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桜、舞い散る頃  作者: 天野 みなも
2/8

夢の始まり

※※ ※


そういえば、と言って、少年は私に尋ねてきた。

「こんなに大きな木があるのに、なんでこの桜の木は描かないのかな?」

「だって、この木、枯れちゃっているんでしょ。もう 10年も花をつけてないの。」

「そうだね…でも枯れては居ないよ。」

「そうなの?じゃあ、どうして花が咲かないの?」

「……待っている、のかもしれない。」

「待っている?」

「そう、変わる瞬間を。大事な希望が輝く瞬間を」

「ふーん…。」

 

この枯れた桜の木がまた花をつけるとも思えず、私はそっけない返事をした。

そんな私を見ても、少年は柔和な笑みをたたえつつ、桜の枝を見上げながら言った。


「いいことを教えてあげる。ここの桜の花が咲くのを見ると、夢が叶うんだって。桜が最期の力を振り絞って咲く最期の花だからね。不思議な力が宿るのかもね。」

「ふーん。」

「あ、信じてないね。」

「だって、あまり現実的じゃない…かな。」

「……咲は夢はないの?」


突然の話が変わったので、私は一瞬戸惑った。

夢…。夢と呼ぶにはまだ淡い感情。だけど、と私は心の中で自分が一番なりたいことを思い浮かべた。


「えっ…。夢…夢かぁ。「あるんだけれど……叶えられないかも……。」

「どうして?」

「絵描きになりたいの。でも両親には反対されてて……。」


私の胸は「夢」という言葉を聞いて、胸が痛くなった。

というのも、最近両親は絵を描くことを反対していたからだ。学校では遙のように中学受験をする同級生が多く、両親も自分を進学校に進めたがっていた。

だから、両親は口を開けば受験が控えているから勉強しろとしか言わなくなっていた。

昔はあんなではなかったのだ。

もともと、絵を描き始めたのは小学1年生の時、県の絵画コンクールで入賞したことがきっかけだった。その時両親はそれはそれは褒めてくれた。


展示会の表彰式では、父が張り切ってカメラを購入し、撮影してくれた。

「おお!咲はすごいなぁ!!才能だな!」

父は私の絵を見ると目を細めていった。

「咲ちゃんの絵、とても素敵よ!凄いわぁ!!」

 母も頷きながらそう答えてくれた。


絵は人を笑顔にする。

そう実体験した私は、その笑顔が見たくて、絵を描き始めたのだった。

だが今、絵を描くことが罪であるかのように両親に否定されていた。そんな両親に私は反抗することもできず、毎日こっそりと小さなスケッチブックを持ち出して絵を描いていた。


「あ、もうこんな時間だわ…。帰らなきゃ。スケッチは色をつけて明日あげるね。」


気づけば空の色が茜色になり、下校を知らせる自治会の放送が聞こえてきた。私は少年にそう言うと少年は驚いた表情の後、少しはにかんで答えた。


「くれるのかい?嬉しいなぁ。」

「うん。またね。また明日。」

「また明日。」


日は西に傾き、肌寒さを覚えた。春とはいえ、まだ朝夕は寒さを感じる季節だ。

私はベンチから立ち上がると少年に手を振って家路を急いだ。


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