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カオスフロント:チョーリョーバッコ  作者: pu-
第一章 常理混ざり郷里変わり
4/14

4.和を乱すはぐれ者はもっぱらそこら辺で暴れている②

「やっぱそれほど変わってない!」


 ユシュノの突っ込みを証明するように、サイボーグ吸血鬼ロロロウロの吸血鬼バズーカから放たれたやや暖色の光の柱は、〔絶対不壊のへそ曲がり根性〕の効果によって彼女の眼前で曲がり、遥か上空へと消え去って行った。


「だあああ! もう! ゼオ先輩!」

「ひとまず本体以外なら破壊しても構わない。それに、そろそろヤツの血が足りなくなるはずだ」

「ハーハハハッ! 甘いぞ! 甘いぞおおおおおおおおお! 蝙蝠型支援メカと合体するたびに充電されるのだ! それに支援メカはこれだけではない! 家で何台も充電しているぞ! しかも太陽光発電だから電気代が安い上にエコロジー! 環境的であり、かつ余った電気は電力会社が買い取ってくれるから、最近は田舎の山の樹木を全て伐採してソーラーパネルにしたほどだ!」

「ならもう吸血行為しなくていいじゃないっすか?」

「さっきからなんでもかんでも否定しやって! 吸血鬼が個性を持っちゃ悪いのか!? みんながみんな同じこつぃなくちゃいけないのか!?」


 溜まっていたものが噴出したのか、サイボーグ吸血鬼ロロロウロが激昂する。

 そんな彼にユシュノは正直引いたし、ちょっと怖かった。

 でも、それ以上に憐みが勝り、次の言葉を口にせずにはいられない。


「サイボーグ化も、個性を溢れさせようとした迷走の結果っすか……?」

「迷走じゃなあああああああああああああああいいいいいいいいい!」


 怒り狂う(というか、図星で恥ずかしいのか?)吸血鬼バズーカを乱射し出した。しかし〔絶対不壊のへそ曲がり根性〕の効力により、全てユシュノを避ける。 


 ――が。

 歪曲したやや暖色の光の柱の数々は、そのまま高級住宅街ハイセンス島の一帯へと飛び火してしまう。


「なんで君はいちい火に油を注ぐんだ!?――【輝く栄光の資料館】!」


 左手首からゼオシムガの指を伝い、空呪符(ブランクチャーム)に呪印が流れ染み込む。瞬間、辺りが薄暗くなった。

 唯一、呪いが収まった空呪符(ブランクチャーム)だけが周囲の光を集めているため、強く発光している。

 その下にいるゼオシムガは、折り畳んでいた封呪(〝ヌァ・ルヲキ)大鎌(ュユ・ムツィ〟)を解放して地面に突き立てた。


《【発起人が分からない解体反対運動】/【玄関先に開く螺旋消沈(こう)】》


 封呪(〝ヌァ・ルヲキ)大鎌(ュユ・ムツィ〟)の同時詠唱に従い、始まりを断たない限り永久に在り続けることとなった【輝く栄光の資料館】は、幾条ものやや暖色の光の柱を纏めながら、刃先に空いた存在消沈させる穴へと落ちていく。

 これで高級住宅街ハイセンス島の被害は免れた。


 ゼオシムガの呪いの効力が切れ、明るさが戻る。

 サイボーグ吸血鬼ロロロウロはエネルギー切れなのか、いつの間にか地に降り、四つん這いでぜえぜえと荒い呼吸をしていた。


(早く来てくれないとほんと困るんっすけど……)


 サイボーグ吸血鬼ロロロウロのビームを無効化する策はいくらでもあるが、無限に行うことはできない。

 ユシュノが使う魔法――債務魔法の返済額が積もっているのだ。

 返済魔力がまだあるとはいえ、〝転倒黒白〟を使ってしまった以上、そろそろ計画的に制限しなければならない。


(ゼオ先輩だって、ここのところの勤務で呪いを使い続けてるし……)


