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第一話

 月の住人たちと地球の住人たちは、長きに渡り平和に暮らしていたが、月の代表と地球の代表とで、経済面で対立を起こし戦争が勃発した。

 お互いに高度な技術を用いたことで、月も地球も大きく人口を減らすことになった。そして、地球側は決戦兵器として月そのものを破壊する兵器を開発した。

 月側はその兵器に対抗する術も無く月の住人たちは月と死を共にすることになった。

 だが、この月を破壊したことによって地球に無数の隕石が落下してきたことにより、地球文明もまた大幅に衰退し石と鉄の時代へと逆向することとなった――。


「それから地球に残った人々は手を取り合って、新しい生活を築きはじめたのです。おしまい」

 と、私と添い寝をしながら本を読み聞かせてくれていたお母さんは、そう言って本を閉じた。

「えぇ、もうおしまい? 続きは?」

「続きはまた今度ね。もう遅いから寝ないとね」

「続き聞きたいよぉ」

 そう駄々をこねる私に、お母さんは残念そうな顔つきで「いい子だったら、明日の晩ごはんは那月ナツキが好きなハンバーグにしてあげようと思ってたのに」

「本当!?」

「お母さんは嘘をつかないって知ってるでしょ?」

「じゃあ、今日はもう寝るね! お母さんおやすみ!」

「うん、おやすみ」

 そう言って、母が私のおでこにキスをして部屋から出ていったのを確認してから、目を瞑ると、すぐに意識は夢の中へと落ちていった。


 ……外がやけに騒がしく、私は目を覚ました。誰かが叫んでいる声、そして何か大きく崩れ落ちるような音。その中でも、特に耳に入るのは獣が唸るような声だった。

「お母さん!? お父さん!?」

 私は怖くなり叫ぶように親を呼んだ。

 部屋に走って近づいてくる足音が止まったと同時に、扉が開きお母さんは私に駆け寄って抱きしめてくれた。

「大丈夫、怖くないから」

「お母さん、外で何が起きてるの?」

「『夜魔やま』が町を襲いに来たの。お父さんたちが頑張って戦ってるから、お母さんとここで静かにしていましょう」

「うん……。お父さん大丈夫かな?」

「大丈夫よ。なんて言ったって、お父さんは夜魔狩りのプロだから」

 そうお母さんは、私を安心させるように言うが、私は知っている。

 これから、お母さんがいなくなってしまうということが。

 なぜ知っているのか――なぜならこれは、過去に起きたことの夢だからだ。


「早く目を覚まして!」自分自身に呼びかける。


「トレイスの家の方に夜魔が行ったぞ!」

 と、男の叫び声が聞こえると共に、巨大な夜魔が私の家の壁を突き破って来たと思うと、私に覆いかぶさるようにして庇うお母さんを軽々と引き剥がした。

 

「もう、見たくない」頭に血が上ったようにグワングワンと熱くなる。


 赤い血が飛び散りお母さんの苦痛の叫びと、私の悲痛の叫びが交わった――。


 その瞬間、私は飛び起きた。

 嫌な夢を見た……。

 ふと、まだ日の明かりが無いことに気付いて時計に目をやると、ちょうど二時を回ったところであった。

 まだ、夜明けまで時間がある。

 悪夢を見たせいか、寝汗がひどく気持ち悪い。

「シャワーでも浴びるか」

 と、ボソリと独り呟いた。


 シャワーを浴びながら、先程の夢と母が亡くなった時のことを考える。


 母が亡くなってから、もう十年。未だに鮮明に思い出せてしまう。そして、悪夢に何度もうなされ続けている。

 夜魔――日のある間は山などの、深く暗い森に潜み、夜になると食料を狩るため里に降りて来ては、街や村を襲う。そして、私の永遠の敵だ。

 思わずギリッと壁に爪を立てているのに気が付き、指を開いて手のひらで壁に寄り掛かるように立ち方を直す。夜魔のことを考えて思わず熱くなってしまったのを反省し、目を閉じ、水がタイルに打ち付けられる音に耳を傾け気を静める。


