夢と現実の狭間
家に帰ると両親が渋い顔をして待っていた。
何かいつもよりいっそう渋い顔だ。
「咲、またそんなスケッチブックを持って!いい加減にしなさいって言っているでしょ?」
「…。」
母がピリピリとした口調で攻め立てると、父もこれぞとばかりに私に言った。
「なにも絵を描いていけないって言っているわけじゃない。ただ、お前ももう6年生だ。受験があるだろう?」
「でも…」
「口答えするんじゃない!」
いつまでも受験勉強もせず夕方まで絵を描いている私の行動を見かねて怒っているのだろう。
最近はほぼ毎日このような調子だ。
母はさらに言った。
「今日遥ちゃんのお母さんと話したんだけど、遙ちゃんは毎日塾に行って受験勉強しているそうよ。」
「咲は学校の宿題しかしてないそうじゃないか。中学受験まで1年ないんだぞ。本腰入れて勉強しないといい中学に入れないんだぞ。」
父と母が交互に矢継ぎ早に捲し立てる。
その言葉に傷つき、そしてどうしても自分の力では変えられない運命のように感じて、私は泣きそうだった。
「っ!!」
「どうしてわかってくれないの?お父さんもお母さんも、咲に傷ついてほしくないの。」
「そうだぞ、夢を見るのはいいが、いい加減、現実を見ないと。絵では暮らしていけないだろ」
「咲!!」
「いい加減にしなさい!絵描きになっても、売れなければご飯は食べていけない。お前は社会が分からないからそんなこと言うんだ。そんな簡単な事、どうして理解できないんだ?」
「お母さんは心配しているのよ。友達もできなくていつも一人でいて。これから先どうするの?しばらくはこのスケッチブックはお母さんが預かるから」
母に取り上げられたスケッチブックを追って私は手を伸ばした。
「…返して!」
ようやく勇気を絞り出した言葉は、両親には届かない。
「受験が終わったら返してあげるわ」
「咲のためなんだ」
私のため?本当に両親はそう思っているのだろうか。いい中学に行って、いい高校に行って、いい大学に行って、いい会社に就職して。それが本当に私のためなのだろうか。単なる親のメンツのためなのではないのか。
もう限界だった。
「…お父さんもお母さんも大っ嫌い!」
私は家を飛び出した、無意識に向かったのはあの公園の桜の木の元だった。
桜の木に寄りかかった瞬間、すべての感情が涙となって溢れてきた。
「うぅ・・・うぅわああああん!」
一度崩落した感情は一気に涙となってあふれ出し、私は思い切り泣いた。
どうせ人気のない公園だ。自分一人が泣いても誰も困らないだろう。
両親も出来損ないの私なんていない方がせいせいするのではないか。
もうこの公園しか自分が存在できる場所はないのかもしれない。