムガの方を向く(急に向きを変えたので割と怖い)。

 刹那、彼目がけ同時に飛びかかった!


「ほんとなんなんだよ!?」

《【慢性底冷え大悪化】/【レントゲンに写る永遠不滅のただの影】/【心配性仮構病理の顛末】》


 封呪(〝ヌァ・ルヲキ)大鎌(ュユ・ムツィ〟)の同時詠唱によって引き出された呪いが、ゼオシムガから大鎌へ伝い、臓物ーズへ伝播する。

 呪詛連鎖によって冷え切った内臓は動きを鈍らせ、怪しげな影によって不安を煽り、患った心気症がそれらと相俟って本当の病を生む。

 ゼオシムガの呪いは歪おにぎりの本体にも及んだのだろう。罹患したそれは空中での抵抗の一切を止め、成す術なくぐしゃりと墜ちた。


 ユシュノの足元に在る、騒動の正体。

 遠くであったため歪なおにぎりにしか見えなかったが、いざ近くで見ると米一粒一粒が人で押し固められた歪なおにぎりだ。

 悪趣味もここまで極めれば、もはや芸術の域かもしれない。絶対に理解はできないが。


「これ、誰――どんな人達だったんですか……?」

「いや……判断のしようがない……」

「ひとまず検視班招集するから、あんたは記憶の淵からこの肉塊に近しい何かを思い出しなさいな」


 カルケイラが携帯端末で連絡を取るが、誰一人安堵はしておらず、むしろ緊張感が増す。

 何せ、ことが解決していないどころか悪化したのは一目瞭然だったから。


「仮相弾、着弾したままっすよ?」

「ああ。こいつを殺したやつが実相弾の収まった銃を奪ったんだろう」


 ゼオシムガの言葉にはどこか、『殺したやつ』に思い当たる節があるように感じ取れた。そしてそのニュアンスから、ユシュノもなんとなーく想像がついた。

 彼を憎きと思う者はごまんといるが、こんな類の因縁があるのは一人しかいないのだ。

 その推理を肯定するかのように、空が突如として真っ白に輝いた。


「やあやあやあ! ゼオシムガ・ワロイムベ=()()()()()()!」

「やっぱりお前か! そしてその名で呼ぶな、()()()()()()()()()!」


 空を見上げ、いつにない大声を上げるゼオシムガ。

 白き輝きの中から現れたのは、白い髪と瞳に、文字通り白い肌。白いスーツに白い袴を羽織り、真っ白い頭蓋骨――今日はティラノサウルスだ。修正液でそう書かれている――を被る男が空中で立っていた。

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