 ゼオシムガの呪いも当然ながら、行使し続ければそのしっぺ返しが比例して膨らむ。

 目の前の対象がいくら容易でも、先にあるかもしれない艱難に対して備えをしておかなければいけないのが、この世界の常だ。


「太陽光発電……太陽光発電……」


 そう、ぶつぶつ呟くサイボーグ吸血鬼ロロロウロ。

 どうやら蝙蝠型支援メカの表面が太陽光パネルでできているようで、まるで虫のようにカサカサ移動しながら太陽が当たる場所へ移動している。


「ゼオ先輩。吸血鬼ってなんなんっすかね?」

「だから、いちいち余計なことを言うな」


 ひとまず蝙蝠型支援メカを破壊すべく、ユシュノは限定空間に効果固定をさせる術選定を債務決定させようと身構える。

 ――そんな時だった。


「遅くなってしまって済まない」


 二人の背後から現れたのは。銀髪の黒スーツを身に纏う初老の紳士。身長がゼオシムガより少し高くガタイもいいため、堅気の人間には醸し出せない威圧感がある。

 右手に下げているやや使い古されたアタッシュケースは、厳重に封がされている。それ以外、特に道具といったものは見当たらない。

 ゼオシムガは姿勢を正し、深々と頭を下げた。ユシュノもそれに倣う。


「お待ちしておりました、〝ブラッドオース=イレブンス〟」

「〝第十一位(ブラッドオース=)誓血族(イレブンス)〟だと!?」


 不良吸血鬼といえども、その吸血鬼の名前――イヂュアシァ・〝ブラッドオース=イレブンス〟・ノルチエッ・ハールを無視できるはずがない。

 吸血鬼の集団はいくつかあれど、〝ブラッドオース=サクセサーズ〟は最大規模を誇る。


 だが何よりも、その頂点には古の吸血鬼の一柱たる神祖〝ブラッドオース=オリジン〟がいるのだ。

 戦慄くサイボーグ吸血鬼ロロロウロに対し、〝ブラッドオース=イレブンス〟は穏やかに歩み寄る。


「驚くこともない。第十一位なんてものは所詮、小間使いだ」


 皮肉染みた笑みを向けられると、ユシュノは少しだけ心臓が跳ねた。

 だがそれ以上に鼓動が激しいのは、サイボーグ吸血鬼ロロロウロであろう。心臓の機械化の有無は関係なく。


「いいかい? ロロロウロ・(オー)・ロワロッロクロくん。確かに『八紘(ローカルルール・)一宇』(インテグレイト)によって常理は崩壊し、これまでとは全く別のものに変容してしまった。未だこびりつく己の常識が、俄かにそれを受け止め切れないのも分かる」


 あの大変異以来、不変は推移し、絶対は曖昧となり、全能は凡庸と同意となった。

 それを俄かに受け入れられる存在など僅かであるため、ある意味では『八紘(ローカルルール・)一宇』(インテグレイト)は未だ継続しているとも言えよう。


「だが――いや、だからこそ、そんな混沌とした世界だからこそ、ルールというものは必須なのだよ。己が生き抜く知恵としてもね。我々、吸血鬼のみならず、この世界にいる全ての者は薄氷一枚の上に――それも割れているかもしれない氷の上に立っていることを忘れてはいけない」


