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桜、舞い散る頃  作者: 天野 みなも
6/8

勇気を出して

※ ※  ※


家に帰ると、そこには心配そうな顔をした両親が居た。


「咲、どこに行っていたの!!心配したのよ」


母は怒ったような憮然とした表情を浮かべており、私また不安になった。

その時ぎゅっと握った手に桜の花が触った。


(勇気を出して…言わなきゃ…)


そう思いなおし、私はすうと一息ついた。

ドキドキと自分の鼓動の音が耳につく。

だが勇気を振り絞り、私は言葉を紡いだ。


「父さん、お母さん。私、話があるの。」

「なんだ?」

「どうしても夢を諦められない。勉強もする。だから絵を描くことを辞めたくないの。傷ついても大丈夫。だから絵を描くことを許して」

「咲…。」


一瞬両親が息を飲んだ。そして驚いた顔をしながら互いを見合っていた。


「…お前が自分の意見を言うのは、珍しいな。」

「そうね…。勉強をちゃんとするなら。でも絵で食べていくには並大抵の努力じゃないと実らないのよ。」

「…うん。分かってる。でも…でも、あきらめないから。」

 

 私はそう言って両親をまっすぐに見つめた。もう逃げてはだめ。立ち向かわなくちゃ。自分の人生だもの。自分で何とかするのだ。

 そんな様子の私に、父は疑問を投げかけた。


「どうしてそんなに絵を描きたいんだ?」

「そうよ。それは咲にとって将来立派な人になることより大切なことなの?」


 母は少し心配そうに言った。それを見て私は自分が思っていることを拙いがらも言ってみた。


「うん。あのね…私、お母さんたちが喜ぶ顔が見たくて絵を描いていたの…。だけどね、今は絵を描くのは私自身が私として存在するために書いている。そしてその作品を見た人が何かを感じられる作品を作りたいと思うの。」



確固たる意志を持って話す咲を見て、二人はため息をついた。


「……そんなに本気なら、仕方ないなぁ。」

「ただし、ちゃんと勉強することね。わかった?」

「…!!うん、ありがとう!!」


初めて自分が認められた。個としての自分を。

私はそれが嬉しくて、手のひらの花びらを再びぎゅっと握った。


※ ※  ※


翌日。

放課後、いつも出会う少年に昨日のことを報告したくて、私は足早にいつもの公園に向かった。

が、そこで見たのは普通の枯れ枝となった桜の樹だった。


しかもあんなに咲いていた桜の花は全く無かった。


「嘘…どうして?あんなに綺麗に咲いていたのに…。夢…だったのかな?」


その時どこからともなく桜の花びらが一片、ひらひらと風に乗って咲の手に落ちた。


「いえ…夢じゃないわ。きっと神様が見せてくれたのね。私を勇気づけるために……」


咲は暫く少年が来るのを待っていたが、夕方になっても現れず、咲は何度も名残惜しそうに振り返りながらも、夕日に照らされた道を帰った。

そしてその日以来、咲は少年に会うことはなかった。

咲の手元には渡すことのできなかった少年のスケッチだけが手元に残ったのだった。


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