 そうしていると突然、物見台の警鐘が鳴り響く音が聞こえてきた。

 夜魔が近づいて来たのだ。警鐘の音数でおよその数を知らせるのだが、今回の鐘の音数は短音長音、長音。つまり十匹程の夜魔が少なくとも目視されているということだ。

 私は浴室から出ると素早くタオルで体を拭くと、ハンガーに吊り下げてあるグリーンのつなぎを着込み、私より一回りも大きい斧を肩に担ぐようにして持ち、夜魔狩りに備えて町の人達が集まる広場へと向かった。


「あ、那月なつきさん。遅いじゃないですか」

 広場に着くなり、上は白いシャツに黒のジャケットを羽織るようにして、下はショートパンツ、そして短槍を片手に携えた幼馴染の千星ちせが私を見つけて声をかけてきた。

「千星。夜魔の状況は?」

 私は、千星の指摘を聞き流して、状況の確認を急ぐ。千星は小さく咳払いをして状況の報告をする。

「鐘の音から分かっていると思いますけれど、およそ夜魔の数は十匹。まだ、若い群れのようなので、今回の夜魔狩りは楽な方ではないかと……」

 私は『楽』という言葉に反応し千星を睨みつける。

「夜魔狩りに楽なんてあるわけないだろ。そうやって気を抜いてると、すぐに命を落とすことになる。千星は、もっと気を引き締めた方が良いんじゃないか」

 私の厳しい語気に気圧されて、千星は下を向いて「ごめんなさい。気をつけます」と、弱々しく言う。

 ……言い過ぎただろうか。いや、千星は日頃から甘いところがある。もう少し夜魔狩りに対して真剣になってもらいたいから、言っただけで私は別に悪いことを言ったわけではないはずだ。

 そんなことを考えていると「来るぞ!」と、見張りの叫ぶ声を聞いた私も含んだ夜魔狩りのために集まった人々が一斉に武器を構える。


 夜魔や野盗に簡単に陥落させられないように、一応はレンガの壁で村は囲まれてはいるが、夜魔の怪力を防げる程に強固ではなく、断続的に行われる体当たりによって、壁はすぐに壊されるだろう。

 壁が破壊されることは前提として考えた上でも、どうにかその間に何か抵抗できないかと弓矢で撃退しようという試みも行われたが、夜魔の剛毛では弓矢を通さないことが分かり、すぐにその作戦は中止となった。

 そして今や村を守っているレンガの壁は大きな亀裂が入り――ドシンッという音と共にガラガラと崩れ落ち、舞う砂埃の中から、大きな獣の影が現れたかと思った瞬間、集まった群衆に向かって夜魔の群れが飛びかかって来る。

 周りから悲鳴と怒号が交わった声、そして獣の唸り声が響き渡る。

 私に向かって襲いかかる一匹の夜魔に斧の一振りで致命傷を与え、トドメに頭部に一撃を加える。若い夜魔なだけあって、俊敏ではあるが動きが単調なこともあって割と今夜の襲撃は負傷者も少なく終わる方かもしれない。


「誰か、助けて!」

 助けを呼ぶ声の方を向くと、千星が仰向けに倒れ夜魔に襲われていた。持っている短槍を噛ませて、なんとか耐えているが、このままでは危険だ。

「千星、今助ける! もう少し持ちこたえろ!」

 そう言って、千星へと駆け寄ろうとした目の前に、夜魔がまるで邪魔をするかのように立ち塞がった。しかし、無理に攻撃しようとせずに一定の距離を保ち、こちらが隙を見せるのを窺うようにして……。


「ルナセミスはソイツを相手にしてな。姉さんは、あたしが助ける」

 そう言って、立ち塞がっている夜魔を軽い身のこなしで飛び越えて行くのは、千星の妹の千衛ちえだった。私は彼女の軽快な動きを目で追っていると、それに気がついた彼女は舌を出してバカにするように過ぎ去って行く。

 千衛は昔からルナセミス――月の住人とされるルナポプルスと人間のハーフのこと――や、ルナポプルスを嫌っていて、ルナセミスである私を軽蔑しているのだ。

 そういったこともあって、昔から良く喧嘩をしていて、今の行為にも少しムッとしたが目前の夜魔の唸り声に目を向けると、千衛の意地悪について考えている余裕もなくなる。

 愛用の斧をゆっくりと握り直し一気に、間合いを詰め斧を振り下ろした――。

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