 サイボーグ吸血鬼ロロロウロとて、そんなことは分かっているのだろう。

 価値観の大変に心が着いていけなかった結果こそが、今の姿(サイボーグ)なのかもしれない。

 そして、その辛うじて保っていた拮抗を揺すられれば――


「私はああああああああああああ!」


 錯乱したサイボーグ吸血鬼ロロロウロはその掌をかざす。イヂュアシァ・〝ブラッドオース=イレブンス〟・ノルチエッ・ハールへ。

 照射されたやや暖色の光の柱は、その対象だけを呑み込んだ。


「――ははっ」


 乾いた笑い声を上げたのはサイボーグ吸血鬼ロロロウロ。

 自らの蛮行を後悔しているのか、それとも仕出かした愚挙を理解できていないのか。ともかく、表情はどこまでも引きつっていた。

 やがて光の柱の通過が終わり、晴れた先の光景は――


「ふむ。いきなり大声を上げてどうした?」


 ――ダメージはおろか、彼の身体や服に一切の汚れも乱れもないイヂュアシァの姿であった。


「ふざけ――!」


 自分の行いを、虫けらが止まったことにすら劣るとでも言いたげなイヂュアシァの態度に、顔を真っ赤にしたサイボーグ吸血鬼ロロロウロが追撃を図ろうと掌を再び向ける。

 それとほぼ同時。イヂュアシァもまた、すっと掌をかざす。

 たったそれだけの動作で、まるで氷漬けにでもされたかのようにサイボーグ吸血鬼ロロロウロの動きがぴたりと急停止した。顔も青褪める始末。


「ユシュノくん。君は彼――ロロロウロ・(オー)・ロワロッロクロくんが何をしたのか見たかい?」

「……?」


 一瞬、何を問われているのか理解できなかったが、ゼオシムガの代返でようやく察した。


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 ユシュノが黙っていたのは、不幸中の幸いであろう。

 下手な回答はこの状況を――何よりもロロロウロの立場を悪化させかねなかったのだから。


「さて。もう一度訊く。君は、何かをしたのかね? それとも何もしていない。何もだ。私や彼らに対して一切何もしていないかい?」


 ここまで親切に念を押したのだから、いくら頭に血が上っていようが真意は容易に汲み取れるはずだ。

 いや。それ以前に、向けた全力が本当になんの効力も示さなかったのだから、足掻く気力はとうに失せていたに違いない。


「……はい」


 ロロロウロの返答にもはや思考は伴っていない。

 眼前に現れた救い――その奇跡に身を委ねるしか彼には残っていないのだから。


「〝従位(ブラッドオース=)誓血族(サクセサーズ)〟に入る気はないか? 〝最高位(ブラッドオース=)誓血族(オリジン)〟に連なる眷属だ――とはいえ、君の『不正吸血行為』。これが不問になるというわけではないが、奉仕活動程度で解決できるよう手は打ってあげよう」


 イヂュアシァがしつこいほど確認したのは、免罪裁定の対象罪状が『不正吸血行為』だったから。それ以外は擁護できない。

 とはいえ、この寛大な処置は、どちらかといえば内々で処理するための建前だ。

また、暴走する危険がある者の手綱を握っておきたいというのもある。

 しかし、最大の目的は――


「コミュニティを少しでも広げて、内外に王様の威厳を示さないと、それこそなんの脈絡もなく瓦解する危険があるからな」


 ぼそり、とゼオシムガがユシュノに耳打ちをする。


「じゃあ、イヂュアシァさんに『この前、貸した漫画『ねじもげら! ぶるねずっちゃり』持って来てくれました?』って今は訊かない方がいいすよね? メールで『最新刊出るんで今日持って来て欲しいんすけど』って送ってはいるんっすけど……」

「その漫画の内容が全くもって想像できないが、少なからず今は絶対に訊くべきじゃないな。上位〝ブラッドオース〟と一般人が漫画の貸し借りしてたり、それこそ小間使いのようにメールしてたりとかは、沽券に係わるから知られるべきじゃないな」

「うえー。今日の仕事はそれ言うために来たようなもんなのにぃー」

「君はいちいち余計なことを言うから……勤務態度に難あり、と」


 喋る途中から携帯端末に何かを打ち込んでいたゼオシムガに、ユシュノの背筋が凍る。


「ちょっ!? えっ!? 今の報告したんっすか!? 冗談っすよね!? 可愛い後輩をちょいと脅してお灸を据えただけっすよね!? そうっすよね、ゼオ先輩!? ゼオせんぱああああああい!」


 奇しくも『泣きながら足に縋りつく』という行為が、ユシュノとロロロウロでほぼ同時に起こる。

 しかし、その違いは天国と地獄ほどの差があった。

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